なぜ日本だけ、バフェットのような長期投資の大成功者がいないのか

6月28日(金)6時0分 ダイヤモンドオンライン

奥野一成(おくの・かずしげ)農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)常務取締役CIO(最高投資責任者)京都大学卒業後、日本長期信用銀行入行、長銀証券、UBS証券を経て、農林中央金庫へ。2007年に現在のNVICの前身となるプロジェクトを立ち上げ、長期厳選型自己運用ファンドの運用を開始。2014年、投資助言業務に特化したNVICに移籍し、現在に至る。ロンドンビジネススクールファイナンス学修士修了。共著書に『京都大学の経営学講義 いま日本を代表する経営者が考えていること』などがある。

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圧倒的な競争力をもつ会社に長期で投資しリターンを得る——この「長期厳選投資」はウォーレン・バフェットが採る手法としても知られています。日本では珍しくこの「長期厳選投資」を実践し、実績をあげているファンド、農林中金バリューインベストメンツの常務取締役CIO(最高投資責任者)である奥野一成さんに、『ファイナンス思考』著者の朝倉祐介さんが、日米における企業や資本市場の違いなどについて聞きました。


企業価値を測るうえで一番重視するのは?


朝倉祐介さん(以下、朝倉) 私がお付き合いしている経営者には、創業から叩き上げでやってきた方が多いのですが、皆さん、事業やプロダクトについては自分が第一人者だという自信をもっていて、実際に非常にお詳しいんですね。でも、こと資本市場の話になると、誰も教えてくれる人がいないから、そこの知見だけ抜け落ちているというのは強く感じます。



奥野一成さん(以下、奥野) いわゆるバランスシート(貸借対照表)の右側(負債と資本)に関する知見は、下手をすると銀行員だとか、我々の世界の人間のほうが持っています。「エンゲージメント」と言うと流行り言葉になってしまいますが、その点のアドバイスは色々させていただけますよね。同時に、バランスシートの左側(資産)についても、プロダクトそのもののアドバイスではなく、イノベーティブな会社がどんな取り組みをしているのかをまとめたレポートをお持ちしたりはしています。


朝倉 (投資先向けのレポートを見せてもらいながら)かなり詳細なものですね。


奥野 企業というのは、お客様の問題を解決する公器にすぎないので、たまたまお菓子を作っていたり、たまたま産業製品を作っていたりするわけですが、効率的にイノベーションをどんどん起こす組織には同じ匂いがするものです。そういう話をすると、我々のエンゲージメントは企業のビジネス上で即効性はないのですが、「面白いことを言う投資家がいるな」と思っていただけるようで、コミュニケーションが続いていく感じはありますね。


朝倉 経営者とのコミュニケーションにあたっても、会社側と投資家側でゼロサムゲームになるような提言はしない、ということですね。


奥野 どうすれば企業価値が上がるのか、を考えます。まさに『ファイナンス思考』に書いてあるような話ですよね。私たちが一番見ているのは、やはり参入障壁ですね。参入障壁があるから、資本コストを上回るリターンを持続的に上げられる。私たち自身としても、どの投資先を選ぶかが参入障壁であって、経営戦略そのものですし。


日本だけ、長期投資の大成功者がいない


朝倉 アメリカの企業にも定期的に訪問されるのですか。


奥野 2ヵ月に1回はアメリカに行って、経営者とも会って話をし、日本の会社とアメリカの会社とを公平に比べて、どちらがいいのかと常に考えています。

 そうやって実際に足を運んで、本当に日米の会社を目で見て確かめ、比較して決められることが、私たちのファンドの参入障壁にもなっていますし。私はこの会社の経営者でもあるので、自社の競争優位性も考えて動いてます。アメリカの投資先のトップも会ってくれて、それなりの規模でやれるファンドのチームというのは、日本にそうないですから。1回作ってしまえば、トラックレコードがこの運用業界では参入障壁にもなりますしね。



朝倉 新たにできる米国株運用ファンドに投資するよりも、既にNVICという実績を上げていらっしゃる会社があるんだからお任せすればいいじゃないか、という話になりますよね。


奥野 そうです。それに加えて、誰か日本人が今からアメリカ株の投資を始めても、私たちはすでに6年のトラックレコードがあるので、おそらく10年先ぐらいまでだったら、この差が圧倒的な優位性になってきます。50年経ったら、実はその優位性が限りなく薄れてくるでしょうけど(笑)。


朝倉 アメリカと日本の株に両方投資されていて、資本市場の洗練度合いや時間軸の違いはどの程度感じられますか。また、そういった感覚が、そもそもファンダメンタルズや経営者の意思決定にどのぐらい影響を与えるとお考えでしょうか。


奥野 私は、そこのリテラシーに日米で大きな差はないと思います。でも、アメリカのほうが長期投資をする人が一定割合でいる、というのは確かです。そして、バフェットさんのように大成功した方が当然いる。日本だけなぜかいない、と思ったほうが正しいかもしれません。

 投資のリテラシー以前に、「世界を変えるんだ」という気持ちの強さというか、アントレプレナーシップをもってる人は、アメリカのほうが断然多いというのは強く感じますね。先日も、インチュイティブサージカルという手術ロボットのダヴィンチを作っている会社に行ってきたんですけど、あのダヴィンチも最初は保守的な医療業界を含めてものすごい反発があったはずですよね。でも、それをやり抜く。ああいう強さですよね。でも、それって日本人にないのかと言えば全然そんなことはなくて、日本電産の永守(重信)さんだって、日立や東芝で断られてスリーエムにモーターを売ってくるわけですよね。だから、国籍じゃなくてパーソナリティの問題かなと思います。


朝倉 長期投資について、景気変動の浮き沈みがある中でも、いい会社に投資すればいつか帳尻が合うんだ、というのは理屈としてはそのとおりですが、だいたいどのぐらいの期間を待てば、帳尻が合ってくるものとお考えですか。


奥野 私たちの投資先は、結果的にですけど、時価総額が兆円規模の会社が多いんです。そうすると、バリュートラップ(割安のわな)で放置されるような状態は発生しないですし、そんなに待っていただかなくて大丈夫だと思います。3〜5年見ていただければ、企業価値の向上を反映した合理的なパフォーマンスをお示しできると考えています。もし、100億円未満のスモールキャップ・ファンド(時価総額の小さな会社に投資するファンド)だと(運用成績が指標を下回る)アンダーパフォームがより長期にわたるということも起こり得る話かもしれません。

 あとは、逆説的ですけど、絶対に必要だという付加価値があって、圧倒的に強いという参入障壁があったら、そういう会社で100億円未満の評価が付いている確率はほぼゼロです。マーケットも賢いですからね。


朝倉 いくらキャピタリストが長期投資を行おうと考えていても、景気が悪化して株価が下がる度にLPに解約されていたら、一番悪いタイミングで投資先の株式を手放すことになり、全く長期投資の妙味が得られませんよね。その意味では、長期投資を実現するための環境をつくりきるまでが、非常に大変なのではないかと思うのですが。それが可能となった要因は。


奥野 これはやっぱり農林中金が、もともとシード(事業を立ち上げる際の資金)があるからですよ。今3000億円ですが、1000億円は農林中金からですから。プロジェクトとして立ち上げた時点から、こういう立てつけのプロジェクトができるとしたら、投資余力からいって農林中金か、東京海上保険か、日本生命保険しかない、と思っていました。これも参入障壁です。


セカンダリーな投資家の貢献とは?


朝倉 少し吹っかけるような質問になりますが、セカンダリー市場(発行された株式や債券を投資家の間で売買される流通市場のこと。企業が株式や債券を発行して資金調達をする発行市場をプライマリー市場と呼ぶ)の投資家は、果たして会社にとってどのような価値貢献をしているとお考えでしょうか。過去に奥野さんは、ある記事で「ライト兄弟も投資家がいなかったら飛行機を作れなかった」という話をされていて、まったくそのとおりだとは思ったのですが、それは直接会社にリスクマネーを提供する投資家の話ですよね。やっぱりプライマリーな投資家とセカンダリーな投資家は違うのではないかと思います。この点はいかがお考えですか。



奥野 非常に的を射た、痛い質問ですけれども(笑)、上場していたら株主の役割は変わるのか、たまたま上場していただけとは考えられないのか、という点を考えてみていただいたらどうでしょうか。

 たとえば朝倉さんがベンチャーをつくって、それを誰かに売却するとき、その会社の経営者は持ち主が変わろうとも、現状の株主に対して正しい経営をしようと考えますよね。当然、株主が「きちんと経営しろよ」とプレッシャーもかけてくる。これが、上場したら関係なくなります、というほうが、私はおかしいような気がしますね。たしかに、「○○さんが株を持っててくれるから」と恩義に感じるかといえば、なかなか難しい。そこは想像力の問題になってきます。

 その点、アメリカの経営者のほうが、そういう恩をきちんと感じてくれますね。たとえば10兆円企業のスリーエムでも、私たちは微々たる株数しかもっていませんが、長期投資家とはビジネスを理解し合うべきだ、ということでCEOみずから出てこられます。


朝倉 経営者がどれだけ株主の立場に思いを馳せられるかということですか。

 最後に一点伺わせてください。長期投資というのは、王道ですし、ある意味では当たり前である一方で、なぜそれが日本で根づいていかないんでしょうか。


奥野 長期投資をする場合、投資先としていい会社を選ぶのは、実はそれほど難しくないと思っています。信越化学やファナックがいい会社であることは、ともすると日本人全員知っているわけです。でも、マーケットの波によっては、ファンドにお金を出している投資家のほうが耐えられなくなって解約が相次ぐ、という事態が起こり得る。

 これを避けるには、やはり「投資家に私たちの投資を理解してもらう」ことが大事なのではないでしょうか。投資哲学に共感してもらい、投資先企業の状況やファンドとしての判断を丁寧にレポートしていれば、マーケット状況がしんどいときでも、「まあこういう時だから、仕方ないよね」と理解してくださる。つまり私たちは、長期投資のできる投資家からお金をお預かりして、長期投資に向いている会社にお金を預けている、というすごく限られた世界でやっている。限られた世界ではありますが、そのほうが社会的にもインパクトの大きな投資をすることができると考えています。

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