航続距離延びた日産「リーフe+」に立ちはだかる怪物テスラ

6月29日(土)7時0分 NEWSポストセブン

航続距離が458kmに延びた日産「リーフe+」(熊本・八代の球磨川河口にて)

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 カルロス・ゴーン元会長逮捕の余波もあり業績悪化に喘ぐ日産自動車だが、先行するEV(電気自動車)開発では他メーカーを圧倒している。年初に発売した「リーフ」の高性能版はEVの弱点だった航続距離を大幅にアップさせているが、果たしてその実力は本物なのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が試乗レポートする。


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 カルロス・ゴーン前CEO(最高経営責任者)の肝煎りでEV戦略を推し進めてきた日産自動車。EVそのものの難しさはともかく、EVを普及させるための策を一番打ってきたことは確かだ。


 全国のディーラーの過半に急速充電器を設置し、1か月2160円という出血大サービス価格で使い放題というサービスを展開。最近はこれまでの約2倍に相当する最高出力90kWの最新型充電器の設置も少しずつ始まっている。


 日産がその最新の充電器に対応したEVを発売したのは今年1月。主力モデルであるCセグメントコンパクトEV「リーフ」のバッテリー容量を標準型の40kWhから62kWhへと1.5倍に増やした「リーフe+(イープラス)」だ。


 果たしてその使い勝手はどうか。日産グローバル本社のある横浜から九州の南の果ての鹿児島まで約1500km、あちこちを見物しながら走ってみた。筆者は昨年、ほぼ同じルートを標準型の現行リーフで走っているので、どう変化したかも観察してみた。


 実際にイープラスで鹿児島まで走破してみた総評だが、標準型に対するアドバンテージは予想以上のものがあった。片道1500kmという距離になると、もちろん何度も充電しなければならないことに変わりはない。鹿児島到着までの急速充電回数は7回半(半は15分充電)と、延べ15回を要した標準型に対して文字通り半減した。


 まだ7回半も? と思う人も多いことだろう。しかし、ドライブを貫徹してみた実感としては、1回30分の充電が7回と14回では感覚がまるで異なる。いいとこ「準急」くらいであったのが、「急行列車」になったような気分だ。


 充電したのは、愛知の三河安城、同じ愛知の一宮(☆)、兵庫の姫路(☆)、広島の三原(15分)、広島(☆)、山口・下関手前の長府、福岡南部の久留米(☆)、鹿児島北部の出水。☆印をつけたのが定格90kWの新型急速充電器である。


 40kWh版で延べ15回充電したときは昼間は観光のための時間、夜は交通の流れが良くなり移動距離が稼げる時間を充電で30分ずつ頻々と食われることから、ドライブがさっぱり前に進まないという印象があった。


 だが、イープラスではもはやそういう制約は感じられなかった。もちろん観光スポットでもないようなところで時間を30分食われるのはタイムロス以外のなにものでもないので、できればもっと充電時間を詰める研究は進めるべきだ。


 それでもイープラスのツーリング感覚は逆境に耐えるようなドライブをしていたこれまでのEVとは違った。クルマで移動することの最大のメリットである自由自在さを味わえるボーダーラインを越えるレベルにいきなり来たというのが、率直な感想だった。


 ちなみに満充電状態からの航続性能だが、エアコンフル稼働のうえ、効率を無視して高速、一般道バイパスとも最も速い流れに乗って走ってもスタート地点の横浜から愛知県の名古屋までは無充電で届く水準にあった。


 前回の40kWhリーフのときは残量100%で出発後、226km地点の静岡・浜松の手前、磐田で残り4%まで減り、天竜川を越えられなかったことに衝撃を覚えたものだった。が、62kWhのバッテリーになると、標準型でのドライブがEVの苦手とする冬季だったことを差し引いても、さすがに余力が圧倒的に違う。


 残量約40%で天竜川を渡って浜松を過ぎ、さらに県境を越えて愛知に入る。330km走行地点の三河安城でひと休みをかねて1発目の充電。計器上の残量は12%、航続残は50km。名古屋市内の急速充電スポットまで行くことは十分にできそうだった。


 そうしなかったのは、名古屋市心部より距離がある一宮市に90kW充電器があり、それを試そうと考えていたからだ。三河安城から一宮の充電スポットまでは途中で名古屋港湾部や名古屋芸術大学などに寄り道しても実測64kmだったので、少しスピードを緩めれば横浜から一宮までであっても無充電で到達できたかもしれない。


 イープラスのメリットは単純な航続距離の数値だけではなかった。バッテリーのセル(単電池)数が1.5倍になった恩恵か、山越えや高速走行など高負荷で連続走行したり急速充電を繰り返したりしても、バッテリーの温度が上がりにくくなったのだ。


 40kW版の場合、急速充電1回目はいいのだが、それ以上繰り返していると、同じ30分充電でも入る量がどんどん少なくなっていく。これが横浜〜鹿児島間で15回も充電をしなければならなくなった最大の要因だった。


 イープラスの場合、まず連続走行でもバッテリー温度がほとんど上がらない。同じようなペースで走った場合、リチウムイオン電池のセル数が1.5倍ということは、1セルあたりにかかる負担は3分の2。電気工学的にみると、熱の発生は二乗倍で効いてくるので、1セルあたりの放熱量は9分の4。車重が増えたことを勘案しても、半分といったところだろう。


 確かに90kW充電器で一気に大量の電力を電池に蓄えると、さすがに温度は上がる。だが、40kW版がしょっちゅう充電を要したのに対し、次の充電までの時間が格段に長いことと、1セルあたりの熱の発生が少ないことの相乗効果で、走っているうちにだんだんバッテリー温度が下がってくるのだ。


 温度が下がりきるわけではないため、2回連続で90kW充電を行うと、2回目は1回目ほど速いペースで充電することはできないのだが、一方で日産ディーラーの一般的な44kW充電器を使うと、温度が少し上がった状態でもフルスピードをほぼ保ったまま30分充電できた。この電池の受け入れ性の高さは、40kWのバッテリーにはなかった特性だ。


 エンジン車が重量に対して能力が足りないエンジンを使うとかえって燃費が悪化するように、EVもバッテリー搭載量は多いほうが余裕が出る。イープラスは、その原則をモノで実証するようなクルマであった。


 これまでのEVに比べ、より広範囲のカスタマーに適する商品になったリーフe+だが、難点もある。それは価格だ。イープラスには普及版の「e+ X」と豪華装備の「e+ G」の2グレードがあり、それぞれ416.2万円と472.9万円。ノンプレミアムCセグメントとしては相当に高い。


 それでもライバルがいなければ、真に実用的なEVはこのくらいの値段なのだと言い張ることも可能であったろう。だが、実はこの夏、イープラスにとって手ごわいコンペティターが登場する。アメリカのEVメーカー、テスラモーターズのプレミアムDセグメントセダン「モデル3」だ。


 今年5月、テスラは日本でモデル3の正式受注の受付を開始した際、日本における販売価格を公表した。


 モデル3には0-100km/h加速を500psカー並みの3.4秒でこなす怪物グレードがあり、人気を博しているが、日本におけるローエンドの「スタンダードプラス」でも同5.6秒と相当な俊足。ちなみにリーフのイープラスも最高出力218psとかなりのパワーを持っているが、0-100km/h加速の実測値は7.3秒であった。


 一方で航続距離(WLTP計測による)は409kmとイープラスに1割ほど負けるが、より条件の厳しいアメリカの計測法で比較すると、ほぼ拮抗した数値となる。


 格上でしかも高級なのプレミアムDセグメントクラス、性能はおおむねエンジン車の3.5リットル級に相当するこのモデル3スタンダードプラスの価格だが、何と511万円と発表された。


 高価なバッテリーを山積みするEVでこの価格とは、テスラのビジネスモデルは本当にサスティナブルなのかと心配になるほどだし、販売・サービス網の充実という点についてはまだほとんど未整備という弱点もある。が、少なくともコストパフォーマンスに限ってみれば、日産に限らずEVを手がける競合メーカーが軒並み「顔色を失う」レベルであることは間違いないところだ。


 充電インフラや過大な充電時間、バッテリーの耐久性など、いまだ様々な課題を抱えるEV。特にバッテリーはリチウムイオン電池が素材の持つポテンシャルに対してすでに性能限界と言えるレベルに達しつつあるため、次世代電池が完成するまではしばらくの間、進歩が停滞することが予想される。


 だが、現有技術でも電池の搭載量を増やし、電力の使い方を工夫するだけで、過去のEVのイメージを払拭するようなクルマ作りをすることは可能。リーフe+やモデル3は間違いなくそのことを実証するEVと言えよう。果たしてEVがこの先どう進化していくか、改めて楽しみになった。

NEWSポストセブン

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