「札束のベッドで女を抱くと燃えるか」 “狂乱”のバブル時代に地上げ屋が試したこと

7月2日(火)17時0分 文春オンライン


『トッカイ(不良債権 特別回収部) バブルの怪人を追いつめた男たち』(清武英利 著)


「狂乱」といわれたバブル時代の忘れられないエピソードは、「札束のベッドで女を抱くと燃えるか」と、試してみたら「代わり映えしなかった。女はブロック(1000万円)を渡すと、喜んでいたけど……」という地上げ屋の話だった。


“余禄”に与(あずか)った無名の人間ですらこうである。都銀、農林中金、生保などの「別働隊」となった住宅金融専門会社(住専)から数百億、数千億円単位でカネを引っ張った住専の大口借り手企業には、欲望を映すエピソードが満載だった。


「西」の代表は末野興産・末野謙一、「東」は桃源社・佐佐木吉之助、その他戦災孤児だった麻布建物・渡辺喜太郎、政界パイプを持つ富士住建・安原治……。


 私を含めバブル経済の勃興から後処理までを追った多くの記者が、「住専マネー」の複雑怪奇な流れを解明、その原因を探り、怪紳士たちを生み、育てた時代に迫ろうとした。


 清武英利氏が近著『トッカイ』でアプローチしたのは、「逆から住専問題を振り返ること」だった。貸す側の住専社員が、取り立ての整理回収機構特別回収部(トッカイ)に回った。将棋でいう「奪(と)り駒」となった彼らの矜恃と覚悟と生態を描いた。


 トッカイのメンバーたちは、放漫融資のツケを自分たちで刈り取るという意味でも、回収の努力が己の将来の仕事を奪うという意味でも矛盾を抱えながら、国策を実践、正義を実行しているという意識を持ち、「資産隠し」や「借り得」を許さないという気概で働いた。厳しいノルマにのたうち回り、居酒屋で議論しながら憂さを晴らす人間模様は共感を生む。


 だが、整理回収機構が注目を集めていた頃、彼らの姿は見えなかった。取材では、いつも広報というカベの後ろにいる「名もなき集団」だった。清武氏が、黒衣たちの信頼を得て、家族にも会い実名報道するまでに、どれだけの時間がかかったかは想像に難くない。


 回収先には暴力団の企業舎弟やその周辺者もいる。箱がカラになるまでマッチを擦り、トッカイのメンバーに投げつける債務者の暗さには慄然とするが、反社会的勢力が勢いを持っていた頃には、その種の“手合い”が少なくなかった。


 私自身、住専大口借り手の「回収妨害」の手口を取材していて、当時、小学生だった娘の家から学校までの経路をFAXで自宅に送られてきたことがある。「わかっているぞ」という脅し。バブル紳士たちの豪快エピソードの裏には、カネのためならなんでもやるという陰湿さがつきまとう。


 人は何のために生き、働くのか——。永遠の問いかけに、清武氏は常に、組織の端にいて支える名もなきメンバーの奮闘を示して答える。『トッカイ』しかり、講談社ノンフィクション賞を受賞した『しんがり 山一證券 最後の12人』しかり。その目線の確かさと温かさが読者を惹きつける。



きよたけひでとし/1950年、宮崎県生まれ。75年、読売新聞社入社。社会部記者、編集委員、読売巨人軍球団代表などを経て、ノンフィクション作家に。著書に『プライベートバンカー』など。



いとうひろとし/1955年、福岡県生まれ。ジャーナリスト。著書に、『「カネ儲け」至上主義が陥った「罠」』、『黒幕』など多数。





(伊藤 博敏/週刊文春 2019年7月4日号)

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