全国初摘発の「電動スーツケース」より要注意…LUUPの座席付き「電動シートボード」に恐怖を感じる理由
2024年7月2日(火)17時15分 プレジデント社
■電動スーツケースは一発で違法
このところ、もう連続ドラマのように目の前の路上で、いろんなことが展開していく。大阪市内の歩道で、またがって運転できる「電動スーツケース」を無免許で走ったとして、中国籍の30代女性が道路交通法違反で書類送検された。全国初の事例だそうだ。
この電動スーツケースの最高速度は10キロ台で、原動機付自転車(原付)として扱われるため、無免許・無ナンバーで公道を走っただけで違法となるのだ。
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大手家電量販店でも売られていた電動スーツケース - 筆者提供
これは分かりやすいので警察も検挙しやすい。私が電動スーツケース以上に危惧しているのが、「電動シートボード」だ。
何のこと? 名前で分かるわけはないかもしれない。私が、この連載で「違法」「脱法」と分類した3つ目の「合法電ジャラス自転車」というやつで、以前から一番危惧していたものだ。
【分類① 違法電ジャラス自転車】
スロットルあり、「フル電動」あるいは「モペッド」
【分類② 脱法電ジャラス自転車】
スロットルなし、アシスト率オーバー・電アシもどき
【分類③ 合法電ジャラス自転車】
なぜか合法の「特定小型原動機付自転車」
ついにラスボスが、最大手LUUPのバッジを着けてやってくる。
■スクーターのように見えて無免許OK
まずは画像を見ていただきたい。
【画像】LUUPが発表した「電動シートボード」の広報写真(PR TIMESより)
これ、何に見えるだろうか?
どう見ても、ただのスクーターだろう。そう、昭和のラッタッタみたい。
でも、スクーター(原付)じゃない。これ、無免許OK、ノーヘルOK(罰則なし)、場合によっては(「特例」がつくと)歩道もOKなのだ。
信じられるだろうか?
■座席付きの「電動サイクル」はすでにあった
この話、ちょっと前の電動キックボードからスタートする。
電動キックが「(特例)特定小型原動機付自転車」という新カテゴリーに指定されたのが、2023年の7月。そのときから(声高には言われなかったけれど)電動キックにサドルがついていてもOKとされていた。
だから「最初から取り外し不可のサドル付き」というやつは存在した。これを当初「電動サイクル」といった。レギュレーションはこうだ。
・時速20キロ以下(歩道は時速6キロ以下)
・最大出力は600W(電動アシスト自転車の約3倍)
・16歳以上、免許不要
・ヘルメットは努力義務(罰則なし)
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電動サイクル - 筆者提供
というところ。電動キックとまったく同じだ。
■電動キックは快適に乗れるとは言い難い
私も試乗で乗ってみたことがあるが、たしかに楽しい、楽ちんだ。
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電動サイクルに乗る筆者 - 筆者提供
だから同時にこうも思ったのだ。
「でも、これ、絶対に流行るだろうな、電動キックに置き換わるかもしれないな」
なぜなら電動キックボードの方は次のようなディスアドバンテージを持っているから。
・立ちっぱなしで疲れる
・案外、小回りがきかない
・下り坂が苦手
・普段使わない筋肉を使うためか(翌日)筋肉痛 ←たぶんこれが乗る人が若い人ばかりの理由
・重心が高いために(特に低速で)ふらつく
・あまりに小径で段差が苦手
結果として、電動キックはあまり長い時間乗っていられない、ということになった。
でも、そこにサドルが着いて座って移動できるとしたら? 楽で長く乗れるに決まっている。
これこそが「特例特定小型原動機付自転車」の深慮遠謀で、最初からこのカテゴリー、そういう枠組みで作られていた。
で、満を持して最大手LUUP社がプロトタイプを発表したのが今だ。
電動サイクルではなく「電動シートボード」と新たに名付けられて。
■歩道も車道もデタラメに走る、という未来
LUUP社によると、今冬のリリースを目指しているのだそうだ。
思えば、これ、リリースされないわけがなかった。一般への市販としては「完全合法!」「車道も歩道もスイスイ!」とか言って、すでにネットで売られているのだから。
ならばとばかり、今後はシェアモビリティとして大量にばらまかれるわけだ。それが数カ月先の未来。
だが、こんなものが、普通の顔をして大量に出回ることに危惧はないのか。私は危惧する。実に危険、かつ迷惑だ、と。
私が予想するのは、今後、無免許、ヘルメットもかぶらず、交通法規も知らない連中が、歩道も車道も右も左もデタラメに走る、という未来図だ。
どうしてそれが予想できるかって? 簡単。電動キックがすでにそうなりつつあるからだ。
■ヘルメットをかぶったLUUP乗りはほぼ皆無
たとえば、LUUP社の公式ウェブサイトやプレスリリースに掲載されている写真は、すべての電動キックがヘルメットをかぶっている。
「電動キックボード」の広報写真(PR TIMESより)
しかし、実際にヘルメットをかぶって電動キックに乗る人を見たことがあるだろうか。ないよ。私だって、ヘルメット電動キック乗りなんて、私以外に見たことがない。
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街中を走るLUUP。ヘルメットは着用していない - 筆者提供
だって、LUUPにヘルメットは付いてないし、ポートにもないし、ヘルメットを持ち歩いて電動キックに乗る人なんてほぼいないから。
■「合法」として公道を走行できる
今、首都圏、近畿圏などでは、いわゆる「違法モペッド」が電ジャラス自転車として、オラオラとばかり事故を起こし、迷惑をかけ続けているというのはご存じの通り。
しかし、あれらはいざとなれば検挙できるのだ。そもそも、ナンバープレートなしで公道を走ること自体が違法・脱法なんだから。これは冒頭に紹介した電動スーツケースも一緒だ。
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筆者の目の前で検挙された違法モペッド乗り - 筆者提供
だが、今回の電動シートボードはどうか。
「合法」なのである。
特定小型原付のナンバーを付けている限り、存在自体を否定されたりはしない。
スロットルを回したって合法。無免許でも合法。ヘルメットをかぶらなくても罰則なし。
私は現場の警察官が気の毒でならない。こんなのが危険運転をバンバンしていても、実質的に捕まえられないし、特定小型原付のナンバーは小さくて、数字がそもそも見えない。
■LUUP社の罰則制度は効果があるか
LUUP社も悪質な乗り手に苦慮しているのか、違法走行に対して罰則を課す新制度を導入すると発表した。違反点数が加算されていくと、アカウントを30日間凍結し、さらにその後1年以内に違法走行をしたら無期限でLUUPに乗れなくするそうだ。この取り組みがどこまで効くのかはまだわからない。
そんな状態の中での見切り発車だ。すでに増えている電動がらみの事故は、一気に爆増するだろう。今目の前で起きていることは「人の命を代償とした社会実験」なのだ。
第一、違法モペッド乗りにこう言われたらどうするんだ。
「なんだよー、オレたちばっか捕まって、なんであの連中(電動シートボード)は捕まんねえんだよ。あいつらも無免許だし、ペダルすらねえじゃん、しかも加速ヤバいんだぜ。あっちの方が全然あぶねーよ」
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疋田 智(ひきた・さとし)
自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。
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(自転車評論家 疋田 智)