遠くに北極星を仰ぎみて

7月4日(木)17時30分 J-CASTニュース

■『医療制度における公的保険と民間保険の役割』(田近栄治責任編集「フィナンシャル・レビュー」)



本書は我が国の医療保険制度改革の参考に資することを念頭に、海外の医療保険制度、とりわけ公的保険と民間保険の役割について調査した文献を編集した論文集である。この論文集が出たのが2012年であるから、決して新しい論文ではない。ただ、オランダ等の医療保険制度改革を紹介するなかで詳しく紹介された「管理競争」の枠組みは、現在も我が国の医療保険制度改革を考える上で重要な参照点となりつづけている。いわば、北極星の役割を果たしている。



海外事例から医療保険制度改革の方向性を探る


本書によると、オランダ等では医療保険に競争原理が導入されている。被保険者(一般国民)は自由に保険者を選ぶことができ、保険者は医療機関と交渉することで cost effectiveな医療サービスの提供に努める。効率のみでは割り切れない社会上の考慮事項、例えば、年齢、疾病構造、所得によって純粋な民間保険では保険提供のなされない恐れのあるグループに対しては、「リスク構造調整」という手法により、競争原理との整合性を確保しつつ、保険の提供がなされるようにしている。リスク構造調整とは、病気になる確率の高い社会グループを加入者とする保険者に事前にその分の財源を配分するものである。この「事前」ということが肝であり、これによって保険者の予算制約をハード化することができる。予算制約の中で保険者が努力することで、保険者機能が高まり、資源の効率的な活用に資するというものである。


我が国の医療保険制度は皆保険の実現など社会的公平性の担保において一定の成果を収めている。他方、職域等により加入すべき保険が決められ、選択の余地はない。保険者と医療機関の間の交渉は中央に集約されており、競争原理が働く余地は限られている。リスク構造調整は導入されておらず、公費投入の目的・ルールが明確ではなく、財源配分は事後的なものであり、保険者機能が十分に発揮されているとは言い難い。



我々は北極星に近づいているか



我が国で保険者機能の強化を志向する改革が進められていないかといえば、そうではない。その大玉は、国保の都道府県一元化を通じ、都道府県に保険者機能の発揮を求める改革である。都道府県には地域医療構想に基づく病床管理、医療費適正化計画の策定・実施の任が与えられている。その実施手段として、消費税財源による基金のほか、病床再編に向けた都道府県の権限の整備、地域別診療報酬の設定に向けた環境整備等が進められている。ひとりあたり医療費等のデータの地域間の相違を「みえる化」することで、自治体間競争を通じた医療費適正化への誘因を与えようとしている。医療保険制度改革について、保険者機能の強化という北極星を掲げた本書の出版には、一定の意義があったと考えることができそうだ。


ただし、この我が国の取り組みの成否は、都道府県がどの程度保険者機能を高めることができるかにかかっている。被保険者にとっては保険者を選ぶことはできないままである。都道府県は民主的な過程を経て選ばれる知事の主宰する政治的アクターであり、保険者機能を発揮するには、医師や地域住民等のステイクホルダーとの交渉など乗り越えるべき課題がある。リスク構造調整等の財源配分の原則、あるいは公費投入にかかる原則が不明瞭なままでは、保険者機能の十分な発揮は望みがたい。


本書には引き続き北極星を掲げる社会的役割が残っている。国保の都道府県化が、結局、ソフトな予算制約を持ったまま保険者が大きくなるだけに終わることのないよう、多くの人々が関心を持ってよいと思う。



経済官庁 Repugnant Conclusion

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