顧客の「欲しい」を見つける「バリュー・プロポジション・キャンバス」の使い方とは?
2024年7月2日(火)4時0分 JBpress
将棋に「定石」があるように、ビジネスには経営学者や実務家によって開発された「フレームワーク」がある。思考を助ける枠組みであり、アイデア創出やニーズの発見、課題の洗い出し、戦略立案、業務改善など、活用シーンはさまざま。その概要と使用法を心得ておくことが、ビジネスパーソンにとっての大きな武器となる。本連載では、事例・参考例が豊富な『ビジネスフレームワークの教科書 アイデア創出・市場分析・企画提案・改善の手法55』(安岡寛道、富樫佳織、伊藤智久、小片隆久共著/SBクリエイティブ)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第3回は、新製品や事業の構想に加え、既存の製品・サービスの見直しにも活用できる「バリュー・プロポジション・キャンパス」を取り上げる。
<連載ラインアップ>
■第1回 斬新な着想を得るための「ランダム刺激発想法」とは?
■第2回 商品開発のプロセスに顧客を巻き込む「コミュニティ共創法」と実施のポイントは?
■第3回 顧客の「欲しい」を見つける「バリュー・プロポジション・キャンバス」の使い方とは?(本稿)
■第4回 ライバルとの比較で独自のビジネスを構想する「戦略モデルキャンバス」の使い方とは?
■第5回 「儲ける仕組み」と「コスト構造」を明らかにする「収益モデル」の使い方とは?(7月10日公開)
■第6回 新たな成長戦略の策定に活用できる「アンゾフの成長マトリクス」とは?(7月17日公開)
■第7回 経済学者H・ミンツバーグが提唱したSWOT分析の発展形とその使い方とは?(7月24日公開)
■第8回 注力すべき事業・商品・顧客が分かる「パレート分析」とは?(7月31日公開)
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バリュー・プロポジション・キャンバス 概要
バリュー・プロポジション・キャンバスは、「自社の事業や製品の価値提案」と「顧客のニーズ」がフィットしているかどうかを検証するフレームワークです。バリューとは「価値」、プロポジションとは「提案」という意味です。
バリュー・プロポジション・キャンバスは、上の図のように円と四角形の2つの図形で構成されており、左側の四角に「自社が提供する製品の構成要素」、右側の丸い部分に「顧客のニーズや情報」を記入します。
なお、バリュー・プロポジション・キャンバスは、新製品や新サービス、事業の構想時だけでなく、既存製品やサービスの見直しにも活用できます。
使い方
バリュー・プロポジション・キャンバスの各項目を記入していきます。各項目を書き込む順序に決まりはありません。「客観的な情報」に基づいて記入しやすい箇所から進めてください。
① 顧客セグメント
右上に「顧客セグメント」を記入します。顧客セグメントとは、顧客を年齢や性別、居住地、職業などで分類した顧客のグループです。バリュー・プロポジション・キャンバスでは、製品やサービスを使う顧客グループを定義します。
② 右側の円
右側の円は以下の3つの領域に分割されています。
なお、顧客の仕事、顧客のペイン、顧客のゲインに記入する内容はいずれも、客観的根拠に基づいたものであることが重要です。このフレームワークは、ビジネスモデルの中核をなす「価値提案」が「顧客のニーズ」とずれていないかを詳しく検証するためのものなので、正しい情報を把握することが必要です。事前に顧客アンケートなどでデータを収集しておくと正確に記入できるでしょう。
【ここがポイント!】
右側の円には、客観的根拠に基づいた内容を記入する
③ 左側の四角形
左側の四角形は以下の3つの領域に分割されています。
上記の各項目を記入する際は、右側の円形に書かれた項目と対比させることを意識してください。
ただし、右側と左側の内容にギャップがあったとしても、記入内容を無理やりどちらかに合わせて修正する必要はありません。
このフレームワークはあくまでも、「自社事業や製品の価値提案」と「顧客のニーズ」がフィットしているかどうかを検証するために用いることが大切です。そのため、ずれがあった場合は「どのようにしてそのずれを埋めるか」を検討していくとよいでしょう。
【ここがポイント!】
左側の四角形に記入する内容は、右側の円形に書かれた項目と対比させる
④ 価値提案
それぞれの項目を書き込んだら、改めて「顧客に提供する価値は何か」を検討し、図の左上にある「価値提案」にその内容を記入します。
そのうえで「自社の製品による価値提案」と「顧客のニーズ」が合致しているかを検討し、さらには、顧客も想定していない解決策やメリットを実現できるかを検討します。
【Memo】
ここで検討する「価値提案」と「顧客セグメント」は、オスターワルダーらが作った「ビジネスモデルキャンバス」に対応しています。
事例・参考例:フィリップモリス「アイコ ス」
2015年9月に発売された電気加熱式タバコ「アイコス」は、発売後およそ半年で販売台数が日本国内だけで100万台を超えたヒット製品です。
アイコスの特徴は「火を使わないため、煙や灰が出ないこと」です。したがって、非喫煙者が敬遠する匂いも出ませんし、副流煙による健康被害の心配も大幅に減少します。
アイコスの価値提案をバリュー・プロポジション・キャンバスで整理すると下図のようになります。
■ 顧客のニーズや情報
フィリップモリスがアイコスを開発したのは、健康被害の心配や、副流煙による他者への迷惑を気にして喫煙者人口が減少し続けたからです。タバコによる健康被害には「点火した部分から立ち上る煙に含まれる有害物質(ニコチンやタール)を、近くにいる人が吸い込んでしまう」という問題があります。また、煙の匂いが服や部屋につくのは、非喫煙者にとって快適ではないため、喫煙者側は常に気を使わなくてはなりません(②顧客のペイン)。
一方、喫煙者にとってタバコは「気分転換」や「ストレス解消」の効果もあるため、周囲に迷惑をかけずに喫煙できれば、提供製品による価値を上げることができます(①顧客の仕事・③顧客のゲイン)。
■ 自社が提供する製品の構成要素
開発費2500億円を投じた電子加熱式のタバコ「アイコス」(④提供する製品・サービス)は、一定分量の有害物質を出しますが、紙巻きタバコに比べて副流煙や匂いを抑えることを可能にしました(⑤ペインを減らす)。
また、一度加熱点火をした後は、次のタバコを吸うために5〜6分待たねばならないため、連続喫煙を抑えることになります(⑥ゲインを増やす)。
■ 価値提案
このように、喫煙者の周囲への気兼ねを減らすことができますし、周囲の人も喫煙者自身も吸い込む副流煙が減るため健康被害を抑えられます(価値提案)。
加熱式の装置を販売したことで、思わぬ社会的メリットも生まれました。本体の購入にはユーザー登録が必要となるため、未成年がタバコを手にする機会を減らすことができます。加熱式の装置は価格がおよそ1万円と高額ですが、発売から短期間でヒット製品になったのは、顧客のニーズと、製品の価値提供がフィットしたことによって、タバコという製品に新たな価値を創造することができたからといえるでしょう。
<連載ラインアップ>
■第1回 斬新な着想を得るための「ランダム刺激発想法」とは?
■第2回 商品開発のプロセスに顧客を巻き込む「コミュニティ共創法」と実施のポイントは?
■第3回 顧客の「欲しい」を見つける「バリュー・プロポジション・キャンバス」の使い方とは?(本稿)
■第4回 ライバルとの比較で独自のビジネスを構想する「戦略モデルキャンバス」の使い方とは?
■第5回 「儲ける仕組み」と「コスト構造」を明らかにする「収益モデル」の使い方とは?(7月10日公開)
■第6回 新たな成長戦略の策定に活用できる「アンゾフの成長マトリクス」とは?(7月17日公開)
■第7回 経済学者H・ミンツバーグが提唱したSWOT分析の発展形とその使い方とは?(7月24日公開)
■第8回 注力すべき事業・商品・顧客が分かる「パレート分析」とは?(7月31日公開)
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筆者:安岡 寛道,富樫 佳織,伊藤 智久,小片 隆久