GMとフォードが覚醒する!超個性的トップの指導力

7月10日(火)6時14分 JBpress

『2020年の次世代自動車産業』(田中道昭著・PHPビジネス新書)

写真を拡大

シボレーブランドの電気自動車「ボルト」(2016年11月17日撮影、資料写真)。(c)AFP/Frederic J. BROWN〔AFPBB News〕

 次世代自動車産業の主戦場となる「完全自動運転車」。その主導権争いは日々激しさを増しています。

 EVの先駆者テスラや、グーグル、アップル、アマゾンといったメガテック企業の動向は、日本でも非常に注目されています。

 また当然ながら、トヨタをはじめとする日本のメーカーの開発状況にも高い関心が払われています。

 その一方で、かつて世界の自動車産業をリードしてきたGMやフォードの現状はそれほど注視されていないような気がします。「ビッグ3の一角であるクライスラーは英フィアットの傘下入りしてしまった。GMやフォードにしても販売台数でフォルクスワーゲンやトヨタの後塵を拝している。次世代自動車をリードする勢いはないだろう」。そう思い込んでいるのなら、考えを改めたほうが良いでしょう。

 GM、フォードともに、個性的なリーダーの下で次世代自動車では覇権を取り戻すべく猛烈な開発投資を行っているからです。完全自動運転の世界を彼らがけん引する可能性は、実は非常に高いのです。

(第1回)「2019年が『完全自動運転元年』になる現実を直視せよ」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53383

(第2回)「グーグル、アップル、アマゾンは自動車をこう変える」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53451


2019年には無人タクシーが登場する!?

 まずはGMの完全自動運転における開発状況から見てみましょう。

 2018年1月、世界が驚きました。GMが「2019年内の完全自動運転車の実用化」を発表したからです。

 GMが発表したのはいわゆる「レベル4」の自動運転車。人間が運転にタッチすることなく、車が自律的に目的地まで走行してくれるというレベルです。実際、公開されたコックピットのビジュアルイメージには、ハンドルもペダルも見当たりませんでした。

 車体のベースになるのは同社がミシガン州の工場で生産する小型EV「シボレー・ボルトEV」。フル充電で383キロの航続が可能で、販売価格は4万ドル以下。テスラのコンパクトEVセダン「モデル3」を上回る評価を得ているEVです。

 GMはこのクルマを、まずは運転手のいない「無人タクシー」としてライドシェア事業へ投入する計画を描いています。

 実現すれば、全世界で最も早く市場に投入される完全自動運転車の量産車になります。

 さらに、この発表から2か月後の3月には、ミシガンの2つの工場に総額1億ドルを投資し、2019年から自動運転車の生産を開始することを公表しました。つまり来年は、この連載の第1回目に書いたように、極めて高い確率で「完全自動運転元年」になるのです。

 リーマンショック後に一度破綻したGMが、次世代自動車開発レースの最前線に躍り出すことができた理由はどこにあるのでしょうか。

 最も大きな理由は、現CEOのメアリー・バーラの存在と言えます。


「血液の中にGMが流れている」

 彼女の父親は、GMの「ポンティアック」の製造部門に長く勤めた人物で、言うなれば、メアリーは生粋のGM一家の出身。彼女は自分自身を「血液の中にGMが流れている」と評しているほどです。

 現在のケタリング大学であるゼネラルモータース・インスティチュートで電気工学を学んだ後にGMに入社。スタンフォード大学経営大学院でMBAも取得しています。GMでは、エンジニアリングの他、工場や人事、広報、購買など様々なセクションを経験してきました。

 2011年からは、GM再建に辣腕を振るった当時のチェアマン兼CEOダン・アカーソンの下で、グローバル製品開発、購買・サプライチェーン担当のエグゼクティブ・バイス・プレジデントを務め、高い評価を受けました。

 2014年に退任したダンが後任のCEOとして指名したのがメアリーでした。旧ビッグ3のトップに女性が就くのは初めてのこと。「カマロ」を愛する“カーギャル”としても知られる彼女は、一躍世界中から注目される経営者となりました。

 トップになってからも彼女は次々と経営改革に手を付けていきます。不振の欧州子会社オペルを仏グループPSA(旧PSA・プジョーシトロエン)に売却する一方で、高い利益率が見込めるピックアップトラック「シボレー・シルベラード」の開発にも多額の投資を断行。「GM復活」を世界中に印象付けました。

 こうした背景の中で打ち出されたのが「2019年内の完全自動運転車の実用化」の計画です。これも彼女の強いリーダーシップから打ち出された方針と言えます。

 同社の自動運転技術は、2016年に買収した自動運転技術開発のベンチャー、クルーズ社から得たものです。ちなみにクルーズには、2018年6月、ソフトバンクが22億5000万ドルを投資することが発表されました。それほど同社の技術は有望視されています。

 GMはこのクルーズの技術に、自分たちの量産や部品調達のノウハウを注ぎ込んで、スピード感ある製品化を実現しようとしているのです。

 自動車メーカーには、クルマというハードを製造する技術において、テスラやグーグルなどが足元にも及ばないような膨大な経験と蓄積があります。そこに高い自動運転技術が組み合わされれば、次世代自動車産業の主役の座を掴むことはそう難しいことではありません。

 実際、アメリカの調査会社ナビガンド・リサーチの格付けでは、自動運転の分野でGMが戦略面でも実行面でもトップ評価を得ています。メアリー率いるGMが、数年後の自動車産業の盟主になっていることは十分考えられることなのです。


オフィス家具メーカーからフォードへ

 もう一方のフォードはどうでしょうか。

 現時点では「自動運転の技術開発でGMやグーグルなどのメガテック企業に遅れを取っている」というのが私の率直な分析ですが、同社もこれまた個性的なCEOの下で企業変革に取り組んでいます。

 個性的なCEOとは、2017年に就任したジム・ハケットのことです。GMのメアリー・バーラとは対照的に、2013年にフォード入りするまで、自動車業界での経験がなかった人物です。

 では彼はどこで何をしていたのか。

 フォードに来るまでは、世界的なオフィス用家具メーカー「スチールケース」にいました。CEOとして業績が停滞していた老舗メーカーを再生させたのです。そこで経営者として高い評価を獲得したのですが、その再生手法は独特でした。

 スチールケース時代、ハケットは世界的なデザインコンサルティング会社のIDEOに出資し、同社と共同して事業を展開しました。IDEOはデザイン思考と呼ばれる経営手法を考案したことで知られています。

 これによってスチールケースは、単なる「オフィス家具の製造・販売の会社」から、ソリューション型の空間コンサルティングの会社へと変貌したのです。ハケットは老舗企業の企業文化を大胆に変革することに成功したのでした。


米国内向けの全車をコネクテッドカーに

 こうした実績を引っ提げて、2013年にフォードの取締役になると、2016年には本体の取締役から新設された子会社フォード・スマート・モビリティのCEOに転身。この間、サンフランシスコのライドシェア会社「チャリオット」と、自動運転向けAIを開発する「アーゴAI」に出資しています。そして2017年、前述したようにフォード本体のCEOとなるのです。

 自動車業界の経験はまだ浅いハケットですが、次世代自動車産業のコアとなる事業ではすでに経験を積んできているわけです。

 こうしたバックグラウンドを持つハケットは、CEO就任直後から企業風土の「破壊的改革」に乗り出す一方で、次世代自動車の開発テンポを上げ始めました。

「人々がより安全に自由に移動できるスマートな世界のために、スマートな乗り物を開発する」「世界で最も信頼できるモビリティ・カンパニーになる」。彼はことあるごとに、内外にこう宣言してきました。その宣言は現実化しつつあります。

 2017年10月の投資家向けの経営戦略発表会で、2019年までにアメリカ向けの全車を、そして2020年までに世界市場で販売する新車の9割を、インターネットに常時接続されたコネクテッドカーにすると発表しました。

 もともとフォードは、マイクロソフトと共同開発したコネクテッドカーシステム「SYNC」を搭載したクルマを発売しており、この分野の先陣を切っていましたが、今後はさらに進化させた「SYNC3」で再攻勢を仕掛ける構えです。

 さらに2017年12月には、2025年までに中国で新たに50車種以上を投入し、中国での売上を現状より5割増やす計画を発表。うち、EVとハイブリッド車が15車種以上。2019年までには全車に通信機能を標準搭載するとしています。世界最大の中国市場でも、EVとコネクテッドカーを武器に攻めに出るつもりです。

 コネクテッドカーの先には当然、完全自動運転も見据えているはずです。ハケットの独特の経営手法がどう結実するのか。結果はこの2〜3年のうちに見えてくるはずです。

筆者:田中 道昭

JBpress

「フォード」をもっと詳しく

「フォード」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ