なぜ日本の会社では“天才タイプ”が殺されてしまうのか?

7月13日(土)5時30分 文春オンライン

大企業のブックスマート(学校秀才)が優れた社長にならない理由 から続く


 なぜ日本の会社で、天才は殺されてしまうのか? 『 社長の条件 』(経団連・中西宏明会長との共著)で、経済界に激震を走らせている冨山和彦氏。ベストセラー『 天才を殺す凡人 』著者の北野唯我氏とともに、日本型組織を徹底的に考察。


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天才スティーブ・ジョブズも、一度は殺された


北野 『 天才を殺す凡人 』は、創業社長が天才タイプのクリエイターである、という設定。けれども組織が大きくなり、自分では管理ができなくなったため、秀才タイプのMBAを出た賢い人に権限を委譲していく、というストーリーなんです。


 ゼロからイチを生み出す時期が終わり、会社が成長していく次のフェーズであれば、天才タイプの自分より、秀才タイプのほうが向いているんじゃないか。創業社長は葛藤しつつも、経営権を委譲させます。しかし、この秀才タイプがクセ者で、組織からはクリエイティブさがどんどん失われていく。


 決して秀才タイプがダメと言いたかったわけではないのですが、秀才が持っている再現性には、くれぐれも注意しないといけない。なぜなら、秀才は説明能力が圧倒的に高いので、天才を殺そうと思ったら、余裕で殺せてしまう。天才を追い詰めるためのロジックを作り、天才のことが理解できない多数の人々(=凡人)を煽動することができるからです。





冨山 そうでしょうね。それこそ株をたくさん持ってでもいない限り、天才タイプはすぐに殺されちゃうんですよ。スティーブ・ジョブズですら、一度は自分の会社から追い出されちゃったんですから。


 ただ、オペレーション(改良)の部分がどんどん大きくなっていくと、途中でまたイノベーションのストレスがかかってくるんです。一つひとつのビジネスの寿命が短いから、オペレーショナルモードも、もう長くは続かない。アップルも結局そうなったため、ジョブズは復帰できたのです。


 ある程度、先が見えてくると、また別のものを創業しないといけない。そのストレスが連続的にかかり続けるのが、じつは今の時代です。そうすると、天才と秀才がグシャグシャに、時間と空間で入れ替わりながら戦い続ける、ということを企業体としてやらないといけなくなるでしょうね。



日本の企業の不振は、負け方が下手だから


北野 ひとつ、僕がずっと思っていたのは、日本人って、負け方が下手なんじゃないか、ということなんです。第二次世界大戦のときとかも、ボロボロになるまで負けてしまった。ゲームのルールが変わったときに、対応ができない。


 人口が増えているときは、10戦戦って8勝2敗みたいな、そういう状態ができたと思うんですけど、人口が減少している今は、基本が3勝7敗みたいなものだと思うんですね。つまり人口増減は「勝率を変えるゲームチェンジ」だということ。そうすると、7回の負けのダメージをいかに小さくして、3勝でなんとかペイしていくか、みたいな戦い方が必要なんだと思うんです。



冨山 負け方が下手なのは、連続的な集団が前提になっているからです。負けたことを潔く認めると、次に敗因分析が来る。そうすると、誰が悪い悪くないの、なんて話が始まる。あいつのせいだ、あれがいけなかった、という傷口に塩を塗るような議論になるわけです。


 それは、引き続き同じ共同体で毎日顔を合わせて生きていくためには、やりたくない作業。だから、共同体内の調和とかカンファタビリティというのが優先される。一番いい方法は、負けたんだか何だか、わからないふうにしちゃおうぜ、という(笑)。


北野 ありそう(笑)。


冨山 でしょ(笑)。モヤモヤッとして、結局それは政府が悪い、みたいな、外因的なところに問題をすり替える。自分自身の構造的な敗因を分析しないから、もっと戦況は悪化していく。


「どうしてガダルカナルで負けたのか」というのを、本当の意味では分析していないから、ズルズル状況が悪化する。「精神力で負けた」みたいなわけのわからない話になっていく。太平洋戦争のときと同じような敗北を、電機メーカーや一部の自動車メーカーは繰り返してきたんですよ。同質性や連続性の病理です。



組織の調和を乱す者を排除する力が、強烈に働く


北野 大企業を見ていて思うのは、再現性がどんどん強化されていることです。わかりやすくいうと、勉強って基本的には、再現性の世界じゃないですか。その中で勝ってきた人たちが大きな会社に入る。大きな会社の中では再現可能なものが求められるし、それが一番ビジネスにインパクトを与えるので、そこで成功体験を積むと、どんどん再現性が強化されていってしまうという構造がある気がしていて。


 そうすると、創造性みたいなものを持っている人は、そもそも出世しないし、どんどん減っていく。『 社長の条件 』で経団連の中西会長が言われている、ちょっと異常時じゃないと、そもそも今の社長っぽい人は出てこない、みたいな構造があるんじゃないかと思うんです。


冨山 そういう組織において、お互いの安全保障において大事なことは結局、勝ち負けを組織の中で明確にしない、ということなんです。みんなで再現性の中に閉じこもっていれば、白黒つかない。だって、みんな同じ答えを持っていればいいわけだから。


 そこで違う答えを言ったときに初めて、白黒ついちゃうわけです。Aという答えと、Bという答え。みんなAって言っていれば、全体で間違ったって、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」になる。「みんな間違っちゃったからしょうがない」で済む。中にいる組織の個人にとっては、実はそんなに危ないことじゃないんです。


 そこで、「そうじゃない、Bなんじゃないか」というヤツが出てくると、こいつが正しかった場合に、残りの人間は全員、敗者になってしまう。Bはひょっとしたら正しいんだけど、こいつを置いておくと後でろくなことにならない、組織の調和を乱すので排除しよう、という力が強烈に働く。


 企業は基本的には自由競争の中で生きないといけないわけです。組織における人事制度は、本来は企業として競争するための手段なんだけど、いつの間にか同質的で連続的な共同体の自己保存の手段になってしまっているんです。



北野 新しいチャレンジだ、といって、新規事業の機会もあったりするんですけど、1兆円の会社で300億円くらいの事業を作っても、大した話にはならない。時価総額ベースで3%しか影響ありませんから。一方で、スタートアップ企業なら、300億円って、すごい話なんですけどね。


冨山 本来、企業にとって大事なことは、あえて言えば粗利なり、利益ですよね。見かけの売り上げが1兆円の会社と、売り上げは100億円だけれども50億円が黒字の会社、どっちの事業が価値があるかというと、後者でしょう。


 昔は日本は人口過多で、しかも増え続けていたため、100億円で50億円儲かる会社よりも、1兆円の事業を持ってそこで5万人雇えることのほうが、ある意味では社会的な価値もあった。けれども今は人口減少で人手不足となったため、もはやそこに価値はない。だったら、100億円で50億円儲かるほうが、社会的な価値がある。価値がどこにあるか、というのは、多くの日本企業は見直したほうがいいでしょうね。



天才を使いこなせない大企業、天才はどこで生きていくべきか


北野 そうすると、やっぱり大企業には天才は入らないんじゃないか、という気がするんです。20代の働きがいが、すごく低い会社もたくさんある。創造性のある人は、違う会社に入ったほうがいいんじゃないかと。



冨山 本来そういうタイプの人は、ゼロからイチの起点を創る仕事をして、社会的に貢献できたし、自己実現もできたはず。けれども、行く場所がないから、天才的な才能があっても大企業に入っちゃうわけですよ。こうなったら、もう悲劇です。


 入ってみたら、そこで行われているゲームは改良型ですから、天才な人が画期的なことを言ったって、「いや、それは君の言っていることは20年後には面白いかもしれないけど、今ちょっとそれどころじゃないんだから、これ直しておいて」みたいな話なわけです。


 日本の大企業では、天才はたくさん殺されちゃったか、もしくはしょうがないから凡人のふりをして生きていたか、のどちらかでしょうね。日立の中西会長のような人は後者だと思う。 じつは中西会長は、スタンフォード大学大学院でコンピュータサイエンスを専攻したバリバリの理系。ご自身でもちょっと変わっている、というご自覚があったようです。けれども、日立のような大企業に入ったため、しょうがないから、凡人のふりをしていたのかも。そうしたら、自分が引退する前に、世の中のほうが激変してしまって、急に社長へとお呼びがかかったんですよ(笑)。


北野 やっぱり。


冨山 競合家電メーカーの東芝やシャープが悲惨な末路を辿ったのとは対照的に、川村会長(当時)とともに大改革を行い、奇跡的ともいえるV字回復を果たし、いまや日立は世界的なグローバル企業へと変貌しました。でも大概の人は、ああいう運には恵まれない。だから、天才タイプの人は、僕は早めに起業したほうがいいと思います。結論から言うと。仮にそこで失敗したとしても、いろんな学習ができる。そうすると、将来、大きな会社の経営者になれる可能性がある。


 社会全体を大きなダイナミズムで捉えたら、天才的資質を持っている人をどう活用し、社会のためにどう使い倒すか、ということを、この国はもっと真面目に考えたほうがいい。もっと流動的に考えたほうがいいんです。



 構成=上阪徹/写真=平松市聖






(冨山 和彦,北野 唯我)

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