いつ、不妊治療の「卒業」を決断すべきか

7月13日(土)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Jacob Ammentorp Lund)

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経済的にも、身体的にも、そして精神的にも負担が大きい不妊治療。何度かチャレンジしても妊娠に至らなかった場合、いつまで続けるべきなのでしょうか。治療をやめるタイミングについて、夫婦で考えるべき3つのポイントとは。

※本稿は吉川雄司著、月花瑶子監修『やさしく正しい妊活大事典』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。




※写真はイメージです(写真=iStock.com/Jacob Ammentorp Lund)

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(登場人物紹介)

せいじ】東京都出身。大学卒業後は大手メーカーに勤務。趣味はキャンプと革靴磨き。友人の紹介で出会った「せいこ」と先日入籍。せいじもせいこも今年で30歳。これから「二人の理想の家庭」を築くために、今後の家族計画を考えはじめたところである。

きょうこ先生(以下先生)】産婦人科医。神奈川県出身。小学校から高校までは女子校育ち。医大卒業後、産婦人科医の道へと進む。日本人の「妊活」の知識レベルの低さを問題視し、義務教育だけでは補えない「妊活知識」を社会に広めようと、『妊活大事典』という本の執筆を開始。

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■不妊治療を諦める3つの理由


【先生】不妊治療には大きく3つの負担があると言われています。


【せいじ】「経済的負担」「身体的負担」「精神的負担」の3つです。


【先生】実は3つ目の「精神的負担」がもっとも大きな負担かもしれません。不妊治療は「治療したら必ず妊娠ができる」というものではなく、「まるで、出口の見えない暗いトンネルを歩き続けるようでした」と治療経験者は話します。


【せいじ】なるほどですね、出口の見えない暗いトンネル……。先生、ちょっと伺いにくいことではあるんですが、不妊治療をしても授かれないことってあるんですよね?


【先生】悲しい現実ですが、授かれない可能性は十分にあります。


【せいじ】そんなとき、病院側から「もう、可能性は低いですよ」と伝えることはあるんですか?


【先生】ここは非常に難しいところです。医師と患者様の関係性や、患者様の身体的な状態、また患者様の考え方によっても異なるとは思いますが、医師から「次で妊娠しなければやめましょう」と言うことはほとんどないのが現実です。


【せいじ】となると、不妊治療をやめる「タイミング」は治療に取り組む夫婦の意思決定次第ではあるのですね。


【先生】そうなります。


【せいじ】実際、どんなふうに考える方々が多いのでしょう?


【先生】うーん、夫婦によって状況が異なるので、すべてのパターンを洗いだすのは大変ですね。ですので、大まかに「こういうケースで、こう考える方はいる」という例をここではご紹介したいと思います。


まず、不妊治療を諦める理由は次の3つに分かれます。


①卵子や精子の問題で、夫婦では妊娠の可能性がない(ほとんどない)場合

②何度チャレンジしても妊娠しない(または流産を繰り返す)場合

③年齢や経済的な状況から継続することが現実的ではない場合

■精子ドナーによるAIDは年間3700件


【せいじ】①は卵子や精子が無い場合ですか?


【先生】そうですね。卵子に関しては卵巣内に妊娠する可能性のある原始卵胞がもうほとんどなく、ホルモン刺激によって卵胞を育てようとしても育たない場合や、卵巣を摘出していて卵子を育てられない場合です。精子に関しては「無精子症」の場合は精巣内精子採取術(TESE)という方法はありますが、それによってすべての男性から妊娠に至る精子を採取できるわけではありません。


【せいじ】なるほど……そうなんですね


【先生】「無精子症」の場合の精巣内精子採取術による精子採取が無理な場合、取れる選択肢は、審査制ではありますが「AID(非配偶者間人工授精)」と呼ばれる「精子ドナーの精子」を使用して妊娠を目指す方法はあります。


【せいじ】「卵子提供」って言葉は聞いたことはありますが、精子ドナーもあるんですね。


【先生】はい、精子ドナーによる精子を使ったAIDは年間3700件(2012年)程度行われています。



■日本での卵子提供による治療はまだ少ない


【せいじ】結構行われているんですね! 卵子が無い場合は「卵子提供」になるんですか?


【先生】はい、卵子提供に関してはJISART(日本生殖補助医療標準化機関)が規定するガイドラインに基づき、適応できると審査がおりれば「卵子提供実施施設」と登録された不妊治療の専門クリニックで治療を行えます。ただ、実際の治療件数は非常に少なく、年間数件〜十数件という実施数です。


【せいじ】まだまだ実施件数は少ないんですね……。




吉川雄司著、月花瑶子監修『やさしく正しい妊活大事典』(プレジデント社)

【先生】精子ドナーによる精子を活用したAIDの歴史は70年程度あるのに対して、日本国内でJISARTによる卵子提供の治療は2007年にはじまったばかりでして、まだ十数年の歴史しかないです。また日本で正式に実施する場合は、さまざまな必要な審査についての倫理審査があるため、ハードルがとても高いです。


【せいじ】なるほど。たまにニュースか何かで「海外で卵子提供を受けた」と耳にするのは。このJISARTとはまた別なんですよね?


【先生】はい、卵子提供は国外では日本よりも実績があり、またJISARTの規定する「適応対象」から外れた場合でも卵子提供を受けたい場合は海外で卵子提供を受けることになります。


【せいじ】それって、日本人以外の卵子になるんでしょうか?


【先生】いえ、そんなことはなくて、海外の卵子提供バンクに日本人の卵子ドナーから提供された卵子が保存されているので、日本人の卵子を使った顕微授精が可能です。


【せいじ】なるほど……。この辺りは、本当に夫婦の考え方次第ですよね。


【先生】そうなんです。夫婦二人の卵子と精子での妊娠しか望まない方もいれば、AIDや卵子提供を受けて子どもを授かりたいと考える方もいます。なので、もし「夫婦では妊娠の可能性がない」とわかったときというのは、「不妊治療をやめるかどうか」を考える一つのタイミングではあります。


■何度かチャレンジしても妊娠しなかったら?


【せいじ】残りの②と③は具体的にはどんな場合なのでしょうか。


【先生】②はステップアップをして体外受精や顕微授精に何度かチャレンジしてもなかなか妊娠しなかったり、妊娠はしても流産を繰り返してしまうような場合に、精神的に治療の継続が辛くなってしまうような場合です。もちろん、ここには③の「年齢的にもう続けても見込みが低いと考える」というケースや「経済的にもう続けられない」というケースも関係してきます。しかし、年齢がまだ若く、経済的な余裕はあっても、繰り返される「妊娠判定における陰性結果」や「流産」によって精神的に辛くなり、治療の継続が厳しくなることもあります。


【せいじ】不妊治療は「精神的負担」が大きいという話がありましたもんね……。


【先生】そうですね。不妊治療は「いつ妊娠できるのかわからない」という不安や、費用も高いので経済的なプレッシャーからもストレスを大きく感じてしまいます。そんななか、繰り返し陰性判定や流産を経験すると、かなり大きな精神的負担がのしかかります。なので、「もう諦めた方がいいかもしれない」という考えが頭によぎることはあります。


【せいじ】でも、すんなり諦められるものでもないですよね……。


【先生】はい、何よりも長い間「子どもが欲しい!」と願い続けていて、その気持ちはとても大きなものですし、またたくさんのお金をかけてきているので、「今やめたら、今までのお金も、努力も、全て無駄になってしまうのでは」という考えは頭から離れないと思います。


【せいじ】もし、「諦めた方がいいのかな」と考えるようになったときは、どのように考えて意思決定するのが良いのでしょうか?


【先生】正解はありませんが、次の3つは夫婦で考えてみてほしいと思います。


①予算と期限を決める

②違う方法を試すか考える

③夫婦の生き方について考える

■完全自然法に切り替えて体が整う人も


【先生】まず①について。これは、できれば治療に取り組む前に話し合えていると良いとは思いますが、治療を続ける中でも、夫婦で話し合ってほしいと思います。


「期限」に関しては、妊娠のタイムリミットという観点もあるのですが、もう一つ「生まれた後の子育て」のことも考え夫婦のライフプラン的に実現可能かも考えた方がいいと思います。仮にですが、男性側が45歳だと、生まれた子どもが20歳になる頃には65歳になっていますからね。


【せいじ】たしかに……! 子作りのことを考えるとき、「産める年齢」を考えがちですけど、「育てる期間」のことも頭に入れておかないといけませんね。


②の「違う方法を試すか考える」というのはどういうことです?


【先生】まず、体外受精や顕微授精の場合は「ホルモン刺激法」といって卵胞を育てたり、排卵を促すためのホルモン剤投与を行うことが多いのですが、それをやめて「完全自然法」で治療を進める、というのは一つの選択肢です。


【せいじ】でも、それって今までよりも可能性が低くなる気がするのですが……。


【先生】必ずしもそうとは言えないんです。ホルモン刺激法は薬の投与によってホルモンを刺激して卵胞を育てたりするのですが、それには副作用などで身体的な負担があったり、そこから精神的なストレスを感じることもあります。そういった負担は本来の身体の機能に対して影響を与えることも考えられるので、「完全自然法」に切り替えると、身体の機能が整う方もいらっしゃいます。


【せいじ】なるほど……!


年齢が高くなると、ホルモン刺激法が向かないこともあり、30代はホルモン刺激法で試し、40代からは「完全自然法」に切り替える方もいらっしゃいます。


■養子縁組という選択肢も考えて


【せいじ】③は「夫婦の生き方を考える」とありますが、これは「子どもはいないけど、二人で幸せに生きていく」みたいな生き方を考えるということですか?


【先生】それも一つの考え方ですね。実際に、不妊治療で子どもを授かることは諦めて、夫婦二人で楽しい人生を生きようと方向転換をされる方もいらっしゃいます。


他には「養子縁組」という選択肢もあります。「養子縁組」については馴染みのない方が多いかもしれませんが、実は日本は過去には多くの養子縁組によって「子どもが欲しい夫婦」と「親のいない子ども」が繋げられていました。


【せいじ】そうなんですね。養子縁組と聞くと、ドラマなんかで主人公が役所で戸籍謄本を見たら「養子」と書かれていて気づく、みたいなシーンでしか目にしたことがないですね……。


【先生】実は「養子縁組」もいくつか種類がありまして、「特別養子縁組」に関しては戸籍上では「養子」という表記ではなく「長男・長女」といった実子と同様の表記になります。子どもが生まれても育てられないカップルもいまして、そういうカップルの子どもと子どもが欲しい夫婦をつなぐ制度なんです。


【せいじ】なるほど。最近じゃ「結婚」や「夫婦のあり方」についても多様性を認める社会になりつつありますし、「子どもを持つかどうか」「夫婦二人で生きるのか」「家族とは何か」という点も、夫婦それぞれの考えのもと、幸せな人生を送れる意思決定をしてほしいですね。


【先生】そうですね。



(ヘルスアンドライツ 社長 吉川 雄司、日本産科婦人科学会産婦人科専門医 月花 瑶子 写真=iStock.com)

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