ゴダールを知らなくても楽しめる「グッバイ・ゴダール!」

7月14日(土)11時0分 Forbes JAPAN

ウディ・アレン82歳、クリント・イーストウッド88歳、ジャン=リュック・ゴダール87歳。映画界には、いまだ作品を撮り続ける巨匠監督が健在だ。高齢者問題などまるで関係なく、80代になってむしろその創作意欲が高まるくらいの活躍を見せている。

なかでもゴダールは、映画監督としてのキャリアが最も長い。1950年代、フランスのヌーヴェルヴァーグの旗手として「勝手にしやがれ」で颯爽と登場して以来、映画界の革命児として数々の物議も醸しながらも、今年のカンヌ国際映画祭では、コンペティション部門に最新作「The Image Book」を出品、スペシャル・パルムドールを受賞している。

「グッバイ・ゴダール!」は、その映画界のレジェンドに「別れ」を告げる作品だ。とは言っても、描かれるのは1960年代後半から70年代。ゴダールが商業映画への決別宣言をし、政治に深くコミットした作品を撮り始め、映画界の前衛として既成の映画に対して挑戦状を突きつけた頃だ。

ゴダールは1966年夏、ドイツ・ベルリン生まれの19歳の女子学生、アンヌ・ヴィアゼムスキーと知り合う。毛沢東主義を正面から取り上げた作品「中国女」で、彼女を主演女優に抜擢、公開直前の67年7月にふたりは結婚する。


ジャン=リュック・ゴダールとアンヌ・ヴィアゼムスキー(1967年撮影、Photo by Getty Images)

しかし、折から、ゴダールが政治問題に深く関わるようになり、映画づくりも「ゴダール」の名前を捨てて、「ジガ・ヴェルトフ集団」と名乗るようになる頃からふたりの関係は危ういものとなり、1972年頃からは事実上の別離、79年に正式離婚する。

正確に言えば、「グッバイ・ゴダール!」は、ゴダールについての映画ではない。ゴダールと結婚していたヴィアゼムスキーの自伝的小説「それからの彼女」(Un an après)が原作となっており、当然、ヴィアゼムスキーの映画であり、ゴダールは彼女の視点から描かれていく。

アンヌ・ヴィアゼムスキーは1947年生まれ。父親はロシアから亡命した貴族、母親はノーベル文学賞も受賞したフランスの作家フランソワ・モーリアックの娘という名門一家に育つ(伯父に作家のクロード・モーリアック)。

ゴダールはヴィアゼムスキーと結ばれる前には、女優のアンナ・カリーナと結婚していた(1961年〜65年)が、ファーストネームも似ている、面立ちもなんとなく彼女に重なるものが、アンヌにはあった。

ヴィアゼムスキーは、ゴダールと離婚後も女優を続けるが、文学一家のDNAを生かし、80年代後半からは小説家として活躍する。「グッバイ・ゴダール!」の原作である「それからの彼女」の前の時代を描いた「彼女のひたむきな12カ月」では数々の賞も受賞している。

残念ながら彼女は、昨年フランスでこの作品が公開された(9月13日)直後の10月5日、見送られるかのように亡くなっているのだが、完成した作品をとても気に入っていたという。

監督・脚本は、2011年、アカデミー賞の作品賞、監督賞を始めとする5部門で軒並み受賞の栄誉に浴した「アーティスト」のミシェル・アザナヴィシウス。「アーティスト」では、モノクロ&サイレントを採用した野心的な演出が際立っていたが、この作品では、いまだ現役の映画界の先輩監督を作中人物として描かなければならず、その心配りは尋常ではなかったはずだ。

事実、ゴダールへのオマージュのような場面も数々登場し、画面の色調も、初期のゴダールが商業作品で見せていた鮮やかな色使いが印象深く使用されている。往年のゴダール・チルドレンが観ても、やや楽しめる作品にもなっている。

劇中で、ゴタールが中心となってカンヌ映画祭をボイコットに動く場面も描かれるが、その同じ人物が、いまや同映画祭のコンペティション部門に作品を出品し、審査員たちからリスペクトのスペシャル・パルムドールを授与されるのだから、時代は変わったということかもしれない。

前半は、ゴダールとヴィアゼムスキー、哲学科の学生と気鋭の映画監督の甘い出会いが描かれるが、この場面だけを観れば単なるラブロマンスの作品かと思えるくらいだ。中盤から後半にかけては、フランスの五月革命なども背景に取り入れながら、女優と映画界の革命児との、それぞれの乗ったレールが離れていく姿が描かれていく。

「別れ」という悲劇が題材であるにもかかわらず、アザナヴィシウス監督の演出は静かな喜劇として描かれていく。散りばめられた60年代末のポップな色彩とフレンチファッションも魅力的だ。

若きヴィアゼムスキーを演じる女優、ステイシー・マーティンが素晴らしい。アザナヴィシウス監督は、彼女のコケティッシュな魅力を中心に据えて、ポップにコラージュされたファッショナブルなコメディを紡ぎ出している。


ステイシー・マーティン(Photo by Getty Images)

「ゴダールのことなんか、忘れて観てください。なぜならタイトルが、『グッバイ・ゴダール!』(原題はLe Redoutable)なんですから。この作品はラブストーリーであり、コメディでもあります。だからゴダールのことなどまったく知らなくても、楽しめる作品です」

ゴダールの崇拝者が聞いたら、卒倒しそうなことを言ってのけるマーティンだが、その何ものも怖いものなしの言葉が、そのまま1960年代末のヴィアゼムスキーとその時代の気分を表しているようにも思える。

ところで、当のジャン=リュック・ゴダールはこの作品を観ているのだろうか。彼にとっては、五月革命の動きもあり、政治問題へと傾斜していったシュトゥルム・ウント・ドラングの時代であっただけに、この作品をどう観たのか、古くからのゴダール・チルドレンとしては、機会があれば訊いてみたい気もする。

連載 : シネマ未来鏡
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