日本とは別次元?ステランティスが発表した怒涛のEV戦略の中身

7月14日(水)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 日本の自動車メーカーは、このままではEVシフトのグローバルな流れに乗り遅れてしまうのではないか?──そんな不安を感じさせるような発表が海外であった。

 7月8日、「ステランティス(Stellantis)」が電動化戦略に関するオンライン説明会「Stellantis EV DAY 2021」を開催した。ステランティスは2021年1月に伊FCA(Fiat Chrysler Automobiles)と仏PSA(Peugeot Societe Anonyme)が合併して誕生した自動車メーカーグループである。


4年半で3兆9000億円を新規投資

 発表会でステランティスは、2025年までに30ビリオンユーロ(約3兆9000億円、1ユーロ=130円)を投じて、「LEV」(Low Emission Vehicle、低排出ガス車)に関する開発を進め、2030年までに欧州で新車販売の70%、またアメリカでは40%をLEVに置き換えるという目標を掲げた。

 一般的に「LEV」は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)などの電動車が主体である。さらにCNG車(天然ガス車)や水素エンジン車などガソリン車やディーゼルエンジン車に対する代替燃料車も含む。

 現在、CO2の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」が世界的に大きな関心事となり、自動車メーカー各社が独自戦略を打ち出している。直近では、ホンダが「2040年までにグローバルで新車100%をEV/FCV化」と打ち出しているほか、スウェーデンのボルボは「2030年までにグローバルで新車100%EV化」を目指すと発表した。

 これらのメーカーと比べて、今回ステランティスが掲げた達成目標は決して難易度が高いようには思えない。

 一方で、約2時間にわたる電動化に関する各種プレゼンを視聴しながら感じたのは、ブランド構築の巧妙な仕組み作りだ。ブランド戦略があまり得意ではないと言われる日系メーカーとは大きく異なっている。詳しく見ていこう。


ブランドごとに「電動化」のキャッチコピーを作成

 ステランティスは、アバルト、アルファロメオ、フィアット、ランチア、マセラッティ、オペル、ボクソール、プジョー、シトロエン、DS、クライスラー、ダッジ、ラム、ジープという、14のブランドを展開している。

 電動化については、「1つの形式がすべてにあてはまらない」ことを前提として、「各ブランドのDNAを強調する手法」をとるという。

 その施策の一環として、ブランドごとに、電動化に対する姿勢をユーザーや販売店に示すキャッチコピーを作った。

 例えば、庶民派ブランドのクライスラーは「Clean Technology for a New Generation of Families(家族にとっての新時代に向けたクリーンテクノロジー)」、高級ブランドのマセラッティは「The Best Performance Luxury, Electrified(最良のパフォーマンスラグジュアリーとしての電動化」、そしてアウトドア志向が強いジープは「ZERO Emission Freedom(ゼロエミッション・フリーダム)」というふうに、ブランドごとに電動化の方向性を分かりやすく示している。

 その中で筆者が最も注目したのは、独オペルと英ボクスホール(オペルの子会社)の戦略だ。両ブランドは「Green is the New Cool」(グリーンは新しい時代のカッコ良さ)という共通のキャッチコピーを設定した。

 オペルとボクスホールの車はいわゆる兄弟車で、共通の車体やパワートレインを用いながら、内外装デザインに多少の違いを持たせている。ユーザー層は、若年層から中年層が比較的多いとされ、ドイツにおいては、ユーザーの所得層で序列付けすると、メルセデスベンツ、BMW、アウディ、VW(フォルクスワーゲン)に次ぐ庶民派ブランドというイメージがある。

 ステランティスはそんなオペルを完全電動化する。欧州内で発売する新車については2028年までに100%EVにするという。


共通プラットフォームを開発し部品も共通化

 庶民派ブランドとしては、全モデルをEV化する際、当然新車価格を抑える必要がある。そこでステランティスでは、14ブランドすべてに活用できる4つの共通EVプラットフォームを開発中だ。以下の4つのプラットフォームである。

・「STLA(Stellantis)Small」搭載バッテリー容量が37kWh〜82kWhで、満充電での航続距離が500kmまで。
・「STLA Medium」87kWh〜104kWhで、700kmまで。
・「STLA Large」101kWh〜110kWhで、800kmまで。
・「STLA Flame」159kWh〜200kWhで、800kmまで。ダッジやクライスラーの大型SUVやフルサイズピックアップトラック向けのラダー(梯子型)フレーム対応。

 日系メーカーでは日産の既存の「リーフ」上級グレードの電池容量が62kWh、2021年中に発売予定の「アリア」上級グレードが91kWhだ。上記の「STLA」プラットフォームでは「Small」「Medium」に相当する大きさということになる。

 また、ステランティスはモーター、ギアボックス、インバーターなどの部品共通化も進めるという。電池についても、コストダウンした複数の材料を準備中で、ブランドやモデルによって使い分ける。

 これまでEV普及のハードルの1つとして、電池と電動化部品のコスト高が指摘されてきた。量産効果によるコストダウンは「EVが本格的に普及すると見込まれる2030年以降に段階的に進む」という見方が、世界の自動車業界では定説だった。

 それをステランティスは、EVの“選択と集中”によってオペルのような大衆ブランドを完全EV化したり、EV関連部材を全ブランドで共通化したりする思い切った戦略をとることで、一気にEVのコストダウンを実現しようとしている。これは日系メーカーにとって“想定外”と言えるような戦略だろう。

 また、先に示した4つのEVプラットフォームのうち「STLA Flame」には、量産型の乗用EVとして初めて電池容量200kWhを超えた設定がある。日系メーカーのエンジニアは、これまで自分たちが抱いてきたEV開発思想との大きな違いを感じるのではないだろうか。


「ブランド戦略」が心もとない日系メーカー

 以上のように、ステランティスは、ブランド戦略を軸とした出口戦略を踏まえた上で、14ブランド全体における総括的な技術革新を図ろうとしている。

 ステランティスのブランド戦略に近い印象があるのが、2016年に大規模なEVシフトを打ち出したVWグループの戦略だ。VWグループには、やはりVW、アウディ、ポルシェ、ベントレー、ランボルギーニ、セアト、シュコダなど多様なブランドがあり、EV関連部品採用による量産効果とブランド戦略の両立を図っている。

 一方で、日系メーカーの場合、トヨタがマツダ、スバル、スズキと共同でEV専用プラットフォームの量産に向けた開発を進めているが、EVのブランド戦略については、基本的に各メーカーが独自に展開しようとしている。

 また、ホンダは、アメリカ向けの中大型EVではGMが開発するEV専用プラットフォーム「Ultium (アルティウム)」を活用し、それよりボディサイズの小さいEVではホンダ独自のEVプラットフォームを用意している。ホンダとしては、ブランド戦略とEV技術戦略をどこまでトータルで管理・運用できるか課題となるだろう。

 そして、2010年代から世界のEV市場を牽引してきた日産は、ルノー・日産・三菱アライアンスという“各社の長所を生かす”枠組みの中で、メーカー間の壁を突き破れない印象がある。

 ステランティスが発表したEV戦略と照らし合わせると、日系メーカーのブランド戦略の心もとなさがどうしても目についてしまう。世界の自動車業界がカーボンニュートラル達成という新たな目標に向かう中、日系自動車メーカー各社のEVシフトにおけるブランド戦略の真価が問われている。

筆者:桃田 健史

JBpress

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