マツキヨが"お試しコスメ"に注力する理由

7月14日(土)11時15分 プレジデント社

マツキヨラボ上大岡店(横浜市/著者撮影)

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ドラッグストアチェーン「マツモトキヨシ」が、新業態の店を増やしている。2015年9月から始めた「マツキヨラボ」の一部では、コスメの“テスター商品”を豊富に取りそろえ、今年6月には横浜市に11店目を開いた。流通アナリストの渡辺広明氏は、「ドラッグストアは売り場が均質化しており、価格や品ぞろえでネット通販に押されている。マツキヨラボはリアル店舗の生き残りの手段だろう」と分析する——。


マツキヨラボ上大岡店(横浜市/著者撮影)

■仕事帰りの女性が化粧品を試す売り場


6月1日、ドラッグストアチェーン「マツモトキヨシ」の新業態「マツキヨラボ」上大岡店(神奈川県横浜市)がオープンした。


「マツキヨラボ」とは、薬剤師、管理栄養士に加えて「ビューティースペシャリスト」と呼ばれる専門スタッフらが常駐し、「美と健康をトータルサポートする」とうたったヘルスケアショップだ。2015年9月に1号店を千葉県松戸市にオープンし、上大岡店は11店目になる。


上大岡店を訪れてみると、化粧品(コスメ)のテスター商品を多数取りそろえ、複数ブランドの同種の商品を一カ所で試せるコーナーを設けた、新しい実験販売が行われていた。通常、ドラッグストアでも百貨店でも、化粧品のブランドはそれぞれ独立して置かれており、たとえばKATEとメイベリンのマスカラを並べて比べるような陳列はNGなのだ。上大岡店は、バスターミナルに隣接している。筆者が帰宅ラッシュに訪れたこともあり、買い物に訪れていた会社帰りらしき女性たちがこのテスターを効率的に試していた。


■嗜好が細分化し、シェアが分散する主力商品


なぜマツキヨラボ上大岡店では、こうした店作りを行ったのか。ドラッグストアの主力商品のひとつである化粧品やシャンプーなどトイレタリーカテゴリーの消耗品は、買い上げ頻度としては1〜2カ月に1回とロングスパンだ。また、消費者の嗜好性やパーソナル性が増しているジャンルでもある。


例えば、シャンプーカテゴリーで上位3ブランドの「ラックス(ユニリーバ)」「パンテーン(P&G)」「メリット(花王)」が占める市場シェアは約15%だ。上位13ブランドに広げてもシェアは約25%とされている。




マツモトキヨシ渋谷Part1店(著者撮影)

顧客の要望に応えるためには、幅広い品ぞろえが欠かせない。ドラッグストアは従来のスーパーと異なり、そうした嗜好の広がりに対応することで繁栄を謳歌してきた。


ドラッグストアは、平成に入ってから最も伸び続けた小売業態だ。日本チェーンドラッグストア協会の調べによると、全店売上高は10年前の約1.38倍に伸長している。30年前、平成のはじめにはまだ「ドラッグストア」という呼び名は浸透しておらず、「薬局」と呼ばれることが大半だった。そんな中でマツモトキヨシが1991年と95年に渋谷に旗艦店をオープンし、そこから当時の“コギャル”を中心に若い女性客を呼び込み、一大ブームを起こす。これをきっかけに、「ドラッグストア」という業態名が一般化していった。



経済産業省の2017年「商業動態統計」によれば、業界全体の販売額は3年連続で増加し、5.4%増の6兆580億円となった。成長はいまだに続いているというわけだ。こうした数字を見ると、平成が終わろうとする現在もドラッグストア業界は安泰のように思える。だが、足元は決して安定していない。


ドラッグストアが抱える問題として、まっさきに挙げられるのは売場の同質化だ。品ぞろえはどこも似たり寄ったりで、店頭の看板を隠し、販促物やPOPなどを外せば、どのチェーンの売り場なのか消費者には見分けがつかないだろう。ほとんどのチェーンが、商品棚の構成を決める際に同じ「棚割ソフト」を利用し、同じような在庫管理の手法を用いて売り場を構築している。提案するメーカーも変わらないため、同質化するのは自明の理である。


■「返品可」ルールが緊張感なき売り場を作る


売り場が同質化する理由は、ほかにもある。ひとつは、ドラッグストア特有の商習慣だ。ドラッグストアは当然、その成り立ちに薬局がある。医薬品の店頭商品は、「返品可」が基本ルールだ。この慣習に基づいてドラッグストアでは、コンビニやスーパーでは返品できない商品もメーカーへの返品が可能になっている。返品を前提とした売り場づくりでは、バイヤーは「売れなかったら返品したらいい」という発想になりがちだ。リスクに対する緊迫感に欠け、ますます同質化が進んでしまう。


もうひとつは、独自の商品開発が難しいことだ。ドラッグストア業界でナンバーワンの店舗数を誇るのはツルハホールディングスで、2019年5月中に2000店舗に到達する予定だが、これはコンビニ業界と比べるととても少ない。業界3位のローソンでも、1万4159店(2018年4月現在)あるのだ。数の優位性があるコンビニは、OEMメーカーやナショナルブランドメーカーの生産ロット数に対応できるため、独自商品を開発する環境が整っている。一方ドラッグストアは、チェーン限定のNPB(ナショナル・プライベートブランド)商品やWチョップ商品(メーカーと小売店ブランドを並列表示した商品)などをメーカーと共同開発できないため、商品としての独自性を出すことが難しい。



そして、品ぞろえの「数」では、リアル店舗である以上、ネット通販に勝てない。前述の通り、化粧品・トイレタリーカテゴリーは嗜好の幅が広く、スペースが有限なリアル店舗ですべてに対応するのは不可能だ。ネット通販が自社物流網を敷くなどして輸送費コスト問題を解決すれば、ドラッグストアの主力カテゴリーはそちらに奪われるだろう。


■「買い物の楽しさ」を取り戻す試行錯誤が続く


ドラッグストア各社も自社通販サイトを設けているが、物流網を含めたシステムで専業企業にはかなわない。福井県や愛知県を中心に「ドラッグストア ゲンキー」チェーンを展開するゲンキー社では、今年3月、「大手ネット通販に価格も利便性も太刀打ちできない」として、自社通販サイトを含めたネット事業からの撤退を発表した。


こうした中にあって、マツキヨラボの「実際に試せる」という売りは、店舗ならではの優位性を活かしたやり方だ。ネット通販はお試しができず、プロである店員からのおすすめや後押しもないため、結局は価格競争にならざるを得ない。また、自分の目的の物のみを探す検索や、好みの傾向に沿ったリコメンド機能による買い物になるため、新たな商品に出会う楽しみは生まれづらい。


リアル店舗が買い物の楽しさをネットから取り戻す試行錯誤は、まだまだ続いていきそうだ。


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渡辺広明(わたなべ・ひろあき)

流通アナリスト・コンビニ評論家

1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在はTBCグループで商品営業開発に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。

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(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明)

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