花粉を水に変えるマスク、消費者庁が「根拠なし」

7月15日(月)6時15分 JBpress

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「花粉を水に変える」との触れ込みで販売していたマスクについて、消費者庁が対策に乗り出した。製品を製造していたメーカー4社に対して措置命令を実施したが、各社の対応はくっきり分かれている。アイリスオーヤマは消費者に誤解を与える表現があったとして謝罪したが、大正製薬は「科学的根拠をまったく無視したものであり、法的措置を検討する」との声明を出しており、政府を相手にかなりの強硬姿勢を見せている。(加谷 珪一:経済評論家)


花粉が水に変わるという表現は妥当か?

 消費者庁は2019年7月4日、「花粉を水に変える」とうたったマスクが景品表示法に違反(優良誤認)しているとして、製品を製造している4社に対して、措置命令を行ったと発表した。措置命令の対象となったのは、DR.C医薬、アイリスオーヤマ、大正製薬、玉川衛材の4社。

 各社は、光触媒の効果によってマスクの表面に吸着した花粉やウイルスなどが分解され、体内に吸収されることを防ぐ効果があるかのような説明をしていた。同庁は各社に対して合理的な根拠を示す資料の提出を求め、内容を検証したが、裏付けとなる根拠が認められなかったため、措置命令に踏み切ったとしている。

「花粉を水に変える」というマスクについては、以前からネット上などで、表現が過大ではないかとの指摘が出ていた。

 細かい表現は異なっているが、各社に共通しているのは光触媒の一種である酸化チタン(一部商品はハイドロ銀チタンと表現しているが、おそらく酸化チタンのことを指していると思われる)を含むフィルターをマスク内に組み込むことで、花粉やウイルスを水に分解するというメカニズムである。花粉やウイルスは、基本的に有機物なので、これを触媒の作用によって分解することで無毒化するということらしい。

 自然科学の専門教育を受けた人ならピンとくると思うが、触媒を使って有機物を分解すること自体は不可能ではない。だが「花粉が水に変わる」という表現については、違和感を覚える人が多いのではないかと思われる。

 そもそも花粉やウイルスとひとくちにいっても、その種類は膨大であり、分子構造も様々である。有機物なので、主に水素、炭素、酸素で構成されているのは間違いないが、当然のことながら、それ以外の物質(窒素や硫黄など)も含まれているだろう。

 これらを触媒で反応させた場合、水(および二酸化炭素)になるプロセスもあるだろうが、そうではないプロセスも存在すると考えられるので、すべてが水に変わるわけではないはずだ。

 実際に分解できる量についても疑問が残る。あくまで科学的な一般論だが、触媒の作用によって有機物を分解することには限界があり、よほどのエネルギーが外部から投入されない限り、水と二酸化炭素のレベルまで有機物を分解するのは難しいと考えられる。花粉症や感染症に顕著な効果が見られるほどに分解能力が高いということであれば、やはりメーカー側は根拠となる試験結果を示す必要があるだろう。

 実験室レベルでの触媒反応の是非についてはともかく、「水に変える」という表現に関しては、一定割合の人が疑問を持つ内容と判断してよいのではないだろうか。


大正製薬は詳細なデータを公表すべき

 各メーカーが消費者庁に対して提出した資料は公表されていないので、これ以上の詳細については何ともいえないが、興味深いのは措置命令に対する各社の反応である。

 最も敵対的なのは大正製薬である。同社は「今回の措置命令の指摘事項は、当社が消費者庁に提出した科学的根拠を全く無視した内容で、合理的なものでないと考えております。今後、法的に採り得る対応・措置を検討中です」としており、法廷闘争も辞さないと受け取られるニュアンスで強硬に反論している。

 一方、アイリスオーヤマは、措置命令が出される前から製品の販売を自主的にストップしており、マスクの効果についても「(花粉やウイルスが)体内に吸入されることを防ぐ効果が得られるかのように示す表示をしていました。一般消費者に対して実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものでありました」「この度の違反については、発売前の光触媒に対する検証が不足していたこと、効果に対して誤認していたことが原因でした」と全面的に非を認めている。

 一連の製品において効果があるのか科学的に検証するのは、それなりの規模で試験をすれば、それほど難しいことではないはずだ。大正製薬は自社製品にかなりの自信を持っているようなので、本当に消費者庁の措置が不当だと考えているのであれば、正々堂々と訴訟すればよいだろう。

 ただ、一般消費者向けのメーカーである以上、まずは消費者に対して説明責任を果たすのがスジである。ほぼ同様の製品を製造している競合メーカーの1社が、全面的に非を認め、自主的に販売をストップしている中、消費者庁に対して「科学的根拠を無視している」と批判するのであれば、すみやかに、それを示す実証的なデータを公開すべきである。


「水素水」と「花粉を水に変えるマスク」の共通点

 今回の一件がどのように着地するのかは現時点ではまだ分からないが、現段階においても、私たち消費者が学ぶべき点は多い。

 商品の表示について議論となるのはどの国にもあることだが、日本の消費者が情緒的な表現に弱く、メーカー側もこうした表現を多用しがちな土壌であるというのは事実といってよいだろう。

 このところ商品の効用をめぐって議論になっているもののひとつに、いわゆる「水素水」がある。

 水素水の明確な定義は不明だが、水の中に微量の水素を溶解したものというのが一般的な解釈のようである。一部のメーカーはこの水素水にダイエット効果や老化防止の効果があるとして商品を販売していたが、消費者庁が2017年に3社に対して措置命令を行っている。

 水素水についても、効果があるという見解と効果がないという見解に分かれているが、筆者は水素水と今回のマスクには共通点があると考えている。

 水素はその物理的な性質上、大量に水に溶解させることは不可能であり、水の中に水素を含ませることができたとしても微量になる可能性が高い。水素を摂取した場合に、どのような反応が起きるのか予測するのは、簡単ではないが、水に溶解したごく微量の水素を摂取する場合に話を限定すれば、仮に何らかの効果があったとしても、それほど大きなものではないというところまでは推察できる。

 もしそうであるならば、効果についての厳密な議論以前の問題として、どの程度の表現が妥当なのかという点についても、ある程度のコンセンサスが得られるはずだ。科学の専門知識はいくらでもネットで入手できるので、消費者がもう少し合理的に、かつ冷静に判断する土壌があれば、メーカー側も過度な表現にのめり込むケースは少なくなるだろう。


エセ科学を感情的に断罪している人も実はエセ科学

 一方でこれとは逆向きのベクトルについても懸念すべき点がある。

 筆者自身は、「水素水」や「花粉を水に変えるマスク」について、効果を疑問視する立場ではあるのだが、ネット上では、こうした製品について「エセ科学」であるとして、一刀両断にバッシングする人が多いことが少々気になっている。

 ツイッターなどでは、水素水について「こんなことは中学生レベルの知識があれば、ウソと分かるはずだ」と激しい口調で主張している人をよく見かけるのだが、本当にそうだろうか。真摯に自然科学を学んだのであれば、少なくとも「効果については疑問だが、慎重な検討な必要」といった結論になるはずであり、こうした断定的な思考回路というのも、一種のエセ科学であると筆者は考えている。

 水に溶解した物質が人体に及ぼす生理作用というのは極めて複雑であり、水素が室温において比較的安定的な物質であるとしても、どのような生理作用が存在するのか(あるいは生理作用がないのか)、単純に断定することはできない。そうであるからこそ、表現の是非について議論が必要テーマであるともいえる。

 日本の場合、いわゆるエセ科学の信者も、エセ科学を批判する人たちも、総じて情緒的、感情的であり、とても科学的とは言い難い。こうした感情的な議論は何も生み出さないし、ビジネスや経済にとって悪影響しかないということを、私たちはもっと自覚すべきだろう。

筆者:加谷 珪一

JBpress

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