【舛添直言】酒提供店への圧力に首都高値上げ、甚だしき国民無視

7月17日(土)6時0分 JBpress

(舛添 要一:国際政治学者)

 7月12日から東京に緊急事態宣言が発令されたが、人出はほとんど減っておらず、どこまで効果が出るか不明である。新型コロナウイルス感染者は連日増えており、収束の兆しは全く見られない。14日の東京都のコロナ感染者は1149人に上り、5月8日の第4波のピーク1121人よりも多くなっている。翌15日には1308人とさらに急増し、前週の木曜日(896人)よりも412人増えている。

 デルタ株は、東京では全体の50%にまでなっており、その感染力の強さ、そして市中感染の拡大が、この急増をもたらしたと考えられる。


五輪優先で国民生活にシワ寄せ

 菅政権は、感染の拡大を何としてでも抑え、東京五輪を成功させたい。だが、首都圏、北海道、福島県では無観客開催の方針を決めた。宮城県と静岡県は観客数を制限して行うことになった。

 オリンピック大会とは、世界中から選手のみならず観客も集まって、スポーツと文化のイベントを繰り広げ、平和の祭典とするものである。その本来の意義からすると、無観客というのは極めて問題が多い。

 900億円のチケット収入も27億円が見込まれるだけとなり、欠損分は都民、そして国民の税金で賄うことになる。IOCは一円も負担しないし、無観客でもNBCからの放映権料は確保できるのである。しかし、テレビで観戦するだけならば、東京で開催する意義はほとんどない。

 東京五輪の招致が決まって以来、日本の政治は全て五輪優先で動いており、その弊害は様々なところで露呈している。その最たるものがコロナ対策であり、五輪関係者に対し、国の基本方針の例外となるような優遇措置を与え、国民の顰蹙を買っている。


無観客なのに五輪期間中は首都高値上げとは

 無観客になって人の流れは抑制されるはずなのに、五輪期間中は首都高の通行料金を1000円値上げするという。おかしな話である。自宅でのテレビ観戦を勧めるのなら、選手の移動はあっても、首都高は混まないはずである。迷惑を被るのは利用する国民であり、その不満は高まる。タクシーの運転手からは、料金が高すぎて高速を使わないお客さんが増え、かえって潤滑な交通が確保できなくなると不満が出ている。

 そもそも小池都知事が築地市場からの移転先である豊洲の土壌が汚染されていると大騒ぎしたために、選手村から競技場への選手の移動に使う予定の環状2号線が開通していないのである。結局は何の問題もなかったのであるが、小池パフォーマンスは、このように五輪にも都民の生活にも大きな阻害要因となっているのである。

 ところが、このようなことを皆忘れて、マスコミも小池マジックを称賛するだけであり、都議選も周知のような小池与党の都民ファーストの会の健闘という結果となってしまった。

 13日には選手村もオープンしたが、バブル方式と呼ばれる感染防止対策にしても、ルールを守らない選手や大会関係者が出てくれば、一気に感染が拡大する恐れがある。ウガンダ選手団から2名の陽性者が確認されたことに始まり、コカイン使用疑惑で英米人関係者が逮捕されている。

 13日に夜に成田空港に到着した南アフリカの7人制ラグビー選手団は、搭乗してきた航空機の乗客から陽性者が出たため、濃厚接触者となり、予定していた事前合宿地の鹿児島市への移動ができなくなっている。これからも、様々な問題が生じ、感染が拡大したり、不祥事が起こったりする可能性は捨てきれない。


酒提供業者への圧力、批判浴びあっさり撤回

 ところで、政府や東京都は、感染拡大は居酒屋などでの夜の飲食が原因だとして、営業停止などの強硬措置をとることにした。ただ、それを立証する科学的データが示されてないので、説得力に欠ける。

 そのような中で、西村大臣は、8日、金融機関に対して営業自粛などの政府の要請に応えない業者に圧力をかけるように求めたが、大きな批判を浴びて1日で撤回した。金融庁は、西村発言と同じ内容の文書を9日に金融機関に送付する段取りを整えていたが、批判の高まりを見て取りやめている。

 また、酒類販売事業者に対して、内閣官房と国税庁が、自粛に応じない店に対して取引を止めるように8日に文書で通達したことも明るみに出て、与党の自民党からも反発の声が高まった。その結果、政府は、13日にこれも撤回したのである。

 西村大臣の「金融機関に圧力行使を求める」発言の問題は、国会が定める法に基づかない点である。民主主義の観点からは、実はこの手法が危うい。

 たとえば厚労省は、課長通達によって全国の保健所を思うように操れる。大臣の知らないところである。


支持基盤である酒類販売業者の尾を踏んだ政権与党

 そもそも通達とは、技術的な説明をするものであり、たとえば新薬の効果や副作用、使用方法などを説明する。したがって、そんな細かいことは大臣にまで上げる必要はないので、担当の官僚は大臣に報告はしない。私は厚労大臣のときに、通達を事前に説明されたことは一度もない。

 問題は、技術的細目ではなく、大きな政治的判断を含む指示を役人が通達を使って、たとえば全国の自治体に発していることである。そのような判断は国権の最高機関である国会が行うべきである。つまり、これは越権行為であり、「法の支配」に基づく行政ではない。通達行政はシロアリのように、民主主義の基盤を崩していく。

 酒の卸業者に取引停止を求める文書を、政府は7月11日に全国の自治体に事務連絡として送付しており、その指示に従って、東京都、大阪府、愛知県なども同様の依頼書を業者に送っていたのである。

 その後、6月11日にも酒類販売事業者に対して酒提供店との取引停止を依頼するように都道府県に通知していたことが判明した。この通知も、政府は撤回している。そのため、東京都、大阪府、愛知県は、酒販売業者からの支援金の申請を受け付ける際の誓約書に、休業要請などに応じない飲食店との取引を行わないように努めるという項目を盛り込んでいたが、この項目を削除した。

 このような手法は、憲法上も問題があるのみならず、これは酒屋が自民党の重要な支持基盤であることを忘れた政治音痴の対応である。

 酒屋は町や村の名士で、国会議員ら自民党の政治家の後援会長を務めている人も多い。その酒屋に対して、飲食店に酒を売るなと言うのは、もう自民党を支持しなくてよいと言っているに等しいのである。秋までには衆院選が行われる。自民党議員が真っ青になって撤回を求めたのは当然であり、感染源のデータもないのに暴走する「浅知恵」以外の何物でもない。

 金融庁や財務省など関係省庁の官僚たちはこの暴走に疑問符を感じていたというが、どうやら首相官邸官僚の独断だったようである。何としてもコロナの感染拡大を阻止したいという菅首相の意向に沿おうとして無理をしたのではいか。

 そのような中で、厚労省に続いて、今度は国税庁職員が居酒屋で5回の送別会を開き、7人がコロナに感染したという。酒税の担当官庁であり、酒を出す飲食店と取引するなとの通達を出した役所がこれでは話にならない。これでは、取引停止の通達など出せるはずがない。


ワクチン担当大臣、司令塔として機能しているのか

 新型コロナウイルスのワクチン供給が不足し、自治体や職場で接種予約をキャンセルせねばならないような事態になっている。これが、都議選における自民党の「敗北」につながったのであるが、酒屋への圧力問題は、菅内閣の支持率を下げることになってしまった。

 9〜11日に実施された二つの世論調査がある。読売新聞とNHKであるが、内閣支持率は、それぞれ37(±0)%、33(−4)%で、不支持率は53(+3)%、46(+1)%である。この支持率の低下は菅政権に真剣な反省を迫っている。コロナ対策、ワクチン接種計画、東京五輪と、国民の不満は蓄積しているのである。

 政府のコロナ対策について評価する者は、読売が28%、NHKが40%と半数以下である。ワクチン接種にしても、評価は、読売で36%と低い。

 読売新聞世論調査について、東京都民に限ると、内閣支持率・不支持率は28%・63%、政府のコロナ対策は、評価が24%、ワクチン接種対応は評価が31%と、全国民の数字よりも菅政権には厳しい結果となっている。東京五輪についても、都民の50%が中止を求めている。

 菅政権にとっては、今やワクチン接種が頼みの綱であるが、自治体や職場、そして開業医から、ワクチンが約束通り届かないという苦情の声が多数寄せられている。供給不足というが、アストラゼネカのワクチンを海外支援に使うくらいなら、まず国内で使うことを考えるべきである。ワクチンの交差接種はむしろ効果が増すという。メルケル独首相も、1回目がファイザー、2回目がアストラゼネカである。日本では交差接種を排除しているが、海外での研究や治験の成果も取り入れた対応が必要である。河野担当大臣は、司令塔としての役割を十分には果たしていないように見える。

筆者:舛添 要一

JBpress

「舛添要一」をもっと詳しく

「舛添要一」のニュース

「舛添要一」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ