国の働き方改革で跳ね返ってくる「50代社員リストラ」の激痛

7月17日(火)16時0分 NEWSポストセブン

50代社員はすんなり定年、再雇用とはいかない時代へ

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 政府が推進する“働き方改革”、その最重要法案と位置づけていた「働き方改革関連法」が6月29日に国会で可決・成立した。最大の柱は時間外労働の罰則付き上限規制と並ぶ「パートタイム・有期雇用労働法」の制定などによる「同一労働同一賃金」の法制化だ。だが、これによって50代社員に予想外の“激痛”をともなって跳ね返ってくる可能性が出てきた。人事ジャーナリストの溝上憲文氏がレポートする。


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 同一労働同一賃金の法制化については、すでに2016年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示されている。だが、この中で唯一判断を保留していたのが「定年後の再雇用者の給与を下げることが許されるのか」だった。


 保留したのはなぜか。係争中の最高裁の判決を待って書き込むことになっていたのである。


 今では8割以上の人が60歳定年後に1年契約の有期契約社員として働いている。もちろん公的年金の支給がなく、生計維持のためだ。だが、再雇用後の給与は60歳時点の半額程度に引き下げているのが実態だ。


 ところが、定年後再雇用者のトラック運転手の賃金減額の違法性が争われた「長澤運輸訴訟」の一審判決が賃金減額は不合理だという判決を下した後、人事関係者の間ではこのままでは今の再雇用制度は存続できないと騒然となった。だが、2審判決では、再雇用者の賃金減額は社会的に容認されており、不合理とはいえないとの逆転判決を出した。


 人事関係者はホッと胸をなで下ろしたが、最終ラウンドの最高裁の判決が今年6月1日に下された。


 最高裁判決の結論を先に言えば、定年後再雇用の社員と正社員の間の給与格差の大半については不合理とはいえないとした。しかし、注目すべきは最高裁の判断の基準である。最高裁は正社員と比べて有期の再雇用者は長期間雇用することを予定していないこと、一定期間を過ぎると公的年金が受給できるので正社員とのある程度の給与格差は容認されるとした。


 ではどの程度の格差なら許されるのか。最高裁は原告の3人の運転手の基本給が正社員と比べて、それぞれ約2%、約10%、約12%の差にとどまっていること、またボーナスを含めた年収が正社員の79%であることを挙げている。


 つまり、再雇用者であることを考慮するとしても、基本給が10%前後、年収が20%程度の違いがあるから「セーフ」と言っているのだ。逆に言えば、基本給が3〜4割違うとか、年収ベースで4〜5割違う場合は「アウト」になる可能性もあるということだ。


 最高裁の判決内容は同一労働同一賃金の法制化の施行(大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月)に合わせて厚生労働大臣告示として出される「同一労働同一賃金ガイドライン」に書き込まれることになる。


 企業によっては再雇用者の給与を上げざるをえなくなるだろう。当然、コストアップにつながる。企業の負担はそれだけでは終わらない。



 公的年金の支給開始年齢の70歳近くへの引き上げが政府内で現実味を帯びつつある。今年4月11日、財務省は厚生年金の支給開始年齢を68歳に引き上げる案を財政制度等審議会に示したのもその一つだ。年金を所管する厚生労働省は2019年の年金財政の検証では65歳支給を維持することになったが、今後はわからない。


 仮に年金支給が68〜70歳になると、それと連動して法定定年年齢が60歳から65歳に引き上げられる公算が高い。現在、高年齢者雇用安定法に基づく65歳までの雇用確保義務によって、希望者全員が再雇用制度などで雇わなければならない。定年が65歳になると、雇用確保義務が70歳まで引き上げられる可能性がある。


 今年、6月に発表の政府の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2018)では「65歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けて環境整備を進める」ことが盛り込まれた。政府は着々と布石を打ちつつある。


 こうした動きに戦々恐々としている企業は多い。大手食品業の人事部長はこう語る。


「正直言って65歳まで雇用するのも大変です。法律によって本来なら雇いたくない社員も手を挙げれば雇わなくてはならない。いまは給与をかなり下げて契約社員として働いてもらっていますが、同一労働同一賃金によって給与を上げろと言われても人件費を捻出するのは難しいと思います。


 今は再雇用社員はそれほど多くありませんが、4〜5年後には60歳を迎える社員が毎年数百人単位で増え、さらにその後のバブル期入社組と大量に増えていいきます。しかも今の会社の体力が5年後も続くかわかりません。シュリンクしてくると雇用するのも厳しくなります。ましてや70歳まで雇えというのは想像外の話ですよ」


 同社に限らず他の大手企業でも今後、60歳を迎える社員がどんどん増えていく。人事部長は、「増え続ける60歳の圧倒的な数の前に呆然としている人事担当者も多いのではないか」と語る。



 対策としては賃金制度の抜本的な改革だ。


「年功的な給与制度を完全に廃止することです。やっている仕事と成果だけで給与を払う。50歳の社員がやっている仕事が30歳の社員と同じであれば年収400万円しか払わないとか、年齢に関係なく完全にフラットな賃金制度を60歳以降も同じにするのです。


 そうすれば50歳の社員が『こんな給料じゃやっていけない』と言って辞めるかもしれないし、60歳以降も会社に残りたい社員が減る可能性もあります」(食品業人事部長)


 つまり今の給与制度をシャッフルして、人件費を増やすことなく完全成果主義に移行するということだ。だが、急激な給与の低下は「不利益変更」で社員に訴えられる可能性もあるので4〜5年準備期間が必要になる。


 建設関連企業の人事部長も再雇用社員に限らず現役世代も含めて年功賃金から完全成果主義に転換していく必要があるという点では共通する。そのうえでこう指摘する。


「これまで60歳以降の社員は福祉的に雇ってきたが、完全成果主義になると、仕事の成果を出せない年輩社員は当然、お荷物扱いされるでしょう。若い人からタメ口を聞かれるようになり、居づらくなります。


 65歳定年制になれば会社としても50歳代のうちに、60歳以降も残すのか、残さないかを早い段階で選別し、残さない人は早期に辞めてもらうリストラを積極的に推進することを考える必要があります」


 50代の社員で、今後も人手不足が続くので会社の再雇用で定年後も逃げ切れるだろうと考えている人がいるとすれば、それは大間違いだ。60歳以降も雇われるようにするにはどうするか、65歳以降もどうやって稼ぐかを真剣に考えないと生き残れる保障はないのである。

NEWSポストセブン

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