年間5万匹の殺処分を防げ「犬版マイナンバー」で変わるペットの未来

7月19日(木)19時4分 Forbes JAPAN

「ペットのマイナンバー」が変える人とペットの関係性

ウェアラブルデバイスで愛犬の心拍数や歩数を計測し、ネットワークカメラを通じて家でどんな風に過ごしているのかをスマホで観察……。

いま、最新テクノロジーで愛犬や愛猫との暮らしをサポートする「ペットテック」が少しずつ日本でも普及している。例えば、ソフトバンクのビジョン・ファンドがアメリカの散歩代行スタートアップに3億ドルを投資、楽天はペットが加入できる保険の運営会社を買収した。

そんな中でも異彩を放つのが、「鼻紋プロジェクト」だ。犬の鼻を指紋のようにスキャンし、個体を識別する。「犬のマイナンバー」とでもいうべきテクノロジーの実現を目指している。

鼻紋プロジェクトの狙いは? そしてペットテックの将来は? 鼻紋プロジェクトをリクルートテクノロジーズと共同で運営するシロップの代表・大久保泰介に聞いた。

──まずは鼻紋プロジェクトについて教えてください。

犬ごとに異なる鼻の模様「鼻紋」を読み取り、個体を識別するサービスです。スマホアプリで撮影した画像をAIで認証します。撮影から照合認証までスマホアプリ内で完結します。技術部分はリクルートテクノロジーズが担当し、特許も出願中です。世界的にも類似研究は確認できていません。

まだ実証段階ですが、これまで兄弟犬を含む約1000頭の鼻紋画像をベータ版のアプリやフォトコンテストで収集しており、綺麗に鼻紋が撮影できている場合は上位3位以内での照合率100%を達成しています。成長や顔に傷が入ったときにも問題なく認証できるのかは、まだ検証が必要です。

ちなみに、猫での実証実験はまだできていません。猫はなかなかじっとしてくれないので、そもそも写真を撮りづらいんです。

──照合率100%はすごいですね。これはどのような形で使用するのでしょうか。

紙での管理となっているワクチンや狂犬病のデータ管理、宿やドッグランなどペットが訪れる施設でのO2O認証などでの活用を検討しています。例えば東日本や熊本での災害時に飼い犬が迷子になったとしても、犬を拾ってくれた人がアプリで鼻紋を読み取ったらその位置が飼い主まで転送される、というようにです。迷子犬を減らすことは殺処分になる犬の数を減らすことにも繋がります。

IDの活用から目指すべきは、犬版の「マイナンバー」です。ブロックチェーン技術を導入すれば、それぞれの犬がどのブリーダーのもとで生まれて、どこで育ったかなどまで分かるようになります。

実はこうしたID管理はすでに存在しています。環境省がペット所有者に対してマイクロチップ(電子タグ)の埋め込みを推奨しているんです。ですが、抵抗感をもつ飼い主も多く、普及率は高くありません。鼻紋認証なら動物の身体にものを取り付けることもないので、前向きに捉えられやすいかもしれませんね。

家族の一員であるペットのためのサービス

──続いて、ペットテックについて伺います。シロップのオウンドメディア「ペトこと」では、2018年はペットテック元年だと紹介されています。その理由を教えていただけますか。

IoTやシェアリングエコノミーなど、「人」のトレンドがペットに流れてきているんです。外で犬を飼うのが当たり前だった時代から、いまは屋内で飼うことが当たり前になり、ペットを家族の一員として大切にしている家庭が増えています。これらの健康や安全に関するサービスは、家族の一員としてのペットとも相性がいいのでしょう。医師やトリマー、飼い主の中心世代がデジタルネイティブになりつつあるというのも大きいですね。

シロップでサービス設計のベンチマークにしているのは、人間を対象にした類似サービスです。例えば、ペットを飼いたい人と保護団体を結ぶマッチングサービス「OMUSUBI」は「ペット版Pairs」を、目指しています。

──人を対象にしたサービスを参考にペット向けサービスを設計しているというのは、面白いですね。世界のペットテック市場では、どんなサービスが人気なのでしょうか。

まず留守番中の愛犬の様子をスマホで確認できる見守りカメラですね。単に監視するだけでなく、「Furbo」や「PetCube」のように遠隔での給餌などのコミュニケーション機能をそなえたモデルが人気です。

また、Whistleなどの心拍数や歩数を計測するヘルスケアデバイスや、シッターをしたい人とペットを預けたい人をつなぐ「Rover」、散歩を代行してくれる「Wag」などのシェアリングサービスも勢いがあります。アメリカでは5年ほど前からこうしたサービスがどんどん増えています。

日本でも2017年頃から見守りカメラやヘルスケアデバイスが登場しています。見守りカメラにはパナソニックやKDDIなど大企業が参入しました。大手ではシャープ、スタートアップからはINUPATHYと、ウェアラブルデバイスについてはペットの感情を読み取ってくれるコミュニケーション寄りのものが人気ですね。

一方、シェアリングサービスは欧米に比べて日本ではまだ増えていません。アメリカは車社会という環境から大型犬の需要が高かったのですが、ケージでお留守番させやすい小型犬が人気で、ペットホテルも普及している日本では需要が拡大しづらいのかもしれないですね。

飼い主とブリーダーをつなげて、殺処分を減らす

──シロップでは鼻紋プロジェクトからマッチングサービス「OMUSUBI」、ペット用メディア「ペトこと」などペットという共通点はあるもののかなり多岐にわたるサービスを展開しています。幅広く展開する狙いはどこにあるのでしょうか。

「適切に飼い主とペットが出逢い、適切にペットを育てる」ことを実現し、殺処分などの問題解決にもつなげていきたいと考えています。

これまでのペット業界は、人口・家族数の増加に伴って動物の頭数を増やすことで規模を拡大させる「横の拡大」をしてきました。しかし、その結果として多くの動物が飼育放棄・殺処分の対象になっています。「パピーミル業者」と呼ばれる悪質なブリーダーによって過剰に生産された動物は、ペットオークションでペットショップに買われていきます。ここで購入されなかった動物と、飼い主による飼育放棄によって保護された動物を合わせると、1年で保護される犬や猫は約13万匹に上ります。そのうちの5万匹は、新しい飼い主に巡り会えずに殺処分されてしまいます。(2016年)

──飼育放棄だけでなく、ブリーダーが大量に犬や猫を繁殖させていることが、殺処分につながっているんですね。

はい。近年は特に犬を中心に殺処分数は下がってきているのですが、そもそもペットの数が減少しているという背景があります(2013年から17年にかけて犬の飼育頭数は減少、猫は微増)。人口減の日本では、この傾向は間違いなく続くでしょう。

そんな中でペット業界の健全な発展のために必要なのは、頭数の拡大ではなく、一匹あたりにかける1匹ごとのQOLの向上ではないでしょうか。これが、シロップがペットのライフサイクル全体に渡って支援するサービスを展開している理由です。

──ペットの数を増やすのではなく、一匹のペットを家族のように大切にする人に向けたサービスということですね。

はい。そこで大きな役割を果たすのが、鼻紋認証です。一生に渡ってあらゆるサービスでペットと触れ合うからこそ、ペットの情報をIDに紐づけて一元管理するのはより重要になります。例えば健康情報に応じてサプリメントを勧めるなど、多様な選択肢の中でよりペットに適した行動を選べるようになります。

また、ペットの殺処分が起こるのは先ほど紹介した業界構造に原因があるのではないでしょうか。現状のペットショップは消費者(飼い主)と農家(ブリーダー)をつなぐスーパーマーケットのような役割に加え、保険屋申し込みの窓口にもなっています。そのおかげで飼い主は安価でペットを購入でき、購入時に合わせて保険も契約できるなどのメリットを享受しています。

しかし、それこそ八百屋に大量出荷される野菜のようにペットが育てられ、結果として殺処分を招いてしまう。だから1匹1匹を丁寧に育てるブリーダーと飼い主、そして保護施設などをつなげればいいのではないでしょうか。そうすれば動物ときちんと向き合うブリーダーが支持され、パピーミル業者の数も減るはずです。

──ID管理で動物の一生を追跡できれば、業界構造や我々の意識も変わるかもしれない、と。

実際に、アメリカのアマゾンではすでにペットのパーソナライズドは実現しています。人間と同じように、ペットの個人情報を登録しておくことができるのです。

マイナンバーに寄せられる批判のように、ペットをIDで管理することには批判もあるかもしれません。しかし、IDであらゆるデータが管理できれば、飼い主はよりペットの一生を意識してくれると思っています。

また、ペットの医療情報は人間よりプライバシー規制が厳しくないので、人間向けの医療技術の発展を促してくれるかもしれません。例えば、大量に蓄積されたペットの治療データをAIで解析することで新たな治療法が見つかる可能性もありますし、電子カルテ普及のきっかけになる可能性もあります。

人に寄り添ってくれるペットの暮らしを、あらゆる方面から支えるのがシロップの目標です。そのおかげで人々の生活も豊かになってくれれば、これに勝る喜びはないですね。

Forbes JAPAN

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