ホルムズ海峡:有志連合に参加しない選択肢はない

7月25日(木)6時12分 JBpress

イラン港湾都市バンダルアバス沖に停泊する英船籍のタンカー「ステナ・インペロ」を監視するイラン革命防衛隊(2019年7月21日撮影)。(c)Hasan Shirvani / MIZAN NEWS AGENCY / AFP〔AFPBB News〕

 6月13日、中東の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡近くでタンカー2隻(内1隻は日本の海運会社が運航)が何者かにより攻撃を受けた。

 1週間後の20日には、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡付近を飛行する米国の無人偵察機を撃墜した。

 7月19日、今度はイラン(と思われる)の無人機がホルムズ海峡で米海軍によって撃墜された。米国によると米海軍艦艇に900メートルまで接近したためという。

 同日、ホルムズ海峡周辺海域でイランが英国タンカーを拿捕したことを公表した。中東情勢は日に日に緊張が高まっている。

 7月9日、米軍のジョー・ダンフォード統合参謀本部議長は、民間船舶の航行の安全を確保するための「有志連合」計画に言及した。

 ホルムズ海峡を含む中東の主要航路の監視を強化し、民間船舶の保護に向けた警備活動を、米国を中心とする有志で実施しようとするものである。

 ドナルド・トランプ米国大統領は6月下旬、中国や日本を名指ししたうえで、自国のタンカーは自国で守るべきと強調した。

 今回の「有志連合」は、航行の自由、安全を確保する努力は、米国だけが行うのではなく、各国が「応分の負担」をすべきというトランプの意向を踏まえたものであろう。

 米政府は7月19日、日本を含む60カ国以上の外交団を国務省に招き、ホルムズ海峡などで船舶護衛を目的とする有志連合構想「海洋安全保障イニシアチブ」について説明した。

「ペルシャ湾やホルムズ海峡、バベルマンデブ海峡、オマーン湾を通る国際水路における海上の安定推進、無害航行の確保、緊張緩和」が目的であり、各国が自主的に護衛艦を派遣して民間船舶の航行の安全を確保しようとするものである。

 ダンフォード議長は記者団に次のように語っている。

「ホルムズ海峡とバベルマンデブ海峡(アデン湾と紅海の境に位置)で航行の自由を確保するための連合を結成できるかどうか、多くの国と連絡を取っている」

「おそらく今後2週間程度で参加国を見極めたうえで、任務を支援するのに具体的に何が必要かを軍同士で協議する」

 日本国内では「有志連合」の言葉に「戦争」を想起したのか、内容確認もそこそこ条件反射的に「米国の戦争に巻き込まれる」「自衛隊を参加させるべきではない」とメディアは主張した。

 岩屋毅防衛相も米国務省の説明会に参加する前から、「現時点でホルムズ海峡付近に部隊を派遣することは考えていない」と部隊派遣を否定している。

 ホルムズ海峡とバベルマンデブ海峡は、いずれも中東の原油輸送の大動脈である。これら大動脈の航行の安全を、これまで米海軍の第5艦隊と第7艦隊が守ってきたのは事実である。

 特に日本は中東への原油依存度が87%で、日本に原油を運ぶ船舶が年間1800隻もホルムズ海峡を通過する。大動脈の航行安全の恩恵を日本が大きく受けてきたのは否定できない。

 他方、米国はトランプ大統領が演説で度々述べているように、米国だけが負担を被るこれまでの状況は不公正と考え、各国に負担を求めつつある。

 7月18日、米国防総省高官はロイター通信に対し、有志連合構想の説明にあたって、ホルムズ海峡周辺でのタンカー護衛について「米軍は他国の船舶を護衛しない」と述べた。

 米国は有志連合参加について、今のところ「他国の軍が自国の船舶を護衛するかは各国の判断に委ねる」とし、船舶の護衛を強制しない考えを示している。

 だが、米海軍が「海峡の安全確保」に手が回らなくなった時、あるいはトランプ大統領が正式に「米軍は他国の船舶を護衛しない」方針を打ち出した時、それでも日本は有志連合に「自衛隊を派遣しない」と言えるのだろうか。

 日本で混乱しているのは、米国が主張している有志連合構想は、平時の「海峡の安全確保」のための「有志連合」であり、「対イラン武力行使」への「有志連合」ではないことである。メディアの論調をみていると意図的に混同しているようにも見えるが・・・。

 米国防総省も各国の懸念を払拭すべく、「イランに対する軍事連合を結成するのが目的ではない」と明言し「対イラン軍事連合ではない」ことを強調した。

「最大の目的は警戒監視を強化し、船舶への攻撃を抑止する懐中電灯のような役割を果たすことだ」と述べて各国に理解を求めている。

 また有志連合における米国の役割については「参加国で共有される枠組み的な情報を提供し、自国の船舶を護衛したい国々を支援する」と述べる。

「有志連合」は趣旨に賛同する国が、「この指とまれ」と集まってくる集合体である。

 今回、米国が主導するというのは、集まってくる各国海軍を効率よく警備や護衛任務に就けるよう、米国が情報を提供し、全般を統制しようとするものである。武力行使のための作戦統制ではないのだ。

 であるならば、日本が「参加しない」という選択肢は最初からあり得ない。「参加しない」は、「日本政府は日本の船舶を守りません」ということか、「引き続きアメリカさん、日本の船舶を守ってください」と言うに等しい。

 米国が「米軍は他国の船舶を護衛しない」と表明している時、「引き続きアメリカさん・・・」とは言えないだろうし、日本政府は「もはや日本の船舶を守りません」などということは主権国家としてあり得ない。

 船員組合が乗船をボイコットすれば、原油の搬入は断たれ、日本は存亡の危機に立たされる。

 平時の「海峡の安全確保の活動」とはいっても、近い将来、米国がイランを攻撃する可能性もあり「米国の戦争に巻き込まれる」と懸念する人もいる。

 だが既述のように今回の有志連合の趣旨は「船舶への攻撃を抑止する懐中電灯の役割」を果たすことであり、もしそうでなくなれば、その時点で有志連合から離脱すればいい。

 それができるのが有志連合である。繰り返すが有志連合というのは趣旨に賛同する国が集まる組織体であり、趣旨が変わればリセットされるべきものである。

 米国主体の有志連合に参加することによってイランを刺激するとの懸念があるのも事実である。だが、6月に日本企業が運航するタンカーが何者かによって攻撃されたのは事実であり、イラン政府はこれをやっていないと主張している。

 従って、イランを対象とするものではないが、今後、再び日本のタンカーが何者かによって攻撃されないように護衛するものである。このことをイラン政府にしっかり説明する必要がある。強調すべきは「イラン攻撃のための有志連合」ではないことである。

 今回、法的に自衛隊の派遣は可能かという問題もある。

 基本的には「海外での武力行使」を目的とするものではなく、平時の日本船舶護衛も憲法上禁止されていないので派遣は可能である。

 だが、既存の法的根拠としては自衛隊法の「海上警備行動」か「海賊対処行動」しかない。今回の場合、海上警備行動では、武器使用基準の制約が大きすぎるし、保護対象は日本籍船と日本の貨物を運ぶ外国籍船に限られ、無関係の外国船舶は護衛できない。

 また海賊対処行動では、あくまで海賊対策であり、海賊以外からの日本タンカーへの攻撃を想定しておらず、同法を根拠にするのも難しい。

 紙幅の関係上、詳細は省略するが、現場が困らぬよう、特措法制定も視野に入れてしっかりと詰めておく必要がある。

「ホルムズ海峡安全」の恩恵を最も受けている日本が、海峡の安全確保に汗も流さないなどということがあってはならない。

 まして自国の船舶さえ守らないなら、国際社会での評判は地に落ちるだけでなく、日本は存続の危機に陥ることになる。

 湾岸戦争時、国内ですったもんだしたあげく、汗を流すこともなくカネで解決しようとした。その結果「小切手外交」「漁夫の利を得るだけの自己勝手な日本」という悪名を被り、日米同盟まで漂流するに至った。

 あの「悪夢」の再来だけは何としてでも避けなければならない。

筆者:織田 邦男

JBpress

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