3Dプリンターに過度な期待は禁物、自動車は作れない

7月27日(金)6時12分 JBpress

イタリアで製造された3Dプリンター製自動車(出所:Polymaker社ウエブサイト) 確かに車の形をしている。しかし、日本の公道を走れるかは疑問。生産数も日本で作られる自動車とは比べ物にならないほど少ない。

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 これからは3Dプリンターで何でも作れる。しかも速くて簡単だ。金型もいらないし、プレス機も不要、射出成型機やダイキャストマシン、圧延機、工作機械もいらない。

 実際、3Dプリンターでもの作りをする試みは盛んである。米GE(ゼネラル・エレクトリック)がジェットエンジンの部品を作ったかと思えば、3月にはイタリアで3Dプリンターを使って車体を作った電気自動車の量産が発表された。

 3Dプリンターが、すべてのもの作りを置き換える。自動車も3Dプリンターによって、プリントされて製造されるようになる。アディティブ革命と称し、そんな3Dプリンターの夢が語られるようになっている。

 一方で、金型、プレス、射出成型、ダイキャスト、展伸材製造、工作機械に関わられている方、言い換えれば現在もの作りの根幹を支えている方からすると、悪夢でしかない。

 そんなことが可能なら、これまで磨いてきた技術がいらなくなるどころか、自分の仕事もなくなってしまいかねない。

 しかし、そんな心配は一切する必要はないようだ。3Dプリンターは決してもの作り全体に革命を起こすものではないからだ。


3Dプリンターは確かにメリットがある

 3Dプリンターとは、金属やプラスチックで描いた断面を積み重ねていくことで、自由な形状のものを、プリンターが印刷をするように作っていくことができるものである。

 実際のもの作りで多用されるであろう金属3Dプリンターでは、金属粉をレーザーや電子ビームで溶かしながらなぞることを何度も繰り返し成形していく。なぞられた部分が溶けて固まった層となるが、これを何層も繰り返すことによって、3次元の形ができていく。

 レーザーや電子ビームは金属の粉の上でどのような形でも描けるので、理論上はどのような形のものでも作れる。

 これまでの製法では、作れる形状に制約があった。例えば、プレスは金属が曲がる範囲でしか成型ができない。

 工作機械では切削工具が入る場所しか加工できない。射出成型機では内部に複雑な空洞を作るような形状は無理であった。

 3Dプリンターではそうした制約がなくなる。これまでより形状の自由度は大きい。

 空洞があるものでも、板厚が大きいものでも、複雑なものでも自由に作れるので、これまで複数の部品を組立てていたものが一体で作れる。

 組立の手間も、部品管理の手間も、部品の数だけ図面を書く手間も、一体化ですべて減らせる。部品点数を削減することはもの作りの世界では大いに結構なことだとされる。

 さらに、複数の部品を組み上げる場合、どうしても合わせ部が発生する。また、部品一つでも強度を出さなければならないため、一体の場合は不要な余計な肉厚が必要になる。

 例えば、板2枚を合わせる場合、端の方を重ねてネジ留をするが、一体であればこの重なっている部分を削減できる。軽量化に直結するため、製品のパフォーマンスが上がる。

 これまでの製法では、自動車のボディパネルのプレス型やペットボトルのブロー成型型のように、何がしかの型を作る必要があったが、その必要はなくなる。3次元で形さえ描ければ、それをデータ化して3Dプリンターに入力するだけで製品が作れる。

 自動車では金型製作は何か月もかかる。この期間が短縮できる。古いモデルの型や派生モデルの型など、膨大な量の金型を管理する手間は膨大である。

 自動車関連の工場へ行くと、金型が山となっていることは珍しくない。それも不要になる。また、金型は数百万円から、場合によっては数千万円。この費用を削減できる。

 こうした3Dプリンターで実現できる良いことを並べていくと、やはり3Dプリンターは素晴らしく見える。これまで3Dプリンター以前のもの作りに関わっていた人々は、仕事がなくなる前に3Dプリンターの扱い方を覚えた方がよさそうだ。


3Dプリンターの短所

 しかし、3Dプリンターにも短所がある。その短所が致命的であれば、どんなにメリットがあっても使用できない。

 現在の自動車の車体は鉄板をプレス機で曲げて作ったパネルを溶接して作られている。この鉄板はハイテン材と呼ばれる、1500MPaに達する引張強度のものまで使われる。ハイテンはppm単位の成分調整と圧延技術を用いた日本が誇るハイテク製品である。

 3Dプリンターにおいて、鉄を積層しても、ハイテン材と同様の組織にならないので、同じ強度は出せない。同じ強度が出せないとすると、厚くして強度を出すしかないので、重量が増え、車のパフォーマンスは落ちる。

 また、3Dプリンターはどのような形のものでも作れるとは言っても、理論上の話である。現実には、輪郭がぼやけるため、薄いものは難しい。

 輪郭がぼやけるとは、実際の製品の表面がザラザラになることを意味する。表面がザラザラのクルマなど、見た目の問題から誰も欲しがらないだろう。

 また、サイズにも限界がある。現状では金属3Dプリンターで作れるサイズは数十センチのレベルである。

 車体丸ごとなんて到底無理で、サイドパネル、ルーフパネルすら一体で作れない。これでは、3Dプリンターご自慢の一体化のメリットを発揮できない。

 仮に、3Dプリンターで自動車を作るとすれば、数十センチ単位の部品にして組み上げるしかない。これでは現在の鉄板で作る自動車と変わらないどころか、1メートル以上の部品も作れるプレス部品以上に分割が必要な部分も出てくる。

 3Dプリンターでどのような形のものでも作ることができるというのは、理論上の話である。実態は、自動車サイズのものをすべて3Dプリンターで作れば、中身だけではなく、外見を作ることも難儀するのではないだろうか。

 確かに、3Dプリンターでの生産は生産開始までが早い。問題は生産そのものの時間である。金属3Dプリンターの造形速度は遅い。GEがジェットエンジン部品を製造する金属3Dプリンターの造形スピードは1時間にたった80cc。

 一生かかっても終わらないというほどでないにしても、自動車の大きさのものをプリントすると、1か月単位で時間がかかってしまう。

 自動車は大量生産して大幅にコストを下げている。1分から2分で1台のクルマが生産ラインから出てくる。自動車を製造する各工程も、基本は1分から2分の間で進める。

 それ以上かかる場合は、複数の設備を準備して平行して進めることになる。それでも、30分とか1時間とかかかる工程は、どんなに先進的でも時間的に自動車には無理なのだ。

 例えば、自動車に炭素繊維複合材を使う研究では、いかに成型時間を縮めるかに尽力している。長いと言われる成形時間は分単位である。それが、1か月かかるなどと言わんものなら、話にならない。

 コストも問題だ。時間がかかるという時点で、すでに高コストが予想できる。しかし、それに加えて別のコスト要因もある。

 まず、3Dプリンターは大量の電力を消費する。金属を溶かすほどの強力な電子ビームやレーザーを用いる。

 3Dプリンターで製造されたものは、一度は3Dプリンターの中で溶けているわけなので、できたものをすべて溶かすほどのエネルギーが投入されている。

 現状の自動車では、自動車メーカー内で溶けるのは溶接部分や、エンジンブロックなどの一部鋳造部品程度。仮に自動車メーカーにおいて、3Dプリンターで車全体を作るようなことをすれば、投入が必要なエネルギーは現在のレベルでは済まない。

 エネルギーとは具体的には電力であるが、聞くところでは、3Dプリンターを並べた工場では、専用発電所が必要になってしまったそうだ。

 また、材料費も確実に上がる。3Dプリンターで用いる金属粉は精錬された金属をアトマイズと呼ばれる方法で砕いているものである。溶かして、高圧ガスなどで吹き飛ばして砕く。

 そのコストは元の金属の数倍になる。そのような高コストの金属を自動車に使えるとは考えにくい。

 3Dプリンターを導入することで、コストダウンになる要素があるのは事実である。しかし、図面が減る、型が要らない、開発期間が短くなるなど、開発段階のコストに関わるものが多い。

 量産段階では、生産に時間がかかる、材料費が高い、操業費が高いなど、コストアップ要因ばかりなのである。3Dプリンターは量産向きではないのだ。

 自動車は量産効果が高い。高価な、例えば1つ2000万円もする金型でも、20万台量産すれば、1台あたりたった100円である。

 開発費をかけてでも、高い金型を使ってでも、1台1台を素早く低コストで作るのが自動車である。3Dプリンターの性格は、自動車産業が産業機械に求める性格と正反対なのである。


3Dプリンターで作られた車の実態

 冒頭のイタリアの3Dプリンター製電気自動車。車体は強度の弱い熱可塑性樹脂である。日本で車検を通るような強度はないだろう。

 よっぽど、おおらかな国でなければ公道は走れない。樹脂の3Dプリンティングは、金属の3Dプリンティングよりはるかに速いが、その分、作れる製品のレベルは低い。

 さらに、樹脂3Dプリンターが、金属3Dプリンターよりも高速で造形できるとはいえ、その遅さは自動車の量産では話にならない。

 3Dプリンターでこの電気自動車の部品を印刷する時間は3日もかかるそうだ。何台分同時平行でできるか分からないが、仮に3台分を同時平行で作るとすると、年中無休で作って1年で365台しか作れない。

 万の単位で量産する自動車の世界では、量産と言える数字に程遠い。本物の量産車のラインでは1日で作ってしまう量である。

 報道ではこの電気自動車は既に7000台の受注を集めたそうだ。しかし、その7000台を作り終えるまでに何年かかることやら。

 もちろん、日本で作られているような車とは役割が違うので、無意味だとは言わない。しかし、自動車産業の本流から見ると、あまりに遠い話である。


3Dプリンターで自動車を作る日は来ない

 3Dプリンターは自動車部品のように安価なものを大量に作るには向かない。部品サイズにしても、現状では大物部品は作れない。そもそも、真面目に開発している人々で、そんなことを目指している人がいない。

 3Dプリンターで自動車を量産する時代が来ることはないだろう。仮にあるとすれば、数の少ない高級車において、価格の高くサイズの小さい機能部品の一部が3Dプリンターで作られることくらいではないか。

 または、機能無視、デザイン重視で、内装部品などに3Dプリンターで作られた加飾部品が付くといったことだろうか。しかし、これらは、自動車産業の本丸から離れた、周辺部の話である。

 とはいえ、産業は自動車産業だけではない。3Dプリンターの長所が生かせ、短所が致命的にならない用途であれば、3Dプリンターは立派に使える技術である。

 自動車においても、量産では使えないが、開発段階や製造設備の製造においては3Dプリンターがすでに活躍している。

 3Dプリンターは量産向きでない上、荒唐無稽な夢が語られてしまったために、怪しげなおもちゃという認識が生まれてしまったように見える。

 将来、自動車は3Dプリンターで丸ごとプリントされるなんてことを聞けば、事情が分かっている人は、そんなわけがないだろうと思うはずだ。

 しかし、3Dプリンターは立派に育ちつつある産業技術であることは確かなのである。次回は、3Dプリンターの活躍について紹介したい。

筆者:渡邊 光太郎

JBpress

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