「Googleのクチコミ」を絶対に信じてはいけない…現役医師直伝「ダメ医者・ヤバイ病院」を見抜くシンプルな方法
2024年7月27日(土)9時15分 プレジデント社
※本稿は、松永正訓『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo
■「自宅から近い」は大前提
どうやってクリニックを選んだらいいのでしょうか? 誰だって「受付の対応がよく」、「看護師さんが笑顔」で、「院内の清掃が行き届いて」いて、「信頼できる医師」に診てもらいたいし、また、そのクリニックをかかりつけとしたいでしょう。
では、どうやってそうしたクリニックを探せばいいのでしょうか。
マンガ=松永夕露
もしそうしたクリニックが存在したとして、そのクリニックがあなたの家から1時間半かかるとしたら、そのクリニックをかかりつけにしますか? しませんよね? だから「自宅から近い」ことも自然と大事な条件になります。
さて、あなたの自宅の周囲にはどういうクリニックがあるのでしょうか? すぐにいくつかのクリニックが思い浮かぶでしょう。でも本当にそれだけでしょうか。ほかにもあるかもしれません。
■ネットの「病院ランキング」は信頼してはいけない
そういうときは検索をします。え、当たり前? ちょっと待ってください。私は千葉市に住んでいますが、小児科を探そうとして「千葉市」「小児科」などをワードにして検索をかけると、「医師探しのサイト」とか「病院・医院のランキング」とか信じていいかどうか分からないものが出てきます。これはよくありません。
最もいい検索の方法は、地元の医師会から検索することです。たとえばあなたが東京都港区に住んでいるとしましょう。「港区医師会」「医療機関検索」と打ち込んでみてください。医師会でこうした医療機関の検索サイトを作っていないところは、まずありません。こうした検索方法によって、地元にはどういうクリニックがあるか、漏れなくチェックできます。
では漏れなくクリニックをすべて知ることができたら、次に重要なのは、それらのクリニックのホームページを見ることです。私は62歳ですが、私より若い年代の医師で、クリニックのホームページを作っていない人はいないと言って間違いありません。もしホームページがなかったら、それだけでそのクリニックはNGです。
■最初に「医師の出身大学」を見よ
では、ホームページの何を見ればいいのでしょうか?
私が最初に必ず見るのは出身大学です。出身大学を書いていない医師がときどきいます。自分の母校をホームページに書かない心理が私にはよく分かりません。医師としての基本の部分は母校の医学教育で作られたわけですから、それは書いてほしいと思います。母校にプライドを持っていれば、必ず書くはずです。
日本の大学医学部は、国公立・私立・その他を含めて82校あります。入学の難易度には大きな幅がありますが、簡単に合格できる医学部は現在ではないとも言えます。
いわゆる偏差値の高い医学部を出た医者が優秀とは限りませんが、私の経験では中核都市にある国立大学出身の医師には、責任感が強い人が多い傾向があるように見えます。
■「内科・小児科」の医師は子供のかかりつけ医には向かない
次に見るのは、標榜科です。日本の法律では、その医師が何の専門家であっても、自由に診療科を標榜できることになっています(麻酔科は別)。
しかし、医師というのは、専門は一つしかありません。外科医というのは、通常、消化器外科医のことであり、整形外科医や脳神経外科医のことではありません。
また、内科医というのは大人の内科医であって、小児医療の専門家ではありません。あるクリニックに医師が一人しかいないのに、標榜科目の数が三つも四つもあったら、それは自分の専門外の領域に手を伸ばしているということです。
ホームページをよく読んで、その医師が医学部卒業後にどういうキャリアを積み、何を専門にしているかよくチェックしてみてください。
「内科・小児科」を標榜しているクリニックはたくさんありますが、たいていの場合、その医師は内科医で、子どものことは詳しくありません。子どもが風邪をひいたとき、そういうクリニックへ行くことはまったく問題ありませんが、かかりつけとして子どもの成長を支える医師になってもらうには無理があります。
また、大人だけを診ている内科クリニックが「内科・循環器内科」を標榜していたら、その医師は循環器を専門にしている内科医という意味です。広く内科一般の診療ができて、さらに不整脈や狭心症といった循環器の病気が専門ということです。
したがって、ホームページを見るときは、出身大学から始まって、その医師の経歴を見ます。どういう修業を積んできて開業に至ったのか、いわばその医師の「過去」をチェックするわけです。
■「専門医」「留学経験」はほぼ無意味
「過去」の次は「現在」です。その医師が持っている「資格」についても触れておきましょう。
実は、「専門医」という資格は、はっきり言って全然大したことはありません。「内科専門医」「小児科専門医」、そういった資格は、その科目において最低限の知識があるということにすぎないのです。一人前というレベルとはほど遠いと思って間違いありません。
「海外留学経験」はどうでしょう。なんだか留学と聞くと偉そうな感じがしますよね。しかし、これも医者の実力とほとんど無関係です。海外まで出かけて行って初めて学ぶ医療技術など大してありません。そもそも日本の医師が海外に行っても、当地の医師免許証を取得していないことが普通なので、医療行為はできません。できるのは見学だけです。海外留学で学ぶことのほとんどが、地道な研究に関することです。
最後に「医学博士」を取得しているか。これは一番臨床の腕と関係なさそうですが、実はそうではありません。博士号を取るためには大学院に進学してサイエンスを学ぶ必要があります。4年間しっかりサイエンスをやると、科学的思考が身につくのです。
臨床は、過去の経験から答えを導き出すことが多い一方で、診たこともないケースに遭遇することもあります。そういうときに、科学を学んだ医師は解決能力が高いと言えます。ただし、医師の多くが博士号を持っているので希少価値はありません。
写真=iStock.com/BongkarnThanyakij
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BongkarnThanyakij
■サイトの更新すら怠る医師は患者にもきっと不誠実
最後に「未来」を見ます。そのクリニックの理念は何でしょうか? どういう医療を行なおうとしているでしょうか?
ホームページに書かれていることが、クリニックのホスピタリティーや、検査のための医療機器の紹介だけであったら、ちょっと残念です。そういうことより、クリニックの院長先生がどういう志を持って医療を行なっていこうと考えているのか、具体的に述べていたら、そしてその考え方にあなたが賛同できれば、あなたはきっとそのクリニックに行くでしょう。そういうクリニックを選んでください。
ホームページには、よく「お知らせ」として臨時休診のことなどが書かれていますが、そういう情報がかなり古いまま全然更新されていないことがあります。そういうクリニックも私はNGと考えます。真剣に患者さんとコミュニケーションを取ろうとしていないからです。ホームページの更新なんて、診療が終わったあとに、5分あればできます。そうした労を惜しむのは、患者さんに対して不誠実だと思うのです。
■Googleマップのクチコミが当てにならないワケ
開業医選びにはホームページを参考にしてくださいと述べました。では、ネットの情報、いわゆるクチコミは参考になるのでは、と多くの人が思うでしょう。
松永正訓『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房)
ネットのクチコミで最も投稿数が多いのは、Google Mapへの書き込みです。
まず手始めに、自分のクリニックを見てみましょう。22個の投稿があり、平均の評価は5点中、3.6点です。低いですよね。中身をよく見ると22個のうち6個が星一つで、これが全体の評価を下げています。
でも、よく考えてみてください。私のクリニックには年間1万6000人から1万9000人の患者さんが来ます。開業して18年が経ち、これまでに延べ30万人近い患者家族がお見えになっています。このうちのわずか6人が星一つをつけたからといって、それが全体の声を反映していると言えるでしょうか? 私は、こういうものを信じてクリニックや病院を選んでは絶対にいけないと思います。
■「医師からの注意」を逆恨みしているケースがほとんど
クリニックには実に様々な人がきます。中には開業医を見下すような態度を取る人もいますし、こちらが事前に電話でお願いをしておいたことを守ってくれない人もいます。医療は接客業ではありませんし、患者さんをたくさん集めようとサービス合戦をするようなところでもありません。ルールを守ってもらえない人には、やんわり注意することだってあります。
これはどのクリニックでも共通して言えることですが、クチコミの多くは、医療の内容に関してよりも、接客が悪いというクレームです。
こういうクチコミの投稿は、そのクリニックを正しく評価しているでしょうか。ほかの患者家族の参考になったり、クリニックの改善に役立ったりするでしょうか。私にはこういう投稿は、スタッフに注意された患者家族の腹いせにしか見えません。悲しいことです。
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松永 正訓(まつなが・ただし)
医師
1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。13年、『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』(小学館)で第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。19年、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)で第8回日本医学ジャーナリスト協会賞・大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)、『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)、『どんじり医』(CCCメディアハウス)などがある。
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(医師 松永 正訓)