英語ができない人はチンパンジー扱い…「日本人の米グーグル副社長」が31歳から英語を猛勉強し始めたワケ
2024年7月28日(日)9時15分 プレジデント社
写真=大分合同新聞社/共同通信イメージズ
元グーグル本社副社長・日本法人社長の村上憲郎さん=2018年8月21日、大分市東春日町 - 写真=大分合同新聞社/共同通信イメージズ
■英語が話せるだけの連中を威張らせておけない
さまざまなところで言っていますが、私がまともに英語に向き合ったのは31歳のときです。いちおう京都大学に合格しているので、受験英語はある程度できて、英語もなんとなく言っていることは単語で理解できている部分はありました。ただ、会社で英語の電話がかかってくるとダメ。英語ってだけで緊張するし、電話に出ちゃうと、速くて何を言われているのか分からない状態。
でも、この電話に出たのも、実は英語がまったく喋れないのに無謀にも就職した米国系のコンピュータ会社のいじめみたいなもので、私よりも仕事ができない社員たちが「村上さん、電話」って言うわけです。電話に出ると、ネイティブ・イングリッシュでまくしたてられて、滝のような汗ですよ。
実際、私を笑っていた人たちは、英語力以外では私に勝るものはなかったんですが、私を笑っている声が聞こえるわけです。これはまずいと思いましたね。日本では伝説的なコンピュータ会社でしたので殿様商売で、営業といっても、予算が取れたユーザー企業からの電話をただ待っているような連中の風下に立たされたんじゃ、話にならないし、ただ英語が話せるだけの連中を威張らせておくわけにはいかなかったんです。
■1日3時間の英語学習は「朝飯前」
そこで、私は1日3時間、ほとんど1日も休まず3年間、英語を勉強しました。どうやって3時間も1日に工面したんですか? とよく聞かれるのですが、それ以前の職場では残業月200時間生活をしていたので、3時間の英語学習なんか、文字通り朝飯前という感覚でした。
1日3時間というと、結構なハード・スケジュールだと思う方もたくさんいるでしょう。でも、実際時間なんか気を付ければいくらでもつくれます。人によっては通勤だけで2時間もあるじゃないですか。そういうアイドル・タイムも含めて考えれば、時間なんていくらでも工面できます。仕事前だって、仕事後だって、1日3時間は絶対につくることができるんです。
■約3300時間を費やして得られた成果
私の勉強法は極めてシンプルでした。やったことは3つです。
とりあえず英単語をたくさん見ること、英語を1日1時間聞くこと、1時間英語の本を読むこと。これを3年間やりました。合計すると、3300時間程度です。
ネイティブ・レベルとはいかないまでも、5年後にはオーストラリアで英語で講演、8年後には米国本社勤務を命じられ、5年の本社勤務のあとに日本法人に取締役マーケティング本部長として帰任、その後は外資系企業の日本法人の社長を何社か務め、そしてグーグル本社副社長兼日本法人社長まで上り詰めることができました。
写真=iStock.com/Svitlana Unuchko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Svitlana Unuchko
■英語ができないだけで「頭が悪い」
外資系に行って思ったのが、英語が分からないとチンパンジー扱いされるってことです。つまり、英語ができないだけで、頭も悪いと思われるんですよ。あいつが何も言わないのは、英語ができないからだ、というよりも先に、頭が悪いからだ、と思われてしまうんです。
ちょうど、『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』と一緒なんですよ。あの中に偶然IQが高くなったシーザーと呼ばれる猿が出てくるんですけど、喉の構造の問題で話せないわけです。そうすると、いくらIQが高くても、喋れないから、いつまでもチンパンジー扱いなわけです。分かりやすく言うと、当初、私もそれと同等の扱いを受けました。
英語ができないだけでひどいな〜、なんて言ってくれる人もいるんですけど、そんなことでいちいち悲観していてもなんの意味もありません。世界でビジネスをするなら英語は必須だというのは、もう何年も前から分かっているんだから、一生日本で日本人だけ相手にしてビジネスしたいなら別ですが、少しでも海外に目が向いているのであれば、英語は必須です。
だいたい今の時代、日本でビジネスする上でも英語運用能力はあったほうがいいですからね。
よく、自分はもう今から英語を学ぶのは遅いとか、そんなに必要性を感じないと言う人がいますが、いったい日本のどこに住んで、何をしているのか、不思議でなりません。それくらい、今や英語は必須だと私は思っています。もちろん通訳をつけることができる人は必要ないですけど、それ以外の人は今すぐ英語の勉強を始めてください。
■「アメリカ勤務」と職務経歴書に書きたかった
それまで英語とはまったく無縁だった私ですが、1978年、DECという米国系コンピュータ会社に転社しました。ここから私の英語学習が始まったわけですが、3年間毎日英語学習に励みました。転社を決めた理由は、「アメリカで仕事をした」という職務経歴があったほうがいいだろうと思ったからです。そして、入社してから8年たった1986年にアメリカにある本社での勤務に誘われたのです。
この決断を「戦略的」だと言う方もいますが、私としてはその場のノリというか、思いつきというか、そういうもので決めました。You only live once. 人生は一度きり。どうせなら好きなことをやって過ごしたいですよね。そのとき、私にとって、最もやりたかったのが、「アメリカで働いたことがある」と職務経歴書に書けるようになることだったのです。
そして、その5年後の1991年、日本に帰国しました。本社に残ってくれと言われたのですが、その時点でMBAを持っておらず、まだヴァイス・プレジデント(副社長)にもなっていないことを考えると、本国でのキャリアパスはここ止まりだなと思いました。このままアメリカに残っても負け戦は決まっていました。だったら、日本に帰ったほうが、自分の武器を生かせる、より勝率の高い勝負ができると思ったわけです。
■自分がいちばん勝てそうな戦場で戦う
多くの日本人は英語を身につけて外資系だ、海外だと言いがちですが、場合によっては日本に残ったほうがいいケースもいくらでもある、ということを念頭においてください。
何が言いたいかというと、要は自分の価値が最も出せる戦場、自分の勝率が最も高い戦場で戦うことが大事だということです。もちろん、自分のやりたいことを思う存分やるのは、とても大事なことですし、そうしなければ、生きている意味がないとも思います。ただ、わざわざ負け戦をしにいく必要はありません。「自分の価値」をきちんと見極めることが重要です。
例えば、英語を身につけて外資系に転社しても、そこにはあなたよりも前から英語を話し、あなたより前からその仕事に従事していた人がわんさかいるわけです。そこに、習ったばかりの英語を武器に挑むのは、ちょっときついかと思います。だったら、日本の会社にいて、そこで最も英語ができる人として活躍する可能性のほうが圧倒的に高いわけですよ。私の帰国の決断はまさにそこでした。
■30代、40代から学んでも十分間に合う
私は以前から盛んに、「英語を勉強してください」と言っています。それはなぜかと言うと、英語ができることは、現在でも非常に高い優位性だからです。通訳をつけられる人は別として、通訳をつけるだけの金銭的資源がない人は、英語を学ぶのは必須です。
今の若い人は英語ができる、と思う人も多いかもしれませんが、実はまったくそんなことはありません。それは勝手なイメージです。付き合いの長いヘッドハンターなどに言わせれば、「村上さんたち、団塊の世代の後が続いていない」のだそうです。
そういう意味で言うと、実力のある30代、40代でも今から英語を学べば、十分勝負できます。実際、グーグル日本法人では、日本語が得意な外国人を採用することが増えています。英語が使える優秀な日本人がなかなか見つからないからです。
どの業界でも、最近の若い子は英語ができるなどと言われていますが、正直それはほんの一握りです。そしてその中で本当に仕事ができる人はそのまた一握りです。昔も今も、人材プールの中身は大して変わっていないのです。
写真=iStock.com/bagi1998
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bagi1998
■大勢の人が「英語」でふるいにかけられる
私は帰国後、いくつかの外資系企業の日本法人で社長を務めました。そして、2002年にグーグルからアプローチを受けました。200名の候補者がいたらしいのですが、おそらくコンピュータのことが分かり、マネジメントができ、かつ英語ができる人材を探していたのでしょう。でも私の経験から言うと、この条件から英語を外すと、人材は一気に20万人くらいになると思います。
それだけ「英語」というのは、その頃、とても貴重な価値だったのです。正直、今も同様だと感じています。確かに英語ができる人も増えてはいますが、たかが知れています。だから、20代に限らず、30代でも40代でも、とにかく英語を身につければ、相当な優位性になると私は考えています。特に40代で英語ができるとなると、一気に市場価値が上がってくるでしょう。
■「ネイティブのように」を目指す必要はない
英語を身につけるとはいっても、何もネイティブのような完璧な英語は必要ありません。私は31歳のときに英語の勉強を始めたわけですが、ネイティブには程遠いし、そこを目指していたわけでもありません。これが日本人の悪い癖で、何でもかんでも「勉強」という名前がつくと、100点じゃないと恥ずかしい、100点じゃないとダメだと思ってしまうんです。
私なんかグーグルでは、ネイティブ・スピーカーではないことを前面に出していました。ネイティブ・スピーカー同士で話が白熱すると、ディスカッションをしていても、誰が賛成で誰が反対なのか、わけが分からなくなります。
そこで、私が「タイム!」と叫ぶわけです。これが後に「ノリオタイム」と呼ばれるのですが、いったん誰が賛成で誰が反対なのかを手を挙げてもらって、整理するんです。で、だいたいの正反の形勢を見て、次のトピックに進んでもらいます。もうノリオタイムになると、みんな苦笑いですけど、私が入る会議はそうなるというのを認めさせないといけないんです。
■ビジネスの現場で「I don’t know」は通用しない
多くの日本人は会議を止めることや、分からないと言うことがすごく恥ずかしいことだと考えています。でも、日本以外の国では、そんなことを思う人はいません。そして何よりも、分からないことがあるのに、聞かないという姿勢を心底嫌がります。
例えば、途中で話が分からなくなっているのに、そのまま聞いているとしましょう。そこでもしWhat do you think?(どう思う?)なんて言われたら、もうI don’t know. と言うしかなくなります。
I don’t know. と言うのは、英会話スクールや友達との会話では通用するかもしれませんが、ビジネスでは通用しません。What don’t you know?(何が分からないのですか?)と聞かれます。そこからはもう、I don’t know. は通用しません。きちんと何がどのように分からないのか、ついていけないのかを説明しないといけないんですね。
もしそこで説明できないと、これはもうチンパンジー扱いです。だから、何かが分からなくなったら、私みたいにとにかくタイムをかけるつもりでいてください。そこで、もし実は5分前くらいから何を言っているのかちんぷんかんぷんでした、なんて答えようものなら、大バッシングを受ける可能性があります。「なんでそのときに言わないんだ!」と怒られます。
だから、会議を止めるとか、分からないと言うことはまったく問題なく、逆にちゃんと聞いている証拠として奨励されるくらいです。
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■中国は35年前から英語化に順応しようとしていた
日本人の英語に対する危機感みたいなものって、本当に皆無なんですよね。これでは日本の国際競争力は、数年後にはゼロに等しくなるのではないかと思います。
ちょっと中国の話をシェアさせてください。今の中国ではなく、1989年当時の中国です。1989年、ちょうど天安門事件の直後の話です。私はアメリカ本社勤務中だったのですが、著名な中国系音楽家のパーティーに呼ばれ、参加させていただきました。
私はお酒が弱いのですが、いつもより少し多めに飲んでしまい、気が大きくなっていました。そこで、大声で「デンシャオピン(鄧小平)の改革・解放というのはすばらしいけれど、今回の事件の処理は受け入れられない」と言い放ちました。
その音楽家はしばらく私の話を聞き、「ノリオ、壁際のところにずらっと並んでいる若い中国人を見ろ」と言いました。「あれはみんな中国共産党の幹部の子弟だ」と言うわけです。そして彼は続けました、「みんなハーバードやMITに留学しに来ているんだ」と。今から30年も前に、中国はすでにエリート候補をアメリカの一流大学に送り込んでいたのです。それはもう、英語化する世界にいち早く対応するためでした。
■東大や京大の世界ランキングが下降する理由
日本はなまじ英語を学ぶ必要性がない教育体系だったので、英語に対応することや英語の必要性をあまり感じずにここまで来ることができました。それこそ、英語は一部のエリートができればよいという感覚でしょう。それはある意味幸せなことでもありますが、ビジネスをやるにせよ、研究をするにせよ、世界を相手にするためには英語を話さなければ話にならないのです。
なので、少々乱暴な言い方をしますが、今どき博士号を取っても、英語を話せるようにならない大学に行っても仕方がありません。少なくとも修士課程以上では英語で授業をやるような大学でないと、これからの日本を背負って立つ人材は生み出せないでしょう。そう考えると、東大や京大ですら、大学の世界ランキングの順位をつるべ落としのように下降している理由が理解できますよね。
■「今からじゃ遅い」と嘆く前に動いてほしい
英語の勉強はいつまでにやったほうがいいか私の経験から言うと、31歳で英語の勉強を始めましたが、ギリギリの時期だったと思います。
20代で始めていたらよかったなと本当に思いますよ。で、今、31歳でギリギリって言いましたけど、実は今の20代も大して英語を話せるわけではないことを考えると、40代、50代でも英語の勉強をする意味はあると思うし、それは若い人に対するいい意味での挑戦状というメッセージになると思うんですよ。
最近では20代でも、「もっと早く英語を始めればよかったです。もう今からじゃ遅いですよね」なんて言う人もたくさんいます。勉強しないためのただの言い訳だと思いますが、そんな感覚の人は好きな仕事はできないし、嫌々働きながら常に愚痴ばかり言うような人になります。
そういう意味で言えば、英語の勉強は40代、50代からでもできると思いますし、20代の仕事をかっさらうなんて、当たり前の時代になってくると思います。
とにかくこの本を読んでいる方は読み終わったら直ちに英語学習を始めてください。
■時間とリスクをかけた人だけが進化できる
【HORIE’S EYE】(インタビューを終えて、堀江氏が考えたこと)
「英語の勉強の仕方が分かりません。どうしたらいいでしょうか?」
という質問をよくいただく。
そんな人に普段の時間の使い方を聞いてみるとだらだらと無駄な時間を過ごしていることが分かる。
村上さんのすごいところは英語の勉強のために1日3時間の時間を自分からつくったところだ。
バランスを維持したまま新しいことなどできるわけがない。
現状を変えることなく物事の良いとこ取りをしようなどというのは不可能というものだ。
心躍る体験を味わおうとすれば、そのために費やす時間も必要になるし失敗のリスクもある。物事は全てトレードであり、例外はない。
安定を求めることは、リスクなのだ。
その場にとどまり続けることは、同じ状態でい続けるということではなく、劣化していくということなのだ。
そもそもあなたはリスクを恐れるほど、何かを持っているのだろうか?
持たざる者が何を怖がる必要があるのだ。
堀江貴文『いつまで英語から逃げてるの? 英語の多動力New Version』(Gakken)
今、あなたの目の前で、村上さんが「英語を勉強しろ」と言ってくれている。
それに「自分は凡人だから」と言ってしまった時点で、「自分は今のままでいい」「努力したくない」と言っているようなものなのだ。
どうせ言うなら、せめて努力してから言うべきだと思う。
圧倒的に大事なのは実行力だ。
思いつきよりも考えたことを努力して形にした人が本当に評価されるのだ。
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村上 憲郎(むらかみ・のりお)
元グーグル日本法人名誉会長
1947年大分県佐伯市生まれ。1970年京都大学工学部卒業。卒業後日立電子に入社。1978年日本DECに転職、1986年から5年間米国本社勤務、帰国後1992年に同社取締役に就任。1994年に米インフォミックス副社長兼日本法人社長。1997年にノーザンテレコムジャパン(現ノーテルネットワークス)社長。2001年にドーセントジャパンを設立し、社長に就任。2003年、米グーグル副社長兼日本法人社長に就任。2011年より村上憲郎事務所代表取締役。著書に『村上式シンプル英語勉強法 使える英語を、本気で身につける』(日経ビジネス人文庫)がある。
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堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)
実業家
1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。
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(元グーグル日本法人名誉会長 村上 憲郎、実業家 堀江 貴文)