GMの「EV車発火リコール騒動」で露呈した"韓国製バッテリー"の問題点

7月30日(金)10時15分 プレジデント社

米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の工場で車体を組み立てる作業員ら=2019年6月12日、アメリカ・ミシガン州フリント - 写真=AFP/時事通信フォト

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■LG社製のバッテリーが「発火の恐れ」


7月23日、米自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)は、電気自動車(EV)モデルの“シボレー・ボルトEV”のバッテリーから発火する恐れがあるとしてリコール(回収・無償修理)を米国運輸省の道路交通安全局(NHTSA)に届け出た。過去1年間でシボレー・ボルトEVのリコールは2回目だ。


写真=AFP/時事通信フォト
米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の工場で車体を組み立てる作業員ら=2019年6月12日、アメリカ・ミシガン州フリント - 写真=AFP/時事通信フォト

今回のリコール問題の影響は大きい。まず、GMの電動化にとって痛手だ。シボレー・ボルトEVはGMが他のモデルの電動化を進めるための基礎的な役割を担ってきた。次に、問題のバッテリーを製造したLG化学およびそのグループ会社などの韓国バッテリー業界にとって、今回の発火問題は素材面を含めバッテリー製造に関する基礎的な技術に不安があることを利害関係者に示す機会になった。


見方を変えると韓国企業は、価格競争力と、安心と安全を支える基礎的な製造技術の両立が難しい。LG化学が発火問題の迅速かつ抜本的な解決が難しい場合には、傘下企業の株式新規公開や研究開発体制強化のための資金調達は難航する恐れがある。それは、車載バッテリー市場における中国企業のシェア拡大を勢いづかせる要因になるだろう。


■EVへのシフトを図るGMにとって大きな痛手


今回のリコール問題がGMのEV戦略に与える影響は大きい。なぜなら、GMにとってEVシフトをはじめとする自動車の電動化は、すり合わせ技術の弱さから脱却して成長を目指す重要なチャンスだからだ。


2008年9月15日に発生した“リーマンショック”によって、自動車に加えて金融事業に注力したGMの経営は行き詰まった。2009年6月にGMは自力での再建をあきらめて“連邦破産法11条(通称、チャプター・イレブン)”を申請した。それによってGMは国有化され、2013年12月に国有化は終了した。


第2次世界大戦後の米国経済にとって、GMは自動車産業を象徴する企業であり、重要な雇用基盤の役割を果たしてきた。それゆえ、リーマンショック後の経済環境において米国政府は国有化によるGMの経営再建を重視し、雇用の回復につなげようとした。


2014年1月に技術畑出身のメアリー・バーラ氏がCEOに就任したことによって、GMは転換点を迎えた。就任直後バーラCEOが対応したのがリコール問題への対応だった。2001年頃からGMは完成車の技術的な欠陥を把握していたにもかかわらず、対応をとらなかった。


■米国の代表格メーカーでさえ、安全な車を作るのは難しい


その背景には、GMがモノづくりよりも、金融ビジネスに傾斜したことがある。特に、2001年後半から2005年半ばごろまでの米国経済で、“住宅バブル”が発生し、膨張したことは大きい。資産価格の上昇をよりどころにして金融機関は貸し出しを増やし、それを元手にして米国の家計は自動車などへの消費を増やした。


その状況下、GMは、自動車販売金融事業などを手掛けるかつてのGMAC(ジーマック)を運営した。GMACは、短期の資金調達を行い、それをもとに消費者により期間の長い資金を貸し付けて利ざやを稼ぎ、収益を獲得した。その考えが強くなった結果、GMは技術面への問題、欠陥などに真正面から向き合うことが難しくなったと考えられる。


逆に言えば、米国の自動車産業の象徴だったGMでさえ、1万点もの部品が使われるエンジンをはじめ約3万点もの部品をすり合わせて安心、安全な自動車を生産することは容易ではない。そう考えると、世界的なEVシフトはGMが成長を目指すための“渡りに船”だ。


写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

■GMがLG化学を選んだ「価格の低さ」


2016年にGMは韓国のLG化学から車載バッテリーなどを調達し、シボレー・ボルトEVの生産を始めた。GMがLG化学を選んだ理由は、バッテリー価格の低さだろう。評価の方法にもよるがEVの価格のうち3〜4割をバッテリーが占めるとの見方がある。バッテリーの調達価格の引き上げは、完成車メーカーが利益率を高めるための重要な取り組みの一つだ。


シボレー・ボルトEV以降、GMとLG化学およびLGエナジーソリューションの関係は強化されている。その象徴が、GMがLGエナジーソリューションとの合弁事業によって開発したEVプラットフォームの“アルティウム”だ。LGエナジーソリューションは車載バッテリー事業の体制強化のために株式の新規公開を計画している。


アルティウムではバッテリーパックを水平、あるいは垂直に並べることによって、車種に応じたバッテリー性能の最適化が可能だ。アルティウムは、かつて米国で人気を得た“ハマー”のSUVにも用いられる。さらにGMはアルティウムのアーキテクチャに自動運転など先端の技術を搭載したEV生産を目指している。それによって、2035年までにGMは全乗用車をゼロ・エミッション車にする方針だ。


■発火はサムスンSDIのバッテリーでも


それだけに、リコール問題はGMにとってEV戦略の躓(つまづ)きといっても過言ではない。NHTSAによると、2020年11月、ボルトEVのバッテリー発火を理由にリコール(ソフトウェアのアップデート)が実施された。しかし、それでも対応は十分ではなく、再び充電中の発火が報告され今回のリコールにつながった。


2017〜2019年モデルのボルトEVが今回のリコールの対象だ。NHTSAは所有者に対して屋外、あるいは家屋から離れた場所に対象車両を駐車し、夜間は充電すべきではないとの対応策も公表した。


韓国企業が製造する車載バッテリーからの発火は、ボルトEVだけではない。韓国国内ではLG化学製のバッテリーを搭載する現代自動車のEV、“コナ・エレクトリック”の発火問題が続いてきた。また、米フォード、独BMWでも搭載されているサムスンSDI製のバッテリーに起因する発火が起きている。中国メーカー製の車載バッテリーによる発火も起きている。


写真=iStock.com/iStockVadim
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/iStockVadim

■安全技術よりも価格競争を重視した結果…


その一方で、わが国の自動車メーカーが生産するHV、PHV、EVに関して発火事故の発生などは報じられていない。その差は、安全性に対する企業の考え方の違いにある。わが国企業は過酷試験などのテストを徹底して行い、速度、温度、湿度(水分)、埃(ほこり)、油脂などの付着など、さまざまな環境下で安全に、安心して使用できる自動車の製造技術を磨いてきた。


足許の中国や北米市場での日本車の販売増加は、そうした技術への評価の裏返しだ。当たり前だがバッテリーを含め、安全技術の向上にはコストがかかる。


韓国企業が生産するバッテリーの発火問題は、韓国企業がわが国企業と同等の技術を確立できていないことを示唆する。韓国企業は価格競争力の強化を安全技術の向上よりも優先したといえる。それによって、LG化学などは車載バッテリー市場でのシェアを獲得した。


しかし、韓国企業がその姿勢で成長を目指すことは難しい。足許、韓国企業は中国企業に追い上げられている。中国政府は研究開発費を積み増し、企業の製造技術の引き上げと、製造原価の引き下げを重視している。LG化学にとって発火問題はCATLなど中国の競合企業を利することになりかねない。


■市場の分業化に韓国企業は対応できるか


今後の展開として、車載バッテリー市場では二極化が進む可能性がある。耐久性など品質の高い素材やパーツの生産面で、わが国の企業には比較優位性がある。その一方で、生産コスト面では当面は中国、長い目線で考えると他のアジア新興国などが優位性を発揮するだろう。


中長期的な世界経済の展開として、わが国企業が素材を供給し、それを中国や他の新興国の企業などが調達して車載バッテリー生産の国際分業が進む可能性がある。そうした変化に、韓国企業がどう対応できるかは見通しづらい。


また、完成車メーカーレベルでは、GMがホンダとの提携によって車体の共有化や燃料電池の共同開発などを進めている。今回のリコールはGM、さらには米国の消費者がわが国のモノづくりの力をより需要する機会になり得る。それは、わが国の自動車メーカーが手掛ける電動車への需要を支える要因にもなるだろう。自動車メーカーやそのサプライヤーをはじめわが国企業は安心、安全を支える技術に磨きをかけ、最先端分野でのその活用をよりスピーディーに目指すべき時を迎えている。


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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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