ホルムズ海峡有志連合:盲目的な米国追従は危険

8月2日(金)6時0分 JBpress

イラン港湾都市バンダルアバス沖に停泊する英船籍のタンカー「ステナ・インペロ」を監視するイラン革命防衛隊(2019年7月21日撮影)。(c)Hasan Shirvani / MIZAN NEWS AGENCY / AFP〔AFPBB News〕

 2019年5月および6月(日本国籍のタンカーを含む)に、ホルムズ海峡でタンカー攻撃事件が発生した。

 これを受けて、ドナルド・トランプ米大統領が6月24日、ツイッターに次のように投稿した。

「なぜ米国が他国のために無報酬で航路を守っているのか。こうした国々がいつも危険な旅をしている自国の船舶を守るべきだ」

「米国は世界最大のエネルギー生産国になった。そこにいる必要すらない」

 このトランプ大統領の意を受けて、7月9日にはジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長が、イラン沖のホルムズ海峡やペルシャ湾、アラビア半島南部イエメン沖のバベルマンデブ海峡で民間船舶の航行の安全を確保するため、同盟諸国の軍と数週間以内に有志連合を結成し、海上護衛活動を行う考えを明らかにした。

 7月25日、マイク・ポンペオ米国務長官は「原油などが通過するこの海域で利益を得ているすべての国は、自国の利益だけではなく、自由で開かれた航行を守るために、有志連合に参加する必要がある」との述べ、日本などに強く参加を要請した。

 日本政府は、伝統的なイランとの友好関係より日米同盟を優先し、7月19日に米政府が開催した「有志連合説明会」に在米大使館の政務担当幹部を参加させた。

 これにより、日本政府は、大枠で有志連合に参加する意思を表示したのである。

 さらに、米中央軍が司令部を置く南部フロリダ州タンパのマクディル空軍基地で開催された2回目の説明会にも日本は参加している。

 現在、日本政府は、各国の動向を見ながら資金協力から自衛隊派遣まで様々な対応を検討している状況にある。

 しかるに、今回の米国の「有志連合」構想にはいくつかの疑問や疑惑がある。以下、それらについて述べる。

1つ目は、国連安全保障理事会(以下、安保理)で十分な議論がなされていないことである。

 安保理は、国際の平和と安全の維持について主要な責任を有している(国連憲章第24条1項)。

 安保理は、ある事態を「平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為」と決定したときは、41条のもとで非軍事的措置(武器禁輸、渡航禁止、経済制裁、金融制裁、外交関係の断絶など)をとることができる。

 この措置で不十分な場合には、42条のもとで、「国連軍」を編成し、軍事的措置(海上封鎖、武力行使など)をとることができる。

 しかしながら、国連創設以来、安保理の常任理事国である大国間の対立のために、正規の国連軍は創設されなかった。

 国連軍に代わり、国際社会の平和と安全の維持に取組んできたのが国連PKO、多国籍軍および有志連合である。ちなみに、朝鮮国連軍の実態は、国連旗の使用が認められた米軍主導のいわゆる多国籍軍である。

 ここで、多国籍軍と有志連合の違いについて簡単に補足する。

 多国籍軍と有志連合の両方とも英語ではコアリション(Coalition)と呼ばれる。湾岸多国籍軍は、英語では「Coalition of the Gulf War」と称される。

 しかしながら、我が国では政府・メディアとも、安保理による授権があるものを多国籍軍と呼び、安保理による授権がないものを有志連合と呼んでいる。

 安保理による「授権(delegation)」とは、安保理決議において加盟国に対し、あらゆる必要な手段(all necessary means)の行使を許可する(authorize)するものである。

 簡単に言えば、多国籍軍の武力行使の根拠は安保理決議であり、一方有志連合の武力行使の根拠は個別的または集団的自衛権である。

 さらに補足するが、「拡散安全保障イニシアティブ(PSI)」や「北朝鮮の瀬取り取り締まり」も、有志連合(コアリション)である。

 こちらは取締等の非軍事活動であるが、今回、米国が呼びかけている有志連合は軍事活動である。

 以上、国際の平和および安全を維持するための一義的な責任は安保理が負っているのである。安保理における議論を経ずして、多国籍軍や有志連合を編成するのは、安保理の権威を蔑ろにするものである。

2つ目は、タンカー攻撃の実行犯が特定されていないことである。

 タンカー攻撃の実行犯が国家主体の場合または非国家主体(テロリストや海賊)の場合では、参加国の対応が全く異なる。

 国家主体の場合は、派遣部隊には本格的な武力衝突を前提とした編成・装備が必要となる。一方、非国家主体の場合は、相手の能力に応じた編成・装備が必要となる。

 いまだ実行犯が国家主体かまたは非国家主体かが特定されていない。

 米国は、日本などのタンカー攻撃の実行犯はイランだと主張しているが、イランは全面否定している。平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為の存在を決定すべき安保理においてもいまだ実行犯は特定されていない。

 国連のアントニオ・グテレス事務総長は、「民間の船に対するあらゆる攻撃を強く非難する」とともに「事実を追求し、実行犯を明らかにしなければならない」と述べ、状況を注視する構えを示した。

 6月13日に非公開の安保理が開催された。米国が、この安保理にイランが実行犯であるとする証拠を提出するとしていたが、今のところ安保理からは何ら声明が出されていない。

 欧州の国々の反応も様々である。ニューズウィーク日本版(6月17日)は「イギリス政府は、イラン軍が攻撃を行ったことは『ほぼ確実』であるという公式声明を発表した。フランス外務省はこの攻撃を非難したが、米情報機関の『証拠』やその他の情報をどう評価したかについては触れなかった。ドイツのマース外相は、米海軍が公開した映像について、これだけではイランの仕業とは断定できないと語った」と報じている。

 当該タンカー攻撃事案そのものが米国の自作自演の偽旗作戦(相手になりすまして行動し、結果の責任を相手になすりつける行為)であるとする見方もあるが、真相は分からない。

 イラク戦争の時、米国はイラクが大量破壊兵器を保有していると主張してイラク攻撃を始めたが、大量破壊兵器は発見されなかったという事例もある。

 日本政府も慎重な対応が必要であろう。

3つ目は、「民間船舶の航行の安全確保」という「有志連合」の目的設定の信憑性が欠けるということである。

 トランプ大統領は2018年5月8日、イラン核合意からの離脱とイランに「過去最大級」の制裁を発動すると発表した。

 同日、イランのハサン・ロウハニ大統領は、核合意について履行の一部を停止したと表明した。これに対し、トランプ大統領は、イランとの鉄鋼の取引も経済制裁の対象とする大統領令に署名した。

 このようにペルシャ湾地域で米国とイランの間の緊張が高まる中で、トランプ政権はイランによる軍事的脅威に備えて、原子力空母「エイブラハム・リンカーン」を基幹とする空母打撃群と、「B-52」戦略爆撃機部隊をペルシャ湾に派遣した。

 報道によれば、現在、同打撃群はオマーン沖に配備され、複数のB-52H爆撃機がアラブ首長国連邦のアル・ダフラ空軍基地と、カタールのアル・ウデイド空軍基地に配備された模様である。

 このような情勢を考えれば、米国がいくら「民間船舶の航行の安全確保」を強調しても、有志連合が「対イランの軍事連合」と見られても不思議ではない。

 イランは「ペルシャ湾の緊張緩和につながらない」として、日本などに、有志連合に参加しないよう働きかけている。

4つ目は、トランプ大統領の変節である。

 既述したが、トランプ米大統領は6月24日のツイッターへの投稿で、「なぜ米国が他国のために無報酬で航路を守っているのか。こうした国々がいつも危険な旅をしている自国の船舶を守るべきだ」「米国は世界最大のエネルギー生産国になった。そこにいる必要すらない」と述べていた。

 米国は、いわゆる「シェール革命」により、2018年にサウジアラビア、ロシアを抜いて、世界最大の原油生産国となった。

 さらに、米国が2020年から年間通しての石油純輸出国となるとの予測を米国のエネルギー情報局(EIA)が発表した。

 米国が石油で純輸出国に転じつつあることは、中東地域での米国の政治・安全保障政策にも大きな影響を与え得るであろう。

 かつてほど、同地域からの原油供給に配慮しないで、当地の様々な政策を決めることもできる。そして、トランプ大統領の発言通りに、米軍が中東にいる必要さえないはずである。

 それなのに、自国優先のトランプ大統領が、今回は各国の船舶を守るために多くの労を取ろうとしている。まさに、トランプ大統領の言動は予測不能である。

 ここで、トランプ大統領の意図を邪推してみる。

 トランプ大統領は就任以来、イスラエル偏重の政策をとっている。具体的には、在イスラエル大使館のエルサレムへの移転、そして今年3月、突然、イスラエルが占領するシリア領ゴラン高原におけるイスラエルの主権を認める宣言に署名した。

 トランプ大統領は、核合意からの離脱やホルムズ海峡でのタンカー攻撃を契機として、贔屓のイスラエルの敵対国イランを叩き潰す機会をうかがっているのではないかとさえ思える。これが下衆の勘繰りに過ぎないことを祈っている。

 最後に、米国からの有志連合への参加要請に対して、国内の識者からは、「日本が参加を拒む選択肢はない」という声が上がっている。

 確かに、トランプ大統領が好きでなくても、日米同盟が日本の外交・安全保障の基軸であることは間違いない。

 しかし、ただ盲目的に米国に追随する必要はないのでないか。他の道を追求すべきである。

 例えば、日本がイニシアティブをとり、安保理での協議を通じて安保理決議に基づいた「ソマリア沖海賊対応国際軍」のような「コアリション」を結成すべきである。

 それこそが国際協調主義に基づく積極的平和主義を具現化する道であると考える。

 しかし、国連主導の「コアリション」結成の障害となるのは、自国主導のコアリション結成を目指している米国かもしれない。

 国連の総会または安保理の決議に基づく「コアリション」への参加であれば、新たな特別措置法を制定することなく、国際平和支援法に基づき、各国の軍隊に対する後方支援や船舶検査活動などが可能となる。

 日本関係船舶の護衛であれば、新たな措置を講ずることなく、自衛隊法に定められた海上警備行動を発令すれば直ちに可能となる。

筆者:横山 恭三

JBpress

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