未来型エンタメ施設で露呈、今の日産に足りないこと

8月5日(水)6時0分 JBpress

「ニッサン パビリオン」の外観イメージ(写真提供:日産自動車、以下同)

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(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 みなとみらい21地区(神奈川県横浜市)に出現した、白い壁でぐるりと囲まれた大きな施設。日産自動車が2020年8月1日から10月23日まで期間限定でオープンするエンターテインメント施設「ニッサン パビリオン」である。

 そこから数百メートル離れた場所には、日産グローバル本社がある。本社の1階には新型車や旧車などが並ぶ大規模なショールームがあるが、新登場のニッサン パビリオンでは、日産が描く近未来の自動車社会を体験できる趣向が凝らされている。

 場内はまるで現代アートの展示空間のような雰囲気で、6月に世界発表された新型EV「アリア」などが並ぶ。屋外には「リーフ」や商用EV「e-NV200」が太陽光パネルによる充電を行ったり、建物全体に対する定置型蓄電池の役割をする、いわゆるV2H(車と家の連携)の模様を紹介している。

 ニッサン パビリオン開設の目的は、日産の事業戦略であるインテリジェントモビリティの訴求を行うことだ。「CASE」と呼ばれる、通信によるコネクティビティ(Connected)、自動運転(Automated)、シェアリングなど新しいサービスモデル(Shared)、そして電動化(Electric)について、実車や体験型エンターテインメントを通じて、来場者にとって近未来での生活をイメージしてもらおうという試みである。

 アリアやリーフなど新車購入のプロモーションだけならば、ここまでの大規模な施設を仕立てる必要はないはずであり、日産のインテリジェントモビリティにかける並々ならぬ意欲が感じ取れる。だが、そのイメージは伝わってきても、具体的なサービス体系や料金が提示されているわけではない。なによりも日産という会社がどうなるのか、どこを目指しているのか、いまひとつ見えてこない。

 なぜ、こうした感想を筆者が持ってしまうのか?

 背景には、日産が現時点で、自動車などモビリティを活用した将来のサービス事業の方向性を明確に示していないということがある。


2期連続赤字の見通し

 日産は、2020年度第1四半期決算発表の際、通期の見通しを発表した。売上高は7兆8000億円、純損益が6700億円の赤字になるとし、2期連続の赤字という極めて厳しい状況にある。

 内田誠CEOは、北米事業の健全化や、2021年11月までに世界市場で新たに12車種を投入するなど、中期経営計画「NISSAN NEXT(ニッサンネクスト)」に盛り込んだ内容を着実にこなせば来期の黒字化の可能性があると強調する。ただし、それはあくまでも第4四半期に世界市場が前期並みに回復することを想定しての話である。現実的には、新型コロナウイルス感染症が収束して市場が元に戻るという保証はどこにもない。

「ニッサンネクスト」は今年(2020年)5月に、ルノー・日産・三菱アライアンスとして各社の役割分担を明確にしたうえで、日産としての方針をまとめたものだ。その中に、CASEを活用した具体的なサービス事業の全体的なロードマップは描かれていない。CASE関連ではすでに様々な実証試験を行い、実用化されているものもあるが、持続的な収益性が見込める事業は見当たらない。そのため、ニッサンネクストは単なる事業再生の叩き台にしか見えない。10年先の日産の姿を思い浮かべることができないのだ。

「それを具現化するのがニッサンパビリオンである」というのが日産の思惑なのだろう。だが事業としての具体性が欠けている印象はどうしても否めない。


日産の組織再編は急務

 将来のモビリティサービス事業について明確な方向性が示せていないのは日産だけに限らない。ほぼすべての自動車メーカーにとって共通の課題だ。

 近未来都市構想「Woven City」(ウーブン・シティ)を提唱するトヨタは、モビリティサービス事業に最も積極的なメーカーと言えるだろう。しかし、それでも具体的なサービスに関するロードマップは示していない。

 ただしトヨタの場合は、自動運転などのソフトウエア領域での先端研究開発を行う「TRI-AD」(トヨタリサーチインスティテュート・アドバンスドデベロップメント)を2021年1月に組織再編し、サービス事業を担う企業も立ち上げる予定だ。そのタイミングで、何らかの方向性が明らかになるかもしれない。

 日産においても、CASEを活用したMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の観点で、社内や協力企業に横断的に横串を刺すような組織を早期に新設し、その動向を社内外に定常的に発信していく必要があるだろう。そうした「新規事業の見える化」が進むことで、消費者は、ニッサン パビリオンが描くフワフワとした将来の生活のイメージの中から、日産の未来のサービスについて現実味を感じられるようになるはずだ。

 日産は再生への道を歩めるのか? 今後も各方面への取材を通じて観察してきたい。

筆者:桃田 健史

JBpress

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