相次ぐスポーツカー廃止、ホンダマインドはリセットできるか?

8月6日(金)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 ホンダが最上級スポーツカー「NSX」の生産を2022年12月に終了する。

 2021年8月発表予定の「NSX TypeS」が2代目NSXの最終モデルとなり、販売予定数はグローバルで350台、そのうち30台が日本向けに割り当てられる。NSXの後継モデルについて、現時点でホンダは明らかにしていない。

 また、軽自動車のスポーツカー「S660」が2022年3月で生産中止となるほか、埼玉県の狭山工場閉鎖に伴い高級セダン「レジェンド」、ミニバンの「オデッセイ」、そして燃料電池車「クラリティ」も2021年内に生産中止となることが決まっている。

 こうした相次ぐモデル廃止は、ホンダにとって何を意味するのだろうか?


次世代ホンダのイメージをアピール

 その背景を考える上で、まずは2代目NSXの誕生からこれまでを振り返ってみたい。

 2代目NSXがコンセプトモデルとして世界初公開されたのは、今(2021年)から9年前の2012年1月の北米国際自動車ショー(通称「デトロイトショー」)だった。

 1990年から2005年まで生産された初代NSXは、車体骨格に量産車初となるオールアルミ・モノコックボディ構造を採用し、エンジンを車体後部に搭載するリアミッドシップ型の2座席車スポーツカーだった。

 2代目はさらに上級感を高め 外観はフェラーリやランボルギーニなどの雰囲気を持つ、いわゆるスーパーカーへと進化した。

 2代目NSXの最大の特徴は3モーターハイブリッド機能だ。2つの前輪をそれぞれ駆動する2つのモーターと、リアを駆動する1つのモーターの合計3モーターのハイブリッド車という触れ込みだ。

 生産をアメリカで行う点も注目を集めた。2代目NSXコンセプトの発表会場で、当時の伊東孝紳社長が「アメリカでの生産」を発表すると、会場内に詰めかけたホンダ販売店関係者や他のメーカー関係者から歓声が上がった。当時のホンダは、中国、ブラジル、タイなど新興国での生産拡大によって年間600万台生産構想を推進していた。そうした中、ホンダの主力市場であるアメリカで最上級車のNSXを生産することは、ホンダにとって大きなチャレンジであり、次世代ホンダのイメージを社内外にアピールする画期的な試みだった。


目指すは電動車100%

 しかし、600万台生産を目指す拡大路線によって、開発から部品調達に至る過程で様々なほころびが生じ、リコールが相次いで発生するなど、モノづくりの体制を根本的に見直さなければならない状況に陥った。

 伊東社長からバトンタッチされた八郷隆弘社長は、事業の最適化を最優先課題に掲げ、本田技術研究所の大規模な組織改編を行うなどの大ナタをふるうことになった。

 そうした「八郷改革」の締め括りともいえるのが、ホンダブランドの大黒柱と言っても過言ではないF1レースからの撤退だ。1960年代から参戦し何度かの休止期間があったが、ついに完全撤退の決断を下した。

 理由は、2050年カーボンニュートラル実現を目指して、資金や人材など開発資源を電動化に向けた研究開発に集約するためだ(カーボンニュートラルとは、省エネおよび温室効果ガスの吸収・除去などによって、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすること)。

 八郷氏からバトンを受け取った三部敏宏社長は2021年4月の社長就任会見で、「EVとFCV(燃料電池車)の販売比率を、2040年までにグローバルで100%を目指す」ことを明らかにした。本稿執筆時点では、達成時期を明確にしてEV・FCV販売比率100%を表明しているのは日系メーカーではホンダだけである。


「エンジン屋マインド」からの脱却が必要

 このような大きな事業転換期において、2代目NSXやS660などホンダらしさを追求してきたスポーツカーが姿を消していく。

 EVシフトの流れの中で当然だという見方もあるだろう。だが、ホンダは本当にスポーツカーと“決別”できるだろうか。

 ホンダ本社や本田技術研究所の幹部らと意見交換していると、よく「ウチはエンジンの会社だから」という言葉が出てくる。ホンダは四輪と二輪に加えて農機具や発電機などパワープロダクツを含めて、様々なタイプのエンジンを製造している、世界最大級のエンジンサプライヤーである。

 そうしたエンジン屋としてのマインドが強いホンダにとって、スポーツカーは「究極のエンジンを搭載する商品」という意識が強い。

 気になるのは、ホンダはそうした考え方を、小型EVの「ホンダe」などの電動車にも当てはめようとし過ぎている印象があることだ。また、三部社長は社長就任会見で、記者からEVスポーツカーの可能性を問われて、「EVでも(ホンダのスポーティグレードである)タイプSのようなクルマは可能」と答えているが、これも旧来型エンジン車に対するマインドの延長上にあるように感じる。

 そのほか、三部社長は会見で、GMが主導して開発するEVプラットフォーム「アルティウム」を活用した中型以上のEVに関する協業を改めて強調した。しかし、販売台数が少なくホンダ単独では十分な収益性が見込めないEVスポーツカーは、GM主導になる可能性が高いのではないか。

 ホンダにとって今、最も大切なのは、過去の成功体験を封印し、本格的なEV普及による新たな自動車産業に対して初心で臨むことなのではないだろうか。

 旧来型スポーツカーがなくなった状態で、商品企画、研究開発、販売などホンダの人たちは新しい「ホンダらしさ」を共有することはできるのか? 2代目NSXとS660の生産中止は、ホンダが今後も企業としての成長を続けていくためのターニングポイントであることは間違いない。

筆者:桃田 健史

JBpress

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