尖閣侵入阻止に本気の米国、日本に覚悟はあるか

8月7日(金)6時0分 JBpress

東シナ海で訓練を実施中の米海軍(第7艦隊所属、2020年7月28日、米海軍のサイトより)

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「四面楚歌」でも侵略的行動に邁進

 中国は、「四面楚歌」に陥っている。

 自ら蒔いた種であるが、それをものともせず、世界覇権を手中に収めようと侵略的行動に邁進している。

 21世紀最大の隠蔽偽装工作によって新型コロナウイルスを世界中にまき散らし、甚大な人的損害と深刻な社会経済活動の停滞をもたらしている。

 その最大の被害者は米国であり、そのため、貿易戦争に始まった米国との対立を本格的・全面的闘争へとエスカレートさせてしまった。

 同時に、新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界中の国々に、一様ではないが、共産中国の異質性や危険性を広く認識させたのは間違いない。

 中国自身も、自ら招いた「外部環境の悪化」を無視してはいないようだ。

 中国共産党の党外交を推進する中央委員会対外連絡部の周力元副部長は、7月3日付の環球時報で「外部環境の悪化に備え6つの準備を整えよう」のタイトルで論文を発表した。

 ちなみに環球時報は、米国政府に中国共産党のプロパガンダ(政治宣伝)機関と認定された。

 その要点は、以下の通りであり、共産中国の国際情勢・外交の現状認識を反映していると見ることができよう。

①米中関係の劇的悪化⇒米中間闘争の全面的レベルアップに備えよ

背景:米国との貿易戦争からコロナ禍を契機に本格的・全面的対決・闘争へ

②外部需要の委縮⇒サプライチェーンの断裂に備えよ

背景:国際市場の委縮と世界企業の中国からの撤退・移転の傾向

③新型コロナウイルス感染拡大の常態化に備えよ

背景:長期化するパンデミックによるブーメラン効果とコロナ禍の原因追求の国際的動き

④人民元とアメリカ・ドルとの切り離しに備えよ

背景:米国の「香港自治法」による金融制裁、すなわちドル調達の封じ込めおよび自由民主国家による「香港国家安全維持法」への非難と香港との犯罪人引き渡し条約停止などの対抗措置

⑤グローバル的な食糧危機の爆発に備えよ

背景:中国中南部の大規模水害と東北部の干ばつ・雹(ひょう)被害およびアフリカ・中東から中国に広がるバッタ被害

⑥国際的テロ組織の巻き返しに備えよ

背景:新疆ウイグル人とつながる国際的イスラム勢力の動向

 以上6つの「外部環境の悪化」は当然の認識としても、さらに重大な領土主権に関する問題については、巧妙かつ注意深く言及を避けている点に注目せざるを得ない。

 尖閣諸島周辺での中国公船などによる接続水域内入域および領海侵入は、4月中旬から110日以上連続した。

 さらに、中国政府は、多数の中国漁船が同海域へ侵入することを予告するような主張を行い、日本政府が航行制止を要求すると「日本に止める資格はない」と強弁する有り様だ。

 南シナ海の九段線内の中国による領有権の主張は、国際法上の根拠を完全に欠いており、2016年の国際仲裁裁判所で無効判決が下された。

 それを「紙くず」と呼び捨て完全無視し、中国は、南シナ海の岩礁に人工島を建設し、滑走路や港、レーダー施設などの軍事施設を整備して軍事的聖域化を図っている。

 また、ベトナムやフィリピン、マレーシア、インドネシアが、それぞれ領有権を主張する海域で行う漁業や資源(石油)探査を力ずくで妨害・排除し、同海域での諸活動を支配しようとしている。

 6月15日夜にヒマラヤ山脈の標高約4300メートルの国境付近で発生したインド・中国両軍の衝突では、少なくとも20人のインド兵が死亡した。係争地域における中印の衝突で死者が出るのは約50年ぶりである。

 衛星写真から、衝突に至るまでの数日間に、中国側がこの地帯に軍隊を集結させ、機械類を持ち込み、山中に小道を切り開き、川をせき止めるなど事前に攻撃を計画していたことが判明している。

 インドでは、反中デモや中国製品不買運動などの反中国運動が勢いを増している。

 このように中国は、領土主権について独善的な主張を曲げず、「力による一方的な現状変更」を既定方針として領土拡張を妥協なく実現する姿勢を露わにしている。

 そして、領土的野望の標的となった国は、その脅威から逃れることができない。

 以上述べたとおり、中国が自認する6つの「外部環境の悪化」、中でも米国との本格的・全面的闘争に加え、コロナ禍による広範な国際世論の悪化、領土拡張の執拗な追求による周辺国との対立などに象徴されるように、中国は自ら「四面楚歌」の不安定な戦略環境を招来している。

 しかし、それをものともせず、中国が侵略的行動に邁進するのはなぜか——。

 中国の戦略は、2016年9月末、習近平国家主席が主宰した中国共産党中央政治局のグローバル・ガバナンスの変革に関する「集団学習」で強調した下記の情勢認識が背景になっている。

「国際的なパワー・バランスの消長・変化とグローバル化による課題の増加で、グローバル・ガバナンスを強化し、その変革を進めることが大勢となっている」

「われわれはチャンスをとらえ、情勢に逆らわず、国際秩序をより公正かつ合理的な方向へ発展させることを推し進める」

 この情勢認識は、劉明福著『中国の夢−ポスト・アメリカ時代の中国の大国的思考と戦略的位置づけ』』(China Dream :“Great Power Thinking and Strategic Positioning of China in the Post-American Age”)の下記論旨と完全に重なっている。

「アメリカが世界の覇権を握っていたのは、歴史的に見ればほんの短い間のことだ。その短い時代は終わりに近づいている」

「アメリカに代わってまず西太平洋地域の、そしてゆくゆくは世界のリーダーになることこそ中国の運命だ」

 言い換えれば、国際的なパワー・バランスにおいて、米国が「消(衰亡)」へ、中国が「長(興隆)」へと変化するのが大勢となっており、中国が国家目標として掲げる「中華民族の偉大な復興」、すなわち中国の覇権をグローバルに拡大し、国際秩序を自国に都合の良い「中華的秩序」に変え、発展させる好機であると考えているからであろう。

 しかしその一方で、中国は、米国は本当に衰亡しているのか、その真の国力と同盟の力の検証は正しいのかについて問い直す必要があろう。

 米国は、依然として世界最強の国家であり、世界に多くの同盟国と友好国を持っている。

 ドナルド・トランプ大統領の同盟国に対する無神経な扱いと長期的な同盟関係からの離脱をほのめかす言動はリスク要因ではある。

 しかしながら、アジア太平洋における日米安全保障条約、米韓相互防衛条約、台湾関係法、米比相互防衛条約、米泰相互防衛条約(マニラ条約)、太平洋安全保障(ANZUS)条約をはじめ、世界で約60の同盟国に加え、多くの友好国によって構成されるネットワークの力が今なお健在だ。

 これを中国は過小評価していないのかどうか、冷静な判断が求められよう。

 もし米国の国力と同盟の力に判断の誤りがあるとすれば、中国がいかに台頭著しい大国であったとしても、無理な努力をして際限のない征服政策に乗り出すことになり、その戦略は失敗に帰す。

 つまり、中国は、米ソ冷戦のソ連と類似軌道をたどり、米国との本格的・全面的闘争に敗れ崩壊へ向かう可能性が高まるからである。


アジアへ全面展開し始めた米国

 米国は、これまで必ずしも対中姿勢を明確にしてこなかった。しかしここに来て、中国への強硬姿勢を一段と鮮明にしている。

 ロバート・オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)は6月24日、中国の指導者をおだてることで中国共産主義体制を近代化させるという過去数十年間の政策は裏目に出て、「1930年代以降の米国の外交政策で最大の失敗」だったと断言した。

 そして、「中国に対して米国が受動的で未熟であった時代は終わった」と明言した。

 クリストファー・レイ米連邦捜査局(FBI)長官は7月7日、「中国はどんな方法を使っても世界唯一の超大国になろうと、国家的な取り組みを進めている」と述べ、中国政府によるスパイ活動と盗用行為が、アメリカにとっての「最大の長期的脅威」になっていると強調した。

 ウィリアム・バー司法長官は7月16日、中国で事業を展開するために中国政府と「連携している」として、ハリウッド(ディズニーなど)や米テクノロジー企業(グーグル、ヤフー、マイクロソフト、アップル)を非難し、そのような行為は「リベラルな世界秩序」を損なう恐れがあると警告した。

 米国務省はこれまで、他国の領有権問題に関し、公式には中立の立場を維持してきた。しかしその立場を翻し、7月13日に発表した声明で、 2016年にオランダ・ハーグの国際仲裁裁判所が示した判断を初めて支持し、「南シナ海の大半にわたる海洋資源に対する中国政府の主張は、完全に違法である」と言明した。

 そして、「世界は中国政府が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うことを許さない」と述べた。

 マーク・エスパー米国防長官は7月21日、中国と対峙する可能性に備え、アジア全域に米軍を配置していると明らかにし、米トランプ政権が軍事面でも対中姿勢を硬化させていることを鮮明にした。

 エスパー国防長官は、米国は2019年、南シナ海において過去40年で最多となる「航行の自由」作戦を実施し、7月には、同地域で2012年以来となる空母2隻による演習を実施した。

「この方針は、地域の各国が平和的に存続・繁栄することができる、自由で開かれたインド太平洋を守るものだ。また、公海を排他的水域や自国の海洋帝国に変える権利は(中国に)ないことを明確に示している」と語った。

 この方針を受け、在日米軍のケビン B. シュナイダー司令官(空軍中将)は7月29日、尖閣諸島周辺における中国公船による「前例のない侵入」の監視を米軍が支援することが可能との一歩踏み込んだ見解を示した。

 極め付けは、7月23日にマイク・ポンペオ国務長官がニクソン大統領図書館で行った対立厳しい講演である。

 ポンペオ国務長官は、中国による知的財産権の侵害や、南シナ海など周辺国への権益の主張などを並べ立てたうえで、習近平国家主席を名指し「全体主義のイデオロギーの信奉者だ。その野望は共産主義による覇権の確立だ」と強く非難した。

 また、同演説の中で、実に27回も「共産主義」国家の中国、および中国共産党を名指しして非難し、「われわれが今、屈従すれば、われわれの孫たちは中国共産党のなすがままになる可能性がある」と強調した。

 そして、「中国共産党から世界の自由を守ることは、われわれの使命だ」と述べ、中国に対抗するため民主主義国家による新たな同盟の構築を訴えた。

 このように、トランプ政権の主要閣僚が、相次いで中国を厳しく非難する演説を行い、中国への強硬姿勢を一段と鮮明にした。

 そして米軍は、「自由で開かれたインド太平洋」戦略に基づき、アジア全域に米軍を配置し、軍事面でも対中態勢を強化している。

 世界の2大超大国の「負のスパイラル」は一段と悪化し、米中関係は過去数十年間で最悪レベルに陥っている。

 米中が、本格的・全面的闘争へと対立を深めつつある今、日本はどうすればよいのか——。


中国悪はびこらせる日本の対中無策

「政経分離」の虚構の上に胡坐をかいたままでいいのか日本

 従来、日本の対中政策は、「政経分離」を基本姿勢としてきた。

「政経分離」は、イデオロギーや政治体制の違い、あるいは外交・安全保障上の対立をいったん横に置き、それらの問題を貿易などの実質的な関係で包み込む、あるいは切り離す手法で、これを「政経分離」と呼んだ。

 1950年代以降の東西冷戦下で、共産中国との貿易関係を発展させ、疲弊した戦後の経済的繁栄を求める国是として生み出された当時の知恵であった。

 一方中国は、「政経不可分」の原則、すなわち政治と経済の問題は分離できず、必ず同時に話し合い、解決されるべきであるとの基本姿勢を提示した。

 日本の「政経分離」に対する拒否的態度の表明であったが、それを日本側は甘く見ていた節もあり、日中は当初からいわゆる「同床異夢」の関係にあった。

 1972年9月に田中角栄首相が訪中し、北京で日中共同声明に署名して日中国交樹立を果たしたが、その一方で台湾との国交断絶を強いられた。

 日本は、1979年から対中政府開発援助(ODA)を開始し、2021年度末の完全終了まで、第1次から第4次の円借款を中心に総額約3兆7000億円を投じた。

 ODAは、折から鄧小平の指導下で進められた「改革開放政策」の維持・促進に貢献すると同時に、日本企業の中国における投資環境の改善や日中の民間経済関係の進展にも大きく寄与した。

 しかし、1980年代に入り、教科書問題(1982年)、東京裁判問題(1983年)、靖国神社問題(1985年)、藤尾発言問題(1986年)などが立て続けに起こり、中国独自の歴史認識に基づくイデオロギー的な対日批判に曝された。

 また、ODAの間にあっても、日本国内では次のような批判が噴出した。

「中国は日本からのODAの大半を軍事費へ転用して軍事力を増強している可能性があり、それによって、わが国に対する軍事的脅威を高めている」

「中国は東シナ海の日中境界線付近において独断で資源(ガス田)開発を強行し、わが国の権益を侵害している」

「中国は、執拗な反日教育を行い、反日デモを煽動して愛国心高揚に利用している」

 1972年の日中国交正常化の際に棚上げが確認されたと言われている尖閣諸島問題は、1996年には再燃した。

 2012年に日本が尖閣諸島を国有地化したことで緊張が一挙に高まり、中国はレアアースの輸出を規制した。

 また、それ以来、中国公船などによる尖閣諸島周辺の接続水域内入域および領海侵入が常態化し、侵略的行動は激しさを増すばかりである。

 すでに忘れ去られたものも多いこれらの重大事案は、日本の「政経分離」の基本姿勢が否定される一方、中国は常に「政経不可分」の原則を振りかざし、結局、「政経分離」はあくまで日本が自分勝手に描いた虚構に過ぎないとの現実を突きつけた。

 今日までの日本と中国は、いわゆる「政冷経熱(温)」の関係に終始したことが何よりの証左だ。

 それでもなお、日本は「政経分離」の虚構の上に胡坐をかき続け、それがゆえに対中政治が無為無策に陥っているのではないかと、懸念を表明せざるを得ないのである。

 尖閣諸島への侵略的行動は、改めて述べるまでもない。

 今年7月には、海上保安庁の中止要請を無視して、沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)内で、中国の海洋調査船「大洋号」が6日間連続で海洋調査を行った。

 東シナ海の日中境界線付近においては、引き続き中国が独断で資源(ガス田)開発を強行している。明らかに、日本の領土主権を侵害し、国益を著しく損ねているではないか。

「政経分離」の信奉者と指摘されるのは、例えば親中政治家や経済官庁、経済団体などであり、結果的に、彼らこそが共産中国と連携してその悪行に手を貸し、悪行をはびこらせていることになるのではないか。

 そして、安倍晋三首相に「日中関係は完全に正常軌道に戻った」と言わしめ、コロナ禍にあっても習近平国家主席の国賓来日を求めているのではないか。

 前述の通り、米中関係は歴史的に悪化し、本格的・全面的闘争へと進んでいる。

 中国は、あらゆる手段や方法を総動員して対日政策を有利に展開し、日米の離間を図りながら世界制覇へと驀進する。

 いい加減に日本も「政経分離」の虚構から脱却して、中国の「政経不可分」の原則と堂々と渡り合うべきではなかろうか。

 そうでなければ、わが国の主権・独立の維持、領域の保全、そして国民の生命・身体・財産の安全確保も危ぶまれる。

 日本人の対中感情は、ここ10年、「良くない」が約9割を占めており、それが国民の総意でもある。

 また、「悪人がはびこるのは、善人が何もしないから」(英国の哲学者、エドマンド・バーク)、「悪貨は良貨を駆逐する」(英国王財政顧問、トーマス・グラシャム)など、先人の残した言葉にも耳を貸さなければならない。

筆者:樋口 譲次

JBpress

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