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トヨタがマツダにだけ株取得を認めた理由

プレジデント社8月8日(火)11時15分
画像:トヨタ自動車の豊田章男社長(左)と、マツダの小飼雅道社長(右)
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トヨタ自動車の豊田章男社長(左)と、マツダの小飼雅道社長(右)
8月4日、トヨタ自動車とマツダが資本提携を正式発表した。その内容は相互に約500億円ずつ株式を取得するという異例のものだった。これまでトヨタは、ダイハツやスバルの株式は一方的に取得しており、提携先に株式を取得させたことはない。なぜトヨタはマツダにだけ違う対応をとったのか。自動車ジャーナリストの池田直渡氏が考察する。

トヨタ自動車の豊田章男社長(左)と、マツダの小飼雅道社長(右)

8月4日金曜日夜。都内のホテルでトヨタとマツダによる緊急記者会見が開かれ、2年前から交渉が重ねられてきた提携の詳細がようやく明らかになった。この2社の提携には、どんな意味があるのか。一言で言えば、今回の提携は相互のブランド独自性を重んじながら前例の無い広く深い領域での協業を行うというもので、両社の強い危機感を基調にしたものだ。


■過渡期にある世界の自動車メーカー


現在、自動車メーカーを巡る環境は厳しさを増している。すでに独仏英からは内燃機関(エンジンなど)を廃絶するかのような発表がされており、自動運転やコネクティッドカー(車車間通信)など、これまでのクルマの常識を打ち破る新たな技術革新も求められている。


世界最大手を競うトヨタは、巨大化ゆえの悩みを抱えていた。第一に意思決定速度の低下、第二に目的統一の困難さである。豊田章男社長はこれをはね返すべく、強いトヨタになるための布石を次々と打っている。


マツダは「2%の顧客に猛烈に支持されるブランド」を目指し、ここしばらくブランド価値経営を続けてきた。しかし、電動化や自動運転、コネクティッドカーなどの課題をクリアしていくにはリソースが足りない。


こうした相互の事情に鑑みつつ、それを越えるために今回の提携に至ったと考えて良い。


これをワイドショー的に、一方的な吸収合併や蹂躙(じゅうりん)と言う構図で見ると本質を見失う。相互のブランドを尊重する精神の上に築き上げられた提携なのだ。


■トヨタが仰天した「アクセラ・ハイブリッド事件」


それを理解するためには、まずはそのスタート地点から話を始めなくてはならない。トヨタがマツダに注目したきっかけは、アクセラ・ハイブリッドによる衝撃的事件だ(参考:「トヨタとマツダが技術提携に至った"事件"」http://president.jp/articles/-/22041)。販売政策上どうしてもハイブリッドモデルが必要だったマツダだが、リソース的にそれを実現することが難しく、トヨタからハイブリッドシステムの供与を受けることになった。



アクセラ・ハイブリッド

ハイブリッド車はブレーキのチューニングが難しい。減速を行いながらエネルギー回生を行うことこそがハイブリッドのキモなので、できる限り電気的な回生ブレーキで減速を行う。しかし、それで全ての状況がカバーできるわけではないので、旧来の物理的ブレーキも共用する。この2種類のブレーキを協働させて減速を得るのだが、これが非常に難しい。ブレーキフィールが不自然になるのだ。


アクセラ・ハイブリッドの開発の中で、マツダは物理ブレーキのばねを作り直し、このフィールを向上させた。試乗して驚いたトヨタのエンジニアはそれをすぐさまトップに上げ、豊田章男社長自らが広島に赴いて試乗し、その優位を確認した。豊田社長はトヨタのクルマの走りに満足していなかった。以後「もっといいクルマづくり」を打ち出して行くのだが、そのきっかけのひとつとしてクルマ作りのあり方、あるいは「もっといいクルマ」の要素のひとつに気付いた原因がこのアクセラ・ハイブリッドである。名古屋に戻った豊田社長は、すぐさま提携の模索を指示し、それが2年後の提携交渉開始発表を経て、4年越しで今回の提携として結実するのである。



■未来のクルマをコモディティにはしたくない


豊田社長は会見の中でこう述べている。「今のトヨタの課題は1000万台を越える企業規模をアドバンテージにするべく、自分たちの仕事の進め方を大きく変革することです。私たちが昨年4月に導入したカンパニー制も、マツダさんと一緒に仕事を進める中で、自分たちの課題が明確になり、『このままではいけない』と踏み出したものだと言えます。マツダさんとの提携で得た一番大きな果実は、クルマを愛する仲間を得たことです。そして『マツダさんに負けたくない』という、トヨタの『負け嫌い』に火を付けていただいたことだと思っております。本日私が皆さまにお伝えしたいことは、両社の提携は『クルマを愛する者同士』のもっと良いクルマを作るための提携であり、『未来のクルマを決してコモディティにはしたくない』という思いを形にしたものだと言えることでございます」。





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トヨタは2016年からカンパニー制をひき、各カンパニーにプレジデントを置いている(2016年4月当時のもの)。

コモディティとは一般化した結果品質での差別化が困難になった製品などのことだが、ここでは「パーツを組み合わせれば誰にでも作れるもの」という、生産側のコモディティ化という意味も含んでいる。アクセラ・ハイブリッドの件を「マツダには技術があってトヨタには技術がない」と受け取るのは早計である。技術はお金と無縁ではない。ヒト・モノ・カネが圧倒的に潤沢なトヨタの技術はそもそもマツダに負けるものではなかった。にもかかわらず、なぜ得意のハイブリッドで負けたのか、トヨタはそれを深刻に受け止めて、自らの改革に着手したのである。技術があってもそれだけではいいクルマは作れない。クルマのあるべき姿を定義する意思決定の速度と、リファレンスを共有する目的統一の困難がそうさせた可能性が高い。だったらどうするかを考え抜いた形がTNGAであり7カンパニー制である(参考:「プリウスはカッコ悪い」豊田章男社長インタビュー【前編】 http://president.jp/articles/-/20121)。


■相互にリスペクトする関係


一方、マツダの小飼雅道社長はトヨタをどう見ているのだろうか。会見で小飼社長はこう述べている。



マツダの小飼雅道社長

「リーダー企業でありながらも、もっといいクルマを作ろうと、自ら先頭に立ち、課題に挑戦し続けておられる姿勢に私は強く胸を打たれております。このようなトヨタさんの志と、マツダのDNAである『あくなき挑戦』が合致し、この2年間多くのことを学ぶ機会をいただいたことをとてもありがたく感じております。胸襟を開いてお互いを知り、頻繁な交流により多くを学び、お互いが刺激しあえる状態であることを確信し、自信を深めて今この場に立っております」


つまり相互に高いリスペクトを持ち、ライバル企業としての警戒レベルを下げて「胸襟を開く」ことで、自動車業界を襲う未曾有(みぞう)の事態に対応していきたいと言うことだろう。



■提携内容は大きく4つ


そういうスタンスの中で互いにできることの限界を見定めつつ作り上げられた提携内容は以下の4点である。


1. 米国における完成車の生産合弁会社の設立

2. 電気自動車の共同開発

3. コネクティッド・先進安全技術を含む、次世代の領域での協業

4. 商品補完の拡充


特に1は興味深い。自動車の生産ラインはトップシークレットの塊である。それを合弁で行えば、競争力の源泉の一部が筒抜けになる。その高いリスクをよくぞ乗り越えたものだと思う。信頼関係が無ければ成り立たない話だ。そしてそれに対する保証として、相互の株式保有が行われる。


今回、総額500億円の株式を取得しあうことが決まった。これは今回の提携の深さを象徴的に表すものだ。トヨタはダイハツに対してもスバルに対しても、提携先の株式は一方的に取得しており、提携先に株式を取得させたことはない。異例の事態だと言える。


互いに技術に自信を持つ2つのメーカーが、「負け嫌い」をポジティブに生かしながら、時にライバルとして時に同志として活動していく約束。それが今回の提携である。


■トヨタはGoogleやAppleをどう見ているのか


注目したいのは、特に自動運転の領域での新たなプレイヤーの参画に対する豊田社長の発言だ。



トヨタ自動車の豊田章男社長

「今、私たちの前には、GoogleやApple、Amazonと言った新しいプレイヤーが登場しております。全く新しい業態のプレイヤーが、『未来のモビリティ社会をよくしたい』という情熱を持って私たちの目の前に現れているのです。未来は決して私たち自動車会社だけで作れるものではありません。物事を対立軸で捉えるのではなく、新しい仲間を広く求め、競争し、協力し合っていくことが大切になってきていると思います。しかし、これまでのモビリティ社会の主役は、間違いなくクルマであったと思います。私たち自動車会社にはこれまで、モビリティ社会を支えてきたという自負があります。新しいプレイヤーと競い合い、協力しあいながら、未来のモビリティ社会を作っていくからこそ、私たち自動車会社は、『とことんクルマにこだわらなくてはならない』と思います。今の私たちに求められているものは、全ての自動車会社の原点とも言える『もっといいクルマを作りたい』という情熱だと思います」


「もっといいクルマ」というキーワードに表されるものこそ、群雄割拠する新時代のモビリティの世界において、自動車メーカーが持つアドバンテージだと考えていることがわかる。筆者も大いに賛成だ。モーターとバッテリーさえあればクルマが作れるわけではない。「走る・曲がる・止まる」を高次元で行うこと、つまりビークルダイナミクスの実現は生やさしいものではない。「電気自動車は部品点数が減ってコモディティ化する」ということを言う人が絶えないが、そんな風にコモディティ化したクルマなど、誰も欲しくない。


現実は、84年間クルマを作って来たトヨタが「もっといいクルマづくり」を掲げなくてはならない状況だ。100周年を目前にしたマツダも事情は同じ。マツダのエンジニアも役員も、常に「ウチのクルマ、まだまだです」と言い続けている。「そういう気概でクルマを作っていかなくてはならない」その思いこそが豊田社長に「クルマを愛する仲間を得た」と言わせているのである。


トヨタとマツダの提携は、新しいモビリティ社会の実現に向けた「自動車を愛する者連合」の旗揚げだ。筆者の目には、そう映っている。


(池田 直渡)

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