南シナ海に米空母が展開できなくなる日は近い

8月9日(金)6時0分 JBpress

南シナ海をパトロールする米空母ロナルド・レーガンに発着する「E-2ホークアイ」(2019年8月6日、写真:AP/アフロ)

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 南シナ海は、世界の海上輸送量の3分の1が通過する海域であり、戦略的に重要な位置を占めている。

 中国は、南シナ海における航行および上空飛行の自由は確保されていると主張している。現実には、中国が本土および南シナ海人工島を起点とする濃密な監視網を構築している。

 南シナ海における海洋状況認識(Maritime DomainAwareness: MDA)能力は、中国に地理的優位性があると言える。

 また、秘密のベールにつつまれているが、中国は海中における状況認識の構築も進めているであろう。

 中国海事局は、6月29日から7月4日までの間、南シナ海において航行禁止海域が設定されたと伝えた。米国国防省は、この海域に中国が対艦弾道ミサイル6発の連続発射(サルボー発射)を実施したことを明らかにした。

 対艦弾道ミサイルについては、その能力を過大に評価し「ゲームチェンジャー」とするものから、「絵に描いた餅」と過小評価するものまで、その見方は幅広く存在する。

 過小評価する根拠として指摘されているのは、広大な洋上を行動する艦艇の正確な位置を把握し、それを継続追尾することが現在のテクノロジーでも困難であることである。

 しかしながら、宇宙や電磁波、さらには無人機といった新たなプラットホームを利用した手段が充実するにつれ、複数の手段を融合した海洋監視能力が向上してきたことも考えなければならない。

 以下、中国はなぜ南シナ海で対艦弾道ミサイルの発射実験を行ったのか、なぜ6発を連続発射したのかについて考察し、中国の狙いを明らかにする。

 そして、南シナ海での中国の動きに対し、牽制策についての一案を述べる。


1.対艦弾道ミサイルを移動目標に命中させられるのか、そのポイントは

 弾道ミサイルは通常、短時間で地上の固定重要目標を破壊することを目的とする。そのため、事前に設定されたとおりに飛翔する慣性誘導方式であり、飛翔中は無誘導である。

 一方、対艦弾道ミサイルは、地上の固定目標ではなく、海上の移動目標を狙う。従って、発射シークエンスの各段階で次に留意する必要がある。

「発射諸元入力時」

 目標艦の現在位置および目標の移動の方向と距離から、弾着時の艦の未来位置を予測し、その位置座標を入力する。

「発射当初」

 ミサイルの飛翔状況を確認して、ミサイルの弾着予想と目標位置とのずれを確認する。

「軌道修正時」

 ミサイルが最高到達点到達後、弾着時の目標艦の予想位置を再計算し、軌道を修正する。

「最終誘導時」

 通常の弾道ミサイルは、高速で飛翔するため弾頭部にシーカー(赤外線誘導)は装備されていない。

 だが、中国の対艦弾道ミサイルには、弾頭を確実に目標に命中させるため、弾頭部に巡航ミサイルと同様のシーカーが装備されているとみられている。

 しかしながら高速で飛翔するため、大きな軌道修正ができないことから、各段階において目標の正確な位置を把握し、弾着時の未来予測位置を正確に算定することが重要であることに変わりはない。


2.洋上移動目標の未来予測位置の正確な算定が命中を左右する

 高速で飛翔する対艦弾道ミサイルを、目標に命中させることが難しいのは、飛翔中に目標が自由に移動するからである。

 中距離弾道ミサイルの飛行時間は約10〜20分間、再突入速度はマッハ約9〜21(「F-15」戦闘機最高速度マッハ2.5の3.6〜8.4倍、秒速3〜7キロ)である。

 ミサイルが20分間飛行するとすれば、25ノットで移動する水上目標は約15キロ移動することになり、ミサイルは目標から遠く離れたところに落ちる。

 対艦弾道ミサイルは目標の現在位置ではなく、未来位置を弾着点としなければならない。従って、ミサイル飛翔段階のそれぞれにおいて目標位置をアップデートする必要が出てくる。

 それぞれの段階における目標位置入手手段およびその能力、特色は次の表のとおりである。

 つまり、単一方法による目標情報の探知、追尾は困難であり、平時から複数手段で継続して目標情報を把握しておかなければ、対艦弾道ミサイルを効果的に使用できないことが分かる。


3.なぜ南シナ海に、なぜ6発連続発射したのか

 中国が保有している対艦弾道ミサイルは、射程1500〜2000キロの「DF-21D」、射程3000〜4000キロの「DF-26」である。

 南シナ海に向けて対艦弾道ミサイルを発射する場合、中国のどの地域から発射されるのか。

 南シナ海中央部の弾着予想点から、DF-21Dの射程1500キロ、DF-26の射程3000キロで、中国本土に向けて円を描けば、短くて中国本土南部、長くて北京以南の地域から発射できることが分かる。

図 中国対艦弾道ミサイル発射予想地域

 中国は、南シナ海は衛星だけではなく、哨戒機、水上艦艇、法執行船舶さらには人工島に設置したレーダーやエリント装置で濃密な海洋監視網を設定している。

 南西諸島を含む第1列島線を越えた西太平洋に比較すると、南シナ海は、対艦弾道ミサイルを効果的に使用でき、移動目標に命中させることが可能となる海域である。

 弾道ミサイルを一つの目標に向けて複数発発射するのは、相手の対応能力をオーバーフローさせ、残った複数発のうち1発でも命中させることを狙っている。

 2017年3月に北朝鮮が「スカッドER」を4発発射した際、我が国の対応能力を超えるのではと話題になったことは記憶に新しい。

 今回の南シナ海での対艦弾道ミサイル発射試験は、南シナ海における中国の先制攻撃能力を向上させるものであり、特に南シナ海を航行する米空母機動部隊にとって大きな脅威となりつつあることを証明した。

 一方、対艦弾道ミサイルは最終的には自ら装備したシーカーにより目標を捜索するため、速力を一定程度落とさなければならないのではないかと推定できる。

 ここに当該対艦弾道ミサイルの迎撃のチャンスが生まれる。

 米海軍が「SM-6」対空ミサイルの装備化を進めているのは、アクティブミサイル化により、水平線外の巡航ミサイルなどだけではなく、中国の対艦弾道ミサイルにも対応できるからであろう。


4.南シナ海を中国の海とさせないために

 中国にとって、南シナ海は充実した海洋監視能力を持つ海域である。また、対艦弾道ミサイルの大きな弱点であった洋上目標の探知、継続追尾を可能にする。

 対艦弾道ミサイルを使用する場合の最適な海域であると言える。

 このため米海軍が「航行の自由」を旗印に空母機動部隊を南シナ海に展開した場合、常時、対艦弾道ミサイルの脅威にさらされることとなる。

 対艦弾道ミサイルの影響下にあるというだけで、米中間で緊張が高まってきた際に、米国としては虎の子の空母を南シナ海に展開することを躊躇することになるであろう。

 このような中国による南シナ海支配の進展にどのように対応すべきであろうか。

 かつて欧州においてソ連中距離弾道ミサイル「SS-20」が大きな脅威であった際、欧州は米国「パーシングⅡ」中距離弾道ミサイルを配備し、これと均衡を図った。

 そしてその均衡を背景に米ソは「中距離核戦力全廃条約(INF)」を締結、射程500キロから5500キロまでの核を搭載する地上発射型弾道および巡航ミサイルが廃棄された。

 本年2月米国はロシアが本条約に反していることを理由に同条約の破棄を通告、8月1日に失効した。

 しかしながら、このアプローチは中国の対艦弾道ミサイル廃棄を促す良い参考となる。

 南西諸島からフィリピンに至る陸上に中距離弾道ミサイルまたは巡航ミサイルを配備、これを背景に米中ロの3か国、さらには、インド、パキスタン、北朝鮮といった国々の間で、中距離ミサイルの保持を制限または禁止する条約締結を目指すアプローチを検討する必要がある。

 最近中国は4年ぶりに国防白書を公表した。

 その中で中国は南シナ海における域外国の活動を不法侵入とし、中国の安全保障を脅かしていると批判している。

 今回の対艦弾道ミサイルの発射試験は、空母「遼寧」の南シナ海展開に加え、中国による南シナ海支配の強化が一段と進んだことを示しており、日本の安全保障に極めて大きな影響を与えるものと言える。

 南シナ海の中国支配は中国の思惑通りに進んでいるという危機感を関係国で共有し、多国間の枠組みで、これを阻止していく試みが必要である。

筆者:軍事情報戦略研究所朝鮮半島分析チーム

JBpress

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