ヤマトが2割も値上げして赤字転落した最大の理由

8月12日(月)6時14分 JBpress

ヤマトホールディングスおよびヤマト運輸本社(出所:Wikipeidia)

写真を拡大

 人手不足への対策から大幅な値上げを実施したにもかかわらず、ヤマトホールディングスが2四半期連続の赤字となっている。人員の確保や体制の構築に予想以上のコストがかかったことが主な理由だが、それ以外の要因も無視できない。大口顧客であるネット通販事業者の戦略転換という構造的な問題が関係している可能性がある。(加谷 珪一:経済評論家)


従業員を大幅に増やしたことでコストが増加

 ヤマトホールディングスが2019年7月31日に発表した2019年4〜6月期の業績は、営業損失が61億円の赤字となった。同社は人手不足対策から、宅配料金を大幅に値上げしており、本来なら十分な利益を確保できるはずだ。利用者に対して一気に2割もの負担増を求めておきながら、それでもなお利益が出せないという現実に、市場からは経営陣の能力を疑問視する声が上がっている。

 同社はアマゾンなどネット通販からの大口受注を増やした結果、増加する荷物の量に耐えられなくなり、現場の配送要員が疲弊するなどの混乱が生じた。運送事業者にとって需要の見通しは経営の生命線であり、これを見誤るというのは、100%経営者の責任である。ところが、どういうわけか国内世論は、配送を依頼したネット通販事業者を批判するという意味不明の状況となり、こうした声を背景に、同社は配送料金の値上げを決断した。2017年10月に個人向けの配送料金を平均で15%値上げし、その後、法人向け料金についても段階的に値上げを実施。最終的には全体で2割以上も単価を上げた。

 運送事業者の場合、基本的に仕入れは発生しないので、配送料金の値上げ分は、そのまま利益になる。同社は値上げによって大幅な増収増益を実現できるはずだった。

 ところが値上げの効果が現れるはずの2019年1〜3月期決算は159億円の営業赤字となり、今回の四半期決算でも赤字が続いている。


ネット通販事業者はヤマト依存から脱却しつつある

 同社では働き方改革に伴う体制整備の費用が増加したことや、料金の過大請求問題が発覚した引っ越しサービスからの撤退費用など、コストが増加したことが原因と説明している。確かに、過去1年間で配送業務に従事する従業員は19万1433名から20万3141名と約1万2000名も増えたので、その分だけコストは確実に増加しているだろう。

 だが、全体で2割、一部の顧客には4割もの値上げを提示しておきながら、それでも赤字というのは合理的な説明がつかない。同社が赤字転落した最大の理由はコストの増大ではなく、以前と同様、安易な需要見通しが原因である可能性が高い

 同社は配送料金を値上げするだけなく、取り扱い総量の抑制を図ったことから、一部の顧客はヤマトに配送を依頼したくてもできないという状況に陥った。同社は、状況が落ち着けば、こうした顧客が自社に戻ると考えていたようだが、現実は違っていた。

 アマゾンをはじめとする大手の宅配事業者は、ヤマトの値上げをきっかけに、一斉に自社配送網の構築に乗り出し、運送事業者への依存度を低下させている

 最も顕著な動きを示したのはアマゾンである。アマゾンは今年(2019年)の4月から、個人に商品の配送を依託する「アマゾンフレックス」をスタートさせた。荷物の配送を請け負いたい個人事業主は、アプリで申し込みを行い、条件に合致する荷物があればその荷物を配送することでアマゾンから配送料を受け取ることができる。

 同社が自前の配送網構築を検討しているという話は、以前から知られていたが、大手運送事業者ですら十分な人員を確保できない状況なのに、アマゾンが自前の配送網を構築するのは不可能だという声が多かった。筆者は、アマゾンの自前配送網確立によって大手宅配事業者の業績が悪化する可能性について何度か指摘したことがあるが、「現実を知らない空論だ」「無知にも程がある」といった激しい批判を受けるのが常だった(なぜそこまで激高して批判するのか、いまだに筆者にはよく理解できないのだが・・・)。

 だが、ネット通販事業者が自前の配送網を構築できないと結論付けてしまった人は、残念ながら物事を断片的にしか見ていない。運送業界の旧態依然とした産業構造を考えれば、通販事業者が自前の配送網を構築することには、それなりのフィジビリティ(実現可能性)がある話なのだ。


アマゾンの自社配送網構築は十分な実現性がある

 ヤマトをはじめとする大手の運送事業者は、すべての配送を自社社員で行っているわけではなく、多数の下請け運送事業者を使っている。こうした下請け事業者は個人事業主も多く、一部では想像を絶する低価格で配送を請け負うなど、一種の搾取構造が存在していた。

 確かにアマゾンは、大手運送事業者に安い価格で配送を依頼していたかもしれないが、同じ料金を個人の配送事業者に支払った場合、彼等にとっては、大手運送会社の下請けで荷物を運ぶよりも単価が高くなる可能性がある。

 つまり、末端の個人の運送事業者にとってアマゾンから配送の委託を受けることはそれほど悪い話ではなく、そうであるがゆえに、アマゾンも勝算ありとして、自前配送網の構築を急いだ可能性が高い。

 アマゾン以外にもヨドバシカメラが、ヨドバシエクストリームという自社配送サービスを本格化させているし、不完全ながらも楽天も自社配送網の強化に乗り出している。


大口顧客の動向についてもっと情報を開示すべき

 ヤマトは、自社以外には配送できる事業者がいないと考え、一部の顧客からの依頼を断るという強気の営業を行ったが、荷物の配送個数が減ったまま回復しないという予想外の事態となった。配送個数が戻ることを前提に、正社員を大幅増員したものの、肝心の荷物が増えていないため、一気に赤字に転落したという図式だ。

 ヤマトが業績を回復させるためには、採算ラインまで配送個数を増やす必要があるが、価格を下げてしまっては、元の木阿弥である。今年10月には消費増税が控えており、個人の依頼も低調に推移する可能性が高く、正社員を2万人も増やしてしまった以上、コスト削減にも限界がある。市場では、業績の低迷が長期化するリスクも意識され始めている。

 運送事業というのは、十分なインフラや人員がいないと機能しないビジネスなので、ある程度、先行投資が必要であることは言うまでもない。だが、こうしたインフラはすぐには変更できないため、需要をどう予測するのか、あるいは人員をいかに柔軟に配置するのかが重要なカギを握る。

 米FedExや米UPSなど、米国の大手運送事業者は、クリスマスなど需要が急増する時期には、臨時の配送要員に極めて高い賃金を払うことで、一時的に大量の人員を確保し、急増した需要に対処するといった取り組みを行っている。

 ヤマトの経営陣は、人手不足からネット通販の配送が滞るといった事態が発生した時も、そして、値上げを実施した今回も、依託される荷物の個数について予測を誤っている。これは運送事業者の経営者としては致命的な問題といってよい。

 さらにいえば、同社は人手不足問題をきっかけに、大量の正社員を雇用するという形で体制の強化に乗りしたが、これは固定費の増加を意味している。一旦採用した正社員を減らすのは容易なことではなく、今後の需要動向によっては、高い人件費が同社経営の足かせとなる可能性がある

 二度も需要予測の失敗が続くということなると、市場は経営陣の能力について疑問視せざるを得なくなる。市場からの信頼を回復するためには、大口顧客の需要動向について、もっと詳細な情報を開示していく必要があるだろう。

筆者:加谷 珪一

JBpress

「ヤマト」をもっと詳しく

「ヤマト」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ