軽自動車ウォーズ 売れまくるN-BOXを次々と脅かす「刺客」

8月12日(月)7時0分 NEWSポストセブン

軽自動車販売で5年連続トップの「N-BOX」(ホンダ)

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 新車の国内販売台数は1990年前半のピーク時に比べて7割以下に落ち込んでいるが、価格や維持費の安さでシェアを伸ばしているのが軽自動車だ。特に近年、圧倒的な販売台数を誇っているのが、ホンダの「N-BOX」だ。2019年上半期も売れまくり、なんと5年連続トップを快走中だ。だが、そんな“軽の王者”を商品力で脅かすライバル車も続々登場している。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が激戦の軽自動車市場をレポートする。


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 日本の乗用車販売の3分の1以上を占めるようになって久しい軽自動車。大半が国内で売られるという世界的広がりのなさが弱点としばしば言われるが、モデル数は普通車よりずっと少なく、その国内市場での1モデルあたりの平均販売台数は普通車を大きく上回る。


 軽自動車を巡るユーザー争奪戦も激しさを増すばかりだ。7月9日、軽首位のダイハツ工業が発表した新商品、第4世代の「タント」は、そんな競争の熾烈さの一端をうかがわせる力作だった。


 パワートレイン、車体、サスペンションなどをいっぺんに新造し、走行性能、燃費、乗り心地、静粛性を高めるといったハードウェアの作り込みはもちろん、それ以上に驚かされたのはクルマに対するユーザーボイスに応えることへの執念だった。


 その一例はファミリーユーザーからの要望が強いウォークスルーだ。後席に乗せた子供の世話をするための移動は基本的にクルマを降りれば済む話ではあるのだが、駐車場が狭い、雨が降っている、クルマの外を蚊がたくさん飛んでいる等々、クルマを降りずに済ませたいシーンは意外に多い。が、軽自動車は車幅が狭いため、左右席間のウォークスルーはできても前後席間の移動は難しい。


 タントの開発陣は、停車時に前席を後席近くまでスライドさせるシートレールを敷設すれば助手席との間にウォークスルーのスペースを作ることができると考え、それを実現させた。


 エンジニアによれば、普段からそうすればいいんじゃないかというアイデアを持っていたが、従来型の車体では構造上それができなかった。ちょうど車体を新設計する機会に恵まれたため、長大なフロントシートレールを実装することを最初から設計案件として盛り込めたのだという。


 こうした通常使用の使い勝手だけでなく、超高齢化社会に備えたお年寄りの行動の自由を担保するという点について考察と検証を重ねているのも特徴で、マスコミ向けの新商品発表会では大学と共同での研究についてわざわざ独立したプレゼンが行われたほどだった。


 新型タントはクルマに乗り込むためのサイドステップを装備できる。軽自動車はタントのような背高ワゴンでも床が低いのでそんなものは不要……と、普通はこう考える。筆者もそうだったのだが、鈴鹿医療科学大学との共同研究のなかで、実は高齢者にとっては、この高さでもステップがあるのとないのとでは、乗り込み性に大差があることがわかったという。


 運転する、助手席に乗る、後席に乗る──と、身体機能が弱まるにつれて、クルマでの外出は大変になっていくのだが、体が弱っても自分の自由意思で動き回れることが人生の幸福度を上げる。タントにはその一助になるためのものを可能な限り盛り込んだのだと、開発メンバーの一人は語っていた。


 パワートレインと車体を丸ごと新開発して性能を大幅に向上させ、使い勝手も徹底的に磨き込んだという第4世代タント。こう書くともはや敵なしの感があるが、実際はさにあらず。


 全高170〜180cmクラスの背高軽自動車、いわゆるスーパーハイトワゴンというカテゴリーは2003年に登場したタントの第1世代モデルが開拓したものだが、今日、このカテゴリートップに君臨しているのはタントではない。言わずと知れたホンダ「N-BOX」である。今年の上半期は月平均で2万2000台近くを売り上げ、普通車を含めたトータル順位で圧倒的ナンバーワンという怪物モデルだ。


 N-BOXがここまで絶好調好調だったのには明確な理由がある。乗り心地、静粛性、ハンドリングといったクルマの基本性能が軽スーパーハイトワゴンの中で飛びぬけて高かったからだ。


 特に2017年にデビューした現行モデルは、ボディの組み立てに精度と強度の両面で優れる接着剤工法を用いるなど、高級車のような作りを取り入れている。もちろんそんな作り方をすればコストは高くなる。平均売価はライバルの中で最も高いが、「それでも利幅は僅少」(ホンダ事情通)だ。


 それをあえてN-BOXでやったのは、「ホンダ全体のクルマ作りのレベルを上げるための実験という意味合いが大きかった。N-BOXで得られた知見を他のモデルにも活用するのが狙い」(同)なのだという。価格は高いが、乗り比べればごく普通のユーザーにも違いがすぐにわかるという商品力の高さを武器に、ここまで優位に戦ってきた。


 だが、そんなN-BOXの優位もいつまでも続くという保証はない。すでにライバルの追い上げの兆候は見えはじめていた。その最たる例はスズキだ。


 スズキはスーパーハイトワゴンの商品力が弱く、ホンダ、ダイハツに販売実績で大差をつけられていたのだが、2017年末、N-BOXに少し後れて登場した現行「スペーシア」は全車マイルドハイブリッドというエコ性能と家電的ともいえるポップなスタイリングで一転人気モデルに。N-BOXの6割くらいの販売台数をコンスタントに記録している。


 また、前出の第4世代タントは、スペーシアに続く“第二の刺客”と言うべきモデル。さらに遠からず、日産三菱連合が「デイズルークス」「eKスペース」をフルモデルチェンジしてくる見通しである。


 迎え撃つ側であるホンダの首都圏ディーラー幹部は、こう警戒心を露にする。


「N-BOXより価格の安いライバルの商品力が増していることのプレッシャーは小さくない。加えて今後はホンダの1クラス下の『N-WGN』にお客様が流れる可能性もある。販売台数が減って競合モデルとの差が縮まれば、売れているクルマだから自分も……というお客様に対する引きが弱くなる恐れがあります。もちろんN-BOXの販売で手を緩めるつもりはありませんが」


 軽自動車で競争が激化しているのは、スーパーハイトワゴンだけではない。1990年代にスズキが「ワゴンR」で開拓したトールワゴン分野もしかりだ。


 今年3月、日産三菱連合が新型「デイズ」「eKワゴン/eKクロス」を発売した。今年5月に当サイトの記事でもお伝えしたが、日産のスーパースポーツ「GT-R」などのチューニングを手がけたエース級の人材を開発陣に充てるなどして作られた、本気モードのモデルだ。


 それに対してホンダは7月、前出のN-WGNを発表、8月に発売する。渋滞時の追従機能を持つ先進安全システム「ホンダセンシング」の最新版を装備しつつ、価格は抑制的。これまでのホンダ車とは異なり、無駄な装飾を排したミニマルスタイルで攻めているのが特徴だ。


 ここに近い将来、カテゴリーのパイオニアであるスズキ・ワゴンR、及びそのフォロワーであったダイハツ「ムーヴ」の2モデルの新型が加わる。スーパーハイトワゴンに次ぐ売れ筋カテゴリーだけに、激しいバトルは必至であろう。


 気になるのは、乗用車市場における軽のシェアの行方だ。現時点での35%超という数字もかなり高いが、各社が気合の入ったモデルを投入し、マーケットが盛り上がると、今後さらに上昇する可能性が高い。


「以前、軽の比率が40%に届いたことがありましたが、本音を言うとそこまで伸びてほしくない。あまり増えすぎると、軽自動車に対する圧力が再燃しかねないからです。だからといって、競争で手を抜いたら自分が負けるだけなので、常に本気を出さなければならない。普通車の販売が伸びてくれれば心配しなくてすむのですが……」


 スズキ幹部はこのような懸念を示す。


 ここまで述べたように、軽自動車の商品力がこれほどまでに上がったのは、強力なモデルが登場し、ライバルがそれに対して真っ向勝負を挑むという、非常に良い競争が行われているためだ。加えて、軽自動車はグローバルモデルが多数派となった普通車と異なり、ほとんどのモデルが日本の庶民の暮らしに役立つことを最大のターゲットとして作られている。これで税金をはじめとする維持費が安いというのだから、増えないほうがおかしい。


 しかし、軽自動車が増えすぎるとその維持費に対する横槍が再び出てくる可能性は小さくない。仮に軽自動車の税金を上げたところで、普通車の売れ行きが良くなるわけではないのだが、自動車を一大税源としている地方公共団体は手っ取り早い税収確保のほうを重要視しており、経済についてはお構いなしだ。“軽ウォーズ”によるせっかくの市場活性化が増税の火種にならなければいいのだが。

NEWSポストセブン

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