パジェロ捨てた三菱自動車の末路 起死回生の新型車はあるか

8月12日(水)7時5分 NEWSポストセブン

「パジェロ」の生産終了を発表した三菱自動車

写真を拡大

 新型コロナ禍が世界の自動車業界に激震をもたらす中、バブル時代に一世を風靡し、三菱自動車のブランドイメージのけん引役を担ってきたクロスカントリー4×4、「パジェロ」が2021年上半期までに生産終了することが正式にアナウンスされた。パジェロを捨てた三菱自動車は、この先どうやって生き残るのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。


 * * *

 三菱自動車「パジェロ」の第1世代モデルが登場したのは1982年。世界での知名度の高さのわりには40年足らずという短い年月での幕引きは、一瞬強烈な輝きを放って落ちていった三菱自動車の栄枯盛衰と見事に重なる。まさに「乱世、夢幻の如し」といった感がある。


 もっとも、パジェロの生産終了は既定路線。すでに日本では昨年ディスコン(カタログ落ち)となり、他の主要市場でも続々と販売終了となっている。世界はコロナ禍の真っ只中だが、パジェロの終焉はそれとは関係なく、既定路線だった。ゆえに、パジェロが終わりを迎えるという話に驚いたファンは少数派だろう。


 関心は終わったことよりむしろ未来だ。パジェロはお蔵入りになったことは致し方がないとして、三菱自動車はこの先どう経営を立て直し、どんなクルマ作りをしていこうとしているのか。それは三菱自動車というブランドに特別な感情を抱かせるようなパワーを発揮し得るのか。


 三菱自動車は昨年6月の株主総会で「スモール・バット・ビューティフル(小さい、しかし美しい)」という新しいコーポレートメッセージを公表した。理想像としているのは、販売台数は少なくともキラリと光るものを持った高収益企業だ。この時点では、パジェロを作っている子会社、パジェロ製造は存続させたいという考えであったし、世界の主要市場で頑張るつもりであった。


 ところが今年7月27日に発表した今後3年の経営方針を示す中期経営計画は、昨年6月の株主総会の時から大きく方向転換していた。そうさせたのは言うまでもなく“コロナ・ショック”だ。三菱自動車は1996年の北米でのセクハラ事件以来、数多くの企業不祥事を起こし、台所事情は常に火の車。余力がほとんどない状態でコロナ・ショックに直面してしまったのである。


ASEAN頼みの危うさ


 ここで無駄をやっては企業として即死してもおかしくない。そんな三菱自動車が選んだのは、グローバル戦略を諦め、ASEAN(東南アジア)市場に経営資源を集中させるという道だった。今後、新商品の投入はASEANが主体で、その中で先進国でも売れそうなものがあれば水平展開するのだという。


 2019年度の経営スコアを市場別に見ると、まともに利益が出ているのはASEANだけで、日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、パシフィック(オーストラリア、ニュージーランド)など、他の主要マーケットはすべて赤字。ASEANにすがりつきたくなるのは無理からぬところなのだ。


 だが、クルマという商品がどうなるかという観点からは、ASEANへの集中は良い選択とは言えない。モノを買うパワーの重要指標である一人あたりのGDP(国内総生産)の額を見ると、ASEAN諸国は世界の中でも有数の低さ。そこで必要とされるクルマの種類や仕様、価格帯は先進国と大きく異なる。


 過去、日本メーカーがASEAN製のクルマやアジア向けに開発したクルマを売った事例は三菱自動車「ミラージュ」、日産「マーチ」、ホンダ「グレイス」などいくつもあるが、販売面では大敗北に終わったケースが圧倒多数。


 例外は今年発売されたばかりの日産「キックス」やトヨタのピックアップトラック「ハイラックス」だが、前者は今流行りのSUVとハイブリッドの組み合わせ、後者は生産国はタイだが商品自体はアメリカ向けと、それぞれ特有の事情があった。ASEANベースの自動車ビジネスとは、かくも難しいものなのだ。


 世界戦略の拠点としてはおよそ不向きなASEANをマザー市場にすると決意した三菱自動車。今後、日本での三菱車の販売はどうなるのだろうか。


オフロードSUVの可能性


 さすがにパジェロが今のようなクロスカントリー4×4で再登場するようなドラマチックな展開はまったく期待できない。が、今後の商品展開には夢も希望も持てないかというと、そうとばかりも言えない。三菱自動車にとって僥倖なのは、ブランドイメージが市場のボーダーに比較的左右されない、SUVに寄っていることだ。


 現行モデルでは、たとえば東南アジアで売られている「パジェロスポーツ」。ピックアップトラック「トライトン」をベースとするオフロードSUVで、頑強なフレームボディを持ち、真正パジェロほど屈強ではないものの高いオフロード性能を持っている。


 もう1台、これは純粋なSUVではないが、3列シートミニバンの「エクスパンダー」のサスペンションをリフトアップし、SUV仕立てにした「エクスパンタークロス」がある。エンジンが1.5リットルというのがASEAN仕様丸出しだが、ターボエンジンに載せ換えればスタイリング自体はいかにも日本でも受け入れられそうな仕立てになっているため、期待は持てる。


 中期経営計画に盛り込まれたASEAN向け車種の中で日本でも登場が期待できるのは、中型SUVの次期「アウトランダー」だ。


 現行モデルの純内燃機関グレードはほとんど売れなかったため、現行モデルを継続生産し、新型への切り替えは2022年に予定されているPHEV(プラグインハイブリッド)の登場まで待つなどということになるかもしれないが、モデル末期になるにつれて熟成度を高めてきた現行モデルの仕上がり思うと次期型が楽しみなところ。


野性味あふれるコンセプトカー


 残念ながらいにしえの「ランサーエボリューション」、「スタリオンGTO」、あるいは「コルトラリーアート」といった乗用車系は中期経営計画には盛り込まれていない。が、楽しみなクルマは他にもある。2023年以降の新型車予告のシルエットを見ると、次期パジェロスポーツと並んで2台、SUVが示唆されているのだ。


 そのうちのひとつは2019年東京モーターショーに展示されたコンセプトカー「エンゲルベルク・ツアラー」との関連性を強く意識させるもの。


 エンゲルベルク・ツアラーはクロスオーバーSUVということで、フレームボディを持つクロスカントリー4×4ではないが、「エクリプスクロス」のような都市型SUVとは一味違う、三菱自動車本来の野性味あふれるスタイリングを持っているため、もしかしたら日本ではこちらのほうがウケるかもしれない。


 そして最期に消えたパジェロ。これについては今後、新興国でもCO2規制が厳しくなっていくことを思うと、エンジン車のクロスカントリー4×4として復活することはまずないであろう。三菱自動車がBEV(電気自動車)やPHEVを大量に売ってCO2削減量を稼げば少量の環境負荷が高いクルマを売ることもできようが、商業ベースには到底乗らないだろう。可能性があるとすればPHEVやBEVなどのフル電動車としての再登場か。


 コロナ・ショックで大打撃を受け、これまでの再建ビジョンを再修正せざるを得ないところまで追い込まれた三菱自動車。だが、世の中には窮鼠猫を噛むという言葉もある。このへんでぜひ、起死回生の一発を見てみたいところだ。

NEWSポストセブン

「三菱自動車」をもっと詳しく

「三菱自動車」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ