半導体技術者が斬る!日本代表はITのフル活用を

8月13日(月)6時0分 JBpress

表1 2014年と2018年の1次予選の得点内訳の比較

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サッカーW杯ロシア大会決勝、フランス対クロアチア。優勝トロフィーを掲げて歓喜するフランスの選手(2018年7月15日撮影)。(c)AFP PHOTO / FRANCK FIFE〔AFPBB News〕

 前回の記事では、W杯ロシア大会で1次予選を突破してベスト16に進んだ西野ジャパンに対して、サッカージャーナリストたちが高く評価していることを批判した。特に、決勝トーナメント1回戦で、優勝候補の一角のベルギーをあと一歩のところまで追いつめたにもかかわらずロスタイムで逆転負けした試合については、「不思議な負け」ではなく、完全な西野朗監督の采配ミスであり、2012年にエルピーダを倒産させた坂本幸雄社長(当時)を髣髴とさせることを論じた。

(前回の記事)「半導体技術者が斬る!西野ジャパンはエルピーダだ」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53773

 サッカージャーナリストたちの評論には、もう1つ不満がある。今回から、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)とリアルタイムデータ(RTD)の2つのIT技術が導入され、W杯がIT化の道を進み始め、ビッグデータの時代に突入しているにもかかわらず、『月刊フットボリスタ(footballista) 8月号』の久保佑一郎氏の記事以外には、データを定量分析した記事が1つも見当たらなかったことだ。久保氏以外の著名なサッカージャーナリストたちは、従来通りの定性的かつアナログ的な評論を行っているに過ぎない。

 2022年のカタール大会以降では、RTDのようなビッグデータをAIで分析するなど、RTDを有効活用した国が勝ち上がるだろう。そのためには、各国のコーチ陣には、優れたデータアナリストが必要になる。そして、データを定量分析して記事を書くことができないサッカージャーナリストは、淘汰されるのではないかと思う。

 本稿では、W杯ロシア大会で導入された2つのIT技術について説明する。次に唯一、定量的なデータ分析を行った久保氏の記事を紹介したい。最後に、カタール大会で日本がベスト8以上に進出するために必要不可欠な準備について論じる。


IT技術が本格的に導入されたロシア大会

 今回のワールドカップでは、VARとRTDの2つのIT技術が初めて導入された。それぞれについて、簡単に説明する。

(1)ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の制度の導入

 サッカースタジアムには、9カ所のカメラが設置された。そのライブ画像を、VARとなった複数の審判が常時、見張っている。ゴールかどうかの微妙な判定、ペナルテイキック(PK)の有無、レッドカードの一発退場など、試合の結果を左右しかねない重大な局面になったとき、VARが主審に連絡して画像の確認するよう連絡する。主審は、確認の必要ありと判断したら、画像を見にいく。そして、その画像を基にジャッジを下す。

サッカーW杯ロシア大会グループF、スウェーデン対韓国。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)による確認作業を伝えるスタジアムの大型スクリーン(2018年6月18日撮影)。(c)AFP PHOTO / Johannes EISELE〔AFPBB News〕

 このVARは、ワールドカップの試合に、きわめて大きな重大な影響を与えた。PKの判決が覆ったり、反則無しとされた判断がPKになってしまったりした。その結果は、数字に明確に表れている。

 表1は、『月刊フットボリスタ 8月号』の久保氏の記事に掲載されていたもので、2014年のブラジル大会と2018年のロシア大会における1次予選の得点内訳を比較している。

 ここで注目したいのは、ペナルテイキック(PK)によるゴール数が、2014年の9個に対して、2018年は2倍の18個に増えていることだ。これは明らかに、これまで見過ごされていたペナルテイエリアでの反則行為がVARによって発見されたことを意味している。

 FIFAは、1次予選終了後、モスクワで記者会見を開き、VARの効果を報告した(日経新聞6月30日)。それによれば、VAR適用対象の「試合結果を左右する重大な誤審が疑われるケース」は、全48試合で335件あったという。その内、17件について主審がVARのアドバイスに従って画像を確認した結果、14件の判定が覆り、3件は審判の判断が維持された。

 以上の数字から、人間の主審のジャッジは99.3%が的確だったとFIFAは述べた。しかし、14件のジャッジが覆ったことによって、決勝トーナメントの道が閉ざされた国もあれば、逆にVARの恩恵で1次予選を突破できた国もあった。

 おそらく今後は、VARの活用がもっと進むだろう。ゴールの判定、PK、レッドカード以外にも、イエローカードやファールについても、VARを有効活用することになると考えられる。というのは、イエローカードの枚数が、1次リーグ進出のパラメータの1つになってしまったからだ。

 実際、日本はグループHで、セネガルと勝ち点、勝数、得失点差、得点数でも差がつかず、イエローカードの2枚の差だけで、決勝トーナメントに進んだ。

 しかし、筆者が多くの試合を観戦した限りでは、主審によってイエローカードを出す基準がバラバラだった。したがって今後は、主審の属人的な判断を排除するために、イエローカードについても、VARを使うことになるだろう。そのためには、次回2020年のカタール大会では、9個以上(例えば全方位的に20個位)のカメラが設置されるのではないか。

(2)リアルタイムデータ(RTD)の活用が解禁

 VARの導入は大きな話題となったが、RTDの活用については、ほとんどの人が知らないのではないか。今回、筆者が6850円を投じて10冊購入した、W杯ロシア大会を報じる雑誌にも、RTDの活用に言及しているサッカー専門誌は1冊もない。それどころか、VARについても、ほとんど言及がない。ほぼすべてが、定性的かつアナログ的な評論ばかりだ。

 IoTやビッグデータに関心がある筆者としては、RTDの活用こそ、今後のサッカーの趨勢を決めるとまで思っている。しかし、そのような意見を述べたサッカージャーナリストは1人もいない。著名な評論家は、アナログ的で定性的な意見を述べているだけだ。

 唯一、久保氏が、『月刊フットボリスタ』において、データスタジアム(スポーツのデータ解析・配信会社)が提供した数値データを用いて定量的な分析を試みている。その記事については、少しあとで取り上げる。


各チームにタブレット2個が配布された

 サッカーの試合中に、日本チームのボールポゼッション(支配率)が60%であるとか、長友佑都の走行距離が10kmでスプリント回数が45回とか、柴崎岳のパス成功率が90%とか、いろいろ数字が出てくるが、それらはどうやって測定しているのか。

 これらの数字は、2個のカメラの画像から、選手一人ひとりの走行距離、スプリント回数、パスの数、その成功率、各チームのボールポゼッションを、分析ソフトを使って算出している。その一部の数字が、時々テレビに表示されていたわけだ。

 そして今回、FIFAは、各チームにFIFA公認タブレット端末を2台提供した。1台はスタンドから試合を観察するチームのアナリスト向けで、もう1台はベンチにいるコーチングスタッフ向けである。

 このRTDの解禁は、サッカーを革命的に変えてしまう可能性がある。今後は、このRTDを有効に活用した国が勝つことになるだろう。残念ながら、初導入となったロシア大会では、RTDを存分に活用していた国がなかったように感じる。しかし、4年後のカタール大会では、RTDを活用できない国は勝つことが困難になると思う。


ロシア大会のゴールの傾向

 多くのサッカージャーナリストが、「ロシア大会はPKが多かったように思う」と定性的に論じているのに対して、久保氏は『月刊フットボリスタ 8月号』の記事で表1を示すことにより、前回リオ大会と比較して、PKが2倍に増えていると指摘している。

 この表からは次のことも読み取れる。

 第1に、4年前と比較して、シュート数が1292本から1168本に減り(10%減少)、ゴール数も136個から122個に減った(約10%減少)。つまり、シュート数も少なく、それに比例してゴール数も少ない大会だったと言える。

 第2に、流れの中でのゴール数が91個から73個に減り(約20%減少)、セットプレーからのゴール数が45個から49個に増えている(約10%増加)。

 これは次のように解釈できる。流れの中のゴール数においては、ミドルサードからのゴール数が26個から17個に減少し(35%減少)、デイフェンシブサードからのゴール数も35個から16個に減少した(55%減少)。

 なお、下の図に示したように、サッカーコートを3分割し、左から右に攻めるチームに対して、ゴールキーパーがいる側の1/3をデイフェンシブサード、中央の1/3をミドルサード、相手側のゴールがある1/3をアタッキングサードと呼んでいる。

 さて、ミドルサードとデイフェンシブサードからのゴール数が激減したということが何を意味するかというと、今回のワールドカップでは、デイフェンスラインとフォワードの間を非常にコンパクトに保ってゴールに攻めこむ傾向があったということである。つまり、攻めるときは、FWはもちろん、MFもDFもすべてが相手陣営に入り込み、ゴールをうかがう傾向があったということだ。

 その結果、フィールドプレーヤー10人対10人が非常に狭いエリアで攻防を繰り広げるため、スペイン、アルゼンチン、ブラジルなど、ショートパスとドリブルを武器にする国は、ゴールを挙げるのに相当の苦労をした。というのは、もはや狭いエリアの中にはスルーパスを出したり、ドリブルする余地が無くなってしまったからだ。

 その反動として、PKやFKなど、セットプレーの得点が増えた、というより、セットプレーに頼らざるを得ない状況が生まれた大会だったと言える。

 久保氏の記事には、他にも面白いデータが掲載されている。例えば久保氏は、ロシアW杯に出場した32カ国について、1次予選の3試合平均のボール支配率(%)、および、攻守の切り替え回数(トランジション)の平均値を算出して、プロットした。多くのサッカージャーナリストは「ボールポゼッションの時代は終焉した」等とロシア大会を総括しているが、久保氏は以上のデータを基に、やはりボール支配率が高い方が、決勝トーナメント進出の可能性が高いことを導き出している(詳しくは月刊フットボリスタ 8月号の久保氏の記事をお読みいただきたい)。


日本代表の戦い方の特徴

 さて、久保氏の記事には、日本代表の特徴がよく分かる極めて興味深い表が掲載されている。久保氏がまとめた、1次予選における日本代表、1次予選を突破した16チーム、1次予選で敗退した16チームのさまざまな数値データ(3試合平均)の比較がそれである(表2)。このデータを観察すると、日本の特徴、長所、短所が見えてくる。

 まずボール支配率については、1次予選突破チーム(53.2%)の方が、敗退したチーム(46.5%)より高い。その中でも、日本代表のボール支配率は、群を抜いて高い(55.9%)。

 次にパス数や成功率では、1次予選突破チームの値(489.79本、82.4%)が、敗退チーム(410.30本、78.2%)より高い。日本代表のパス数と成功率は、527本、83.6%と、すべての中で最も高い。

 ここから、日本代表の1次予選の戦い方の特徴は、ボールを支配し、パスを回すことに特徴があったと言える。

 攻撃の形としては、日本代表は、ドリブル数が最も少なく(8回)、シュート数も10本と最低数であることが分かる。ただし、シュートの決定率は13.3%と、1次予選突破チーム平均値(12.6%)や敗退チームの平均値(6.4%)より高い。

 また、タックル数が最低であるが(19.33回)、その結果、ファウルの数が最も少なくなっている(9.33回)。これが、イエローカードが少ない原因となっており、それが奏功して、1次予選突破できたと言えそうだ。

 つまり日本代表は、ドリブルなどの仕掛けが少なく、タックルも少なくファウルも少ないが、ボールを支配してパスを回して機会をうかがい、少ない決定機を確実に決めていたと言える。


日本代表の短所とは

 日本代表の欠点は、空中戦で負けていることにある。日本の空中戦の勝率(47.2%)は、1次予選突破チーム(52.2%)はもちろん、敗退チーム(47.8%)より低い。

 特に、敵陣ペナルテイエリア(PA)内での勝率(42.9%)、自陣での勝率(46.6%)、自陣PAでの勝率(41.2%)は、1次予選突破チームに敵わないのはもちろんのこと、1次予選敗退チームにすら劣っている。

 特筆すべきは、自陣PAでの空中戦の勝率(41.2%)が、1次予選突破チーム(52.1%)や敗退チーム(47.7%)よりも、極めて低いことにある。これはつまり、日本代表は、自陣PAにロングボールを放り込まれると空中戦で負けてしまい、点を取られる可能性が高いことを意味している。

 他国と比較して長身の選手が日本には少ないという点を考慮しなくてはならないが、ロングボールに対する戦術が未熟であることが致命的な欠点であるように思われる。


日本代表に望むこと

 データから日本代表の特徴、長所、短所を総括すると次のようになるだろう。

 日本代表は、ボール支配率が高く、パスを回して機会をうかがい、シュート数は少ないが、シュートの決定率は高い。またタックルが少なく、したがってファールも少ない。

 しかし、得点を増やすためには、もっとドリブルで仕掛け、もっとシュートを打たなければならない。パスを回しているだけでは、ゴールは生まれないからだ。

 そして、徹底的に強化しなくてはならない点は、空中戦での勝率を高めることである。特に自陣PAの空中戦の勝率が非常に低いことは大きな問題だ。選手のサイズの問題はどうしようもないが、それを補うために戦術で負けないように工夫するしかない。

 さらに日本代表には、RTDを十二分に活用してほしいと思う。例えば、2022年に開催されるカタール大会に向けて、対戦相手のチームや選手、および、日本代表候補選手のデータをストレージしたデータセンタを設置してはどうか。このビッグデータと、試合中にFIFAから送付されるRTDを用いて、サッカー専用に開発したディープラーニング機能付のAIが、瞬時に戦略を立案する。この戦略をコーチ陣に送信し、監督が選手に指示を出すのだ。

 W杯は、ビッグデータの時代に突入した。ならば、そのビッグデータを有効活用して、かつ可能性を高める努力を、日本サッカー協会には期待したい。

筆者:湯之上 隆

JBpress

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