金20個でも"若者離れ"は避けられなかった…男女50歳以上ばかりが熱狂した五輪中継で一番見られた「球技」

2024年8月13日(火)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alexandros Michailidis

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パリ五輪で金メダル20個を獲得した日本代表。柔道、レスリング、体操といったお家芸に加え、フェンシング、水泳の飛び込み、馬術、ブレイキンといった競技での活躍も光った。時差8時間で深夜から早朝に集中したテレビの生中継で視聴者はどのように五輪を楽しんだのか。次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんが総括した——。
写真=iStock.com/Alexandros Michailidis
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パリ五輪が終わった。


日本人アスリートによるメダルラッシュで、テレビにくぎ付けになった視聴者も少なくなかっただろう。ところが、中継番組などの見られ方を分析すると、テレビ局間や競技間で明暗が生まれていたことがわかる。またIOCによる若年層狙いの成否も浮かび上がる。7月26日から8月9日までの視聴データから、多くの人々が燃えたパリ五輪を総括してみたい。


■開会式での特徴


夏季五輪史上はじめてスタジアムの外で開会式が行われたパリ五輪。


評価は分かれる部分もあるが、街全体というキャンバスに光と色そして歴史と芸術で彩った演出は、フランスらしい記憶に残る祭典となった。


開会式では、2度の放送の関係が印象的だった。


NHKが午前2時台から4時間ほど生中継をした。一方、テレビ朝日は直後朝8時から3時間にまとめて伝えた。


スイッチメディア「TVAL」データから作成

フランスと日本の時差は8時間。


このため頑張って起きてテレビと向き合うか、無理をせず自分のペースで見るのか、人々の判断は分かれた。結果は、いち早く深夜早朝に放送されたNHK生中継の個人視聴率は、皆が起きだす8時からのテレ朝番組の半分ほどにとどまった。睡眠を削ってまでは生で見なかったのだ。


●男は深夜の「生中継」にこだわった

ただし、それは視聴者の平均値。


実際には、属性で大きな差が生まれた。まず際立つのが男女差。T層(13〜19歳)から3層(50〜64歳)まで、ことごとく男性が女性を上回った。中にはM1(男性20〜34歳)のように、テレ朝の録画版とほぼ同数の青年が早起きしてリアルタイムに堪能した層もあった。4層(65歳以上)だけ例外で女性の視聴率が高いが、それ以外の層では男たちが生放送のために起き、女たちはマイペース(例えば、朝食を摂りながら)で楽しんだようだ。


●10代男子も食いついた

性差だけでなく、年齢差も明確だった。


さすがにC層(4〜12歳)は眠さに勝てなかったようだが、MT(男性13〜19歳)以降はリアルタイムにこだわった。中高生男子も起きない親を無視して、一人でテレビ画面と向き合った少年が多かった。そしてM1がピークで、年齢が上がると共に男女とも無理をしなくなっている。


オリンピックだからなのか、深夜早朝という非日常ゆえなのか、男性の燃え方が顕著だった。


●関心の持ち方でも差

もう1点、興味深いのが関心のあり方による差。


さすがに「スポーツに関心あり」層は生中継派が多かった。特に20代以下では、テレ朝録画版の1.6倍に至った。こだわりの強さが表れた。


次に「ダンスに関心あり」層。


「スポーツに関心あり」層の平均を上回った。どんなパフォーマンスが見られるのか、スタジアムを飛び出したイベントの完成度は如何ほどか、芸術性へのこだわりが視聴率にも表れた。


さらに「国際問題に関心あり」層が気を吐いた。


政治・経済・社会の各問題に関心あり層より多い。200カ国以上および難民選手団が参加する大イベントには、海外通も寝ていられなかったようだ。


以上のように開会式1つとっても、パリ五輪の特徴は視聴率に表れていたと言えそうだ。


■テレビ局間の明暗


次に8月9日までの競技中継の見られ方から、テレビ局間の明暗を分析してみよう。


GP帯(夜7〜11時)放送の個人視聴率を比較すると(以下同)、NHKの平均が6%弱と他局を大きく引き離した。


スイッチメディア「TVAL」データから作成

2位はNHKの4分の3にとどまったTBS。


3位は7割強のテレビ朝日。4位がテレビ東京で6割強。ほぼ同じ割合で5位となったのが日本テレビ。そして最下位はNHKの半分に及ばなかったフジテレビだ。


数字の多寡は、各局がどの競技を中継したのかによる。


NHKは一番人気でかつ、負けてしまったものの日本が熱戦を繰り広げたバレーボールの生中継を多く放送し、平均値を押し上げた。


一方で民放は1局あたりの中継が極端に少ない。


ほぼ毎日順番に担当しており、1局が期間中に生中継したのは数日に過ぎない。その少ない日数にどんな競技を受け持ったのかが明暗をわけた。


●年層とテレビ局の関係

ただし年層別の各局数字(GP帯)を見ると微妙な問題が見えてくる。


確かにNHKはトップだったが、3〜4層(男女50歳以上)で他局に大差をつけた結果だったことが浮かび上がる。2層以下(男女49歳以下)の各層では、テレビ局間の差は大きくない。


例えば個人全体でNHKの半分に及ばなかったフジ。


コア層(男女13〜49歳)では、両局の差は6割に縮み、19歳以下では7割となる。つまりコンテンツとして見ると、オリンピックは中高年のものとなっており、若年層ほど関心が薄れている。


これに対してIOC(国際オリンピック委員会)は若者対策に力を入れている。


スケートボード・BMX・ブレイキンなど新競技を正式種目に組み込んでいるのだ。それでもテレビ同様、オリンピックにも若者離れの波が押し寄せていることは否定できない。


●各局分担の仕組み

実はオリンピックは特殊な仕組みで放送されている。


NHKと民放連で作るJC(ジャパンコンソーシアム)が、夏と冬の大会をセットで放映権を購入している。今回の金額は、22年の北京冬季五輪と24年のパリ夏季五輪の組み合わせで440億円に上った。これをNHK7割程、民放3割程で分担している。この民放3割は東京キー5局で分担しているので、1局あたりだとNHKの10分の1に満たない負担額となる。


これが生中継に如実に表れる。


NHKは放送が毎日あり、しかも人気競技の中継が多い。視聴習慣がつくことも含め、好調な視聴率となるゆえんだ。


ところが7対3割合の分担金を反映したくじ引きで担当中継が決まる民放各局は、運次第で人気競技を扱えない。しかも今回で言えば最下位に沈んだフジは、人気競技がバスケットボール女子の第3戦くらいで、良い時間に放送したにも関わらず、個人視聴率2%前後に終わった枠が3つもあった。


実は五輪中継は、毎回NHKの一人勝ちが続いている。


民放は高騰する放映権料に対して、視聴率は振るわない。結果として2012年のロンドン大会以降、赤字が続いているという。それでもJCから降りられないのは、オリンピックという国民的イベントを放送するプライドの問題と、生中継以外の情報やバラエティ番組などで五輪の映像が使えなくなるのは困るという事情からだ。


視聴データから判断すると、同システムはボチボチ見直しが必要と思われる。


■競技別の明暗


全体状況とは別に、競技別にも明暗がわかれた。


赤の棒グラフで示す個人視聴率(GP帯)の上位を見ると、男子準々決勝(5日、対イタリア)、男子予選(7月31日、対アルゼンチン)、女子予選(同)などベスト5のうち4位までをバレーボールが占めた(図表3)。球技の中でもゲーム展開がスリリングでテレビ向きであること、人気選手が活躍していること、そして日本が熱戦を繰り広げた点が大きかった。


スイッチメディア「TVAL」データから作成

他には柔道や卓球が気を吐いた。柔道90kg級の村尾三四郎選手(銀メダル)の準々決勝(7月31日)は個人視聴率5位、卓球男子団体3位決定戦(9日)は同6位だった。日本が強く知名度の高い選手が出場してなど、テレビ的な要素のある競技が上位に入った。


一方で意外に低迷した競技もある。


放送時間が深夜早朝となったもの、期待通りにベスト4に進めなかった種目などだ。サッカー男女、バスケット男女などが残念な結果に終わっている。


一方で明るい兆しも見えた。


IOCが若者対策として正式種目に組み込んだ競技が、目論見通り若者にリーチしていた点だ。例えば大逆転で2連覇を果たした堀米雄斗のスケートボード男子ストリート。個人視聴率では12位だったが、コア層では5位に入った。


また個人視聴率では振るわなかったBMXリースタール。


「スポーツ好き20代以下」の視聴率は5位に浮上し、含有率では「スポーツ好き60歳以上」を上回った。やはりオリンピックには、新たな波を作り出す余地があると言えそうだ。


●ロスオリンピックに向けて

以上が8月9日までの視聴データからの総括だ。


開会式の例のように、時差があっても視聴者を惹きつける演出はあり得る。また競技人気にばらつきがあるものの、中高年コンテンツになり始めている五輪を、若者向けに進化させる余地は残る。


一方でテレビ局間の明暗の問題が残る。


長年続けてきたJCという慣習は、放映権の高騰と視聴率の低下という現実を前に、見直す余地があるのではないだろうか。


米国ではNBCが1局で独占的に放送している。しかもインターネットに注力し、莫大な権利料を支払いつつも黒字を保っているという。新たに最適な伝え方を工夫すべきだろう。


次回、2028年のロス五輪では、さらなる新種目が登場する。


TBSが長年放送してきた『SASUKE』が、「キング・オブ・スポーツ」と呼ばれる近代五種の中の馬術に代わって入る予定だという。時代と共に変化・進化するオリンピック、世界的なスポーツの祭典がより面白くなることを期待したい。


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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)

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