「俺は絶対にああはならない」20~30代の時に上をバカにしていた正義感の張本人が"成り下がってしまう"理由

2024年8月13日(火)7時16分 プレジデント社

■自分がダメ上司にならない方法とは


最後は、「情報の兵糧攻め」です。実は上司を「絞め殺す」のは簡単で、情報を与えなければいい。現場の情報というのは、上に立つ人に届いているようで届いていないことが少なくありません。その点、ミドルは現場の情報にもっとも通じているし、上からの情報も下りてくる有利な立場にいます。そんなミドルの特権として現場の情報を出し渋りしていると、ダメ上司はだんだん現場のことがわからなくなってくる。上に立つ人間からしてみると、自分の知らないところで物事が進むことほど、怖くて嫌なことはありません。おそらく「どうなっているんだ」と話を聞こうとしてくるでしょう。


そこでタイミングを見計らい、情報を取捨選択し、経営会議に上げてほしいようなことを伝えると、真剣に取り合ってくれる可能性が高くなります。


このようにダークサイド・スキルというのは、会社のヒエラルキーすらひっくり返してしまう影響力を発揮します。これを使いこなすことができるようになると、自信がつくのは間違いない。しかしそこで慢心してしまうと、気がつけば自分自身がダメ上司になっているのが、組織の恐ろしいところです。


いまのダメ上司だって、20〜30代のときは上のことをバカにして、「俺は絶対にああはならない」と言っていたはず。それなのに、気がついたら自分もダメ上司の一人になっている。なぜならメンバーシップ型の終身雇用制度では会社のなかにいるだけで生き残れたので、プロフェッショナルとして自立するジョブ型の働き方の訓練ができていないから。だから血気盛んなころは「自分が役員になったらあんなことは絶対しない」と言っていた人でも、いざ自分がそうなったら、自己保身に汲々とするダメ上司に成り下がるというわけです。


いまのダメ上司たちがそんな働き方しかできないのは、会社側にも責任があるけれども、私は個人にも責任があると考えています。構造的な人手不足である日本経済は、今後ますます雇用の流動化が進むでしょう。ダメ上司になる前に、ジョブ型として通用する自立型人材を目指せばよかったのです。もしこの先、ダメ上司になりたくないのなら、いまからでも自立型人材を目指してください。


自立型人材、つまりプロフェッショナルとしての道を行くというのは、どこでも通用する汎用的なスキルセットを積み重ねていくということ。その意味では、自分がこうあるべきと思うことは、たとえ上司相手であっても自己主張できるようになるべきです。


たとえば10人ぐらいの会議で、偉い人がずらっと座っていて、「これ、どうしようか」みたいな話になったときに、一番末席の人がパッと手を挙げて、「私はこう思います」と言えるかどうか。この訓練を若いうちからしなければいけない。


そして「私はこう思います」と言えたとしても、それが必ずしも当たるとは限らないし、場合によっては、「それは違う」と言われることもあります。しかしそんなふうに打たれる経験も重ねなければいけない。そうでないと自分が偉くなったとき、結局何も判断できないダメ上司になっている、というパターンが非常に多いのです。


写真=iStock.com/maxsattana
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maxsattana

■「自分が社長だったら」と思考訓練しておく


「自分が上司(あるいは社長)の立場だったらどうするか」と考えることも重要です。自分の頭のなかの思考訓練ですね。常にそう考える習慣を持つと、「案外、自分が言っていることってちっぽけなことばかりだな」と気づくでしょう。つまり、少し高いところから全体を見渡す訓練をしておく。


50歳で役員になったら全知全能で、何でも好き勝手できると思うかもしれませんが、上に行けば行くほど、いろいろなしがらみも発生します。そんな状況で思い切った決断を下すには、若いころから意思表示をしたり、自分の決断による失敗をリカバリーしたりしておく必要がある。そういう経験をせずに来てしまうと、いざ自分がある程度の地位になったとしても、だいたい何もできないものです。


あとは、社外のネットワークを活用すること。客観的な意見をもらうことも重要ですし、時には会社の人に相談できないこともあるでしょう。それこそ「この会社にいるべきかどうか」とか、「上司を倒したいんだけど、どうしたらいいか」というような話は、社内ではできません。


しかし、いまの会社に新卒で入ってずっとプロパーでやってきた人は、高校・大学時代の友達はいるけれど、同じビジネスリテラシーを持って、コンテキストを理解したうえで相談できる友人がいないことが多い。つまり、リアルかつ有効なアドバイスをしてくれる友人があまりいません。ですから意識的に、社外にネットワークを持っておいたほうがいいでしょう。


仕事というのは、きれいごとだけではすまされません。ダークサイド・スキルを用いても、上司とそりが合わないとか、希望が通らないこともあるでしょう。そんなときは異動を願い出てもいいし、転職を考えるのも一つの手だと思います。プロフェッショナルとして自立した働き手であれば、よい転職先も見つかるでしょう。結局、個人個人がプロフェッショナリズムを持った働き手になることが、ダメ上司問題を解決する一番有効な対策なのです。


上司も部下も、ただ漫然と会社にいるだけでなく、「自分はこの職業人生で何を成し遂げたいのか」「どんなことで世の中に貢献したいのか」「生きてきた証しをどんなふうに残したいのか」を真剣に考えてほしいと思います。新卒の段階では無理だとしても、年齢を重ねるにしたがって、自分なりの働く「大義」や「志」をちゃんと打ち立てておくべきでしょう。自分の「大義」を果たすために、持っておくべきスキルセットがあるなら、それを身に付けるよう努力すればいい。もし自分の大義が会社の目指す方向と合っていないとしたら、そこはもう潔く出て、合っているところに行けばいいのです。


■「他責」にしていないか突き詰めて考えてみる


では、どういう基準で「合っている」「合っていない」を判断すべきなのか。


私が「自責・他責問題」と呼んでいる考え方があります。たとえば何か自分を悩ませていることがあるとする。それは、どうしても変えられないことなのか。たとえば創業家が代々にわたり経営を行っている会社で、いま30代のジュニアがいて、次世代を継ぐことが明確にわかっている。そんな会社で「社長になりたい」と思っても絶対無理でしょう。こんなふうにもう与件として絶対に変えられないこともある。


その一方で、「上司がダメだからこの会社はよくならない」というのは、本当に与件なのか。ただ人のせいにしているだけではないのか。変えられる余地があるのならば、自分がどういうふうにすればこの環境を変えることができるのか。本当にすべて考え尽くして、打つべき手を全部打っているかを改めて考えることです。自分でできることがあるのに、それを怠って他責にしていないかどうか。そこを徹底的に突き詰めて考えているかどうかが最後は見極めのポイントになるでしょう。


他責にしている人間は、結局、最後まで逃げ続けてしまうものです。「この業界や会社が悪い」とか、自分に都合のいい言い訳を作って、次から次へと青い鳥を探しに行ってしまう。


会社にいれば何となく平穏に暮らせる時代はもう終わりました。そうなれば個人が自己の価値観で自立するプロフェッショナル性を持たなければいけない。要は、どこに行っても、「自分が職業人としてやり遂げたい仕事はこういうものだ。それとこの会社が合わなくなれば、自分は合うところに行くんだ」という覚悟を持っておかないといけない。そのためにはどこへ行っても通用する、ポータビリティスキルを担保しておく必要があります。


いつ会社を辞めてもいいし、どこへ行ってもやっていける人間を目指す。それこそが究極のダークサイド・スキルかもしれません。


※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月2日号)の一部を再編集したものです。


----------
木村 尚敬(きむら・なおのり)
経営共創基盤(IGPI) 共同経営者マネージングディレクター
慶應義塾大学経済学部卒業。IGPI上海董事長兼総経理。IGPIでは、製造業を中心に全社経営改革(事業再編・中長期戦略・管理体制整備・財務戦略等)や事業強化(成長戦略・新規事業開発・M&A等)など、さまざまなステージにおける戦略策定と実行支援を推進。著書に『ダークサイド・スキル』(日本経済新聞出版社)など。
----------


(経営共創基盤(IGPI) 共同経営者マネージングディレクター 木村 尚敬 構成=長山清子 撮影=大崎えりや)

プレジデント社

「正義感」をもっと詳しく

タグ

「正義感」のニュース

「正義感」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ