トランプの北朝鮮挑発に見る、リーダーの言葉の重み

8月14日(月)10時30分 Forbes JAPAN

ミーティングの席で、最高経営責任者(CEO)が経営陣に向けこう話す。

「今回は厳しい四半期だった。売り上げは落ち、主要競合相手は急成長を遂げ、わが社の利益は落ちている。これから数か月は真剣に、新たな市場を検討しなければならない」

ここで、CEOの言葉を1か所変えてみよう。

「今回は厳しい四半期だった。売り上げは落ち、主要競合相手は急成長を遂げ、わが社の利益は落ちている。これから数か月は真剣に、コスト削減を検討しなければならない」

「新たな市場」を「コスト削減」に置き換えただけだが、2つの言葉は全く違う影響を与えている。片方はチームに活力を与える。だがもう片方が生むのは寒気だ。

私が言いたいのは、リーダーの言葉は常に重要だということ。従業員は、リーダーの振る舞いを日頃からしっかりと観察しているのだ。リーダーの言葉が重要でないわけがない。

この感情が100万倍になる状況を想像すれば、北朝鮮を巡って現在私たちが置かれている混乱した状況を理解できるだろう。

「炎と激しい怒り」

先日ある会合で北朝鮮問題について質問を受けたドナルド・トランプ米大統領は、予定にはなかった即席の返答をし、北朝鮮との間に不必要な対立を生んでしまった。「北朝鮮はこれ以上、米国を脅すべきではない。世界史上最大の炎と激しい怒りに直面するだろう」と話したのだ。

この「炎と激しい怒り」という表現が金正恩本人よりも金正恩らしい言葉という点はさて置き、これは慎重で自制心を持った米大統領という印象を全く与えない発言だ。

その後は予想通り、北朝鮮はさらに激しい警告と脅迫の言葉で応じ、アジア諸国や世界のその他の地域でも懸念と緊張が高まった。これらは全て、たった数語の軽率な言葉の選択がもたらした影響だ。

これは不動産営業ではない

トランプは過去の事業経験から、自由で大げさなコミュニケーション方法に慣れている。誇張表現はお手のもので、不動産販売や人気リアリティー番組スターとしてのテレビ出演、自分のブランド構築にも慣れている。彼は、自身の役に立つこうしたコミュニケーション手法を今まで効果的に活用してきた。

しかし、繊細な国際情勢の場面でこうしたコミュニケーション手法を選ぶことには1つだけ問題がある。これは不動産営業ではないのだ。

ここでトランプが行うのは統治行為だ。大統領の発するメッセージは、敵・味方の双方にとって生死を左右する影響力を持つ。自分では誇張しているだけのつもりでも、対立国にはそれが完全に理解できないかもしれない。

世界で最も大きな力を持つ人物の一人である米大統領に求められるコミュニケーション手法は、不動産王やリアリティー番組のスターのそれとは異なり、制御された思慮深いメッセージの発信だ。これが毎日、24時間要求される。

リーダーの言葉は常に重要だ。口調や言葉の微妙な違い、自制心が問題となる。巨大な権力には、同様に巨大な責任が付いてくるのだ。

先日、退役大将であるジョン・ケリーが首席補佐官に指名されたことで、トランプの制止役として彼以外に適任はいないという楽観的な空気が生まれた。トランプの手綱を引くことができる人間がいるとすれば、それはタフで年配の大将である彼だろう、と。

しかし、馬は瞬く間に柵から逃げ出し、「炎と激しい怒り」のように制御不能な状態に陥った。これを考えると、この馬はこれからも好き勝手に歩みを進めそうだ。

Forbes JAPAN

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