常識破りのEV開発モデルはこうして生まれた

8月14日(月)6時0分 JBpress

小阪金属工業での「トミーカイラZZ」製造の様子(写真提供:GLM、以下同)

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 今、世界の自動車産業は転換期を迎えている。2015年、中国は、エコカー(EV、PHEV、FCV)の生産台数においてアメリカを抜き世界のトップとなり、2016年10月には、「2020年500万台販売、2030年1500万台販売」というロードマップを発表した。

 一方、アメリカでは、2017年4月、EVベンチャーのテスラモーターズが時価総額でゼネラルモーターズを超えた。2018年にはカリフォルニア州で「排ガスゼロ規制」が強化され、一定の販売を義務づけるエコカーの対象から、中国同様HVが除外されることになる。

 こうした世界的潮流の中、各国のベンチャー企業が続々とIoT、AIなど先端技術を搭載した新型EVを発表している。しかし、乗用車カテゴリーにおいてEVを量産化し得ているベンチャー企業となると、今なお世界に2社しかない。アメリカのテスラモーターズと日本のGLMである。

 GLMは、2010年、京都市に設立された、資本金32億2914万円、従業員数23人(内技術者16人)の企業(2017年6月27日時点)であり、完成車事業とプラットフォーム事業を展開している。

 完成車事業は、スポーツEV「トミーカイラZZ」が現在販売中であるほか、2019年発売予定のスーパーカータイプEV「GLM G4」があり、G4はグローバル市場で1000台の販売を見込んでいる。

 一方、プラットフォーム事業は、EV事業に新規参入したい国内外の企業に対して、GLMの開発プラットフォームを使って、EV作りのノウハウを提供するビジネスである。

 今回は、創業経営者の小間裕康氏(40)のこれまでの歩みと、GLMのビジョンについて明らかにしたい。

(前編はこちら)「京都発EV、隠し味は和食の『伝統の技』だった」


事業家として成功後、京大MBAコースに入学

 小間氏は、甲南大学法学部在学中にコマエンタープライズを創業した学生起業家である。高校時代に自己流で始めたピアノ演奏が好評で、人前で弾く機会が増えたのを機に、各種イベントなどへの演奏家派遣ビジネスを始めたという。やがて、家電業界へのスタッフ派遣など業容を拡大し、年商は20億円に達した。

「しかし、ある時、スタッフが派遣先で問題を起こし、会社の信用を失わせる事件が起きたのです。その時、事業家だった祖父から『お前に徳がないからだ。臭いものには蝿がたかる。いいものには蝶が来る。お前がいいものにならないと事業はうまくいかない』と言われ、徳を積んで器を広げる重要性を痛感しました」

 この経験から生まれたのが、「重礼積徳」(礼を重んじて徳を積む)という前回ご紹介した経営哲学である。

 一方、事業が発展するにつれ、小間氏の折衝相手は、担当者から課長、部長そして社長と上がっていき、次第に相手の話す言葉が理解できなくなったという。経営について体系的な学習の必要性を感じた小間氏は2年間の受験勉強を経て、31歳で京都大学大学院経営管理教育部(MBAコース)に入学。ここで京都大学ベンチャービジネスラボラトリーの「京都大学電気自動車プロジェクト」と出逢い、参画する。

「産官学連携のプロジェクトで、私はバックオフィス(事務方)を担当しました。『京都の部品メーカーが集まればEVの基幹システムを作ることができる』と担当の教授が言っていたこともあり、教授の定年退官とともにプロジェクトが終了する時に、私が事業化の提案をし、それを実施することになったのです」

 2010年、グリーンロードモータース(現GLM)の創業である。


コンバージョンEVでの挫折 

 その当時、業界内では、EVの大量生産のビジネスモデルが続々打ち出されていた。

 ガソリン車の製造が「垂直統合×すり合わせ」を基本としていたのに対し、EVの製造は、PC同様に、「水平分業×組み合わせ」と考えられていたからである。

 小間氏は、トミタ夢工場(2003年倒産)の伝説の名車「トミーカイラZZ」のガソリンエンジンをモーターに転換したEV(コンバージョンEV)を生産すべく開発を開始。2010年12月には試作車が完成。「幻の名車がEVとして復活」と地元は沸き立ったという。

 しかし、その性能は商品として満足できるものではなかった。トミーカイラZZ本来の面白さを活かし切れず、チョロQやゴーカートのような出来だったからである。

「モーター、バッテリー、車台などの『組み合わせ』でEVは簡単に作れるという当時の世間の常識が間違っていることを思い知らされました。不要とされていた『すり合わせ』の重要性を悟ったのです」

 コンバージョンEVではなく、ゼロからEVを作り直す決意を固めた小間氏のもとに力強い仲間が加わる。当時、トヨタ自動車のレクサスボディ設計部で設計業務を担当していた藤墳裕次氏(44)である。周囲の猛反対、親の勘当などを振り切っての覚悟の入社であった。


資金難、サプライヤーからの門前払いを乗り越えて

 しかし、開発は難航を極め、部品メーカーが部品を売ってくれない苦労も重なった。小間氏が派遣業を営んで蓄積していた開発資金も底をついた。ベンチャーキャピタルなどを回るものの相手にされない。そんな時に巡り合い支援してくれたのがエンジェル投資家だったという。

「ソニー元会長の出井伸之氏やグリコ栄養食品・元会長の江崎正道氏でした。『重礼積徳』を意識し、ずっと大切にしてきたものが彼らの心の琴線に触れたのではないか、何か光るもの、『徳』を感じてもらえたのではないかと思います」

 藤墳氏もその力をいかんなく発揮した。「彼は、メーカーが部品を扱うに当たっての考え方について、サプライヤーに対してエビデンスを示して説明する能力がありました。サプライヤー側はEVに求められる仕様・定義をはっきり知ることができ、そこに価値を感じてくれて、彼らもまた積極的に情報開示をしてくれるようになったのです」

 同社の圧倒的強みである「GLMエコシステム」(同社独自の水平分業システム)は、こうした関係性の中から構築されていく。

 艱難辛苦を乗り越えてEV版の「トミーカイラZZ」が完成し、委託先の小阪金属工業での量産化にこぎつけたのは、2015年10月のことであった。


“未知の移動体”創造へ

「水平分業×すり合わせ」という、業界常識を覆す開発モデルを創出し、それを武器に、EVベンチャーとしてテスラモーターズと並ぶ存在となったGLM。

 自社の開発プラットフォームを使って、EV作りのノウハウを提供する「プラットフォーム事業」もまた、系列の壁を越え、国境を越え、新規参入予定の異業種までも対象にして実施する例は世界的に稀有と言ってよい。

「重礼積徳」の経営哲学をベースに、顧客・従業員・サプライヤー・地球環境など全方位に価値創造していく同社だからこそ実現できた「現在の立ち位置」と言えよう。苦しい時には必ず支援者が現われるし、しかも、それにきちんと報いていくからだ。

 巨大自動車メーカーとの正面対決を避け、まずは中規模少量生産のスポーツEV/EVスーパーカー市場で地位を築こうとするGLM。将来的には、「プラットフォーム事業」を通じて大量生産のノウハウを獲得したいという。そしていずれは、小規模生産から大規模生産まで、どんなニーズにも対応し、どんな特殊な使用シーンにも対応できる会社を目指すという。「たとえば、“物流サービスと融合したEV移動体を創出したい”そんな声にも対応できる会社にしたいですね」と小間氏は目を輝かせる。

 自動車も物流も歴史的転換期となる向こう10年、小間氏はどんな「移動体」で世界をあっと言わせるのだろうか。今から楽しみである。

筆者:嶋田 淑之

JBpress

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