「長寿日本一」松川村の"幸せ老後"の秘密

8月14日(月)9時15分 プレジデント社

松本市からクルマで約40分。そこに「男性長寿日本一の村」がある。男性の平均寿命が82.2歳。しかも平均寿命以上のお年寄りの幸福度は2割が10点満点、5割が7点以上と高い。移住促進のために「1万人復活特命係」をもうける長野県松川村の取り組みをお伝えしよう——。

■長寿を家庭から地域に広げる健康ボランティア


北アルプスの麓にある長野県松川村は、松本市から国道147号線を北上して約40分。道路の左手には、稲が青々と育った田んぼが並ぶ。その先には北アルプスの山々をのぞむ安曇野の原風景の広がる、全国でも珍しい野生のスズムシが生息する田園の村だ。



松川村が脚光を浴びたのは2013年。厚生労働省が発表した市区町村別平均寿命で、男性の平均寿命が82.2歳で1位になったからだ。女性は87.8歳で41位。村役場の正面の外壁には、〈男性長寿日本一の村〜みなさんの健康が、村の誇りです。〉と大書きした垂れ幕が下がる。


「全国ニュースで『松川村……』って流れたので、事件が起きたのかと思ったら、男性長寿日本一というから驚いた」と、東松川区長の平林吉夫さんは当時を振り返る。「農業や家庭菜園に携わる高齢者が多く、やりがいのある仕事を持ってる人が多い」ことが長寿に影響しているのではないかと話す。


長野県は都道府県別平均寿命で男女とも日本一。県は長寿の要因として、(1)高い野菜の摂取量、(2)低い肥満者の割合、(3)高い高齢者就業率、(4)盛んな公民館運動、を挙げている。が、さらに「健康な生活を送るための保健指導に力を入れてきたことも要因のひとつです」と話すのは松川村福祉課健康推進係の村山真一係長だ。


「健康長寿の活動を健康ボランティアの保健補導員や食生活改善推進員が住民との橋渡し役として支えてくれているのが大きい。保健補導員は約100人で、健康について学んだ住民が家庭から地域へと広めます。さらに自分が暮らす地区の一軒一軒を訪ね、健康診断の申込書を配り、回収します。また、年に数回、各地区の公民館などに保健師や栄養士を招き、生活習慣病や介護、健康体操などの研修会を開いています」


郵送ではなく、地区の人と顔を合わせて健診を勧める意義は大きいという。


食生活改善推進員も保健補導員同様のボランティアで、地域のつながりや健康づくりの大きな推進役を果たしている。松川村では現在、26人の「食改さん」が、地域での料理教室や啓蒙活動を行っている。かつて長野県の死因の1位は脳血管疾患で、1960年代には女性の平均寿命が全国平均を下回ることもあった。栄養調査では塩分摂取の高さが指摘されたため、県が料理講習などを通して減塩運動を推進したことも功を奏し、今では長寿日本一の座を占める。このとき「食改さん」や保健補導員が大きな力になったのだ。



■9割が趣味を楽しみ、幸福度は2割が満点


「味噌汁は朝食だけで、夕飯にはいただきません。冬には麹や酒粕で汁物をつくり、減塩を心がけています」と話す山田君枝さん(87歳)は理容師だったが、今はボランティア活動に励む。夫の内明さん(92歳)は、「松川ふるさと祭り」で、人生を謳歌する魅力的な男性(75歳以上)を決める「ミスターぴかいちコンテスト」で自慢の歌声を披露し、優勝した経験を持つ。杜氏の仕事を続けてきた内明さんは、背筋がピシッと伸び、毎朝4時過ぎに起床。「午前中は野菜畑の世話に忙しい」(内明さん)という。3世代同居で、風呂掃除は内明さんの担当だ。



(上)「毎日の仕事は野菜畑の手入れと風呂掃除。気ままに生きているのが長寿の秘訣」と話す山田内明さんと妻の君枝さん。(下)池原和雄さんの趣味が高じ、店のスピーカーは約600万円のJBL、音源はすべてレコード。隣は妻の以代子さん。

松川村の長寿の要因を調べた『長寿のヒミツ——松川村はなぜ日本一なのか』(山根宏文編著)によると、松川村の男性で平均寿命以上の約半数にあたる153人の約9割の人が「趣味を楽しみ」、その中身は農作業、園芸、カラオケなど約50種類あった。幸福度では約2割が10点満点、約5割が7点以上と答えている。


村役場の近くに、70歳のマスターが県庁を定年退職後に趣味が高じてオープンしたジャズ喫茶「M‐gate」がある。鄙には稀なアンティークなウッディー調の洒落た造りだ。マスターの池原和雄さんは松川村の特徴をこう話す。


「高齢者は伸びやかに生活しています。公民館などでいろいろなグループが活動をしており、時間を見つけては活動に参加されている方が多い。公民館はどこの市町村にもありますが、松川村は活用頻度がかなり高い」



■移住促進のための「1万人復活特命係」


池原さんが指摘するように、松川村では家に閉じこもっている高齢者は少ない。村内には公民館を中心に約140のサークルが活動し、家族以外との交流が多い。神奈川県から松川村に夫婦で移住し、健康体操やヨガ教室などを開催する水口あい子さん(76歳)は村の高齢者の元気ぶりをこう話す。



(上)「健康体操」を指導する水口あい子さんは、他にヨガ教室などでも教える。18年前に夫の政夫さんと神奈川県から移住。(下)7年前に夫婦で移住した井口正治さん。村で人気の「いぐパン」を経営。パンを選びカフェで食べることもできる。

「ヨガ教室には90歳の方もいます。健康体操は80代の人も多く、お年をとられていても体は柔らかいですし、動きももたもたしていません。元気に年を重ねるのはいいことだなと思いますね。『男性日本一を支えているのは母ちゃんたちだよね。ますます父ちゃんを元気にするために、私たちも元気でいなくちゃ』と、笑いながら話してます」


夫の政夫さん(78歳)は笑みをうかべ、「村の人たちはとても馴染みやすく、家内はそんなみなさんから助けられて楽しく活動ができてるんです」と話す。


男性長寿日本一の松川村の悩みは出生者数が死亡者数を下回り、自然減により村の人口が9897人(17年7月1日)と、1万人を割ったことだ。移住促進対策として今年4月から「1万人復活特命係」を設け、条件付きだが、移住世帯に最大100万円、新婚世帯へは最大24万円の支援を始めた。


夫婦で東京から移住して村内でただ一軒のパン店を経営する「いぐパン」の井口正治さん(43歳)は、「移住者を優しく受け入れてくれる居心地のいい村です。年配のお客さんが増えてきたたことが嬉しいですね。思ったより雪は少なく自然が豊かで、田んぼ沿いのサイクリングや写真を撮るのが楽しみです」と話す。


「リタイアして村に来てくださる方も大歓迎。16年度の移住者は42人です。今は松川村にひとり住まいの人が、将来は親をここに呼びたいという相談もあります。若者から高齢者まで、いろいろな教室、サークルがあって、溶け込んでもらえればすぐ村に馴染んでもらえると思います」(松川村1万人復活特命係・畠山正英係長)


(ジャーナリスト 吉田 茂人 撮影=小川 聡)

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