「ソニーの復活」を真に受けていいのか

8月14日(月)9時15分 プレジデント社

■改革者から追随者へ、ソニー低迷の歴史


5000億円以上。ソニーが4月に発表した、今期(2018年3月期)の連結営業利益の見込みである。実現すれば前年比73.2%増、過去最高を記録した1998年3月期の5257億円に迫る数字となる。その理由は、デジタルカメラの画質を左右するスマートフォン向けのイメージセンサーが好調であることや、金融やゲームの事業が引き続き高い利益を出していることなどが貢献しているためだ。市場はこの業績予測を好感し、発表前の4月後半から株価も上昇している。



長らく不振にあえいでいたソニーにとって明るい話であることには違いない。業績予測が出た途端、「ソニー復活!」といった報道が目立つようになった。しかし今期の見通しだけで、判断するのは早計ではないか。ソニーの歴史を振り返りながら、私なりの視点を加えて分析してみたい。


私は1988年に証券アナリストに転身するまで、日本ビクターで7年間、ビデオの研究開発に携わった経験がある。当時はソニーのβマックス方式と日本ビクターのVHS方式で家庭用ビデオの規格を競い合った時代だ。最終的にVHS方式が勝利を収めたのは、準大手の日本ビクターには自社だけで規格を独占する力がなく、他社へのライセンシングを積極的に進めて、規格をオープンにしたのが主な理由だった。


ソニーはこの「ビデオ戦争」でまさか負けるとは思っていなかっただろう。当時のソニーといえば、社内にたくさんのイノベーターがいて、絶えず技術革新に挑戦している企業だった。まさにエレクトロニクス業界のリーダーで、私個人にとってもソニーはライバル以上に憧れの対象であった。


ところが90年代に入るとソニーは輝きを失っていく。日本の電機産業が陥りやすい3要素に直面したのだ。それは「大企業病」「リソースの分散」「アジア勢のキャッチアップ」である。


80年代までは、過去の実績にとらわれない破壊的イノベーターだった。トランジスタラジオに始まり、ウォークマン、CDウォークマンなど、ライフスタイルを一新するような製品を次々に生み出していた。しかしその破壊的イノベーションが起こらなくなる。


最も象徴的な出来事は、iPodによってアップルに市場を席巻されたことだ。カセットやCD、MDなどの回転系メディアはいずれなくなり、シリコンオーディオプレーヤーの時代になることはわかっていた。しかしウォークマンの成功が大きすぎて、自らそれを破壊することができなかったのだ。そして、スマートフォンやゲーム機でも他社の後追いが目立つようになる。ソニーはエレクトロニクス業界のリーダーから、すっかり追随者に成り下がってしまった。


こうした大企業病に加え、経営リソースが分散していった。エレクトロニクスから金融やゲーム、音楽、映画などに事業が拡散し、カンパニー制を導入して事業ごとに別会社の様相を強めていく。リソースの非効率な分散は、設備投資や研究開発投資が中途半端になり、えてして競争力を失う。


さらに追い打ちをかけたのがアジア企業の台頭だ。それまで競争相手は日本国内だけだったが、台湾や韓国の企業が先端技術をキャッチアップし、より厳しい競争にさらされていった。決定打となったのが、04年にサムスンと合弁で始めた大型液晶パネルの生産だ。これを境にサムスンはテレビ生産の技術力を一気に伸ばし、ナンバーワン企業へ成長を遂げる。現在、ソニーのイメージセンサーが好調なのは、この分野に進出する企業が国内外にまだ少ないためだと考えていい。



■5000億円の中身を分析すると……


それではメディアが「復活」の根拠とする、今期の営業利益5000億円以上という数字に疑問の目を向けてみよう。売上高営業利益率を見れば、ようやく5〜6%。グローバルメーカーのトップクラスは2桁が当たり前だから、それに比べて水準が低すぎる。



しかも昨年度は映画事業で1121億円の営業損失を計上し、電池事業を売却している。また、熊本地震で半導体工場が被災し、その分の損が出ている。それらのマイナスを差し引くだけで、今期は目立った動きがなくても昨年度より1500億円ほど営業利益が増えるのだ。そこにイメージセンサーが伸び、ゲーム事業もちょうど収穫期に入ったのだから、5000億円以上の営業利益が出ても驚くに値しない。収益構造は相変わらずのままだ。


注目すべきは数字よりもソニーの体質である。現在のソニーは私たちのライフスタイルを一変したり、新しいマーケットを創造したりできる企業へと戻りつつあるのか。


今世紀に入って、世界的なイノベーションを生み出したのはアメリカ企業ばかりだ。アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック……。インターネットの世界で覇権を握っているのも圧倒的にアメリカ企業である。70年代、80年代にソニーを中心にした日本のエレクトロニクス業界や、日本の自動車業界はイノベーションでアメリカ企業を追い落とした。しかし90年以降、アメリカはもう一度イノベーションを取り戻して復活したのである。


近年、アメリカ企業の復活、アジア企業のキャッチアップという大きな流れがしばらく続いている。その中で、ソニーほか日本のメーカーが劣勢に追いやられている構図に変化はない。



■営業利益の数字より10年後の将来像を


ソニーは事業領域が広すぎるのも大きな問題だ。日本を代表するものづくり企業だったのが、90年代に金融やエンターテインメントなどに拡大したため、企業のアイデンティティがぼやけてしまった。「ソニーは何をする会社か?」と質問されて一言で答えられる人は少ない。


はたして社内にもどれだけいるか。ソニー内部には「アップルのような会社になりたい」と望む人もいる。しかし現実の稼ぎ頭は半導体、ゲーム、金融だ。もう一度イノベーターを目指すにしても、アップルほどの開発力を発揮するのか、フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)で攻めて金融界の破壊者になるのか、半導体などのものづくりを極めるのか、あるいはエンターテインメントの世界で覇権を握るのか、そういった将来像をハッキリさせる必要がある。


本来はそれがトップの仕事だが、平井一夫社長にはそのビジョンが見えないのではないだろうか。平井社長は主に音楽やゲームといったエンターテインメント畑で豊富な経験を積んできた一方で、エレクトロニクスや半導体の事業に明るいとはいえない。ソニーの全体最適を判断するには、現在は赤字でも将来はコア事業に育てるから投資を続ける、またはIoT時代を見据えて不要な事業は切り捨てる、といった大胆な決断が必要となる。


アメリカの経営者は、第4次産業革命に突入する中で、「10年後、自分たちはこうやって世の中を変える」といった夢のあるビジョンやメッセージを打ち出す。たとえば実業家のイーロン・マスクが、13年、7年後から10年後にサンフランシスコとロサンゼルスの約600キロを新輸送システム「ハイパーループ」によって30分程度で結ぶと発表したように。ソニーのイメージセンサー程度では10年後のメッセージにほど遠く、会社としての魅力が感じられない。


ソニーが復活したかと問われれば、私の答えは「NO」だ。今のソニーに必要なのは「5年後、10年後ソニーはこうなる」というメッセージにほかならない。数年後に営業利益が7000億円、8000億円になるといった目先の数字ではない。「ソニーは10年後に世の中を復活の根拠5000億円の内訳は…こう変える」というトップのメッセージが聞こえてきた日こそ、ソニーの復活を本気で期待していいだろう。


(産業創成アドバイザリー代表取締役 佐藤 文昭 構成=Top Communication)

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