こんな職場で働いてはいけない…「机の上にあるゴミ」が、10人中8人が辞表を出す大騒動に発展したワケ
2024年8月14日(水)8時15分 プレジデント社
※本稿は、濱田恭子『仕事がうまくいく人は「人と会う前」に何を考えているのか』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■些細な問題が「ちりつも」で大きくなる
たとえば仕事でイライラすることがあったとします。「飲み会で憂さ晴らししよう!」、それも「ガスを抜く」という意味では悪いわけではありません。パンパンになっている感情の風船をゆるめることになりますから。
でもそんなふうに、ずっと抱えているイライラを、単純な気晴らしで対応していると、物事は少しずつ大きくなっていきます。
写真=iStock.com/simonkr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simonkr
感情はサインのようなもの。このサインは「ちりつも」(ちりも積もれば山となる)で、一つずつは些細なことでも、それぞれの段階の臨界点を超えると、コップの水がいっぱいになって溢(あふ)れだすように、次の段階に進んでいきます。
そして日常に影響を及ぼします。
■「サインの5段階」を知ろう
では、サインにはどんなふうに段階があるのでしょうか。図表1を見てください。
『仕事がうまくいく人は「人と会う前」に何を考えているのか』(青春出版社)より
第1段階 なんとなく嫌な気持ちになります。ほとんどの人がここでは何も対処しません。
第2段階 次に、ちょっとした感情のサインが現れます。この段階で、先ほどお話ししたように、「飲みに行く」「人に愚痴を聞いてもらう」などのガスを抜く行動をする人もいます。
第3段階 小さな出来事が起きます。ちょっとしたことなので、多くの人はこの段階に来ても何も対応しません。
第4段階 いよいよ事件が起きます。ここへ来て具体的に物事が起きるため、自分のサインと向き合わざるを得なくなり、何かしらの対応をします。
第5段階 いよいよ最終段階です。さらなる大きな問題が起きます。ここまで来ると、対応するどころか、現実を変えざるを得ないほどの強制力を持ちます。
■火が小さいうちに手を打つ
第1段階で気づく人は、まずいません。でも、もしこの段階で気づいたら、防げることはたくさんありますし、職場でも家庭でも人間関係がスムーズになり、生きるのがラクになります。
たとえば上司のことでちょっとモヤッとしたとします。次にイライラして、それを放っておくと、上司が何もしていなくても、もう上司のこと自体が嫌になります。
いったん嫌になると、何をしても嫌になって、人間関係が悪くなります。そして、いよいよ会社に行くのが嫌になり、「辞めてやる〜!」となるわけです。
仕事のトラブル、倒産の危機、社員の退職、がんや病気、うつなどの心や体の健康問題、不倫、離婚などのパートナーシップ、子育てなどなど。
先ほどのサインの5段階は、あらゆるケースに当てはまります。自分にとって行動を起こさざるを得ない、向き合わざるを得なくなるまでに、実は段階を踏んでいるのです。火が小さいうちに手を打てば、防げるモノは防げます。
■ゴミ箱に生ゴミが入れっぱなし
私がコンサルに入った、ある飲食店のケースで説明しましょう。
お父様が急に亡くなられ、修業中だった息子さんが帰ってきて飲食店を継ぐ話になった例です。一緒に店に出ているお母様は以前、私のセミナーで勉強をされた方でした。
お母様は最初、息子の代になったのだから、自分は口出しするまいと思っていたそうです。けれど、息子が店を継いでから、何かモヤモヤするものがあったそうなのです。
「あれ?」と思うことはあったけれども、それが何かわからず、息子を見守っていました。変な気持ちを感じたものの、そのままにしておいたのです。
そして小さな出来事が起きました。ある日、厨房(ちゅうぼう)に包丁が出しっぱなしになっていました。
写真=iStock.com/invizbk
厨房に包丁が出しっぱなし(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/invizbk
またゴミ箱には、生ゴミが入れっぱなしになっているのを何回か発見します。
先代である夫は絶対にこんなことはしなかった。毎日ゴミは業者が取りに来てくれますが、息子は「今日は少なかったら、明日でいい」と言います。
それから、調味料が調理台の上に出しっぱなしになっていることもありました。
■お客様から「お腹を壊した」という電話が……
「これはだめだ」と思いつつお母様は、「私が片づければいいか」「ゴミは明日出せばいいか」と、見て見ぬふりをして、何も対応しませんでした。
そして事件は起きます。
何が起こったかというと、店で食事をしたお客様から「お腹を壊した」という電話がきたのです。食中毒の疑いがあり、保健所が店に来て、検査をされることになりました。
写真=iStock.com/Farknot_Architect
お客様から「お腹を壊した」という電話が……(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Farknot_Architect
結局、食中毒の原因となるような菌は出ず、営業停止は免れたのですが、そこへ来てようやくお母様は動き出しました。
私のセミナーで「感情の5段階」について勉強していたことを思い出して、先ほどの図を見せて話し合ってくださったのです。
すでに事件は起きてしまったけれど、営業停止は免れた、今ならまだやり直せる、と。
「サインの5段階」の最終段階に進む手前で話し合えたのです。
■息子が泣いて話した「正直な気持ち」
すると、息子さんは正直な気持ちを話してくれました。「自信がない」と。
修業中の身だったのに、父親の死で突然呼び戻されて、父親と比べられるし、お客様からは「味が違う」と言われる。周りからは「頑張れ」と言われて、それもプレッシャーに感じていた。
人にどう思われているかが気になって、すごくしんどかったと泣いて話してくれたそうです。
息子さんはまだ30歳にも満たない年齢。お母様も突然、夫を亡くしたショックと、息子に何の準備もなく継がせてしまった申し訳なさから、今まで何も言えなかったのです。
二人で、ご主人がなくなってからやっと素直に涙を流して、心から話し合えたそうです。
■大きな事件になる前に気づけてよかった
それからお母様は、息子に無理をさせていたのではないかと反省し、「よし、一緒にちゃんと向き合うぞ」と心に決めました。
取り返しのつかない本当に大きな事件になる前に気づけてよかった、これはサインだよと、二人で話し合ってくださいました。
私もコンサルに入り、どんなお店にしたいのか、どんな料理が出したいのか、しっかり話し合いをすることができました。
結果、内装も変えて、お父様とはテイストがまったく違う、息子さんがやりたかった創作料理のお店にリニューアルしました。
写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
創作料理のお店にリニューアル(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
それまでは「お父さんのお店を守らなければならない」と思い込み、どんどんやる気が落ちていたそうです。
リニューアル後は、修業してきたことを生かすこともでき、イキイキと仕事をされています。
■全社員が辞職寸前の「大事件」
感情問題を放置しておくと、大きい小さいにかかわらず、何かしら事件が起きてきます。
事件が起こると私たちはその対応に気をとられてしまい、感情問題を置き去りにしてしまいます。そしてまた、解消されなかった感情問題による事件が繰り返し目の前に現れてくるのです。
逆に言えば、何か事件が起きたら、その裏には感情問題が隠れているということ。
この事実を知っておくだけで、問題が解決してしまうこともあります。
これも、私が実際にコンサルティングで経験した、感情問題を見て見ぬふりをしていたある会社のケースです。小さなゴミ一つから、全社員が辞職寸前の大事件に発展してしまいました。
■10人中、8人が辞めたいと言ってきた
ある日、知り合いの経営者の方から連絡がありました。
「濱田さん、大変なことになっているんです。社員がそろって辞めます! 辞表を出します! と言ってきているんです」
大変動揺した様子でこうおっしゃいました。
「頼りにしていた企画部のブレーンも辞めますと言って辞表を持ってきている状況で、濱田さんになんとかこの状況を回避できるようにサポートしてほしいんです」
と懇願されました。そこで半年契約でコンサルをお引き受けすることにしました。
社員がそろって辞表を出すって、どういう状況⁉ と思いますよね。
その会社は社長と社員10人ほどの会社だったのですが、10人中、8人が辞めたいと言ってきたそうです。
一人一人と個別面談をしていくうちに、なぜ、みんなが辞めたいと思うようになったのか、見えてきました。
■「机の上に置いてあるゴミ」が大問題に
最初の事件は、会社の机の上に置いてあるゴミでした。
写真=iStock.com/SilviaJansen
「机の上に置いてあるゴミ」が大問題に(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/SilviaJansen
前日、残業したときに食べたもののゴミを誰かが捨てずに帰り、次の日の朝、そのゴミが机の上にいつも残っている状態が続いたそうです。
普通なら、「あぁ、誰かが捨てるのを忘れたんだな」と、気づいた人が捨てて終わり、ですよね。
この会社では最初のうちは、朝ゴミを見つけた人が「残業の際に出たゴミは机の上に残さず、捨てて帰ってください」と口頭で呼びかけていたそうですが、ゴミの量が少し減ったものの、相変わらず朝出社すると、机の上にゴミがある状況は続いていました。
そのうち、少しずつ事態は大きくなっていきました。張り紙をするべきか否かの議論になり、一体誰がゴミを捨てているのかと、犯人探しが始まったのです。
■些細なことで責め合うような空気感になってしまった
誰も名乗らずにうつむいている状況で、疑心暗鬼な空気が漂い、社員みんなの気持ちも少しずつ荒れてきて、些細なことで責め合うような空気感に。そんな空気の中で仕事をしていくのが苦痛になり、耐えかねて「こんな会社ではやっていけない」とみんなが思うようになり、全員が辞表を出す事態にまで発展してしまったのです。
私がコンサルに入ったのはこのとき。社内の空気は、まさに最悪でした。
ことの発端は、「誰かがゴミを捨てればいい」というだけのこと。でも、ゴミを捨てれば問題が解決するかというと、そうではないのです。
その裏に社員の感情問題が隠れていました。
■「社員一人一人に聞き取り」で見えてきたもの
ここで行ったのは、「感情」と「事実」を切り離して認知してもらい、今起きていることの不満の奥にあるものを、みんなで話し合うということです。
そこで社員一人一人に聞き取りを行いました。そこで明らかになったことは、「わかってほしかった」とか、「こんなに夜遅くまで作業しているのは私なのに」とか、「手柄を取られた」「ありがとうと言ってもらえなかった」「言っても無駄だ」などのいろいろな問題でした。
一つ一つは些細なことかもしれませんが、それが絡み合って、「誰かがゴミを捨てていない」という問題に付随していったのです。
コンサルに入った間、そうした気持ちをきちんと伝えるための交通整理をして、感情問題をクリアにしていきました。
■明らかになった「2つの問題」
この問題を整理すると、大きく2つの問題がありました。
1 コミュニケーションのルールがなかった
2 個々の作業に対して、共感したり理解してくれる「聴く力」がある人がいなかった
そこで私が3カ月間したことは、ひたすらそれぞれの言い分を聴いて共感し、「あなたはそんなに頑張っていたんですね」と言い続けることでした。
「こんなに頑張っているのに」
「こんなに残業しているのに」
「こんな思いで、この会社に就職したのに」
など、一人一人の思いがあります。
濱田恭子『仕事がうまくいく人は「人と会う前」に何を考えているのか』(青春出版社)
みんなが犠牲者精神になっていて、どこかで「受け止めてもらえない」「わかってもらえない」「報われない」という感情が積もり積もって問題を大きくしてしまったのです。
事件が問題ではなく、そこで何を言いたかったのか、わかってほしいことは何だったのかが問題だったのです。
じっくりその人の話を聴いて、共感していくうちに、「感情」と「事実」が切り離され、いつの間にかゴミもなくなり、実は問題ですらなかったことにみんなが気づき、お互いにねぎらう社風に変わっていったことで、会社を辞めるという事態は回避できました。
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濱田 恭子(はまだ・きょうこ)
日本マインドワーク協会代表理事
1973年、奈良出身。サロン・ド・フルールアカデミー代表取締役、合同会社マインドワークBIZラーニング代表。23才でスクール事業を立ち上げる。カウンセリングや心にかかわるセミナーのキャリアは17年以上。今では起業家、アスリートなどのイメージトレーニング、コンサルなどを多く担当している。2011年にマインドワーク®というオリジナルコンテンツを臨床心理士監修で開発。その後、2016年に一般社団法人日本マインドワーク協会を設立。現在は、「視点が変わると世界が変わる」をテーマに、心理学とコーチングに基づいた行動変容型プログラムのセミナー、セッションなどを精力的に開催。
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(日本マインドワーク協会代表理事 濱田 恭子)