謙虚なコピーでミラクルを起こしたレンタカー会社

8月16日(金)6時0分 JBpress

 経営、マーケティング、プロジェクトなどにおける旗印や指針は、川上から始まり、川中、そして川下へと伝達される。コピーライターの川上 徹也氏は、「川上」で1行に凝縮された理念「川上コピー」の重要性を説く。かつてアメリカで、川上コピーによって社員が一体となり、大きな成果を生み出したレンタカー会社があった。一体どんなコピーだったのか?(JBpress)

(※)本稿は『川上から始めよ』(川上 徹也著、ちくま新書)より一部抜粋・再編集したものです。


「15文字コピー」のすすめ

 あなたがいま関わっているプロジェクトの「川上」には、「旗印」や「指針」となる明確な「言葉」がありますか? その「言葉」で「実現した時の未来」が、きちんとイメージできますか?

 それは長くなればなるほど伝わりません。凝縮された1行であることが大切です。できれば15文字以内が望ましい。人間が一度に憶えることができる文字数が、それくらいだからです。

 それぞれのプロジェクトの一番上流にあり、川中・川下を規定する「旗印」や「指針」となる凝縮されたフレーズのことを、私は「川上コピー」と名付けました。

 きちんと機能する「川上コピー」が掲げられ、それがメンバーに共有されていると、そのプロジェクトが成功する確率は格段に上がります。


2位だからもっと頑張ります

 広告宣伝などの川上で、今までにないコンセプトを思いつき、それが力のある広告表現に結びついたことで、大きな成果を生み出した事例についてご紹介しましょう。

 1962年当時、アメリカのレンタカー業界では、ハーツがシェア60%近くと圧倒的なナンバー1企業でした。2位のエイビスの売り上げは、ハーツの4分の1程度。3位はすぐうしろに迫っていました。

 前年に巨大な赤字を出したエイビスは、経営陣を一新するとともに、新しい広告会社にDDB(ドイル・ディーン・バーンバック)を選び、広告キャンペーンを実施することにしました。

 DDBは創業13年の若い会社でしたが、「正直な広告をうつ」という信念で急成長していました。とくに当時実施されていたフォルクスワーゲンの広告キャンペーンは、非常に話題になっていたのです。

 コピーライターには、DDBのポーラ・グリーンが担当することになりました。しかし彼女が新経営陣にヒアリングしても、エイビスがハーツに勝っているところがひとつもみつかりません。ポーラは質問します。

「御社がハーツに勝つところは、何かないんですか?」

 すると、新社長は少し考えて言いました。

「私たちは、もっと頑張るつもりです」


意表をついたコンセプト

 困ったポーラでしたが、社へ帰りDDBの社長バーンバックに相談すると、彼は次のように言いました。

「じゃあ、そのまま『もっと頑張ります』をコンセプトにしたら」

 アメリカ広告史上に残る成果を生み出したキャンペーンのコンセプトが、以下のように決まった瞬間でした。

 エイビスは2位です。私たちはもっと頑張ります。
 —Avis is No.2. We try harder.

 ポーラは、この川上のコンセプトを元にアートディレクターと広告原稿を制作しました。写真は極力小さくして、文字だけが目立つようにしました。何よりもこのコンセプトを際立たせることが目的だからです。広告コピーは、以下のようなものでした。

 エイビスは、レンタカー業界で2位にすぎません。
 それなのに、なぜ私たちを選ぶ必要があるのでしょう?

 私たちはもっと頑張ります。(あなたも最大手じゃなければそうするでしょう)私たちは、汚れた灰皿を我慢できません。満タンじゃないガソリンタンクも、壊れたワイパーも、洗車してない車も、低空気圧タイヤも、調整できないシートも、温まらないヒーターも、霜がとれない霜取りも。
(中略)
 次回は、私たちを使ってください。うちのカウンターの方が行列が短いですしね。


苦情、歓迎します

 この企画を提案されたDDBの経営陣は、当初大きなショックを受けました。最初から自分たちが劣っている、なんていう広告を見たことがなかったからです。しかし、徐々に「見慣れると好きになってきた」という役員たちも現れました。賛否は半々です。

 反対側の大きな理由のひとつに「もし、お客さんがエイビスの車の灰皿でタバコの吸殻を見つけたら、広告がウソになる」というものがありました。

 そこでポーラは、以下のもうひとつの広告案を用意して、説得しました。

 もし、エイビスの車の灰皿にタバコの吸殻を見つけたら、苦情を言ってください。私たちのためになることですから。私たちが前進するためにはあなたの助けが必要です。エイビスはレンタカー業界で2位にすぎません。だからもっと頑張らなきゃいけないんです。(後略)

 こうしてこのキャンペーンは実施されることになりました。エイビスの幹部たちがまずやったのは、社内へのコンセプトの浸透です。

 2枚の広告案をもって、全国のディーラーをくまなくまわり、全従業員に、「エイビスは2位です。私たちはもっと頑張ります」というコンセプトを誓わせました。

 また、クルマのチェック項目を100近くも掲げたカードを作成させ、全国に配りました。従業員は全員、胸に「We try harder」と書いたステッカーを貼って、接客にあたることになりました。


始まった快進撃

「エイビスのナンバー2キャンペーン」が実施されると、大きな反響を呼びました。「エイビスは2位です。私たちはもっと頑張ります」というコンセプトをもとに、いくつもの広告が発表され話題になったのです。

 広告は、自社がいかにナンバー1であるかを誇示するのが一般的です。エイビスもそれまでは「レンタカー会社の中で最高のサービス」という広告をうっていました。

 しかし利用者にはその言葉はまったく響いていませんでした。「2位の会社のくせに、なぜ最高のサービスができるんだ?」と心の中で思っていたのです。そんな中、あえて2位であることを認め、だからこそ「もっと頑張る」と主張したエイビスの広告に、多くの利用者は共感したのです。

「そうやってマイナスを認めるくらいだから、きっと一所懸命やってくれるだろう。よし利用してやろう」と。

 また、従業員たちの士気も上がりました。

 その結果、たった1年で売り上げは50%増となり、13年間続いた赤字は大幅な黒字になりました。シェアも大幅にアップしました。それまで混戦だった3位以下の会社との差も大きく広がりました。

 1位に対抗することがテーマに見えるコンセプトであり広告でしたが、結果として3位以下の会社をかすませて、そこからシェアを奪い取る効果も大きかったのです。


「何を言うか?」と「どう言うか?」

 ここからは、あなたの会社がどうすれば刺さる「川上コピー」をつくり、掲げることができるかについて見ていきましょう。具体的に書く前に、まず考えなければならないことがあります。

 それはまず、「メッセージの中身」を考えるということです。言い換えると、「何を言うか」です。

 一般的にキャッチコピーを書く際には、まず「何を言うか=What to say」を考えてから「どう言うか=How to say」を考えよと言われています。川上コピーでも、その手順は同じです。

 経営の「川上コピー」においても、プロジェクトの「川上コピー」においても、きちんと機能するものを生み出すためには、メッセージに何かしらの「新しい発見・哲学・提案」が必要です。

 これがないと、どんなに「どう言うか?」を考えても、力を持つフレーズを生み出すことは難しい。では、どうしたら「新しいメッセージ」を発見することができるのでしょうか?


自社の本当の「強み」とは?

「あなたの会社が、自社の「強み」を使って「何か社会的に意義があること」「ワクワクするような未来予想図」の実現を目指すという姿勢が、メッセージの種になる。

 しかし、自社の本当の「強み」がわかっている会社は意外に少ないものです。自分では「強み」と思っていることがそうでもなく、自分では「弱み」だと思っていたことが本当の「強み」だということもよくあります。

「社会的に意義があること」に関しても、難しいかもしれません。もちろん、会社は営利活動ですから「儲けたい」「有名になりたい」「○○が欲しい」などのエゴがあって当然です。

 しかしそんな利己的な思いだけを世の中に出しても、誰にも共感してもらえません。かと言って、キレイ事だけでは嘘くさく思われます。

 きちんと儲けをだし自分の欲望をかなえつつ、それが同時に何か「社会的に意義があること」に繋がっているのが理想的です。

 困難や障害が予想されるけれども、それでも乗り越えていこうと思えるものでないと価値が生まれない。かといって絶対に実現不可能そうなものでは、相手にしてもらえません。

 利己的でもなくキレイ事でもない。簡単に達成できないかもしれないけど、絵空事ではない。

 この主人公なら、ひょっとしたら達成するかもしれない。想像するとワクワクするような未来予想図になっている、という絶妙なメッセージを見つける必要があるのです。

筆者:川上 徹也

JBpress

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