「子連れ出勤」に賛否 なぜ企業内保育所は増えないのか

8月16日(金)7時0分 NEWSポストセブン

ハードルが高い「子連れ出勤」

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 子どもが保育園に入れず、満足に仕事をできない父母のために、子どもを連れて職場で働く「子連れ出勤」を認める企業が増えている。だが、従業員の規模や職種の違いこそあれ、オフィス内に子どもを連れてくること自体に抵抗感を示す人が多いのも確かだ。そもそも、国の補助金制度もある企業内保育所の設置はなぜ進んでいかないのか──。働く主婦の調査機関「しゅふJOB総合研究所」所長兼「ヒトラボ」編集長の川上敬太郎氏がレポートする。


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 子連れ出勤と聞いて、あなたはどんなイメージを思い浮かべるだろうか?「仕事場で見る親子の姿が微笑ましい」「小さなお子さんを連れての出勤は大変そう」「子どもが仕事の邪魔になりそうで迷惑」……など、イメージは様々ではないかと思う。


 しゅふJOB総研が仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦層”に、単一回答で「子連れ出勤をする側、同僚として一緒に働く側、それぞれのあなたのスタンスとして最も近いものをお教えください」と尋ねたところ、意見は二分された。


 働く主婦層は、自らが“子連れ出勤する側”にも、子連れ出勤の同僚と“一緒に働く側”にもなりうる。


 結果は、“子連れ出勤することに賛成”の人の比率は、「子連れ出勤するのも、同僚として一緒に働くのも賛成」と「子連れ出勤するのは賛成、同僚として一緒に働くのは反対」を足した43.8%。反対は、他の2項目を選んだ56.2%となった。


 一方、子連れ出勤の同僚と“一緒に働くことに賛成”の人の比率は、「子連れ出勤するのも、同僚として一緒に働くのも賛成」と「子連れ出勤するのは反対、同僚として一緒に働くのは賛成」を足した55.1%。反対は他の2項目を選んだ44.9%という結果が出た。


 フリーコメントにも、全く異なる様々な観点からの意見が寄せられた。


“子連れ出勤することに賛成”の人は、「成長を見守りつつ幼稚園に入園するまで一緒にいたい」「保育園に預ける手間が省ける」「子連れ出勤しなければならない状況なら仕方ない」と、子育て時期ならでは事情を主張する。


 かたや“子連れ出勤することに反対”の人は、「他の人に気を使って仕事に集中できない」「とにかく通勤が大変」「外遊びが出来ない環境に置くのは抵抗がある」と、働く立場、母の立場の両面から懸念を示す。


 子連れ出勤の同僚と“一緒に働くことに賛成”の人は、「保育所に入所できなくて仕事に復帰できないのは残念なこと」「これからは働き方の多様性を受け入れないと企業は人を集められない」「子供は社会全体で育てていくもの」などと理解を示した。


 子連れ出勤の同僚と“一緒に働くことに反対”の人は、「同僚の子がウロウロしてたら集中出来ない」「不妊治療中の方もいらっしゃるかも」「そもそも子供が嫌い」と、自分や自分以外の同僚の気持ちなども踏まえて反対する。


 こうして賛成派、反対派の言い分を細かく聞くと、それぞれに一理あるように思う。子連れ出勤を推奨した少子化対策担当大臣の発言が賛否両論を巻き起こしたのも、当然のことだ。


 もっとも、共働き家庭の子育て支援を考える時、“子連れ出勤”は万能な解決策とは言い難く、やはり自治体が十分な保育施設を整えることが望ましいのは間違いない。また、「子育ては母親が行うもの」という暗黙の前提を取り除き、夫との子育てシェアのあり方を見直す必要もある。祖父母との同居など、家族体制についても考える余地がありそうだ。


 しかし、それはそれ。いま子どもを預けられず働くことができていない人に対して、企業ができる取組みにも改善余地はあるはずだ。前出調査のフリーコメントにも「もし子連れ出勤を認めるのであれば、企業内に保育施設を設置して欲しい」という声が多く見られた。


 確かに、社内にしっかりとした保育スペースがあり、子どもの面倒を見てくれる人がいるならば、親としては安心して預けることができる。保育スペースが仕事スペースと隔離されていれば、同僚に迷惑がかかることもなさそうだ。


 しかしながら、企業内保育施設の導入はあまり進んでいない。東京商工リサーチが2019年2〜3月に行った調査によると、事業所内保育所を設置している企業は、わずか1.6%にとどまる。


 政府は子連れ出勤を支援する立場を示しており、企業が設置する保育施設の整備費や運営費を助成する制度もある。しかし残念なことに、助成金を巡っては経営コンサルティング会社の代表が、企業主導型保育事業に対する国の助成金計約2億円を搾取した容疑で逮捕される事件が起きてしまった。


 企業内保育施設の導入が進まない理由はいくつも考えられるが、その中でも特に3点挙げておきたい。


 1つは、通勤である。子どもを連れて通勤ラッシュの電車に乗るのは怖い。子どもの安全を考えると、親だけでなく会社としても躊躇してしまう。


 2つ目は、保育士の確保だ。日本中で不足が問題視されている保育士をどう確保するかは、企業内保育施設の運営においても同様の難題である。


 3つ目に、費用対効果の問題がある。助成金があったとしても、保育施設の設置や人員確保のコストは負担だ。一方で利用する社員の数には波があり、ゼロになる年さえあり得る。


 このように企業内保育施設を設置するハードルも高いのである。他社との共同設置という方法もあるが、仮に設置できたとしても、運営し続けるハードルもまた高い。


 子育て支援策には、企業内保育施設の設置以外にも有効だと考えられる取り組みがある。こちらも代表的なものを3点挙げてみたい。


 1つは、時差出勤の推奨だ。ラッシュ時間を避けられるのであれば、子連れでも通勤しやすくなる。そのうえで企業内保育施設を設置すれば、子育て層の利用意欲は高まりそうだ。


 2つ目は、在宅勤務制度の導入である。職場に通う必要がなくなれば、同僚に気兼ねすることもなく、子連れ出勤の場合に生じてしまう懸念材料の多くは払拭される。


 3つ目は、ベビーシッターの補助。毎日、全額を補助するとなると企業にとってかなりのコスト負担になってしまうが、緊急時に利用補助が出るだけでも助かるケースはある。


 大切なポイントは、上記のような施策を複数同時並行で走らせることで組み合わせの効果が生まれ、活用しやすくなることだ。逆に言えば、どれか1つの施策を単発で実施しても、期待通りの効果は得られない可能性がある。


 時差出勤が可能になれば、ラッシュ時間を避けて子連れ出勤できるようになることは先に述べた。他にも、基本は在宅勤務にしながら、出社するタイミングだけ子連れ出勤したり、会社が子連れ出勤を認めていない場合は、その時だけベビーシッターを依頼して会社からは金銭補助してもらう──という組み合わせなども有効だろう。


 各自治体に保育施設の設置を求めていくことはもちろん必要だが、自治体側の設置をただ待つだけでなく、企業側も同時並行で対策を取っていけば、働く側の選択肢はグンと拡がる。どんな選択肢を用意するかは、置かれた環境と照らし合わせて企業ごとに判断する必要があるだろう。


 もし、子育て層を戦力の中心とする企業であれば、子連れ出勤を認め、時差出勤や車通勤などと組み合わせて企業内保育施設運営に投資することがベストの解決策になるかもしれない。


 企業にできることを考え実現していくたびに選択肢は増え、社会はより働きやすくなっていく。その努力が生み出す恩恵は、働く人のみならず、採用力の向上という形で企業にももたらされるはずである。

NEWSポストセブン

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