軽く指導しただけで「もういいです」とふてくされる…上司の話を素直に聞けない部下を変える"冒頭の一言"

2024年8月19日(月)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masamasa3

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「やる気はあるけれど、指導するとふてくされる」「人と協力できない」……そんな扱いづらい若手社員には、どう対応したらいいのか。産業医の井上智介さんは「こうした部下に話をするときには、『まずは部下の話をよく聞きましょう』というセオリーは通用しない。『後で最低○個は質問するように』と予告したうえで、先に上司が話すことで、すなおに耳を傾けてくれるようになる」という——。
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■課題を指摘するとふてくされてしまう


最近、上司の立場の人から、「人と協力できない」「課題を指摘するとふてくされるので、指導が難しい」という若手について相談されることが増えています。


やる気や意欲はあるものの、課題を指摘すると、「もういいです」とふてくされてしまうのです。たとえば新しいプロジェクトで、アイデアを募ると、まじめに取り組んで提案をしてくるのですが、上司が懸念点や改善点を指摘するとすねてしまい、それ以上提案をブラッシュアップすることをあきらめてしまいます。どんなに良い提案でも、最初から完璧なものはありません。せっかくの良いアイデアであっても、ブラッシュアップすることなくそこで断念してしまうので、生かされることがなくもったいないことになってしまいます。


このような、指摘を受けるとふてくされてしまう人は、上司からの指導だけでなく、同僚からの指摘も素直に受け取ることができないことが多く、また、自分の意見が通らないときも、へそを曲げてしまいます。このため、人と協力して仕事を進めることが、なかなかできません。人から何か指摘を受けたり、自分の意見が通らなかったりすると、自分が否定されているようにとらえてしまい、チームで一緒に何かを作り上げていこうという気持ちを持てないのです。


しかし、仕事はチームで取り組まなくてはならないことも多いので、人と協力できないと、本人も周りの人も困ります。そもそも、今あるものをより良いものにブラッシュアップするためには、上司や同僚と、課題点を指摘したり、改善方法を探ったりする必要があります。それができないとなると、なかなか本人の成長にもつながりません。


さらに、こういう人は、自分の提案が通らないと「この提案をわかってくれない相手が悪い」「最初から丁寧に説明してくれなかった上司が悪い」など、他罰的、他責的な思考を持っていることが多いのがやっかいです。なかなか、「自分の姿勢を変えよう」「指摘通りに自分で改善しよう」という方向に気持ちが向かないのです。


このため、チームのメンバーからは信頼を失いますし、指導する責任がある上司は、いくらアドバイスしようとしても素直に聞かないので、困ってしまうわけです。


■「ふてくされ」社員は「聞く前に話す」


こうしたタイプの人は、子どもの頃から自分の言動を周りから過度に尊重され、課題を指摘されたり、叱られるべきところで叱られたりということが、少なかった可能性があります。自分に自信があり、プライドも高いので、社会に出て、周りから何か指摘を受けたり、指導されたりすると、あからさまに不快感を示すわけです。


そのため、上司の指導は全部裏目に出てしまいます。部下がこのようなタイプだった場合、上司がまず考えるべきは、「いかに自分の話に耳を傾けさせるか」です。ポイントは3つあります。


1点目は、「最初に上司の側が話す」ことです。


一般的によく聞く、上司に向けたアドバイスは「まず、相手(部下)の話を聞きましょう」というものが大半ですが、こうした「指導するとふてくされるタイプ」が相手の場合は、逆に、上司の側から話し始めた方がいいでしょう。


部下の側は、自分が話したあとに上司の話を聞かされると、「自分の言ったことを否定された。意見をつぶされた」と感じてしまうからです。話す側の上司も、先に部下に話をさせてからだと、つい、その内容について反論したくなったりして、言いたいことを強く言ってしまいがちです。しかし、やはり上司と部下だと立場の違いがあるので、どうしてもねじ伏せてしまうような感じになってしまうのです。それで部下の側は余計にふてくされて、溝が深まってしまいます。


上司が先に話した方が、耳を傾ける可能性が高いでしょう。


写真=iStock.com/gollykim
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■最初に「後で質問してもらいます」と予告


2点目は、「最初に予告して、話の最後に質問させる」ことです。


最初に上司が話をするわけですが、話の後に質問をするよう、あらかじめ促しておきます。


ただ、上司が指示や説明をしたあとに「何か質問はないですか?」と聞いても、このタイプの部下はプライドが高く、質問することは、「わからないことがあった」という自分の能力不足を露呈させることだと捉えていることもあるので、「質問は特にないです」「すべてよくわかりました」と返してくる可能性があります。


ですから、上司は最初に話をする前に、「今からプロジェクトの説明をしますが、この説明が終わった後に、必ず1つ以上質問してもらいます。そのつもりで聞いてください」などと伝えておきます。


■「質問しよう」と思うと集中して聞く


このタイプの人は、基本的にまじめでやる気はありますし、自分に自信があるので、進めたいことやアピールしたいことで頭がいっぱいです。「こうやっていこう」と既に決めているので、上司の話が耳に入らない可能性があります。


しかし、最初に「後で質問してもらうから」と言っておけば、部下は質問するポイントを探すために集中して聞きますし、聞きながら、自分が理解しきれていないところが明確になります。


この方法は、「注意するとふてくされる」タイプの人以外にも有効なので、話に集中して耳を傾けてほしいときには、ぜひ使ってみてください。


■ネガティブな話は印象に残ってしまう


3点目は、「ポジティブ:ネガティブ=7:3」にすることです。


自分に関するネガティブな評価は、ポジティブなものよりも強い印象を与えることが多いものです。上司から部下へ何か伝える場合は、立場の違いがあるので、その傾向は余計に大きくなるでしょう。


例えば、上司が部下に、ポジティブなこととネガティブなことを半分ずつ伝えた場合、ポジティブなことの印象の方が弱くなり、部下は「ネガティブなことばかり言われた」と受け止めてしまいがちです。


ですから、上司は意識的にポジティブな評価を多く伝えるようにすると良いでしょう。たとえ部下の提案内容に、課題がたくさんあったとしても、それを前面に出してしまうと「せっかく提案したのに、全部却下された。何も聞いてもらえなかった」と受け取ってしまう可能性があります。ですから、本人の前向きで一生懸命な姿勢、積極的な取り組みなど、プロセスの中からポジティブな面を評価して褒めるようにします。


理想はポジティブとネガティブの割合を7:3にすることです。全体の7割をポジティブな評価にし、残りの3割で改善点や懸念事項を伝えます。課題をたくさん伝えると、結局部下の耳には入っていかないので、優先順位をつけて、必ず直してほしい点を絞り込んで伝えるようにします。


■「個人の成長」か「組織の成長」か


今どきの若手の未来像は「組織の成長」よりも「個人の成長」に焦点が当たっていることが多いように感じます。「いかに自分が成長するか」「会社が自分をどう成長させてくれるか」を重視し、「会社という組織全体で成長する」という視点が抜けてしまうのです。


視点が個人の成長に向いていると、どうしても、ほかの人と競って「チームの中で自分がいちばん優秀」「同期の○○よりも勝っている/負けている」ということが気になってしまいます。わからないことがあったときも、人に聞くのは自分の弱みを見せるように思えてしまいますし、課題を指摘されると、負けたように感じて機嫌を損ねてしまう。「チームで協力し合うことで、目的を達成する」「チーム全体で成長する」といった発想にならず、人と協力することができなくなってしまうのです。


ですから、まずは先ほどお伝えした「最初に上司の側が話す」「最初に予告して、話の最後に質問させる」「ポジティブ:ネガティブ=7:3にする」という3点を実践しながらも、個人の成長だけを重視するといった発想を、変えてもらうことを考える必要があるでしょう。


「個人の成長だけでなく、チームや会社という組織全体で成長することが大事」と、何度も伝えることで、徐々に視点が変わり、「チーム全体で成長するために、自分は何ができるか」を考えられるようになってくるはずです。


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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)

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