仏プジョー新型セダン508 「ドイツ御三家」を食う資質あり

8月21日(水)7時0分 NEWSポストセブン

プジョーの新型セダン「508」

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 高級外車ブランドといえば、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのドイツ御三家が日本でも根強い人気だが、近年は環境性能や先進技術のコモディティ化の影響もあり、プレミアムブランドの優位性が徐々に薄れている。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がドイツ車を脅かす象徴的な存在として挙げた1台は、フランスメーカー・プジョーの新型セダンだ。一体、どこが凄いのか。


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 見目麗しく快適で高性能、高機能──かつては俗にプレミアムセグメントと呼ばれる高級車ブランドの専売特許だったこれらの特性も、今や彼らだけのものではなくなりつつあるということを実感させられるケースがこのところ急激に増えている。


 自動車工学の進歩によって、高いコストをかけなければできなかったことが安いクルマでも可能になっていくのは昔からの常。高級車はさらに上を行くことでその価値を保ってきたのだが、最近は開拓可能な新分野がどんどん少なくなってきている。性能を求めるのにも限界というものがあるし、先端技術の低価格化も昔に比べるとはるかにペースが早い。ノンプレミアムの大衆ブランド車との差別化は今後もどんどん難しいものになる。


 実際にテストドライブしてみても、トータルで、あるいは部分的に、もはやプレミアムセグメントとの区分けする意義が薄れてきたなと思わされるモデルは以前に比べて格段に増えた。


 なかでもとりわけ強く印象に残ったのが、今春日本デビューを果たしたフランスの自動車メーカー、プジョーのDセグメント(全長4.8m前後)セダン「新型508」である。508が“プレミアムセグメントイーター”であると感じられたポイントはどこか。


 まずはデザイン。筆者は海外で発表された際の写真を見たときは、「こりゃまた劣化レクサスみたいなキッチュなデザインにしたものだ」と思ったのだが、初めて実物を見たとき、ショウケースに飾られているのはコンセプトカーで、実物は別にあるのではないかと一瞬幻惑されたほど。そのくらいアグレッシブでダイナミックだったのだ。


 プジョーが新508をこういうデザインにしたのには理由がある。2010年に登場した初代508は中国市場を最大のターゲットとしていたが、その中国で惨敗を喫し、また中国向けの仕立てが災いしたか、根拠地の欧州でも販売スコアは悲惨なものだった。そうこうしているうちに、世の中はSUVブームがあれよあれよと言う間に広がり、セダン離れが顕著になった。


「もはや普通のセダンをセオリーどおりに作っても、存在感を示すことはできないので、全高を低く、リアが流れるようなクーペフォルムにした」


 プジョー関係者がこう語るように、普通のセダンはもはや売れないという半ばやけっぱちの判断で作ったフォルムだったが、怪我の功名というべきか、それがノンプレミアムでありながらプレミアムセグメントらしさを感じさせるデザインにつながった。


 もともとプレミアムDセグメントは走行性能の確保のための重量配分や機構設計がなされており、室内が大して広いわけではない。Dセグメントで何でもやらなければいけないノンプレミアムモデルと違って、広い室内が欲しければ1クラス上のEセグメントを買って下さいという商売だ。508の意図は全然違うのだが、まさにそういう方向性のクルマ作りになっていた。


 第2のポイントは動的質感。もともとプジョーのミドルクラスセダン系は乗り心地について非凡なものを持ち合わせていたのだが、508はそれに路面のざらつきによる振動やロードノイズの効果的なカットという要素が加わっていた。


 筆者がテストドライブしたのは1.6リットルガソリンターボの「GT Line」と2リットルディーゼルターボの「GT Blue HDi」の2車種だったが、ソフトサスペンションの前者はとくに優れていて、ホイールの上下動を低反発ジェルが包み込むようなフィールを示した。こういう乗り心地も、昔は高価な部品を使わなければできなかった。今はチューニングのノウハウで高級車のような乗り味を作れてしまうのだ。


 3つ目のポイントは装備。先進安全技術は衝突防止や前車追従クルーズコントロールなど、今どきのクルマに求められるものは一通りついているのだが、それだけではない。


 ライティングは前照灯だけでなく尾灯も後方の車両を幻惑することなく確実に視認させるアダプティブタイプとなった。さらに、ノクトビジョン、あるいはナイトビジョンなどと呼ばれる赤外線暗視システムを装備しており、夜間、道路や路肩に人や自転車などがいた場合、その存在を危険度とともにディスプレイに表示することができる。


 メーター類は液晶ディスプレイ方式。欧州ではすでに珍しい装備ではなくなっているのだが、508のメーターのグラフィックデザインは美しく、かつ高精彩だ。こういう細部へのこだわりもまた、プレミアムセグメントイーターとしての資質を感じさせるものだった。これらの装備類も、コモディティ化のスピードは昔とは比較にならないほどに早まっている。すでにプレミアムセグメントの専売特許ではなくなっているのだ。


 販売台数だけを見れば、新508は欧州市場においてはノンプレミアムDセグメントのトップセールスであるフォルクスワーゲンの「パサート」に販売台数で押しまくられているように思える。が、これまで販売価格はパサートが最も高く、他はパサートより安くないと話にならないと言われるこのカテゴリーで、新508はパサートより高い値付けを行い、それでも初代とは比べ物にならないくらい好調に売れている。クルマのビジネスの成否はつくづく商品力によると思った次第だった。


 ノンプレミアムでありながらプレミアムセグメントイーター的な商品力を持つモデルは今後、さらに増えてくることが予想される。そのときに既存のプレミアムブランドはどう振る舞うのだろうか。


 そういう流れをあまり恐れていないのは、スウェーデンのボルボ、日本のレクサスなど、プレミアムセグメントのなかでは後発のチャレンジャー側で、価格も安めのバジェットプレミアムである。


 いかにもノンプレミアムの突き上げを最初に食らいそうなポジションのように思えるが、彼らはもともと超高性能という枠組みではなく、それぞれのセンスをベースに商売をしている。たとえばボルボは型にはまった虚飾よりもライフスタイルに豊かさを求める北欧流の美意識を看板にするなど、文化で差別化を図れると自信を示している。


 それに対し、苦しい立場に置かれるのは「より速く」「より強く」「より豪華に」といったヒエラルキーの頂点に立ってきた、メルセデス・ベンツ、BMWなどディフェンダー側のブランドであろう。


 実際、最近彼らの口から漏れるのは「我々のビジネスは近いうちに激変する。ゲームチェンジにいかに対応するか」といったことが多い。ほんの10年前には、「BMWは自動車を作り始めた頃からクーペを作っている。その我々が新作を出すのだから、世界のクーペファンが注目しないわけがない」(BMWジャパン元社長のへスス・コルドバ氏)などと、実績に裏打ちされた自信満々な物言いが定番だったのが嘘のようである。


 彼らとて、プレミアムセグメントのトップを競うためのクルマづくりを続けてきたのだから、その過程で得てきたノウハウは膨大なものがある。単なる速さではなく、いかに気持ちよく走るか、気分を高揚させるかといった数値化できない感性領域の作り込みはとりわけ得意分野だ。


 しかし、彼らの看板はそれだけでは成り立たない。超高速を出せる絶対性能、それを安全なものにする先進装備、快適性を極限まで引き上げる人間工学といった技術の優位が、高価でもお金を出す価値のあるものなのだとユーザーを納得させる原動力であった。それが環境規制、先進技術のコモディティ化の早さ、クルマの使われ方の変化といった要因で価値が低まりかねないという状況に直面しているのだから、心中穏やかならないのも無理からぬところだ。


 ジャーマン系のメーカーは自動車メーカーの中でもことさらプライドが高い。その彼らがノンプレミアムの突き上げに屈するのか、それとも何か劇的な反攻に出るのか──。今後の成り行きが興味深いところだ。

NEWSポストセブン

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