滝クリ"42歳出産"で気になる出生前診断の今

8月22日(木)6時15分 プレジデント社

8月6日、神奈川・横塚市内の実家前、フリーアナウンサー滝川クリステルさんと滝川さんの愛犬アリスと取材に応じる自民党の小泉進次郎衆院議員。 - 写真=スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト

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自民党の小泉進次郎衆院議員と結婚し、来年42歳で出産予定の滝川クリステルさん。麻酔科医の筒井冨美氏は「このニュースをきっかけに結婚・妊娠に前向きになる人も増えるでしょう。ただし高齢出産にはさまざまなリスクがあります。特に『出生前診断』に関する知識は更新してほしい」という——。

写真=スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト
8月6日、神奈川・横塚市内の実家前、フリーアナウンサー滝川クリステルさんと滝川さんの愛犬アリスと取材に応じる自民党の小泉進次郎衆院議員。 - 写真=スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト

■滝川クリステルさん42歳出産で気になる「出生前診断」の今


2019年8月7日、自民党の小泉進次郎衆院議員(38)とフリーアナウンサーの滝川クリステルさん(41)との結婚が発表された。クリステルさんは妊娠中で、年明け42歳で初産の予定だという。小泉氏は「全力で守る決意」とブログで宣言し、日本中から祝福を受けた。


ネットの一部では「順序が違うのでは」と揶揄する声もみかけた。だが、多数派ではないようだ。“小泉ファミリー”の跡取りが40代女性との結婚するにあたり、「跡継ぎを産めるのか」は世間の最大の関心事だろう。クリステルさんはその点をクリアしたからこそ、今回のように手放しでの祝福を受けているともいえる。


次いで懸念されるのは、40代という高齢妊娠に伴うリスクだろう。一般的に、卵子の異常は基本的に年齢とともに増加する。40代前半妊娠で流産する率はおおよそ30〜50%程度である。だからこそ、「ようやく安定期に入って」と語った小泉氏の笑顔は、そういう危ない時期を乗り越えた喜びにあふれていたように見えた。


高齢妊娠は染色体異常などが20、30代に比べて多いが、妊娠中に胎児異常を見つける出生前診断の技術は日進月歩だ。今回の2人の結婚・妊娠報告を期に、この出生前診断の現状についてまとめてみたい。



■費用は1万〜30万円、主な「出生前診断」を整理してみた


表は、現在、日本国内で公的な妊婦検診以外に行われている代表的な出生前診断(A〜Eの5種類)のあらましだ(※)。A→Eにつれて、診断精度が高くなる。いずれの検査も健康保険の適応外であり、1万〜30万円となっている。


※参考資料:

日本産婦人科医会ホームページ

NIPTコンソーシアム



【A:クワトロテスト】

妊婦の血液中にある4つ(クワトロ)の成分を測定することで、「ダウン症」(=21トリソミー:本来は2本ずつの常染色体だが、21番染色体が3つある)、「18トリソミー」「開放性神経管欠損症」の3つの病気の確率を推定する。得られるデータは、「胎児がダウン症である確率は52分の1」といった比較的アバウトなものである。


【B:精密超音波検査(胎児ドッグ)】

一般的な妊婦検診よりも、さらに時間をかけて超音波検査を行う。首のむくみ、へその緒の血流、鼻骨の有無などをチェックして、ダウン症などの染色体異常を推定するが、専門家でも80〜90%ぐらいの精度が限界と言われている。


【C:コンバインドテスト】

血液検査とBを組み合わせて精度を上げる。ただ、95%ぐらいが限界とされ、検査を受ける妊婦の中でも、妊娠続行か否かを判断するようなケースでは、DやEのような高精度の検査を追加することが一般的である。



■美容外科や皮膚科クリニックも参入している新型出生前診断


【D:NIPT(新型出生前診断)】

NIPTとはNon-Invasive Prenatal Testingの略。直訳すれば「非侵襲的出生前検査」。日本医学会は「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」と表現しているが、一般には「新型出生前診断」と呼ばれることが多い。


妊婦から採血することで、胎児由来のDNAを採取して解析する。2012年ごろから実用化され、妊娠10週から検査可能で、妊婦の負担が少ない割に検査精度は93〜99%と高い。


2017年放送のドキュメンタリー番組「ダウン症のない世界?」(NHK-BS1)では、英国においてNIPTそして胎児異常を理由にした人工妊娠中絶が広く行われ、アイスランドではNIPTと中絶によってダウン症児がいなくなったという現状が紹介された。


一方、日本でもNIPTは実施されてはいるが「安易な中絶をまねく」など批判する団体も多い。日本産婦人科学会は「35歳以上」「専門家による遺伝カウンセリング」など厳しい条件をつけて92の認定施設(表D-1)に限って許可しているが、認定施設が地域によっては極端に少ないケースがあり問題視されている。


認定されていない施設の産婦人科医は妊婦にNIPTをリクエストされても応じることはできない。違反した産婦人科医は日本産婦人科学会から処分されるためだ。


■非認定施設「陽性だった場合は羊水検査の費用をキャッシュバック」


そうした状況を見て、2016年から産婦人科学会による処分を気にしない非産婦人科医による非認定施設(表D-2)でのNIPTが急増することになった。美容外科や皮膚科クリニックなどによる参入である。


「妊婦を採血して、外国の検査機関に送り、結果を通知する」という流れなので、特別の技術や設備は要らず、一部の美容外科・皮膚科クリニックがサイドビジネスとして始めたケースもある。


申し込んでも「1カ月待ち」はザラである認定施設では「血液検査の前に遺伝カウンセリングが義務」で2〜3回の通院が必須となる。一方、非認定施設では「年齢制限なし」(認定施設の場合は原則35歳以上)、「ネット予約→1回のみ受診して採血→1週間後メールで結果報告」と手軽だ。


NIPTで陽性だった場合には、多くの場合、Eの羊水検査に進むことになるが、前出の非認定施設では「陽性だった場合には羊水検査の費用をキャッシュバック」のようなサービスも普及しつつある。ネットで「NIPT」と検索した場合、トップに現れるのは「非認定施設の派手な広告」なのが現状である。


【E:羊水検査】

子宮に長い針を刺して羊水を採取し、その中の胎児細胞のDNAを調べる検査である。診断精度は非常に高いが、妊婦への負担も大きく、0.1~1%の流産リスクもある。1960年代からの長い歴史があり、認定制度もなく、多くの産婦人科施設で行われている。産婦人科学会もNIPTは厳しく制限する一方で、「羊水検査で陽性→人工妊娠中絶」は事実上、容認している。



■出生前診断は「安易な中絶をまねく」のか


最も有名な染色体異常であるダウン症の発症率(※)は、20歳では1667分の1だが、30歳では952分の1、40歳では106分の1と、20歳に比べ40歳の発症率は約16倍に増加する。とはいえ、ダウン症以外の染色体異常を含めても、40歳でも98%以上の女性は正常な赤ちゃんを産んでいる。


※内閣府「妊娠適齢期を意識したライフプランニング」(2014年)


2009年、歌手の倖田來未さん(当時25)がラジオ番組で「35歳になるとお母さんの羊水が腐る」との発言が大きな波紋を呼び、「デリカシーがない」などのネットで炎上したことがあった。先天異常や出生前診断の話題は「安易な中絶をまねく」「命の選別」と非難されやすく、この分野の国民的議論が不足している。


■お金問題も含め、中絶は是か非か


ひとりの医師としては、胎児を産むか否かは妊婦とパートナーで決断する案件であり、「安易な中絶」「真剣な中絶」と他人が判断するものではないと思う。増税や社会保障費は子育て世代に重くのしかかり、「年収300万、手取り月20万」といった若い世代の夫婦は珍しくない。「子供は欲しいが、障害のある子供を育てる経済的心理的余裕はない」という結論にいったとしても、それをとがめるのはいかがなものだろうか。


日本の人工妊娠中絶は「22週未満」と法律で定められている。地方在住の女性で複数回上京して検査を受ける場合、交通費もバカにならないし、何度も休めない職場も多い。最終的に妊娠中絶となった場合、手術費用(20万〜50万円)も工面する必要もある。


■非認定施設でのNIPTは是か非か


NIPTに関しては「営利目的での検査が広く行われる状態は好ましくない。誤った結果に基づいて中絶が行われないよう、羊水検査を義務づけるなどの対策を講じるべきだ」(仁志田博司・東京女子医大名誉教授、朝日新聞2019.8.17付1面)といった意見がある。


胎児の染色体の異常を「確定」するには、民間の美容外科クリニックなど非認定施設での検査を含むNIPTの結果だけでは不十分であり、不確実な結果に基づく中絶につながってはいけない。ただし、100%の確定できる診断ではないからといってNIPTを「安易な検査」と非難すべきではないかもしれない。



■無事な出産と、2人とベビーの末永い幸せを


クリステルさんの本名は「滝川ラルドゥ・クリステル雅美」であり、進次郎氏は「雅美」と呼んでいるそうだが、もしも2人がもし遺伝カウンセリングを受けていたら、6月ごろには病院を訪れていたと推測できる。


病院外来の産婦人科医で担当医が「滝川雅美さん、お入りください」と呼んだら、クリステルさんが進次郎氏を同伴して診察室に入ってきたら、かなり驚いただろう。何はともあれ無事な出産と、2人とベビーの末永い幸せをお祈りしたい。



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筒井 冨美(つつい・ふみ)

フリーランス麻酔科医、医学博士

地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

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(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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