遺族はとても納得できぬ「悪質運転」の「軽い」量刑

8月27日(火)6時12分 JBpress

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(柳原三佳・ノンフィクション作家)

 この夏、テレビで繰り返し流された宮崎文夫容疑者による「あおり運転殴打事件」の映像。

 お盆休みの時期と重なったこともあり、「もし、自分や家族があのような状況に陥ったら・・・」と、怒りと恐怖を覚えながら、見ていた方も多いことでしょう。

 ドライブレコーダーが取り付けられていたからよかったものの、あの映像がもし記録されていなかったら、被害者は泣き寝入りを強いられていたかもしれません。そして、宮崎容疑者はその後も何食わぬ顔で同様の運転を続けていたことでしょう。

 もし、大事故が誘発され、新たな被害者が出ていたら・・・、それを思うと、本当にぞっとします。

 私はこれまで、数多くの交通事故を取材してきました。その中ではっきり言えるのは、重大な交通事故には、「悪気のない過失」によって起きるケースと、「極めて悪質な運転」が引き起こすケース、この2つが混在しているということです。

 事故の状況を詳しく取材すると、後者はまさに「起こるべくして起こっている」ことがわかります。つまり、運転者が最低限のルールを守っていれば、絶対に起こりえなかったということです。


高速走行中の「スマホ漫画」で追突死亡事故

 8月21日、新潟地裁長岡支部で「自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)」に問われていた男に、懲役3年の実刑判決が確定しました。この事故は、最近問題になっている、いわゆる「ながらスマホ」が原因の信じがたいものでした。

 事故が起こったのは2018年9月。運送会社に勤務するドライバーの男(51=事故当時。判決時は52)が、関越自動車道をワゴン車で走行中、井口百合子さん(当時39)のバイクに追突。百合子さんはこの車と後続車に相次いで轢過され、即死でした。

 事故直後の検証では「対向車線に気を取られて脇見をした」と供述していた加害者。ところがその内容は虚偽で、実際には時速100キロで走行しながらLINEに配信されるホラー漫画をスマートフォンで読み、衝突に至る16秒前(衝突地点の約444メートル手前)からはまったく前を見ていなかったことが明らかになっています。

 実は、事故発生までの一部始終は、自身の車のドライブレコーダーに記録されていました。夜だったため、スマホを操作する様子がフロントガラスに鏡のようにはっきりと映り込んでいたのです。


「危険で悪質」な運転で死亡事故でも懲役3年

 判決文には、懲役3年という量刑の理由が、次のように厳しい筆致で記されていました。

≪被告人の前方不注視義務違反の程度は著しく重く、その運転の態様は重大な事故に直結する可能性の高い非常に危険なものであって、本件は一瞬の不注意による事故とは一線を画する、特に危険で悪質な運転による事故であったと評価すべきである≫

 裁判官をして「特に危険で悪質」とまで言わせた死亡事故・・・、それでもこの事故は「危険運転致死傷罪」に当たらず、懲役3年が妥当と判断されたことになります。

 事故当日、妻の百合子さんと共に2台のバイクを連ねてツーリング中だった夫の井口貴之さん(47)は、判決確定後、複雑な胸の内をこう語りました。

「妻・百合子は一生帰って来ないのに、加害者はたった3年で社会に戻れると思うと、とても刑が軽く感じられます。同種の事案を比較したとき、今回の判決の3年というのは最も重い事例だということですが、法の限界を感じてなりません。 悪質運転に対しては、もっと厳しい判決がなされるよう、法改正が必要だと強く感じています」


ジグザグあおり運転の末、歩道に突っ込み4人死傷も「過失」

 2012年11月、東京地裁で下された死亡事故の判決も、遺族にとっては到底納得できないものでした。

 事故は、2010年12月26日夜、東京・田園調布の中原街道で発生しました。

 ラップ音楽に合わせて、他車の走行を妨害しながらジグザグ運転をしていた車が、制御不能となって歩道に直角に突っ込み、信号待ちをしていた祖父母と、冬休みで遊びに来ていた2人の孫に衝突。

 9歳と6歳の男の子が亡くなり、祖父母も大けがを負い、重体となったのです。

 4人は祖父母が飼っている愛犬の散歩中でした。

 加害者は近所に住む20歳の男でした。事故を起こす前から危険なあおり運転が目撃されており、近所でも心配する声が上がっていたそうです。

 当初、加害者は交通事故の中では最も重い「危険運転致死傷罪」で起訴され、裁判員裁判が開かれました。

 ところが、加害者の供述は裁判の途中に変遷。事故直後の内容と大きく変化します。それが原因となって、訴因が「自動車運転過失致死傷罪」に変更され、約1年後、15年の求刑に対して、その半分以下である懲役7年という判決が下されたのです。

 裁判官は判決文にこう記していました。

≪被告人はハンドルから手を放し、車内で流していた音楽に合わせてクラクションを鳴らし、赤信号で停止した状態から急加速して、隣の車線を走っている車を追い抜くといったふざけた運転を続けた挙句、(一般道を)時速約70キロを超える速度で進行中、曲のラップ部分に合わせて急ハンドルを切ったのであり、自動車運転の危険性を全く考えていない、極めて悪質な運転により事故を起こしたものである≫

 この事故でも裁判官は、加害者に対し「極めて悪質な運転」という言葉を使っています。しかし、それでも「危険運転」ではなく、「過失」と判断されたのです。

 私は、この事故の判決が出た翌年、裁判の経緯や加害者の供述の変遷、子どもを失った遺族らの思いを『柴犬マイちゃんへの手紙 無謀運転でふたりの男の子と失った家族と愛犬の物語』(講談社)という一冊の児童書にまとめました。

 ドライバーの中には危険を顧みず、法律を無視し、クルマを使って自己顕示欲を満たそうとする人がいます。そういう大人になる前に、子どものころからハンドルを握ることの重さ、命の大切さを伝えたいと思ったからです。

 本のあとがきには、大切な2人の孫を目の前で失った祖父母の言葉が寄せられています。

「あの子たちが犠牲になったこの出来事を通して、交通事故を取り巻く理不尽な現実を社会に知ってもらい、一件でも事故を減らすことができれば・・・」


国会でも悪質なあおり運転罰則強化に向けた対策が

 2017年、東名高速道路であおり運転の末、停止させられたワゴン車の夫婦が後続のトラックに追突されて死亡するという事故が発生しました。
この件では、停車後に発生した事故であったにもかかわらず、横浜地裁が「自動車運転処罰法」には規定のない「危険運転致死傷罪」の成立を認め、懲役18年の刑が確定しています。

 この判断は極めて異例だったため、注目を集めましたが、悪質運転による大半の事故は今も「過失」として処理されているのが現状です。

「あおり運転」や「ながらスマホ」が社会問題化する中、世間からは重大事故を抑止するために、悪質運転に対する厳罰化を求める声が高まっています。

 それを受けた自民党は、8月27日、「交通安全対策特別委員会(委員長・平沢勝栄氏)」を開き、道路交通法などの罰則強化を視野に入れた協議を始めるそうです。

 これ以上被害者を生まないためにも、ぜひ党を超えた連携を図り、無法者の「悪質ドライバー」を排除する対策を講じていただきたいと思います。

筆者:柳原 三佳

JBpress

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