「テスラ→ポルシェへ乗り換えが加速」高級EV市場で起きている"ある異変"

8月29日(日)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/supergenijalac

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■EV化が叫ばれても実態は…


現在自動車のEV化の話題が盛んである。とくにヨーロッパは急進的であり、2035年までにHVを含む内燃機関車の販売を禁止する方針を打ち出している。そのためには消費者に買ってもらわないといけないため、各国はさまざまなインセンティブをつけてプラグイン車(EVおよびPHEV:プラグインハイブリッド車)の販売を伸ばそうとしている。


その結果、ヨーロッパでは今年に入って販売の約16%がプラグイン車となっており、純粋なEV(以下BEV)だけで見ると7.6%となっている。ブランド別で見るとフォルクスワーゲン、BMW、メルセデスベンツがプラグイン車販売トップ3だが、BMWとメルセデスベンツは現状ではPHEVが多い。


資料① Are cars cleaner today?
資料② Plugin Vehicles Hit 19% Market Share In Europe In June! Tesla Model 3 Has Best Month Ever!


BEV市場で強さを見せるテスラはもちろん生産台数のすべてがBEVであるが、テスラに次いでBEV比率の高い主要ブランドはどこか。


BEV化を積極的に進めているフォルクスワーゲンでも、世界販売に占めるBEV比率は3%をわずかに超える程度(2021年上半期)である。ヨーロッパに限っても7.4%である。現在、伝統的自動車メーカーでBEV比率が最も高いブランドは、非常に意外性のあるブランドである。それはなんとポルシェなのだ。


写真=iStock.com/supergenijalac
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■アメリカでテスラ・モデルSより売れるポルシェ・タイカン


ポルシェのBEVはタイカンという1車種のみ(ボディタイプは2つある)だが、2021年上半期で1万9822台を売り上げた。タイカンの目標販売台数は年2万台なので、半年でそれを達成している。2021年後半も同じ程度の販売を見込んでいるため、年計では4万台に達するはずだ。


同時期のポルシェのアイコンといえる911の販売台数は2万611台なので、タイカンはすでに911と同等の販売台数になっている。この調子でいくと911を超える販売台数になる可能性が高い。するとSUV(カイエン、マカン)以外のモデルでは、タイカンが最も売れるモデルということになる。


ポルシェ販売に占めるタイカンの比率は12.9%に達している(2021年上半期)。この数字がすごいのは、EV販売支援策が手厚いヨーロッパの数字ではなく、全世界の販売に占める比率であるということだ。


ヨーロッパでは2021年上半期に6991台を販売、ポルシェ全体に占める割合は17.3%である。ポルシェはタイカン以外の電動車としてカイエンとパナメーラにPHEVモデルがあるが、ヨーロッパではこのプラグイン車3車種で約1万6000台を売り、ポルシェ販売の4割を占めるに至っているという。


資料③ Porsche Sold Almost 20,000 Taycan In H1 2021


アメリカでもタイカンはよく売れており、2021年上半期は5367台を売り、911の5108台、テスラ・モデルSの5155台をもしのぐ数字だ。


資料④ Porsche Reports Q2 2021 U.S. Retail Sales


ポルシェは、販売台数の多いマカンの次期モデルでBEVとPHEVを導入するとしており、そうなると電動化率はさらに高まるであろう。


■ポルシェBEV成功要因①:商品企画


さて、高性能スポーツカーブランドであるポルシェのBEV、タイカンがなぜこんなに売れるのか。まず、第一の成功要因と考えられるのはその商品企画だ。


アウディのe-tronやメルセデスベンツのEQシリーズなどは、まずSUV的なプロポーションのモデルから導入した。SUV人気の高まりに加え、バッテリーを床下に搭載する関係からその車高の高さでSUVはBEVとして成立させやすく、合理的な判断だ。


しかしSUVでデザインの差別化を図るのは難しく、e-tronもEQシリーズ初のEQCもガソリンモデルのSUVとの差が一目ではわかりにくいモデルとなっている。


ポルシェ初BEVに課せられたブランドミッション

ポルシェは初のBEVを開発するにあたり、おそらくスポーツカーにこだわったと思われる。ポルシェのブランドアイコンは純スポーツカーの911だが、近年はSUV(カイエンとマカン)の販売が好調すぎて販売の3分の2を占めるに至っており、実質的にはスポーツカーメーカーというよりSUVメーカーとなってしまっているためだ。


911はリアオーバーハングに水平対向エンジンを搭載するというメカニズム上のユニークネスを持っており、それこそが911ファンがこだわるポイントである。それゆえ911をBEVとすることは困難である。


今後CO2排出量を減らすためにBEV化を進めざるを得ないポルシェとしては、将来的には911をブランドアイコンとして使い続けることができなくなるかもしれない。だとすれば、最初のBEVは新たなポルシェイメージを牽引(けんいん)できる車種とならなければならないと考えたはずだ。


そうなると、それがSUVというわけにはいかない。これ以上SUVメーカーイメージを高めるわけにはいかないからだ。新BEVは911とイメージが重なるようなスポーツカーでなければならない。


「ポルシェブランド」「先進・環境」イメージの融合を実現

ただし、新BEVにはもう1つ重要な役割がある。ブランド全体のCO2排出量を下げるというミッションである。そのためにはある程度以上の量を売る必要がある。2ドアのスポーツカーでは販売量は期待できない。


そこで選択されたボディタイプが、スポーツカーらしい低く構えたプロポーションながら4枚のドアを備えるという4ドアクーペである。そしてポルシェの4ドアモデルとしては最も911に近い、非常にポルシェらしいスタイリングを与えた。つまり、このようにして誕生したタイカンは4ドアながらいかにもポルシェ、という佇(たたず)まいのモデルとなった。


スタイリング的に他モデルとの差別化も十分で、一目で「ポルシェのBEV」ということがはっきりわかるモデルとなった。ポルシェというイメージに憧れつつBEVによる先進・環境派イメージも合わせて表現したい人のニーズと合致したのである。


■ポルシェBEV成功要因②:テスラの成功


第2の成功要因として考えられるのは、テスラの爆発的増加という外部要因である。近年テスラはアメリカで最もステータス性の高い(=自慢できる)ブランドとして君臨しており、テスラ・モデルSはラージ・ラグジュアリー・カーという最上位セグメントで最も売れる車種となっている。


しかしここ数年アメリカにおけるテスラの販売は、ミドルクラスのモデル3とモデルYにシフトしており、テスラの販売は今年上半期だけで14万台に達している(モデル3発売前の2017年は年計で5万台程度)。


モデルSはセグメントトップの地位は維持しているものの、アメリカでの販売は大きく低下している(2018年の3分1の水準)。つまり、今やテスラのブランドイメージの中核はモデル3とモデルYであり、ステータスイメージは低下していると考えられるのだ。


この絶妙なタイミングで投入されたのがタイカンだった。それゆえか、ポルシェオーナー以外で最もタイカンに興味を持っているのはテスラユーザーだという。


資料⑤ Porsche attracting Tesla owners with all-electric Taycan sports car


写真=Porsche-AG
ポルシェ タイカン - 写真=Porsche-AG
テスラユーザーがよりステータス性の高いポルシェへ移行

ありふれてきたテスラから、よりステータス性の高いポルシェに乗り換えようとするモデルSユーザーがたくさんいるということだ。このことは販売にも表れており、前述のように2021年上半期のアメリカのタイカンの販売台数はモデルSを越えている。


テスラにはスーパーチャージャーという独自の急速充電ネットワークがあり、ソフトの更新もOTA(Over The Air=無線経由)でできるなど、ポルシェにはない実用上のアドバンテージがあり、加速性能や航続距離もポルシェより優れているにもかかわらず、である。


まだ現時点でBEVを買うということは、実用価値ではなく、社会的ステータスや自己表現手段としての側面が強いということも示している事例だろう。


■ポルシェBEV成功要因③:価格設定


第3の成功要因はタイカンの価格設定にある。ポルシェ911は10万1200ドル(アメリカでの価格)が最低価格だが、タイカンは8万2700ドルから買える。なんと2万ドル近く安いのである。


911のベースモデルよりも加速性能に優れるタイカン4Sでも、10万3800ドルとほぼ同等の価格である。タイカンで最も高性能なタイカン・ターボSの時速0-60マイル(約96km/h)加速は2.6秒と、911の中で最も速い911ターボSと同タイムだが、この2台の比較でもタイカンのほうが2万ドル以上安い。


ライバルとの比較でも、テスラ・モデルSの価格は8万9990ドルからでタイカンのほうが安い。つまり、ポルシェのBEVに関心を持つ層にとって、割安感を感じさせる価格設定となっているのである。


戦略的価格設定を可能にする「高い営業利益率」

一般的にBEVはバッテリーのコストが高く、ガソリン車に比べてかなり高価になってしまうのが普通だが、ポルシェはなぜこのような戦略的な価格設定ができたのだろうか。その理由はポルシェのアニュアルレポート(年次報告書)を見ればわかる。


2020年の営業利益率はなんと15.4%という高さなのである。フォルクスワーゲンブランドは0.6%、プレミアムブランドのアウディでさえ5.5%である。



山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)

トヨタの2020年度(4〜3月)の営業利益率は8.0%なので、トヨタと比べてもかなり高い。これでも2018年の17.4%よりも下がっている。ポルシェはタイカンを戦略的価格で発売できる余力があるのである。


加えて、性能が上がるにつれ価格を激しく吊り上げていくのはポルシェの常套(じょうとう)手段であり、最高性能版のタイカン・ターボSは、テスラ・モデルSの最高性能版である「プレイド」より6万ドルも高い設定となっている(加速性能はプレイドの方が上であるにもかかわらず)。


つまり、グレード間の価格差が非常に大きい。このため、タイカンであっても上位グレードの収益率はかなり高いと思われる。


■積極的なEV化の裏にある長期ブランド戦略


このようにしてポルシェは、タイカンを戦略的価格で売り、台数を稼げるマカンもプラグイン化し、おそらくこれも戦略的な価格で売ることによって、CO2排出総量を大きく減らすことができるだろう。そうすれば、911をガソリン車の販売が完全に禁止されるまで、911の伝統的な魅力を保ちつつ売り続けることができるというわけだ。


その一方でポルシェは、その高い収益性を武器に、現在風力発電で作った水素とCO2から作るカーボンフリー合成燃料の開発を行っている。


資料⑥ Porsche to begin producing synthetic fuels in 2022


開発に成功し、大量生産することが可能になれば、将来的にも911は水平対向エンジンを搭載し、素晴らしい排気音を奏でる車であり続けることができる。ポルシェは電動化を積極的に進めているように見えて、本音ではゼロカーボン時代になっても内燃機関にこだわり続けようとしているのかもしれない。


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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988〜89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118d、1966年式MGBの3台を愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。
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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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