トヨタ自動運転車事故、目の前に叩きつけられた厳しい現実

9月1日(水)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 2021年8月26日、東京パラリンピック選手村内でトヨタ自動車製の自動運転車「eパレット(e-Pallet)」とパラリンピック出場選手との接触事故が発生した。その影響でトヨタはeパレットの運行を同日から停止していたが、8月31日15時に運行再開することを大会組織委員会が決定した。

 トヨタはオウンドメディア「トヨタイムズ放送部」で事故の発生状況と対策内容を示し、豊田章男社長が「この度接触した方の一日も早い回復をお祈りしている。(自動運転の)モビリティの運行停止で選手村の方々にご不便をおかけしたことを申し訳なく思う」と謝意を表明した。


事故再発を防ぐトヨタの対策

 トヨタの発表内容から事故の発生状況を振り返ってみたい。

 歩行者は視覚障害者で、信号機のない交差点を単独で渡ろうとしていたところ、車両が交差点を右折して接近し、車両は歩行者の動きを検知して停止した。その後、車内のオペレータが安全を確認して再度発進したうえで、交差点内の状況を確認して手動で減速を始めたが、道路を横断してきた歩行者を車両のセンサーが検知して自動ブレーキが作動した。それと並行してオペレータが緊急ブレーキを作動させたが、接触事故が発生した。

 接触事故の発生時、交差点内に誘導員が2人いたが、パラリンピックのように多様な人がいる状況で、誘導員が複数の方向からの歩行者や車両の動向を確認できる環境ではなかった。誘導員とオペレータとの連携の仕組みが十分ではなかったという認識もあるという。

 今後の対策としては、歩行者に対しては組織委員会が選手団長会議などで移動のルールなどを改めて周知し、車両については、自動運転ではなくマニュアルでの加速・減速・停止を行う。さらに、接近通報音の音量を上げ、搭乗員を増員することを決めた。

 そのほか、交差点の誘導員を現在の6人から20人に増員し、車両担当と歩行者担当に分離して専業化する。同時に、信号の代わりとなって車両と歩行者を安全に誘導できる体制を構築するとした。

 要するに、東京パラリンピック選手村においてeパレットはもはや自動運転車としての運用ではなく、高度な運転支援システムを持った小型電動バスという位置付けになったと言える。

 これはあくまでも選手村が閉村するまでの期間、大会関係者が選手村内での移動に困らないような応急措置としており、その中でトヨタがより安全な自動運転車のあり方を検証していくことになる。


コスト削減と安心・安全の両立が課題

 では、トヨタの自動運転モビリティは今後どのような改善が可能なのか?

 筆者がサポーター(永平寺町エボリューション大使)として参加している福井県永平寺町での自動運転実証試験(国土交通省、経済産業省、産業総合研究所が共同で実施)での現場の状況、さらに筆者がこれまで現場で取材してきた各種の自動運転車の状況を踏まえて考えてみたい。

 国が自動車メーカーなどと協議して決めた自動運転に関する指針では、自家用車や商用車などを「オーナーカー」、公共交通を主体とした乗り物を「サービスカー」と定義している。東京オリンピック・パラリンピック選手村でトヨタが運行するモビリティはサービスカーである。自動運転サービスカーが目指すのは、「運行コスト削減」と「安心・安全」の両立だ。

 全国各地で近年、路線バスやタクシーの運転手の高齢化が進み、新たな成り手を見つけることも難しくなってきた。また、自家用車の普及によって路線バス乗車客数が減る中、バス運行会社が運行ダイヤを見直して減便するケースも少なくない。地方自治体の中には、路線バス継続のためにバス運行会社に補助金を交付したり、コミュニティバスの費用を負担しているところもあるが、財政への負担が大きく、コミュニティバスの減便や廃止を検討せざるを得ない状況もある。

 こうした状況を打開するため、搭乗員がいない自動運転バスや自動運転タクシーへの期待が高まっている。国と自動車産業界は、永平寺町や東京オリンピック・パラリンピックでの実証実験を国内外に向けたショーケースとして、サービスカーの自動運転化を検討してきた。

 だが現状では、今回の選手村での接触事故への対策に見られるように、安心・安全を確保するためには、まだまだ人によるサポートが欠かせないことが分かる。実証試験では、事故が起こらなければ自動運転運行に関わる人の数を段階的に減らしていく。だが、一度でも事故が起こると、そうした流れが一気に逆戻りしてしまう。そんな厳しい現実を目の前に叩きつけられたような思いがする。


自動運転技術は確かに必要だが

 トヨタを含めた自動車産業界には、「死亡事故ゼロを実現するためには自動運転技術が欠かせない」という認識が存在する。そこには、死亡事故の多くが運転者の運転判断ミスや運転操作ミスによるものだという大前提がある。

 確かに、完全自動運転まで至らなくても、自動運転技術を活用した高度な運転支援システムが事故発生を軽減しているとのエビデンスもある。今回のパラリンピック選手村内での接触事故においても、自動ブレーキが作動したことで接触時の速度が抑制されたことは事実だ。自動ブレーキの作動によって、接触した歩行者の負傷の度合いが抑えられた可能性もある。

 これまでの自動運転技術の進化を俯瞰してみると、2010年代中盤以降、AI(人工知能)に関する研究開発が進むのと並行するように、一気に量産化に向けた動きが加速してきた。筆者は公道で一般車両と混流して走る実証試験車にも体験乗車する機会があるが、その技術進化の速さに驚かされることが多い。

 その上で今回の接触事故を踏まえて、単なる技術論だけではなく、自動運転の社会との関係があるべき姿について、関係者はいま一度深く考えるべき時期ではないだろうか。

筆者:桃田 健史

JBpress

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