中国製有機EL採用でiPhoneは復活できるのか

9月2日(月)6時14分 JBpress

 米アップルは、iPhoneの有機ELパネルに中国パネル最大手製の採用へ最終調整に入った。日本経済新聞電子版が2019年8月21日夕刻に報じた。

 アップルは、iPhoneの高級機種に有機ELパネルを使い、現状では大部分をスマホのライバルであるサムスン電子から調達している。アップルが新たに有機ELパネルの調達を検討しているのは中国の京東方科技集団(BOE)である。


iPhone用の有機ELを中国BOEから調達へ

 BOEは、王東升(Dongsheng Wang)氏が、1993年につぶれかけた国営の真空管工場をベースに設立した企業だ。

 2018年の有機EL(中小型)パネル市場の出荷額シェアは、英調査会社HISマークイットによると、下図に示すように、サムスン電子が83.3%と圧倒的なシェアを占める。LGディスプレイは、大型有機ELではほぼ全量を供給しているが、中小型では12.7%である。BOEは、華為技術(ファーウェイ)等に供給しており1.1%のシェアしかまだない。

 私は、今年iPhoneビジネスモデルが崩壊するリスクがあると、4月1日に下記の記事で書いた。

参考記事:今年はiPhoneビジネスモデル崩壊の年になる
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55955

 アップルは中国BOEから有機ELパネル調達することにより、崩壊の危機を脱して復活できるのか?

 一方、日本では、ジャパンディスプレイ(JDI)が、中小型液晶を中心に経営再建を進めようとしているが、アップルの有機ELの戦略に大きな影響を受ける。

 予想される影響のうち、4つの問題点に焦点をあてて述べていく。


「iPhone崩壊」なぜ起こった?

「iPhone崩壊」の原因について、上記4月1日のJBpress記事を一部抜粋しながら筆者の見解をまとめてみよう。

 2007年のiPhone発売から、スマホ市場は一貫して成長してきた。しかし、世界のスマホ出荷台数は、2年連続のマイナスになり、世界的にスマホ市場が曲がり角を迎えている。

 特に米国アップル社のiPhoneは、新機種が売れていない。有機EL(OLED)ディスプレイを採用した機種(XS、XS Max)が惨憺たる状況だ。

 そもそも、iPhoneのビジネスモデルの神髄は、「あこがれの製品」を「世界で同時、同一機種販売」し、ブランドイメージを上げて、高価格で大量に販売することにあった。しかし、2017年からアップルがiPhoneに有機ELパネルを採用することを発表して、この状況は一変した。

 有機ELは、平板からカーブド(湾曲した)、フォーダブル(折り畳み式)、ローラブル(巻取り式)へと段階的に進化していくものと予想されている。サムスンは、すでに有機ELを「湾曲」させて、スマホの側面にまで映像を表示する技術を持っていた。であれば、そのサムスンからアップルがわざわざ有機ELを調達するのであるから、新しい機種は最低でも「湾曲」、できれば「折り畳み式」になるのではないかと、私は密かに期待を寄せていた。しかしこの期待は見事に裏切られ、アップル初の有機ELスマホは、ただの「平板」だった。

 その結果、iPhone Xは、「顧客価値」よりも価格が高すぎた。「ブランド力」を過信し「価格」を高くしすぎたのが「iPhone崩壊」の原因だ。著者が2019年3月時点で店頭調査すると、64GBの有機ELスマホは、XSが13万6800円、最高機種XS Maxが14万7000円と価格が高すぎた——。


BOE有機ELは復活の鍵になるか?

 つまり、「価格」が「顧客価値」よりも高すぎることが、「iPhone崩壊」の原因になっているのである。このため、BOE有機EL採用で価格が抑えられれば、顧客価値に近づくことが可能になる。

 では、BOE有機EL採用でどれぐらいコスト削減できるか考えてみよう。

 英IHSマーケットの試算では、「iPhone XS Max」の6.5型有機ELパネルの価格は120ドルで、製造コスト全体390ドルの約3割を占めるという。BOEが華為技術(ファーウェイ)に供給している6.5型有機ELパネルの価格は、フォーマルハウト・テクノソリューションによると、84ドルである(日本経済新聞2019年6月27日)。つまり、サムスンからBOEに変更すると、3割程度コスト削減できる。

 これから、1ドル=105円で試算してみると、販売価格14万7000円、全製造コスト約4万950円。製造コストのうちサムスン有機ELは1万2600円で、BOE有機ELにすると8820円となる。調査会社DSCCによると、生産歩留まりとライン稼働率を考えると差はもっと小さいという。米中貿易戦争による制裁関税の増加等を考えると、2000円程度のコスト削減になると考えられる。BOE有機EL採用により、販売価格の1%程度の価格削減しか期待できない。

 iPhone復活には、コスト削減よりも、「あこがれの製品」である「顧客価値」の向上が不可欠である。

 ガラス基板を用いた曲げられない有機ELでは、黒が真っ黒になるのが「顧客価値」だが、スマホの小さい画面ではメリットが小さい。有機ELを採用し「顧客価値」を上げるには、「軽い」「曲げられる」ことが重要だ。


サムスン折り畳みスマホ、2019年9月出荷

 韓国サムスン電子は、世界初の市販折り畳みスマホ「Galaxy Fold」を2019年9月から出荷開始する準備ができたと発表した(SAMSUNG Newsroom U.S. 2019年7月24日)。

 Galaxy Foldは当初5月末に発売する予定だったが、評価用端末で不具合が続出した。製品設計を見直し、ヒンジや保護層を改良し、出荷準備に至った。

 Galaxy Foldが9月に市場にでれば、iPhoneは大打撃だ。

 iPhone XS Maxが「平板」だったのは、アップルのサムスンへの「交渉力」と「パワー」に十分でないことを意味している。今回も、サムスンが折り畳みスマホ用の有機ELをアップルに供給するとは考えられない。

 アップルは、最終製品であるスマホで競争相手であるサムスンから、スマホのキーデバイスである有機ELの供給を受けることは、サムスンに「生殺与奪」の権を握られていることを意味する。


「サムスン依存」からの脱却

 このため、BOE有機EL採用の意図は、コスト削減よりも、「サムスン依存」から脱却を図ることが考えられる。

 日経ビジネス電子版(2019年8月22日)によると、アップルは2020年に投入予定のiPhoneの新モデル3機種すべてに有機ELパネルを採用する計画という。有機EL採用は、2018年は3機種中2機種だったが、2020年は、3機種すべてに採用し、韓国のサムスンとLG、とBOEの3社から調達する考えのようだ。

 アップルは、「世界で同時、同一機種販売」をおこなうため、同一部品を数社から購入する「マルチベンダー方式」を取ってきた。韓国サムスンとLG、BOEの3社から調達するにしても、当面は同一部品を数社から購入する「マルチベンダー方式」を取ることはできないだろう。アップルは、有機ELに関して、それだけの「交渉力」と「パワー」を持っていない。このため、3機種を各3社から別々に「シングルベンダー」として供給を受ける形だ。


中国BOEとはどんな企業か

 そもそも中国BOEは、どの様な企業なのか?

 BOEは、王東升氏が、1993年につぶれかけた国営の真空管工場をベースに設立した企業だ。工場長だった王東升氏が技術開発に力を入れて立て直した。

 BOEは、2017年1月の大型液晶パネル出荷枚数で初めて世界首位となった(IHSテクノロジー2017年2月27日発表)。

 著者は、2017年10月16、17日に北京で行われた「Display Innovation China 2017」に参加し中国のディスプレイ産業を調査した。BOEの創業者で董事長だった王東升氏 は、中国光学光電子行業協会液晶分会の理事長として挨拶した。

 王氏は「ディスプレイ産業は新たな岐路に直面している。(中略)イノベーションを起こし続けることが重要」だと強調した。王氏はイノベーションを重視する経営者である。

 展示会でBOEが最も存在感をしめした。110インチ8K液晶ディスプレイの展示と共に、有機ELディスプレイとしてS字湾曲型(下図左)や、折畳みディスプレイ(下図右)を、2017年に展示していた。

 また、BOEは2018年にも6型折り畳みディスプレイのデモを公開している。

 BOE、CSOT、鴻海が10.5世代の液晶工場などへ「爆投資」し、2018年に、中国は韓国、台湾を抜き去って大型液晶生産能力1位となった。

 この様に、BOEは、世界1位の大型液晶パネル出荷能力を有し、有機ELでも多くの投資を行っている。イノベーションを重視する経営方針であり、今後に期待が持てる。

 アップルは、有機ELディスプレイをBOEから調達することにより、「サムスン依存」からの脱却を図ろうとしている。さらに先を見据えたベストシナリオとしては、BOEから折り畳みディスプレイを調達することが考えられる。


JDIの経営再建への影響は?

 ただし、そこで気になるのがジャパンディスプレイ(JDI)への影響だ。アップルがBOEの有機ELを採用すると、経営再建中のJDIが打撃を受ける可能性が出てくる。

 2018年のiPhone XRには、JDIの液晶パネルが採用されている。しかし、2020年の3機種すべてに有機ELパネルが採用されると、旧液晶モデルのみの採用となり、生産は限定され拡大が期待しにくい。

 また、中国・香港の企業連合の資金調達にも影響する。

 JDIと800億円の金融支援で契約した中国・香港の企業連合のウィンストン・リー最高経営責任者(CEO)が、2019年8月23日に日本経済新聞社の単独インタビューに応じた(日本経済新聞2019年8月24日)。

 アップル、中国・台湾連合とJDIの組織間」関係を下の図に示す。

 リー氏は、「今回企業連合であるSuwaのトップとして発言する」と、発言の立場を限定した。

 JDIが2019年6月17日に発行した「お知らせ」では次の内容を記している。

<出資予定者のうち「Harvest Tech」からは、(中略)出資の実行に必要とされる内部の機関決定に諮る旨の報告を受けました。(中略)Harvest TechのGeneral ManagerであるWinston Henry Lee氏からは、(中略)Harvest Fundから当該不足額を出資するために必要とされる内部の機関決定に諮る旨の報告を受けております>

 このことは何を意味しているのか?

 JDIは、出資予定者の一つは「Harvest Tech」であり、そのトップはウィンストン・リー氏である。リー氏からは、不足額が発生した場合は内部の機関決定、つまり嘉実基金管理グループ(ハーベストGr)の了解を得るという。しかし、リー氏は、ハーベストGrの一部門の長に過ぎず、ハーベストGrの機関決定を取る必要がある。

 リー氏は、今回、資金を出すハーベストGrの立場でなく、資金の受け手であるSuwaのトップとして発言した。

 JDIに払い込む資金の確保について、リー氏は「もちろん確実だ」と話した(日本経済新聞2019年8月24日)。

 しかし、資金を出すハーベストGrの立場をさけた言葉に信ぴょう性はない。むしろ不安をあおってしまった。

 さて、アップルのJDIへの影響に戻って考えてみる。

 アップルは、Suwaを通じてJDIへ約106億円の出資を検討している。新モデル3機種を有機ELにしても、アップルはJDIに約106億円を出資するのではないかと思う。アップルは、自社の意向にそう液晶工場を確保しておきたいからだ。リー氏は、100億円分については交渉中で出資の確約が得られていないとしている。これがアップルの出資分を指すか不明である。

 なお、JDIはアップルに、白山液晶工場建設のために借りた債務約1000億円が残っている。また「トリガー条項」も残っている。「トリガー条項」とは、JDIの現預金が300億円を下回った場合、アップルは債務残高の全額を即時返済することを求めるか、白山工場を差し押さえることができるというものだ。しかし、アップルが2020年iPhone3機種に有機ELパネルを採用すると、JDIの液晶生産は限定され、現預金残高はたちまち枯渇して、「トリガー条項」にかかるリスクが高まる。今後の経営再建の過程でも、アップルはJDIの「生殺与奪」の権利を握り続けることになる。

 だが、この記事を執筆中に、JDIにとって嬉しいニュースが入った。JDIが、米アップルが今秋にも発売する腕時計型端末「アップルウオッチ」の新製品向けに有機ELパネルを供給することが27日に分かったのだ。スマホ用より小さく作りやすいが、JDIの有機ELパネルが採用される初の製品となる。JDIの業績回復の足がかりになることを期待する。


蚊帳の外の日本に起死回生の策はあるか?

 日本のものづくりは、世界から置き去りにされ、蚊帳の外だ。スマホでは、韓国サムスンと米国アップル。有機ELでは、韓国サムスンとLGの独壇場であり、BOEが割り込もうとしている。液晶では、BOEを筆頭に中国が「爆投資」し、生産能力で韓国、台湾を大きく引き離している。

 日本に起死回生の策はあるか?

 私は、シャープからJDIへの支援を、戴社長に直接、株主総会で要請した。戴社長から次の言葉が得られた。

「日本の国と社会に同じ意識があれば援助したい」

「日本のような大きな国で、シャープとJDIの2社のディスプレイの会社が生き残れないのはおかしい」

参考記事:JBpress「シャープ社長が株主総会で見せたJDI支援への関心」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56852

 JDIは、この時よりも更に厳しい状態に陥っているが、私は怨念を超えて今こそ「オールジャパン体制」が起死回生の唯一の道ではないかと思っている。

 日本が韓国勢との勝負を優位に進めるためには、有機EL分野で追いつく必要がある。そのために必要なのは技術の種である。日本には、有機ELパネルを自社で研究・開発するシャープ、低コストな印刷方式に挑むJOLED、新しい有機EL材料に挑む九州大学安達千波矢教授とKyulux社など、期待される存在がある。技術の種はあるので、どう育てていくかに期待している。

参考記事:「液晶のシャープ」が有機ELスマホで見せた実力
     https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55108
    韓国勢が先行する有機ELで日本企業がとる背水の陣
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54062

*中田行彦氏がJBpressで書かれた上記の記事等を加筆・修正した『シャープ再建—鴻海流スピード経営と日本型リーダーシップ』が、啓文社書房より発売中です。

筆者:中田 行彦

JBpress

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