なぜ「イヤホンをしながら自転車」はダメなのか…賢い自転車乗りは絶対にしない3種類の危ない「ながら運転」
2024年9月2日(月)16時15分 プレジデント社
■11月から「ながら運転」は罰則対象に
「スマホを見ながら自転車運転」って、なぜそんな危険な真似ができるのか私は不思議なのだが、誰もがご承知のとおり、このところ多い。
歩きながらスマホを見るというのは、迷惑なだけで、事故にすぐに結びついたりはしないからまだマシだろう。しかし、自転車に乗りながらというのは、本気の本気で事故のもとだ。
写真=iStock.com/stevanovicigor
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stevanovicigor
警察もこの危険性を考えて、取り締まりを強化している。今年5月には、自転車の「ながら運転」と酒気帯びへの罰則を新設した改正道交法が成立し、11月1日から施行されるという。
2026年に導入予定の「青切符」(自転車の交通違反への反則金制度)の対象にも、もちろん「ながら運転」は入っている。
※連載第5回〈青キップ導入で「悠然と逆走するママチャリ」をなくせるか…危険自転車撲滅のために警察がやるべきこと〉参照
■女子大生の危険運転が起こした悲劇
実際に有名どころでは、2017年に川崎でこんな事故が起きている。
20歳の女子大学生が電動アシスト自転車に乗っていた。彼女は右手に飲み物、左手にスマホを持ち、左耳にイヤホンをした状態だった。スマホをポケットにしまった直後に77歳の歩行者(女性)にぶつかって死亡させた。判決は、重過失致死罪で禁錮2年、執行猶予4年(求刑禁錮2年)となった。
何だこの判決は。
女子大生の自転車が、時速9キロと比較的低速で、彼女が反省していることなどから執行猶予付き判決となったらしいが、甘い。温情判決にもほどがある。ただ歩いていただけで命を奪われた被害者の立場はどうなる、と私などは思ってしまう。
しかしながら、同時に「自分もやりがちかも」と思ってしまうのが、この手の事故のたまらないところで、実際に多い。スマホを見ながら運転してるヤカラ。これは男女問わず。しかし、結果は重大だ。
■「ながら運転」による重大事故は過去最多
警察庁によると、スマホなどを見ながら自転車に乗る、いわゆる「ながら運転」が原因となった人身事故は、年々増加している。
2021年には93件、2022年には110件、2023年が139件……。文字通り右肩上がりなんだが、こんな右肩上がりはちっとも嬉しくない。
死亡・重傷事故に限定すると、2024年上半期は18件と過去最多だ。
警察庁「令和6年上半期における交通死亡事故の発生状況」より
だからこそ、スマホ見ながら運転には、例の「青切符!」が科せられることになったんだが、どうだろう、収まるだろうか。私が思うに、ここには2つの要因があって、解決はなかなかむずかしいと思う。
■「自転車は歩行者の仲間」という大誤解
1つめは「スマホ脳」の依存症患者が蔓延していることだ。スマホで脳を刺激してないと、アタマがヒマ。ヒマだからスマホを見る。歩きながらも当然そうで、自転車に乗っても当然そう。ついついスマホを見てしまう。最初はチラチラ、だんだん大っぴらに。
「依存症」は大げさだって? いいや、たとえば雑誌を読みながら自転車運転するヤツがいるか? 新聞は? いるわけがない。ところが、スマホはいるのだ。しかも多数。このことをもっと真摯に考えたほうがいい。
筆者提供
自転車走行中も信号待ちもスマホが気になってしょうがない - 筆者提供
2つめが「歩行者と自転車の間」が完全に溶けていることだ。本来、自転車は車両であり「基本は車道、歩道は例外」のはずである。ところが、日本ではその垣根が曖昧で、自転車は歩道、なぜなら歩行者の仲間だからな、と思っている人が多すぎる。だから多くの外国人は日本人の「スマホながら自転車」を見て驚く。「カミカゼだ」という。
こうした両方向からの誤った歩みよりがあって「自転車でスマホ? 別にいいじゃん」になった。
それが今だ。私にはそう思える。
ちなみに「スマホホルダー」をハンドルに付けた場合はどうなるか。
スマホホルダー自体は禁止されてはいない。この場合、クルマのカーナビと似た扱いになる。要するに2秒以上注視したらアウト。また走行中に操作してはならない、というククリだ。このあたり「あまり望ましくはないが、片手運転でスマホを見るよりはマシ」という扱いになるわけだ。
■イヤホン運転は道交法で規定されていない
ながら運転で最も危険なのは「目を奪われる」スマホだ。しかし、それだけじゃない。最近多いなと思われるのがイヤホンである。これもスマホの普及と関連性があるんだが、ワイヤレスイヤホンを耳につけて運転している自転車乗りは非常に多い。
写真=iStock.com/yunava1
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yunava1
これはどんなククリになっているのだろう。じつは道路交通法には、自転車乗車中のイヤホンに関する規定はない。
では、どこに定められているかというと、「その他交通の安全を図るため必要と認めた事項(道交法71条第6号)」に含まれている。
これを決めるのは各都道府県にある公安委員会だ。つまり法律じゃなくて条例となる。
たとえば東京都で見てみよう。
東京都道路交通規則第8条(5)
高音でカーラジオ等を聞き、またはイヤホンなどを使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両などを運転しないこと。
■片耳でも骨伝導でも音楽に夢中だとダメ
これが意味するところは簡単だ。クルマや自転車を問わず、交通安全に必要な音(警察官の警笛や救急車のサイレン、クラクションなど)が聞こえないようなイヤホンはダメ、という意味である。この条文での「高音」とは「大音量」と同義で、昔の時代劇なんかで「声が高い!」というのと同じだ。
私などはよく聞かれるのだが、片耳ならどうか、骨伝導イヤホンならどうか、なんて議論は、実は無意味だ。聴く形がどうであれ、音楽に夢中で他の音が聞こえないという状態はダメで、そうでないなら「まあよろしい」というのが、基本なのだ。
でないと、たとえばカーステレオなども全部ダメになってしまう。ここらへんのボーダーラインは警察に聞いてもあいまいなところがあるので、今後の動きに注目だ。
音楽を聴くときは小さな音量でどうぞ。音楽にはリラックス効果もあるし、スマホを見ながら運転とはわけが違う。私のオススメはカナル型より断然、骨伝導だ。ネックスピーカーはさらにオススメ。
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ネックスピーカーを身に付ける筆者 - 筆者提供
■片手がふさがり、視界も悪くなる「傘差し運転」
警察が言うところの「ながら」運転にはもうひとつある。
傘差し「ながら」運転だ。
これは正直申しあげて「ダメ」としか言いようがない。片手を傘でふさがれてしまう上に、雨降りだから視界も悪い。危険だから是非やめていただきたい。
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傘を片手に交差点を渡る自転車の女性 - 筆者提供
ただし、難しいのは「サスベエ」という存在のことだ。ハンドルに傘差しの器具をつけて、そこに傘をくくりつけるという方法。大阪のオバちゃんなんかがよくやってますね。
あれはどうかというと、器具の取り付け自体は合法である。ところが、実際に傘を取り付けて広げると、おかしなことになる。
■傘を付けると「普通自転車」ではなくなる
傘を取り付けると「鋭利な突出部を自転車に付ける」ことになってしまうし、傘を広げると「幅60センチ」を超えてしまう。こうなると、自転車は「普通自転車」として認められなくなるのだ。
※道交法施行規則〈普通自転車の大きさ等〉第九条の二
では「普通自転車ではない」ということになると、どうなるのだろうか。
どんな場合であれ、歩道通行が一切できなくなるのだ。これは大阪のオバちゃんにとっては致命的であり、雨降り自転車にとっても致命的だろう。
雨の場合は、素直にカッパを着て走っていただきたい。
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雨の日に自転車に乗るときはカッパを - 筆者提供
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疋田 智(ひきた・さとし)
自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。
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(自転車評論家 疋田 智)