密室でないと本音が言えないJOCの「談合体質」

9月3日(火)6時15分 プレジデント社

日本オリンピック委員会(JOC)会長に選出され、記者会見する全日本柔道連盟(全柔連)会長の山下泰裕氏(左)。右は福井烈専務理事=2019年6月27日、東京都新宿区 - 写真=時事通信フォト

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■「マスコミの前では話せないことが多い」と山下会長


日本オリンピック委員会(JOC)が、これまで原則公開してきた理事会を、9月から完全非公開にすることを決めた。


8月8日の臨時理事会のあと、記者会見した山下泰裕会長は「マスコミの前では話せないことが多く、理事会の議論が低調になる。理事会を非公開にして表に出せない情報も共有し、本音で話し合ってスポーツ界の発展のために役割を果たしたい」などと説明した。



写真=時事通信フォト
日本オリンピック委員会(JOC)会長に選出され、記者会見する全日本柔道連盟(全柔連)会長の山下泰裕氏(左)。右は福井烈専務理事=2019年6月27日、東京都新宿区 - 写真=時事通信フォト

■「非公開でないと、本音で話せない」との時代錯誤


JOCは公共性の強い公益財団法人である。2018年度の決算概要によると、経常収益の44.5%(約69億円)は国などからの補助金だ。多額の税金が投じられており、国民のための団体だ。そうした団体の理事会が「非公開でないと、本音で話せない」というのは明らかにおかしい。国民に対しての説明責任をどう考えているのだろうか。


JOCと同じ公益財団法人の日本スポーツ協会(元・日本体育協会)は、理事会を公開しており、その主張には説得力がない。


7月にJOCが非公開の方針を明らかにしたことに対し、報道各社でつくるJOC記者会は「時代の動きに逆行する。高い公共性を備えるJOCの理事会を公開しないのは、国民の理解が得られない」との抗議文を出し、非公開の撤廃を求めていた。これは当然の行為である。



■前会長は贈賄の疑いでフランス司法当局の捜査対象に


JOCの竹田恒和・前会長には東京五輪招致を巡って贈賄の疑いがあり、フランス司法当局の捜査対象となった。その結果、今年3月、竹田氏は20年近く在任してきた会長職を任期満了となる6月末で退任すると表明。さらに国際オリンピック委員会(IOC)の委員も退任した。


沙鴎一歩は今年1月19日付の記事「JOC竹田会長“贈賄疑惑”は仏の報復なのか」で竹田氏の疑惑を取り上げている。書き出しは「わずか7分の記者会見には唖然(あぜん)とさせられた」で、「記者会見を開いた竹田氏は、不正を全面否定する文書を読み上げただけで、そのまま会場から姿を消してしまった。文書は竹田氏の一方的な言い分だった」と批判した。


■根底にJOCという組織の閉鎖的体質がある


さらに記事では「たった7分で会見を打ち切るのは非常識だ。捜査中だから対応できないというのは逃げの常套句だ。なぜ、きちんと説明責任を果たそうとしないのか」と書き、「『旧皇族で明治天皇のひ孫』という血筋に甘えたのか。竹田氏は甘すぎる」とも指摘した。


この記事を書いた時点では、わずか7分の記者会見で逃げ切ろうとするのは、竹田氏の個人的な性格によるものだと考えていた。


ところが今回の理事会の完全非公開の決定は、個人ではなく組織の問題に根を張っている。根底にJOCという組織の閉鎖的体質があるような気がしてならない。


山下康裕会長は記者会見で理事会の透明性の確保を約束し、完全非公開の代わりに「理事会の終了後に専務理事が報道陣に対応し、資料の配付、定期的な記者との懇談会、議事概要を明らかにすることで対応したい」と述べた。


山下会長は、苦心惨憺(さんたん)しながら技を磨き上げ、日本柔道に金メダル(1984年ロサンゼルス五輪)をもたらした人物だ。血筋に甘える竹田氏とは違う。しかし30年間にわたって公開してきた理事会を「非公開でないと本音で話せない」と完全非公開にすることには、やはり納得できない。



■団体幹部の不祥事が相次ぐスポーツ界の体質


8日の臨時理事会の決議では、出席した理事24人の中で賛成が19人、反対が4人、保留が1人だった。8割の理事が完全非公開に賛成している。


JOCの理事会は、各スポーツ団体を代表する元選手らが理事となって選手の強化や広報活動などの分野でJOC全体の意思決定を行う。株式会社が株主から厳しいチェックを受けるのに対し、公益財団法人の理事会はどうしてもチェック機能が弱く、閉鎖的になりやすい。


だからこそ進んで外部の血を入れることが重要なのだが、大半のスポーツ団体は同じ傾向にある。最近のスポーツ界で団体幹部の不祥事が相次いだことは、そうした弊害の表れだ。


■「非公開で議論が活発化するならその根拠を示せ」


新聞社説ではまず毎日新聞が噛(か)みついた。毎日社説は8月17日付で「JOC理事会非公開に これが改革の第一歩とは」との見出しを掲げ、こう主張する。


「山下会長は非公開にする理由を『公の場で話せない内容が多く、本音の議論ができない』と話す」

「報道陣がいるため本音で話せないという理屈は理解に苦しむ。仮に非公開にすることにより議論が活発化するというのであれば、その根拠を示す必要があるだろう」


毎日社説の見出しは皮肉っぽいが、「理解に苦しむ」との指摘には同感である。JOCが理事会で悪事を相談しているわけでもないだろう。沙鴎一歩は「非公開は明らかにおかしい」と前述した。



■拝金主義がまかり通っているオリンピックの意義


毎日社説は「(山下会長は)レスリングやボクシングなど国内で相次いだ不祥事により失ったスポーツ界の信頼を回復すべく『〈高潔性〉の充実に取り組んでいきたい』と意欲を見せていた」とも書き、「そうした不祥事がどうして起きたのかを思い返してほしい。競技界内部で、不透明な組織運営がまかり通ったことが原因だった」と主張する。


「競技界内部の不透明な組織運営」。要は競技団体という組織が閉鎖的だったのだと思う。オリンピックという4年に一度の祭典に参加するために、各競技団体をまとめ上げるのが、日本オリンピック委員会(JOC)の役目である。そのJOCが理事会を非公開にするようでは日本のスポーツ界に悪影響を与える。


巨額が右から左に動くオリンピックでは、拝金主義がまかり通っている。本当にそれでいいのか。だからこそ、JOCには透明性を維持し、閉鎖性を排除する役割が期待されている。


■山下新会長の「改革」の初めが理事会の非公開


次に8月26日付の朝日新聞の社説を見てみよう。


「JOCには国などから多額の補助金が支給され、理事の多くは各競技団体の幹部だ。そうした公益性の高い組織と『公人』というべき理事らが、密室でなければ議論ができないという。そんな旧態依然とした意識で、人々の理解を得られると思っているのだろうか」


JOCの公益性については沙鴎一歩も指摘した。朝日社説はJOCの密室性を「旧態依然とした意識」だと形容するが、JOCの閉鎖性はこの旧態依然の意識に由来するのだろう。


朝日社説は書く。


「竹田恒和前会長には、東京五輪招致をめぐる贈賄疑惑が浮上している。だがJOCはおざなりの調査をしただけで、説明責任を果たそうとしない竹田氏をいさめることもしなかった。結局、社会の信頼を失い、五輪直前の会長交代という異例の事態を招いた。かわって登場した山下氏の『改革』の初めが理事会の非公開とは、何をかいわんやだ」


竹田前会長に厳しく忠告しないJOCはやはり、組織としてのあるべき姿を見失っている。


沙鴎一歩と違い、朝日社説は交代した山下会長も攻める。そこが朝日社説らしい。見出しも「JOC理事会 議論閉ざして失う信頼」で、これも朝日社説らしさが滲(にじ)み出ている。



■米国では情報をオープンにするのが当たり前


さらに朝日社説は指摘する。


「理事会の公開問題にとどまらない。JOCのホームページを見ても、過去の理事会の議事録や資料は掲載されていない。しかし例えば米国では、これらの情報をオープンにして、人々のチェックを受けられるようにするのが当たり前になっている」


いまの時代、透明性のない組織は問題外である。JOCは朝日社説や毎日社説の訴えに耳を傾け、理事会の非公開を再検討してほしい。まだ間に合う。


最後に朝日社説は「スポーツへの関心と理解を深めるのは、メダルの数の多寡だけではない。視線を広く外に向け、JOCを真にたくましい組織に脱皮させてもらいたい」と主張する。


閉鎖的体質に気付かず、そこから抜け出せないJOCにとって「真にたくましい組織への脱皮」はなかなか難しいと思う。だが、理想は高ければ高いほどいい。






(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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