日産・三菱の新型軽EVは「EVの三重苦」を乗り越えられるか

9月4日(土)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 2021年8月27日、日産自動車と三菱自動車工業は軽自動車サイズのEV(電気自動車)を2022年度初頭に国内で発売すると発表した。軽自動車関連事業を手掛ける2社による合弁企業「NMKV」が企画と開発を担当した。モデル名称は未発表だ。

 新型軽EVの車体寸法は全長3395mm×全幅1475mm×全高1655mmで、ボディデザインは2019年の第46回東京モーターショーで日産が出展したコンセプトモデル「ニッサン IMx」がベースとなる。


EV化のハードルが高かった軽自動車

 三菱は2009年に軽自動車「アイ(i)」をベースとしたEV「アイ・ミーブ(i-MiEV)」を発売している(2021年3月まで生産)。また三菱は軽商用車「ミニキャブ」にもアイ・ミーブの技術を応用し「ミニキャブ ミーブ」として販売している(やはり2021年3月に生産終了)。

 だが、軽自動車市場のツートップであるスズキとダイハツはこれまでEVを量産していない。また、軽の単一モデルではここ数年、販売トップの「N-BOX」を製造するホンダも軽EVは量産しておらず、直近では普通乗用車サイズのホンダ「e」を2020年から量産するにとどまっている状況だ。

 EVは、電池、モーター、制御系機器がガソリン車などと比べてコストが高いこと、航続距離もガソリン車などと比べると短いこと、また充電インフラが少ないことなど、いわゆる“EV三重苦”が課題となり普及が進んでこなかった。

 もともと価格が安いことがウリの軽自動車にとって、EV化のハードルはきわめて高かったのだ。

 直近のメーカーの反応としては、2021年8月27日にスズキが開催した新モデル「ワゴンRスマイル」のオンライン記者発表で、筆者がワゴンRの今後の進化について鈴木俊宏社長に質問したところ、鈴木社長が「ワゴンRは今後も進化し続ける」と軽のEV化時代を見据えた回答をしている。同時に鈴木社長は、「メーカーが(一方的に軽EVを)作ればよいというわけではなく、インフラも含めた(社会全体での)対応が必要だ」として、軽EV普及の難しさを改めて強調した。


「庶民の足」になるのはいつか?

 日産・三菱の新型軽EVの発表資料では、満充電での航続距離について「安心して日常で使用できる航続距離」と表現するにとどめており、具体的な数値を示していない。ただし、電池容量から推測することは可能だ。搭載する電池容量20kWhは、日産リーフのベースグレードの40kWhの半分に相当する。リーフは燃費測定方法の国際基準であるWLTCモードでの航続距離が322kmであるため、新型軽EVの航続距離はリーフとの車両重量差などを考慮すると180〜200km程度に落ち着くのではないだろうか。

 航続距離が200km程度で「安心して日常で使用できる」のか? おそらく賛否両論があるはずだ。

 例えば「N-BOX Gグレード」前輪駆動車の燃費はWLTCモードで21.2km。燃料タンク容量は27リッターなので、満タンでの航続距離は572.4kmとなる。それに比べると、新型軽EVの航続距離はその半分にも満たない。

 それでもメーカーが「安心して日常で使用できる航続距離」としているのは、軽自動車ユーザーの利用実態を把握しているからだ。例えば三菱が商用車ミニキャブバンのユーザーを対象に行った自社アンケート結果では、全体の77%が1日あたりの走行距離が65km以下と回答しているという。このほか、各メーカーが一般ユーザーに対して行う調査を通じて、1日の走行距離は40〜50km以内という認識がある。平日では近隣への通勤、買い物、駅や学校への家族の送迎が主体であり、遠出するのはたまの休日というイメージだ。

 とはいえ、実際のユーザーの行動を考えると、ユーザーにとって重要なのは“いつ給油するのか”という点だろう。軽自動車を含めて近年のクルマは、燃料残量に応じた航続可能距離がメーターに表示される。だが、航続可能距離を見て給油するユーザーは少ないはずだ。それよりも、メーターパネルの燃料計で残量が4分の1以下などになったタイミングで、その都度、給油する人が多いのではないか。要するに、計画的に給油するというよりは、その場の状況に応じて行き当たりばったりで給油する、というのが現実である。特に軽自動車は、多くの世代が普段の足として使う、自転車感覚の気軽で手軽な乗り物だ。計画的に給油する人は少数で、「減ったら給油、減ったら給油」を繰り返す人がほとんどだろう。

 だがEVの場合、そんな小まめな充電はできない。ユーザーは自宅や勤務先などでの充電のほか、外出先では充電スポットの場所の確認と、充電スポットの混雑具合を考慮した計画的な行動計画を立てる必要が出てくる。直流急速充電でも満充電までは数十分間かかり、交流充電では数時間単位となるからだ。

 商用車の場合は運行計画がある程度定まっているため、EV化への対応もスムーズに進む可能性がある。さらに近年は、企業がESG(環境、社会、ガバナンス)投資の対応策の1つとして社用車のEV化を推進する動きも出てきた。この流れに軽EVが乗ることもあり得る。

 一方、個人ユースの軽EVとなると、ユーザー自身が日常生活全般を振り返って意識を改めることが必要となる。

 軽EVの価格が下がり、充電インフラ整備が徐々に進み、そして航続距離が増えても、軽EVが庶民の足になるのはまだもう少し先になりそうだ。

筆者:桃田 健史

JBpress

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